
シロクマ文芸部「月を見る」掌握小説
この掌編小説は
#シロクマ文芸部
#月を見る
#小牧幸助 様のお題の掌編小説ですが
月夜の縁側で(仮)
連載小説の3話になります。
まあ来年までいろいろじたばたしています
先の短い、いやもしかしたら先の長い68歳のばあさんですが
あと半年ほどお付き合いいただければ嬉しいです
月を見るのは、二日連続だ。
昨日の満月も美しかった。
週末から台風の影響でまた月が見られないという。
遅めの夕飯を済ませて十六夜の月が昇るころ、
美沙は縁側に座って夜風を受けていた。
夫を亡くして一年。
季節は巡っても心だけが取り残されたようで、
静かな夜に身を置くと、ようやく呼吸が整う感じがした。
昼間のざわめきは苦手になった。
足もとに、猫のパンダが絡みつく。
耳の辺りの黒色が、月の光を受けて淡く輝き、
その姿を見るだけで、美沙の孤独は随分と和らいだ。
「あら、今夜は冷えるわね。 そろそろ衣替えをしなくては」
昨日、夏布団は洗って仕舞い、
替わりに薄手の羽毛布団を引っ張り出し、
太陽の光をたっぷり浴びせた。
さて、明日は何をしようかと思ったら、
パンダは膝に乗り、丸くなった。
その重さは、ひとりになった家の空白を埋めるようだった。
夫がいなくなった直後、美沙は何も考えず、仏事に追われたが、一回忌を終えると、娘が顔を見せる回数も減った。
こうして亡くなった人は、少しずつ忘れられていくのだと思った。
十六夜の月さえも、乱視と老眼で、満月に見えてしまう。
パンダが肩に前足を乗せ、 じっと美沙の顔を覗き込んだ。
パンダは他の猫と違い
ミャーとは鳴かない。でも目は口ほどにものを言う
だから目を見て、美沙は毎晩パンダに話しかけるようになった。
返事はしないが、ゴロゴロいう振動が伝わってくる
「パンダや、あんたがおらんかったら、どうしとったやろねえ?」
夜の縁側で思わず弱音が零れた
十六夜の月が庭の木々を白く染めるころ、
美沙は夫の遺したメモ帳のことを思い出した。
まだ開く勇気が出ず、棚の奥にしまったままだ。
パンダが膝の上で体勢を変え、美沙の手に顔をすり寄せる。
その温もりに背中を押されるように立ち上がった。

手帳を開くと、畑のこと、天気のこと、 そして競馬の軸馬のことがあった。
あの人らしい。 勝ったためしがないのに、いつも土日はテレビにかじりつき、穴馬しか狙わない。
美沙にすればバカじゃないのかと呆れていたが、
それが男の夢だと言っていた。どう考えてもバカだ。
最後に美沙への感謝の気持ちが綴られていた。
「40年間、お弁当を作り続けてくれて感謝しています」
「そこなの!」と突っ込みを入れたくなったが、
胃袋だけは掴んでいたかと安堵した。
その瞬間、美沙の胸に 今夜の月よりも柔らかい光が差した。
わたしが変わらず、してきたことは
あの人の好みに合わせて食事を作ることだけだったかもしれない。
掃除も、アイロンがけもあの人の方は上手だったもの
十六夜に呟くと
パンダが足もとに来て、美沙を見上げた
その瞳は月の光を映してキラリと輝いた。
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