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Photo byyossy1022

宿灜備忘録発第章話

    「あちら偎に入る前に、灜厄の解攟の仕方を、教えおおきたい」
     
    祠の前で、久遠ず矎圱は向かい合った。久遠の蚀葉に頷いたは良いが、矎圱は熱っぜさに襲われ、集䞭できずにいた。
     
    合矜のボタンを党お倖し、新鮮な空気を取り入れおみたものの、䜓に觊れる枅涌感は限りなく無に近い。額の汗を手で払い、倧きく息を吐き出した矎圱。久遠は矎圱の異倉を芋逃しはしなかった。
     
    「ただの熱じゃない。お前の䞭の灜厄が力を高めおいる蚌拠だ。この祠に近づいたこずで掻気づいたんだろう  これから、ほんの少しだけ道を䜜る」
    「道」
    「宿灜は、倧げさに蚀えば、垞に零念に狙われおいる存圚だ。身を守るために灜厄の力を少し䜿わせおもらう。灜厄の力を僅かに力を解攟する。その時の、灜厄の通り道だず思えばいい  䞡手の平を䞊に」
     
    矎圱は抵抗なしに、久遠の蚀葉に埓った。汗ばんだ䞡手の平を空ぞ。そこに、久遠の倧きく骚ばった手の平が重なる。
     
    「少し痛むぞ」
    「うん」
     
    返事をした盎埌。静電気に䌌た刺激が、觊れ合った手の平に走った。矎圱が数回顔を歪めるうちに痛みは去り、久遠の手も離れた。あらわになった自分の手。倉化はない。
     
    久遠は矎圱ずの間に距離を眮き、代わっお灯銬が矎圱の前に立った。血の気のない癜い手を、矎圱に差し䌞べる。
     
    「灜厄達は貎方の䞭で葛藀しおいたす。目芚めた灜厄は、宿り䞻が自分にふさわしいかどうかを芋極めるんです。貎方自身も、この数日間随分ず葛藀したでしょう。その力がぶ぀かり合っお、貎方に過剰な熱を䞎えおいる。たずはそれを解き攟ちたしょう。さあ、䞡手を前に」
    「熱  今の、これがそうなの」
    「そうです。たずはそれを解攟したしょう」
     
    矎圱の手をずった灯銬。矎圱の脈動はドンっず波打った胞に呌応。顔が熱い。
     
     
    ――自分ず灜厄
      互いの葛藀が生んだ熱
     
     
    そんなこず、考えもしなかった。吊、考えが及ぶはずもない。もはや自分の経隓や知識など圹に立おようがない。そんな堎所たで、自分は流されおしたった。ここから先、人の導きなしに無事は玄束されない。そんな予感が矎圱の䞭に埮かな恐怖を生んだ。
     
    「駄目です。䜙蚈なこずを考えないで」
     
    芖線を亀えた灯銬に頷きを。矎圱の䞡手の平に重なった灯銬の手。癜く、長く、现い五指が、矎圱の手銖を固く握った。
     
    意倖なほどの力匷さに、矎圱の錓動が反応を瀺す。血流の倉化を感じ取ったのか、灯銬は䞀局穏やかな声を響かせた。
     
    「ゆっくり、呌吞をしたしょう。呌吞を敎えながら、想像しお䞋さい。貎方の手の平から、熱が解き攟たれる様を想像するんです。どんな圢でも、色でも、勿論、音でも  どのようなかたちでも構いたせん。貎方の想像したたたを、私の手に䌝えお䞋さい。ゆっくり、焊らずに」
     
    熱が解き攟たれる様を想像する。なんお難しさを極めた芁望。なんでも良いずいう遞択肢は、矎圱の䜓枩を曎に䞊げた。
     
    灯銬の蚀葉に埓い、ゆっくりず呌吞を繰り返す。觊れ合っおいる灯銬の手の平。そこに䜓枩は感じない。その手は现く、癜く、限りなく無音に近い。穏やか過ぎお、思わず存圚を疑っおしたう。灯銬はたるで、凪いだ颚。
     
     
    ――そういうこずで
      いいの
     
     
    他者の有様を芋぀めるように、自らの深郚を芗けたなら。
     
    矎圱は瞌を閉じた。祠の前に立぀自分の姿を、䜓䞭を巡る熱をむメヌゞする。その流れは、決しお穏やかではない。激流に姿を䌌せた熱は、玅朮した頬の色を掠め取り、薄玅色に染たる。色を䞎えられた熱は、急募配を流れ萜ちる氎の劂く飛沫を䞊げ、腕を滑り降りる。
     
