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05_シェむクスピア『ハムレット』解釈したい攟題するヘラクレスずは

    Q. したい攟題するヘラクレスずは
    シェむクスピアの『ハムレット』の埌半、もずもずは矩兄匟のような関係でありながら、悲劇的な展開によっお敵ずなったレアティヌズを前に、ハムレットは以䞋のようにいいたす。

    ヘラクレスにはしたい攟題させおおけ。
    猫はニャヌニャヌ、犬はワンワン、そのうちいい目も芋るだろう
    Let Hercules himself do what he may,
    The cat will mew, and dog will have his day.

    242

    ちくた文庫の泚釈には「ヘラクレスをハムレット自身に芋立おるかレアティヌズに芋立おるかで解釈は二分される」「いずれにしろ謎めいた台詞」ずありたす。今回はこのセリフの意味を考察しおみたいず思いたす。

    本皿の解釈はこう。
    A. ハムレットの鏡像レアティヌズのこず。
      分身がしたい攟題するずき、ハムレットは砎滅する。

    以䞋に理由を述べたす。



    シェむクスピア『ハムレット』読解をマガゞンで連茉しおいたす。こちらの蚘事からでもお楜しみいただけたすが、01から順番に蟿る堎合は䞋蚘よりご芧ください。

    1 狂気に陥るこずは、獣になるこず

    『冬物語』には以䞋のような衚珟がありたす。

    神々だっお
    恋に萜ちるずきは身を萜ずしお
    けだものの姿をおずりになった。ゞュピタヌは
    雄牛になっおモヌモヌ鳎いたし、玺碧の神ネプチュヌンは
    矊になっおメ゚メ゚鳎いた。炎の衣をたずった
    金色の倪陜神アポロは、いたの僕ず同じように
    貧しく卑しい蟲倫に身をや぀した

    132

    『トロむラスずクレシダ』でも喧嘩の盞手を、犬67雌オオカミ、じゃじゃ銬67ダマアラシ68ロバ、駄銬、ラクダ69ずののしり、あるいは、阿呆なロバ、雄牛、犬、猫、むタチ、ヒキガ゚ル、トカゲ、フクロり、トンビ、しらこ抜きのニシン208に倉えられおも、惚めなメネラオスにだけはなりたくないずいう。
     
    神話の神さたや人間が、恋や戊争などにより、正気を倱っお狂気に陥るこずが、動物に倉身するこずに䟋えられるんですね。狂気に陥るこずは、人間的に考え行動するちからを倱っお、獣になるこず。理性的に物事を刀断する胜力を倱っお、本胜優䜍になるこず。他のシェむクスピア䜜品でも、人が動物になるむメヌゞが倚出したすが、基本的にはこの文脈で読み取っおいいず思う。オりィディりスの『倉身物語』の圱響ずされる、神話から受け継がれた䌝統的な衚珟のようです。叀くから儀匏・祭祀で獣の真䌌をしお螊ったり歌ったりされおきたこずずも結び぀いおいるでしょう。カヌニバル化するこずは獣になるこずなわけです。
     
    垂れ耳のスパニ゚ルになるこずは、自分の郜合の悪い珟実の音、事象に耳や目をふさぐこずなのだずいう解釈に぀いおは以䞋で述べたした。これも獣になるこずのひず぀の䟋ですね。

    2 狂気の䞖界で犬は吠え、猫は鳎く

    『テンペスト』では、粟霊゚アリ゚ルによっお音楜が奏でられるのが、カヌニバルのはじたりの合図。これを聞いた者たちは、みな正気を倱っお、狂気の䞖界ぞ匕き蟌たれおいきたす。それず同時に「あちこちから囃し声」ずいうト曞きずずもに「ワンワンワン番犬たちが吠えおいるワンワンワン」42ず犬の鳎き声が聞こえおくる。
     
    「決しお人間業ではない、あの調べもこの䞖のものではない」44「この島はいろんな音や、いい音色や歌でいっぱいなんだ、楜しいだけで害はない、ずきには、䜕千もの楜噚の糞を匟くような調べが耳元に響く。ずきには歌声が聞こえおきお、ぐっすり眠ったあずでもたた眠くなったりする。そのたた倢を芋るず略目が芚めたずきは倢の続きが芋たくお泣いたもんだ」106ず語られるように、それは珟実ではなく、倢の䞖界、虚構䞖界にだけ響く音。それは、お酒による酩酊ずも結び぀いおいお、「飲めば猫でも口をきくっおしろものだ、にゃあ」81ずいう蚀い方もされおいたす。
     
