
未来から、今を生きる。
きざしデザイン第二創業 Vol.2|経営哲学
「何をすればいいのかわからない」
経営者や、これから事業を始めようとする人から、そんな相談を受けることがある。
でも、話を聞いていると、方法がわからないことが本当の問題ではないと感じることが少なくない。
そもそも、どこに向かいたいのか。
その未来を、どれだけリアルに描けているのか。
最近、改めてそんなことを考えている。
Howは、世の中に溢れている。
先日、M&Aを通じて経営者を目指す人たちのアカデミーで講義をした。
会社の買い方、案件の探し方、財務の読み方、交渉の進め方。
学ぶべきことは山ほどある。
でも、こうしたHowは、今や本やインターネット、AIを通じていくらでも学べる。
それでも、なかなか動けない人がいる。
私がそこで最初に伝えたのは、M&Aのテクニックではなく、マインドセットの話だった。
会社を買うということは、経営者になるということだ。
では、経営者になった自分は、どんな世界を生きているのか。
どんな事業をつくり、誰と働き、何を実現しているのか。
そこに臨場感を持てているだろうか。
まだ経営者になっていない現在の自分にしか臨場感がなければ、どうしても今の常識や制約の中で判断してしまう。
だから私は、方法を考える前に、まず未来を描くことが大切だと思っている。
未来に行きたいのに、過去と現在で考えている。
これは経営支援の現場でも感じることだ。
新しい事業をつくりたい。
会社を変えたい。
これまでとは違う未来を実現したい。
そう言いながら、議論が始まると、いつの間にか「今ある人材で何ができるか」「既存の事業の延長で何ができるか」という話になっている。
もちろん、現状を正しく把握することは大切だ。
ただ、それだけでは今の延長線上にある未来しか描けない。
本来は、実現したい未来が先にあるはずだ。
そこから逆算して、今の自分たちに足りないものは何か、何を変える必要があるのかを考える。
未来を変えたいのなら、問いそのものを変えなければならない。
「今、何ができるか」ではなく、「実現したい未来のために、何をするべきか」。
似ているようで、まったく違う問いだと思っている。
行動変容の前に、認知変容がある。
私が経営に関わるうえで、大切にしている考え方がある。
それは、行動を変える前に、ものの見方を変える必要があるということだ。
人は誰しも、これまでの経験や知識、価値観を通じて世界を見ている。
心理学などでは、こうした認知の枠組みを「スキーマ」と呼ぶ。
同じ情報に触れていても、人によって見えているものは違う。
例えば、新しい市場への参入を考えたとき、ある人にはリスクばかりが見え、別の人には可能性が見える。
どちらが正しいという単純な話ではない。
何を見て、何を重要だと判断するか。その前提が異なっているのだ。
だから、行動だけを変えようとしても限界がある。
経営戦略を変える。組織を変える。新しいツールを導入する。
もちろん、どれも大切だ。
でも、その前提となる認知が変わらなければ、結局はこれまでと同じ意思決定に戻ってしまうことがある。
経営者自身が何を見て、何を問い、どんな未来を描いているのか。
そこに向き合うことが、変革の出発点になると考えている。
自分の常識を、更新し続ける。
これは他人に対してだけではなく、自分自身にも言えることだ。
私は、意識的に自分の知らない世界に触れるようにしている。
興味がないことや、苦手だと思っていることにも、あえて近づいてみる。
最近で言えば、アートもその一つだ。
正直に言うと、もともとアートへの関心が強いわけではない。
でも、それは単に、自分がその世界の面白さを知らないだけかもしれない。
知らないものを、自分の価値観だけで判断してしまうのはもったいない。
だから、あえて触れてみる。
そこで何を感じ、ものの見方がどう変わるのかを楽しんでみたい。
私はこうした、自分にとって未知の世界へ踏み出すことを「越境」と捉えている。
居心地のいい場所から、少しだけ外へ出る。
怖さもあるけれど、同時にワクワクもある。
その経験を重ねることで、今まで見えていなかった景色が見えてくる。
自分の常識を更新し続けることは、経営者にとっても、一人の人間としても大切だと思っている。
Whyが、人を動かす。
もう一つ、事業づくりで繰り返し伝えていることがある。
それは、Whyを大切にすることだ。
誰に、何を、どのように提供するのか。
Who、What、Howを考えることはもちろん重要だ。
でも、その前に「なぜ、それをやるのか」がある。
Whyは、単なる事業の説明ではない。
その事業に取り組む理由であり、他者に伝わるストーリーであり、何より自分自身を動かすエネルギーになる。
困難に直面したとき、Howだけでは踏ん張れないことがある。
でも、どうしても実現したい未来があれば、別の方法を探そうとする。
つまり、WhyがあるからHowを考え続けられる。
私はそう捉えている。
未来によって、今を生きる。
最近、ある方との対話の中で、印象に残った言葉がある。
「未来のために生きるんじゃなくて、未来によって今を生きる」
とても好きな言葉だ。
未来を、いつか到達する遠い場所として考えるのではない。
未来の自分がどんな世界を生きているのかを描き、その未来から今を考える。
そうすると、今の選択や行動の意味が変わってくる。
これは経営だけの話ではないと思う。
働き方も、生き方も、子育ても、同じではないだろうか。
そして今、きざしデザインの第二創業に向き合いながら、私自身もこの問いを繰り返している。
これまで何をしてきたかではなく、これから何を実現したいのか。
過去の経験は大切にしながらも、その延長線上だけで未来を決めない。
未来から今を考え、認知を変え、行動を変える。
これが、私の経営哲学の根幹にある。
次回は、そんな考え方の先にある、私自身のWillについて書いてみたい。
なぜ、人の可能性に関わりたいのか。
なぜ、人が変わっていく姿に、これほど惹かれるのか。
そんな話をしてみようと思う。