     
    ――むメヌゞを灯銬に䌝える
      灯銬の手に
      私の熱が流れ蟌んでいくむメヌゞを
     
     
    腕を滑り萜ちた熱は手の平に流れ着き、觊れ合った灯銬の手の平に䌝播。
     
    矎圱がそうむメヌゞしたず同時に、灯銬の手は矎圱のもずを去った。手の平には熱感が残ったたた。瞌を開き、珟状を確認。そこには、先皋たで芋えおいなかったものが。
     
    手盞が描かれおいただけの手の平に、小さな文字のような痣。それは、ぐるりず環を描いおいる。矎圱は占爺ずの䞀件を思い出し、党身を確認。しかし痣が浮き出おいるのは、手の平のみ。
     
    「私にできるのは、ここたでです」
     
    頭を䞋げお、灯銬は䞀歩、矎圱から遠ざかる。矎圱は手の平に浮かんだ痣を凝芖。その時、痣ず思われおいたものが、文字ずしお映った。吊、むメヌゞ、念。そんな颚に呌ぶのが、おそらく正解。
     
    「お前が感じおいるそのたたを、蚀葉にすればいい」
     
    久遠がいう、感じおいるそのたた、ずは。矎圱はしばし迷い、長く吐いた息でその迷いを振り払い、脳内に盎接響いた音を、自分の声に倉換した。
     
    「我に宿りし理よ。そなたを疎んずる者は去った。今䞀床、その姿を我に芋せよ。移ろう時は、埅ちわびるこずの空しさを捚お、ただそなたず共にあろうず寄り添う。その心に、埮塵の停り無し」
     
    錓膜に䌝わった音は、脳に到達し、染みお、消える。途端、倉化は蚪れた。
     
     
    䜓の䞭心
    突き抜けた衝撃
    おびただしい雚粒の感觊
    党身を駆け巡る冷気
    雚粒はそれに攫われ手の平ぞず向かう
     
    環を描いた痣
    その䞭心から飛び出した玅色の茝き
    それは宙に孀を描いた
     
    これが自分の葛藀の姿
     
    攟たれる熱感
    続いお飛び出したのは
    おびただしい数の雪の欠片
     
    それは孀を描く玅色を消し
    解けお倧地に染みる
     
    これが灜厄の葛藀の姿
     
    蚪れる枅涌感
    手の平の䞭心から
    自分を火照らせおいた熱が攟たれおいく
     
     
    ぀の葛藀の姿は、宙に溶け、消えた。
     
    心地良さに溺れるように、矎圱は脱力感ずたどろみに包たれた。ふら぀きを芚えた脳が、矎圱の膝を折る。
     
    玉砂利の䞊。䞡膝を぀けた矎圱。頭はぐらりぐらりず定たらず、芖線は、既に消え去った葛藀の行方を宙に尋ねる。
     
    もう、远える姿はない。それでもなお、宙をさたよう。鮮明さを倱う芖界。芖線の行く手を阻むもの。これは、涙。
     
    「準備は枈んだ。技の䜿い方を教えおおくから芚え」
    「埅っお」
     
    久遠の響きを遮断し、矎圱は顔を手の平で芆った。
     
    「ごめん  少しだけ、埅っお  」
     
    䜓を駆け巡った灜厄が、ほんの僅か、矎圱に䌝えた感情。それは、圧倒的な孀独ず、虚無。
     
     
    さびしい
    こいしい
    わたしに
    きづいお
     
     
    受け取っおしたった感情は、矎圱に涙を匷芁する。泣くこず以倖を蚱さない。
     
     
    ごめん
    すぐ終わるから
    これは
    この感情は
    私じゃないから
     
     
    声にしたはずの思い。それは音にならず、嗚咜に飲たれる。
     
    「  果おしない孀独。それはお前のものではない。だが、お前の䞭に存圚する感情だ。それをお前が受け入れたのなら、灜厄もお前を受け入れる。互いの存圚を確かめ合い、認め合い、ずもに生きる  それが宿灜の圚り方だ」
     
    久遠は蚀葉を切り、倩を仰いだ。地に䌏せる矎圱の姿を、芖界に入れたいずしおいるかのように。
     
    頬を濡らし続ける矎圱。雚音に重なった嗚咜は、空間に留たろうずする静寂を、ただ拒み続けた。


    《 第話ぞ続く 》


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