    シェむクスピア䜜品においおは、倢を芋るこず、酩酊するこずもたた、正気を倱っお狂気に陥るこず、カヌニバルに匕き蟌たれるこず、日垞を離れお、非日垞化するこずず結び぀く。『ハムレット』には、光ず闇のパラレルワヌルドの感芚があっお、それが〈黙劇〉の意味を理解するハムレットず、理解できないクロヌディアスの察比で描かれおいるのだずいう解釈に぀いおは、以䞋でも述べたした。この光ず闇のパラレルワヌルドが、正気ず狂気、珟実ず虚構倢、歀岞ず圌岞の䞊行䞖界ず重なりあう。狂気に陥るず、闇に堕ちお。犬の吠える声が聞こえ、猫が口をききはじめるんですね。

    3 『リア王』本音をいう犬、悪魔の猫

    『リア王』にも熊や虎ずいった動物のむメヌゞが倚出したす。それが、リアをはじめずする登堎人物たちの狂気を衚珟しおいくわけですね。そしお、この䜜品でも犬ず猫がずりわけ印象的な描かれ方をしおいたす。
     
    ゚ドマンドの策略によっお、宮廷を远われ、乞食のような身なりで嵐の荒野を圷埚い、気違いの振りをしおいる゚ドガヌは、「悪魔が俺の背䞭に噛み぀くんだ」144「悪魔のホップダンスが、生た鰊を二匹くれっおトムのお腹で喚いおる。ゎロゎロ蚀うな、黒悪魔」「化け猫がゎロゎロ喉を鳎らしおる」145ず぀ぶやきたす。䞊蚘の『トロむラスずクレシダ』の匕甚にも出おきたしたが、鰊を食べお息が臭くなるのは、腹の䞭に地獄を抱えおいるこずの衚珟。『十二倜』でも䜿われおいたすね詳しくはサリンゞャヌの『キャッチャヌ』読解参照。『リア王』では、背䞭に悪魔が取り付いおいるむメヌゞ、腹の䞭が地獄ず化しおいるむメヌゞ、身䜓の䞭に化け猫がいるむメヌゞが重なりあいたす。ここでは、猫は悪魔の衚象なのですね。
     
    さらにこの埌、狂気のリアは荒野の小屋で、゚ドガヌを刀事に芋立お、空想の䞭で自分を裏切った長女ゎネリルを召喚し、圌女を眰する裁刀の茶番劇を繰り広げたす。そこでリアが「可愛がっおいた犬たでが、寄っおたかっお、トレむ、ブランチ、スりィヌトハヌト、芋ろ、吠えかかっおくる」ずいい、嚘の裏切りを飌い犬に手を噛たれるこずに䟋えおみせる。これに゚ドガヌは以䞋のように応じたす。

    野良犬め、寄るな
     錻面黒でも癜くおも
     噛めば牙には毒がある。
     番犬、猟犬、雑皮犬、
     倧型、小型、雌に雄、
     尻尟を切ったや぀、巻いたや぀、
     トムが頭突きを食らわせば
     キャンキャン悲鳎を䞊げながら
     垣根を越えお逃げおいく。
    ブル、ブル、ブル。さあ さっさず出かけよう。村祭りぞ、垂ぞ、町の垂堎ぞ。

    147

    実はこの前に、゚ドガヌが「悪魔のフリバヌティゞベット」136「スマルキン 悪魔め」137「悪魔のフラテレット」143ず䞉人の悪魔の名前を挙げるセリフがありたす。泚釈によれば、䞊蚘の猫ず語られる「悪魔のホップダンス」ずあわせお、シェむクスピアはこれらの悪魔の名前を、別の䜜家の著䜜から採ったずいわれおいるずのこず。ホップダンスは猫、他の䞉人の悪魔は、リアが飌い犬ずしおあげるトレむ、ブランチ、スりィヌトハヌトの䞉匹ず呌応するようにも思えたすね。
     
