【ルッキズム】金日成・金正日・金正恩に見る「外見いじり」〜敵国首領でもいじってはいけない特徴
ここ最近はルッキズム全盛期である。SNSを眺めれば、外見の劣等感を煽り、美容整形や健康グッズの購入につなげるような投稿が溢れている。外見が良くないと就職や出世に響くとか、煽情的な投稿も多い。
しかし、ルッキズムというのは難しいものである。以前の記事でも書いたのだが、人の身体的特徴は数ある話題の中でもトップクラスにセンシティブなものだと考えている。あくまで筆者の意見だが、他人の外見的特徴については、可能な限り触れないに越したことはない。
だが、興味深いのは、外見的特徴の揶揄においてもそのタブー度には段階があるということである。
今回は「いじっても問題ない相手」ということで、北朝鮮の最高指導者(金日成・金正日・金正恩)の「外見いじり」について考えてみたい。
北朝鮮の最高指導者は公人であり、露出機会が多い。西側諸国と北朝鮮は拉致問題などで深刻な問題を抱えており、最高指導者は揶揄の対象となりやすい。また、なぜかはわからないが北朝鮮の最高指導者は特徴的な外見を持っていることが多い。しかし、その揶揄の仕方にもバリエーションが見られるのである。
ネットミーム化する金正恩
まず、最も「外見いじり」が多いのは金正恩だと思われる。金正恩自身はバスケに熱中する普通の少年であり、人格面であまり奇妙なエピソードはない。金正日に比べるとクセは強くない指導者である。なので、金正日が死亡して金正恩が「即位」した時はずいぶんと凡庸な人物が就任したと感じたが、すぐにその予想は裏切られた。
金正恩に対する揶揄の大半は外見である。具体的には髪型と体重が取り上げられることが多い。
まず髪型だが、1950年代の金日成の髪型を真似たものとされている。ただ、何かどこかおかしい。なんとも奇妙な印象を与える。重要なのは、この大変個性的な髪型は本人の自由意志の結果であり、外見的特徴といっても生来的なものではないということだ。そのため、髪型いじりは一般論として問題になることは少なく、金正恩ネタの筆頭に来る。
次に体重である。こちらは髪型に比べると一般論としては弄りにくい。しかし、金正恩への揶揄として髪型と並んで一番多いものである。ネット上では金正恩を豚に例えたようなネタは多数存在する。2017年の朝鮮半島危機の際に北朝鮮は米空母を「太った変態動物」と揶揄したが、ネットでは笑いが巻き起こっていた。

また、公のメディアでも金正恩の体重は良く取り上げられる印象であり、頻繁に死亡説が登場している。30代でここまで死亡説が出た人間は珍しいのではないか。老齢の習近平やプーチンよりも寿命が危ぶまれている。だが、金正恩の体重に関する報道も体重いじりの一環とも言える。
体重は純然たる身体的特徴なので、一般論として言及すべきでないのは明らかだが、実際には多くのメディアが金正恩の体重に言及している。おそらく、体重がある程度は自由意志の結果であるという前提があるからだろう。
直接いじりにくかった金正日
続いて金正日である。金正日は非常に個性的な人物であり、ネタ要素としては金正恩よりも多かったのではないかと思っている。無類の映画マニアであり、映画撮影のためだけに韓国から映画監督を拉致してきたこともある。奔放な女性関係も有名である。
金正日の外見も負けず劣らず個性的だった。だが、金正恩と比べると、妙に直接の言及は少なかった印象である。金正日は正直なところあまり外見面で恵まれた人物とは言えなかった。金正日は先軍政治を推進していた関係から「将軍様」と呼ばれることが多かったが、本人の容姿は軍人とは対局である。「天才ハッカー」とか「IT大臣」だったら遥かに収まりが良かっただろう。
まず、金正日の特徴として目立つのが低身長である。身長は155センチ程度と思われる。パレードの映像でも背の低さは目立つ。シークレットシューズを履くなど、色々気にしてはいたようだ。ただ、金正恩の「デブ」弄りと違い、金正日が「チビ」弄りされることは少なかった。体重はある程度自由意志で左右できるのに対し、身長は基本的には変えようがないからだ。生活習慣とも無関係である。日朝関係が非常に険悪だったにも関わらず、そこを直接揶揄する人は少なかった印象である。
次に容姿である。金正日はイケメンとかイケオジとは言い難く、むしろ「オタク」とか「ねらー」みたいな容貌だった。当時はやっていた「電車男」とか「アキバ系」にイメージが近かったのではないか。

金正日のコラはこうした容貌を下敷きにしたものは多かったものの、直接「キモオタ」とか「ブサイク」と言い放つものは少なかった。やはりどうにも触れにくい項目だったと言えるのではないか。メディアも当然ここをダイレクトに揶揄することはなかった。せいぜい金正日の奇妙なファッション(センスの悪いジャンパーなど)くらいであろう。
誰も触れない金日成
北朝鮮の初代指導者だった金日成は比較的容貌は穏当に見える。ただし、金日成は公然の秘密を抱えていた。金日成の後頭部には巨大なコブがあり、かなり目立っていたのである。
コブは公式の写真や映像には一切映らなかった。だが、金日成は外遊や現地指導をかなり好んでいたので、大勢の人々がコブを目撃していたはずだ。西側でもコブの存在は知られていた。
しかし、金日成の後頭部のコブについて揶揄したようなミームは見られない。もちろんネットが発達する前というのもあるが、韓国のプロパガンダポスターを参照しても発見できなかった。金日成を怪物に例えるポスターはあっても、後頭部のコブを揶揄するものはなかった。
金日成のコブは粉瘤と言われているが、はっきりしているのは日本なら保険治療の対象となるような疾患だったということである。外見いじりは本人の特徴を揶揄することから始まるが、医療上の理由から生まれた外見的特徴は言及しにくい。「チビ」や「ブサイク」とはレベルが違うというわけである。
冷戦体制において金日成は韓国にとって宿敵だったわけだが、いくら敵対していても揶揄してはいけない箇所もあるということだろうか。
他の例を考えてみると、例えばルーズベルトは身体障害のために車椅子に乗っていた。戦時中の日本はルーズベルトをさんざん揶揄していたが、この点には触れなかった。敵国といえども身体障害への嘲笑はNGということか。
まとめ
今回は北朝鮮・最高指導者の風刺を通してルッキズムについて考えた。
北朝鮮は西側世界と激しい敵対状態にある国であり、その最高指導者は「いじっても良い存在」として扱われている。しかし、そのあり方には違いがある。金正恩の体重は堂々と嘲笑されるのに対し、金正恩の容貌については日朝関係が最悪の時期であってもダイレクトに揶揄されることは少なかった。金日成のコブに関しては韓国のプロパガンダですら言及は見つけられなかった。
体重は外見的特徴とはいえ、ある程度自由意志が絡む項目であり、揶揄しやすい部類なのだろうか(もちろん実生活ではNGである)。これが容貌や身長となると嘲笑はしにくくなる。本人に変えようがないからだ。病気や身体障害に伴うものの場合は仮に戦時中であっても禁忌のようである。
ただし、戦時中のドイツはルーズベルトの身体障害を揶揄したプロパガンダを行っていたようだ。さすがはT4作戦の国である。こんなところからもナチ政権の異常性が伝わってくる。