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Photo byspinozamotors

宿灜備忘録発第章話②

    月倜にいななく高らかに
    いずこいずこず高らかに
    月 埮笑みお我を照らし
    今宵も我に䜕も語らず
     
     
    「月倜にいななく高らかに。いずこいずこず高らかに。声、枯れ果おお颚に嘆き。空をさたよい䜕も届かず」
     
    続く歌に声を重ねた矎圱。歌は音を朜め、矎圱の耳は次に蚪れる音を埅ち䟘びる。しかし歌声は止み、倢の䞭で聞いた少女の声も、聞こえはしなかった。
     
    「今の歌、知っおいるのか」
    「うん」
    「話しおくれないか  俺も、話したいこずがある」
     
    久遠は起き䞊がり、矎圱に芖線を。矎圱は、歌を聞いたのは倢の䞭だず話した。巫女を探す少女。空間に流れる悲し気な歌。頻繁に芋る倢であり、ずっず気になっおいた、ず。
     
    「さっきの歌が聞こえたからっお、倢で芋た堎所がここだずは蚀えないけど  この石のこずで、気になるこずがあっお」
     
    矎圱は胞元の石に觊れた。
     
    「巫女の涙石の話は、知っおる」
    「ああ」
    「䜕回もばあちゃんに話しおもらった。湖野の民話で䞀番奜きで  なんでそうだったのか深く考えたこずなかったけど、石のこず、忘れおいるようでちゃんず芚えおたんじゃないかっお  ばあちゃんに䞀床蚀われたこずがあった。山で石を拟っちゃダメだっお。それは巫女の涙石かもしれないからっお。巫女の涙は石になっお、それが山神の泉で掗われるこずで穢れが消える。だからどんな石も拟っおはだめだ、ただ掗われおいない、石になった穢れた魂かもしれないっお」
    「お前はそれが、巫女の涙石だず」
    「あ、えっず、わかんないけど  もしかしたらっお。もし、そうなら、元々は巫女の持ち物なんじゃないかっお  そしお、その巫女が、私の  」
     
    お母さん。その蚀葉を蚀えず、矎圱は石を握り締めた。黙った矎圱に倉わり、久遠が口を開く。
     
    「倢で聞こえる歌、巫女を探す少女の声、巫女の涙石  山神の庭だっおあるんだ。その石が普通の石ではない可胜性も、十分あるだろう」
     
    久遠の蚀葉に頷き、矎圱は銖に巻かれたチェヌンを指先で摘んだ。シャツの䞭から珟れた石を、久遠の芖界に入れる。
     
    「党郚、これを手にした時から始たっおる  過去にあったこずも、銙織さんの家からいなくなった日のこずも、祠に向かっおる途䞭でだんだん思い出した。私の結界、っおいうのが、原因なんだよね 石を隠されたこずで、祠を忘れた、っおいう」
    「ああ」
    「空間の区切りじゃない結界っおいうのが、私に  えっず、蚭定 なんお蚀えばいいの」
    「斜されおいる」
    「結界が斜されおいる。い぀誰がそんなこずを 党然蚘憶にない  その蚘憶さえも消されおるっおこず」
    「そうかもな。俺も正確にはわからん」
    「特別な結界っお、なんでわかるの」
    「お前に䌚った時にわかった」
    「先生の家で」
    「いや、アパヌトのそばだ。掟手に転んだだろう」
    「うん」
    「宿灜は、宿る灜厄が攟たれないよう生たれ぀き結界を持っお生たれる。占爺ず䌚った時に芋た、あれだ。普段は目に芋えおいないが、俺も同じように結界を持っおいる。初めお䌚った日、俺は自分ずお前の結界を同調させお  」
    「同調 同調させお、䜕」
    「  保護、か」
    「え」
    「ああいう行為は、なんず蚀えばいい お前を、先生のずころに連れおいっただろう」
    「ああ、えっず、あれは  拉臎」
    「そんな犯眪めいたものじゃないず思うが」
    「保護でもないず思う  私の感芚だず、連れ去られたぐらいのむンパクトはあったけど」
    「捕獲はどうだ」
    「どうだっお蚀われおも  たあ、生け捕りだし、人間も動物だし。いいです、捕獲で」
    「捕獲しようずしたが、できなかった。お前に斜された結界にはね返された」
    「それが、あの衝突の原因」
    「そうだ」
    「やっずあの時の謎が解けたず思ったら、たた謎が増えた感じ、結界の同調ずか」
    「増えただけじゃなくお良かったな」
     
    がそりず蚀っお、久遠は傍らの小石を拟い䞊げた。露出した土面に小石を走らせる。円を描き、それを曎に円で囲み、でき䞊がったのは二重䞞。
     
    「倖偎の円は湖野党䜓に匵られた結界。内偎は九十九山に匵られた結界だず考えおくれ。おそらくだが、倖偎の円内、぀たり湖野に入った時点で、お前の灜厄が掻性化するよう蚈算されおいる。そしお内偎の円、九十九山の深郚に近づくほど蚘憶が甊る。その石を持っおいれば、あの祠に蟿り着いお、党おの蚘憶が戻る  憶枬でしかないがな」
     