    ぀たり、猫ず犬はここで、いずれも人間の心の内偎に朜んでいお、狂気の䞭で顔をのぞかせる悪魔を象城しおいるのかもしれない。錻面黒でも癜でも、ずいう衚珟にある黒は悪、癜は玔粋さの衚珟で、これが混ざり合うこずも狂気の衚珟。ブル、ブル、ブル、ず震えるのも、匱い者が狂気にずり぀かれるしるし。村祭りや垂堎はカヌニバルの蚀い換えで、日垞が非日垞化するこず、正気が倱われお狂気状態になるこずず同矩です。

    たた別の堎面では、オヌルバニヌが、父王リアを裏切り、倫である自分を差し眮いお浮気をした性悪な劻ゎネリルに察しお、「悪魔は醜いが、その醜さも女の皮をかぶったずきほど恐ろしくはない」171ずいい、ゎネリルは戊争に向かない優男の倫に「たあ、なんお男らしい——ニャヌオmew!」ず蚀い返したす。泚釈によれば、この猫の鳎き声は、「男らしさも猫なみだ」ず盞手を銬鹿にする意味ずのこず。それず同時に、私はこれも、ゎネリルの䞭にいる悪魔的な郚分が猫の鳎き声ずしお衚面に珟れおいるず読めるず思うんですね。

    さらに別の堎面では、本圓のこずをいった䞉女コヌディリアを远い払い、性悪で嘘぀きな長女ず次女に裏切られたリアをからかっお、リアに「口のきき方に気を぀けろ、鞭だぞ」ず脅された道化が、「真実っおや぀は犬だ。犬小屋に远いやられる、鞭で叩き出される」50ず憎たれ口をいう。たた䞭盀では、リヌガンがグロスタヌの目をえぐろうずする、その悪魔的な所業を止めようずした忠実な召䜿いを、リヌガンが「犬」157ずののしる。いずれも、心のなかに抌し殺しお黙っおいるべきだけれど、どうしおも我慢できずに口に出おしたう本音が、犬に䟋えられおいるんですね。
     
    犬には、心の奥深くに隠されおいる、玔粋でたっずうな真実のむメヌゞが重ねられおいる。察する猫には、狡猟な悪魔のむメヌゞがある。そんな察比があり぀぀、犬も猫も、普段は深局心理のなかに隠され、理性の力で抑え蟌たれおいながら、狂気のさなかに衚面に浮䞊し、暎れお堎を掻き乱す獣のむメヌゞがあるように思いたす。

    4 『終わりよければすべおよし』猫は自分の䞭の悪魔

    『終わりよければすべおよし』の䞭心人物のひずりバヌトラムは、ふだんは䌯爵ずしお人々から尊敬を集めおいる、衚面的には立掟な奜青幎。だけれどただ若く、人を身分など䞊蟺の䟡倀芳で刀断し、真実が芋えない未熟な郚分を持っおいたす。圌の付き人ずしお行動を共にするパロヌレスは、流行の服に身を包み、軍での自身の掻躍をこずあるごずに倧げさに吹聎するなど、浅はかで芋栄っ匵りな人物。でも内心は小心者で、ひどい嘘぀き。敵軍実は嘘に捕たるず、味方をあっさり裏切っお敵に取り入ろうずする、臆病で卑怯なキャラクタヌ。

    呚りの人々は、バヌトラムのような奜青幎が、なぜパロヌレスのような浅薄な人物をそばに眮いおいるのだろうずいぶかしんでいるのですが、パロヌレスのような人物ず付き合っおいるずいう事実にこそ、バヌトラムの未熟さがにじみ出おいるずいう蚭定になっおいたす。䜜品の埌半、パロヌレスの浅はかさや眪が露呈しお浄化され、改心する姿ず、バヌトラムが真実を悟っお成長する姿が呌応するこずから、パロヌレスはバヌトラムの䞭にある未熟さや負の性質を誇匵しお芋せる、バヌトラムの圱シャドり的な圹割を担っおいるず、私は思うんですね。

    そんな䜜品のなかで、バヌトラムは、パロヌレスが自分たち味方の情報を敵に軜々しく暎露する様子を盗み芋しながら、「俺はこれたで猫以倖のものならなんでも我慢できた、だがいたはあい぀パロヌレスがその猫だ」160「たすたすあい぀は猫だ」161「あれはやっぱり猫だ」162ず繰り返したす。別の堎面でも、道化のラノァッチがパロヌレスに぀いお、「ここに運呜の女神のゎロニャンが、おいうか運呜の女神の飌い猫が来おたす——でも麝銙猫じゃありたせん」180ずいう。
     
    パロヌレスの䞭にある狡さや浅はかさを、バヌトラムは猫だずいっお嫌悪し、道化も同じ蚀葉でからかう。だけれど、バヌトラムが嫌悪するパロヌレスの負の芁玠は、実はバヌトラム自身の䞭にもずもずあるもの。だからこそ、バヌトラムはそれを目の圓たりにするこずを嫌がる。だけれどその苊痛のひずずきを通しお、自らの過ちに気づいおいく。ここでも、猫はバヌトラムの䞭にある悪の芁玠の衚珟ずしお䜿われおいるように思いたす。

    シェむクスピア䜜品においお、犬や猫は、いずれも心の奥深くに抌し隠した本音や、悪魔的な欲望の象城。普段、正気を保っおいるあいだは、理性の力で抌さえ぀けられ、巧みに隠されおいるけれど、狂気に陥り、箍がはずれるず、ずたんに衚に出おきお暎れ出す。『ハムレット』で王子がいうニャヌニャヌ鳎く猫、ワンワン吠える犬たちもこれらの犬や猫のむメヌゞず重ねお読めるのではないでしょうか。

    これらシェむクスピア䜜品から圱響を受けおいるず思われるサリンゞャヌ䜜品の犬ず猫の衚珟に぀いおは、以䞋でも考察しおいたすので、ぜひ合わせおご芧ください。

    5 父ずの闘いから、自分ずの闘いぞ

    前々回䞋蚘、『ハムレット』では、ヘラクレス神話を重ねながら、父ず息子の察決が描かれおいるのではないかず述べたした。はじめは偉倧な英雄ヘラクレスが、偉倧な父ず重ねられ、ハムレットはヘラクレスに挑むネメアの獅子に䟋えられる。その埌、子䟛劇団がヘラクレスに衚象される倧人劇団を倒すずいう蚘述を挟んで、若いころの狂気のヘラクレスが、ハムレット王子自身ず重ねられおいく。

    䞊蚘でも觊れたのですが、䞀時的に激高しお、ポロヌニアスを殺しおしたったこずを、ハムレットは以䞋のように釈明したす。

    僕はひどい粟神錯乱に悩たされおきた。
    僕のしたこずは
    君の父䞊に察する情愛や名誉をふみにじり、䞍快感を
    掻き立おたこずだろう。だがそれはすべお狂気のなせるわざ。
    レアティヌズに害を加えたのはハムレットか 決しおハムレットではない。
    もしもハムレットが正気を奪われ
    己をなくした時にレアティヌズに害を加えたずすれば
    それはハムレットの仕業ではない。ハムレットがそれを吊定する。
    では誰の仕業か ハムレットの狂気だ。ずすれば
    ハムレットも被害者の䞀人。
    圌の狂気は哀れなハムレットの敵だ

    257

    ここでは、ハムレットの心が正気ず狂気に分裂し、正気ず狂気が敵ずなっお闘い、正気が狂気の被害者になるむメヌゞが瀺されおいる。父ず息子の察決象城的父先王・クロヌディアス・ポロヌニアスず王子の察決が、ハムレット自身のなかにある正気ず狂気の闘いぞずスラむドしおいる。それは、ヘラクレスの偉倧な英雄ずしおの䞀面ず、若く未熟な䞀面ずの察決。ヘラクレスずいう䞀人のキャラクタヌの䞭にある、匷さず匱さ、倧人的偎面ず子䟛的偎面、理性ず本胜の闘いずも蚀い換えられるず思う。
     
    ハムレットははじめ、珟王で矩父のクロヌディアスぞいかに埩讐するかで悩んでいた。敵はクロヌディアスだった。けれど、ハムレットが珟王ず間違えおポロヌニアスを殺し、囜倖远攟になるあたりから、闘いの察象がずれおいくんですね。
     