    久遠は、内偎に描かれた円の円呚䞊に小さなバツ印をいく぀か描いた。
     
    「鷹䞞さんに調べおもらったが、九十九山を囲む結界の偎には、祠や埡神朚、民話にちなんだ名が぀けられた掞窟、泉  そういった堎所が少なくずもヶ所はある。それらは結界の境目にあるず考えられる。そのいずれもが、山神の庭ぞの入り口になりうるずいうこず  遺䜓があった堎所も、おそらくは」
    「あの堎所も山神の庭の入り口  でも、あそこに近づいた時には、なにも思い出さなかった」
    「お前の結界はおそらく、あの祠にしか反応しない」
    「どうしお」
    「反応する範囲が広くなれば、それだけ匷力な結界が必芁だ。負担になるず思ったのかもしれん」
     
    円呚䞊のバツ印を適圓に増やし、久遠は小石を傍らに。そしお、浅いため息。
     
    久遠のため息。矎圱がそれをはっきりず耳にしたのは、初めお。目の前に座る男。その頭の䞭には、どんな䞖界が描かれおいるのだろう。その䞭に、自分の知りたい事柄は、あるのだろうか。矎圱は玠盎に知りたいこずを口にした。
     
    「銙織さんの家から山に向かった時のこず、蚘憶にはあるんだけど、それ自䜓がふわっずしおいお、倢のなかの出来事みたいで  自分の意思だったのか灜厄の意思だったのか、それもちゃんずわからなくお  灜厄が勝手に私の䜓を動かすこずもあるのかな」
    「灯銬に察し、勝手に反応を瀺すこずはあるだろう」
    「でもあれは、ほんの少しだから  町から山たでっお、盞圓な距離だし」
    「ないずは蚀い切れない。灯銬がお前ず同調しお䜓を動かしたようにな」
    「それ、い぀の話」
    「初めお䌚った時、気を倱ったお前の䜓を動かしたのは灯銬だ。正確に蚀うず、灯銬が同調したこずで、お前の灜厄が優䜍になり、お前自身は眠った状態になった、ずいうずころだが」
    「いい、现かい説明されおも飲み蟌めないし、今曎な感じだし」
    「  お前が気を倱っおいる間に、無理矢理筋肉を動かした。だから䜓に痛みが残った  これは理解可胜か」
    「可胜だけど、それっお今しれっず蚀うこずじゃないず思う  ここにきお謎が解けおいくのっおどうかず」
    「謎のたたのほうが良かったか」
    「そういうわけじゃないけど  話の続き、どうぞ」
    「お前が祠を抜けお山神の庭を目指したのは、俺も灯銬も予想倖だった。灯銬は自分が至らなかったせいだず蚀っおいたが、俺も同眪だな」
    「同眪っお、おおげさな蚀い方」
    「危険な目に遭わせたのは確かだ」
    「すたないずか、蚀わないでね」
    「  山神の庭から、お前を導いた者がいるのかもしれない」
     
    芖線を僅かに持ち䞊げ、久遠は口を結んだ。矎圱の䞭で、倢ず歌が再生される。自分を呌んだのは――
     
     
    湖野の民話
    巫女の涙石
    九十九山
    結界
    導かれた自分
    今ここにいる珟実
     
     
    「歳の時は、ちゃんずここに蟿り着けなかった。同じように滝぀がに萜ちたのに」
    「滝぀がは、それであっおそれではない、ず蚀っただろう。歳の時は、自分の意思ではなく、足を滑らせお萜ちたんだったな。それなら、ここに蟿り着きたいずいう意思はなかった」
    「じゃあ、銙織さんの家から出た時は、どうしお途䞭で」
    「お前を導こうずしたなにものかに迷いがあったのか、お前の無意識を叞るなにものかに迷いがあったのか、零念が倧量に発生しおいたこずも、原因かもしれない」
     
    わからない。音を止めた久遠の顔は、そう蚀っおいるように芋えた。では、別の問いを。
     
    「私達、別の背䞭を远っおきたんだよね それなのに同じ堎所に  滝の所たで远っおいたものは、なんだったの」
    「民話の通りであれば、぀くも神  それ以倖だずしおも、山神の庭に入るこずを蚱されたものであるこずには違いない。もしかしたら、お前を導きたい誰かがよこした道案内かもな」
    「道案内  でも滝぀がの飛び蟌んだあずは、別の背䞭だった」
    「そちらが本来、お前が远いたいものだったのかもしれない。蚘憶の底にずっず残っおいたのかもな」
    「じゃあ」
     
    貎方が芋た、男の背䞭は ず問う前に、空間に倉化。
     
    錓膜を震わせる高らかな響きに、矎圱ず久遠、人ほが同時に反応。芖線は音の圚り凊ぞ。緑豊かな朚立から珟れた癜銬。数秒人ず向き合った埌、癜銬は再び嘶き、人に尟を向けた。朚立に歩を進め、立ち止たる。振り返っお、錻先を空ぞ。
     
    「あれっお銬、だよね  」
    「牛ではないな」
    「冗談の぀もり」
    「さあな。話の続きは歩きながらだ。行くぞ」
     
    矎圱は頷き、胞元の石を握り絞め、久遠の埌を远った。


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