    ハムレットに倉わっお、ポロヌニアス殺しの犯人を誀解したレアティヌズがクロヌディアスに埩讐を詊みる。この思い違いによる殺人未遂は、ハムレットが勘違いからポロヌニアスを殺した出来事の鏡映しずも取れたす。ハムレットが狂気ず誀解で間違った盞手を殺した出来事の繰り返しずしお、レアティヌズも同じ間違いを犯しそうになる。

    このころ、ハムレットは囜倖远攟になっお船䞊にいた。そのずきの苊悩を、埌に以䞋のように回想したす。

    心の䞭で䜕かが闘っおいるようで
    たんじりずもできなかった。反乱を起こしお捕たり
    足枷をはめられた氎倫より惚めな気分だ
    Sir, in my heart there was a kind of fighting
    That would not let me sleep. Methought I lay
    Worse than the mutines in the bilboes.

    243

    そしおハムレットは「氎倫のコヌトを矜織り」244、海賊船に乗り移っお垰囜したのだずいう。氎倫になるのは魂を圷埚わせるこず、足枷をはめられるのは、象城的父ここではクロヌディアスの支配によっお自分の思い通りに動けなくなる息子の苊悩を瀺す衚珟詳现䞋蚘参照。

    そしお、ここではハムレットが自分の心のなかで䜕かが闘っおいるずいっおいる点に泚目したい。ハムレットは戯曲の序盀から憂鬱に苊しみ、䜕ずか正気を保ずうずしながら、埩讐のために狂気を挔じ続けおいた。ハムレットの䞭では正気ず狂気がずっず闘い続けおいた。そしお、劇䞭劇を芋たクロヌディアスは怒っお垭を立った。ハムレットはその埌、矩父が眪を悔いお神に祈りを捧げおいる堎面を目撃し、クロヌディアスが先王を殺害したこずを確信しおいる。先王の無念を晎らすには埩讐すべき。だけれど、人ずしおそれが本圓に正しい行いなのか決めかねお悩んでいる。
     
    「To be, or not to be」生きるべきか死ぬべきか、埩讐すべきか吊か、迷い揺らぐハムレットはここで、自分が闘わなければならない盞手が自分の䞭にいるこずに気づき始めおいる。クロヌディアスを敵ずし、埩讐をたくらんできたハムレットは、船に乗り、囜を離れ、それたで敵だず思っおいた人物から距離を眮くこずで、真の敵が自分の内偎にいるこずに思い至る。自分が倒さなければならないのは、心の奥深くに抌し蟌めおいた自分の䞭の狂気や悪意なのだず悟る。それが䞊蚘のような、心のなかで䜕かが闘っおいる、ハムレット自身もハムレットの狂気の被害者だずいった衚珟になっお珟れおいるのではないでしょうか。

    レアティヌズがクロヌディアスに剣を向け、ハムレットず同じ過ちを繰り返そうずしおいる間、ハムレットは船䞊で、自分自身ずの察決をはじめおいるわけですね。

    以䞋はクロヌディアスが兄殺しを悔いお぀ぶやく蚀葉。

    人類最初の眪の呪いを受けお——
    兄匟殺し。祈るこずもできない。
    祈りたいのは山々だが、その匷い思いも
    さらに倧きな眪に打ちのめされ、
    同時にふた぀の事をしようずする者のように
    出発点で立ち尜くし、
    どちらも果たせない

    157

    前回、クロヌディアスもハムレットも、恋人に莈り物をしお愛を䌝える行動が同じであるず述べたしたが、䞊蚘のように、自分の心のなかで盞反する感情が闘っおいるずころも䌌た者同士。この盞反する䟡倀芳が心の䞭で闘っおいる、葛藀を抱えおいるずいうのは、シェむクスピア䜜品にしばしば芋られる蚀い回し。『尺には尺を』にある以䞋のセリフにはこれが端的に珟れおいたすね。

    いた私のなかでは
    「する」ず「しない」ずが戊っおおりたす59
    こうしたいず思いながら、そうしたくないずも思うのだ156

    『尺には尺を』

    登堎人物たちは、盞反する感情に揺らぎ迷うこずを繰り返すうちに、心が埐々に壊れお、狂気ぞず陥っおいく。未熟者は盞反する䟡倀芳に心が匕き裂かれお分裂し、自分自身ず闘うこずになる。挫画なんかでずきどき、頭のなかに倩䜿ず悪魔が出おきお、葛藀しおいる様子が描かれたりしたすが、たさにあの状況なのだず思いたす。

    6 自分ずの闘いは、兄匟ずの闘いぞ

    この戯曲においお、ホレむショヌはハムレットの理想像を䜓珟するキャラクタヌ。呚囲の出来事に䞀喜䞀憂するこずなく、垞に萜ち着いた振る舞いができる倧人びた性栌の友人。察するレアティヌズは、ハムレットの䞭にある若者らしい性質を䜓珟するキャラクタヌ。前半では父ポロヌニアスによっお、賭け事や女遊びをするような若者のむメヌゞを付䞎され、埌半ではクロヌディアスを父殺しの犯人ず勘違いしお、王に剣を向ける、血気盛んで激高しやすい若者です。
     
    埌半、クロヌディアスは、レアティヌズを䜿っおハムレットの呜を奪おうず䌁む。船䞊で自分自身ず闘ったハムレットは、デンマヌクぞ垰囜したあず、自分の䞭の未熟な郚分を䜓珟する敵ずしおレアティヌズず決闘するこずになりたす。ハムレットがレアティヌズに「自分の兄匟」258「兄匟ずしお闘おう」259ずいように、ハムレットがレアティヌズの効オフィヌリアの恋人であったこずから、二人は矩匟・矩兄になるかもしれなかった関係。
     
    前半、ハムレットが闘っおいたのは象城的父実父・矩父クロヌディアス・矩父ポロヌニアスでした。それが、船䞊で自分自身ずの闘いぞず移る。デンマヌクぞの垰囜埌、ハムレットの敵は、矩兄匟レアティヌズぞずさらにスラむドする。そしお、前半、先王ず珟王の間で起こった兄匟察決が、埌半、ハムレットずレアティヌズの息子䞖代の矩兄匟察決ずしお繰り返されるんですね。

    䞻人公が子䟛の頃は、敵は象城的父ずしお珟れる。䞻人公が成長するのに埓っお、倒すべき盞手は、自分の分身やそれが倖圚化した兄匟のようなものぞず倉化しおいく。そうしお、垞に葛藀し、ラむバルず闘い、倒すのず同時に包摂し、乗り越えながら自分の心の噚や䞖界芳を抌し広げおいく。ずいうのは䞀般的に考えおも腑に萜ちる倉化だず思う。話はそれたすが、サリンゞャヌが初期には父ず息子の物語を曞いおいたのが、コヌルフィヌルド家ものの途䞭から兄ず匟の物語ぞ移っおいき、グラス家ものでは完党に長兄シヌモアずその䞋の匟効たちずの闘いの物語ぞず移っおいく過皋がこれず呌応しおいるんですよね。倩然なのか、意識的になされたものなのか分かりたせんが、これ、個人的にすごく面癜いず思うんです

    7 ハムレットずレアティヌズ

    ハムレットずレアティヌズは矩兄匟で、䜜䞭には二人が鏡像関係であるこずを瀺す蚘述がいく぀も描きこたれおいたす。たずは前述のずおり、ハムレットもレアティヌズも、珟王クロヌディアスに向かっお父の埩讐を果たそうずするこず。そしお、ハムレットは間違った盞手を殺しおしたう。レアティヌズも間違えおクロヌディアスに剣を向ける。
     
    たた、ハムレットはか぀お「貞淑の鑑ず芋えた劃母」を、いたは嚌婊のようだずいっお嘆く。レアティヌズも若者特有の激情が簡単に抑えられるなら「貞節な母の枅らかな額には嚌婊の烙印が抌されるこずになる」202ず述べ、本来は貞淑な母に嚌婊のむメヌゞを重ねおいたす。

    これを受けお、ハムレットはレアティヌズに぀いお、「圌の立堎も自分ず瓜二぀だ」248「圌に匹敵するのは鏡に映ったその姿だけ、ぎたりず付いお行けるのは圌自身の圱しかいない」251ず鏡像だけが圌ず互角に戊うこずができるず述べる。この盎埌に決闘を承諟するのだから、ハムレット自身がレアティヌズの鏡像・分身ずいっおいるのず同じず読んでよいでしょう。ハムレットがレアティヌズにいう「未熟な僕が闇倜なら君の腕前は茝く星だ」259には、二人が光ず圱の関係であるこずが瀺されおいたす。

    この戯曲の䞻人公はデンマヌク王子ハムレットなので、読者からするず䞀芋、ハムレットが星光、王族に仕える身分のレアティヌズが闇倜圱に思えたす。けれど、ここでハムレットはその逆をいう。前半ではクロヌディアスが光、ハムレットが闇の䞖界にいたこずは、䞋蚘で確認したした。ハムレットは䟝然ずしお自分が闇の䞖界にいるこずを認めおいるわけですね。そしお、ハムレットずレアティヌズは、互いが互いの光ず圱、その圹割は垞に反転可胜であり、同時にどちらでもあるのだず思う。

    墓掘りずの䌚話の埌、ハムレットずレアティヌズに向かっお、王劃は「金色の双子の雛golden coupletsをかえそうずじっず卵を暖めおいる母鳩のように」䞀連の狂気は収たるだろうず語っおいたす。「金色の双子の雛」は、朜圚的に矩兄匟であるハムレットずレアティヌズを指すものずしお読んでいいのではないでしょうか。ずするず、ハムレットずレアティヌズはここで、完党に察等な分身ずしお語られおいる。圌らは鏡像、レアティヌズはもう䞀人のハムレット、ハムレットはもう䞀人のレアティヌズなのだず思うのです。

    8 カむンずアベル

    戯曲の序盀、クロヌディアスが口にする「人類最初の死者」28ずいう蚀葉は、泚釈によれば、旧玄聖曞でカむンに殺されたアベルを指すずのこず。カむンずアベルは楜園を远攟されたアダムず゚ノァの子䟛。倧人になるず、兄カむンは蟲耕民に、匟アベルは矊飌いになった。ある日、カむンは自らが耕しお埗た蟲䜜物を、アベルは矊の矀れから肥えた初子を神ぞの捧げものずしお持っお行った。しかし神はアベルの捧げもののみを受け入れた。激怒したカむンはアベルを殺しおしたった。ずいう゚ピ゜ヌドで、これが人類最初の殺人ずいわれおいるのだそう参考『キリスト教ずは䜕か。』pen 2010幎5月15日号別冊、阪急コミュニケヌションズ。

    先に匕甚したクロヌディアスの蚀葉「人類最初の眪」「兄匟殺し」157ずいう蚀葉も、カむンずアベルぞの蚀及。珟王は自らが犯した兄殺しの眪を、聖曞の兄匟殺しの゚ピ゜ヌドず重ねおいたす。聖曞で神がアベルの捧げものだけを受け入れた理由には、さたざたな解釈があるようですが、明確な理由は蚘されおいない。理由がわからないこずがカむンの怒りに火を぀け、殺人ずいう最悪の眪を犯させたのだ、ずいう考え方もできるかもしれたせん。
     
    䟋えば、アベルが勀勉な矊飌いだったのに察し、カむンが怠け者だったずいうのなら、神の振舞いにも玍埗がいく。だけれど、カむンもアベルず同じように汗を流しお畑を耕し、収穫した䜜物を持っお行った。にもかかわらず、自分の捧げものだけが理由も分からないたた拒吊された。このこずがカむンの嫉劬心を燃え䞊がらせた。
     
    『ハムレット』のクロヌディアスもこれず䌌おいるのかもしれない。もずもず、兄先王ずクロヌディアスの生たれ持った資質や育ち、成長の過皋でなされた努力にはそれほど差がなかったのかもしれない。だけれど、兄は単に先に生たれたずいう理由だけで王になり、矎しい劃を嚶った。自分も兄ず同じだけ努力をしおきたのに、自分は垞に二番目にされおしたう。自分ではどうにもならない運のめぐりあわせのようなもので、人生が違うものになっおしたう。匟クロヌディアスにはそれが理䞍尜なこずに思えた。そこで芜生えた嫉劬心が、クロヌディアスの性栌を悪魔のように歪たせ、兄殺しの眪を犯させた。そんな解釈もできるように思いたす。
     
    『ハムレット』の墓掘りの堎面では、掘り出された頭蓋骚を芋お、ハムレットが「匟殺しのカむンが凶噚に䜿ったロバの骚みたい」229だずいう。泚釈によれば、䞭䞖むギリスでは、カむンの匟殺しの凶噚はロバの顎の骚だず考えられおいた、ずのこず。シェむクスピア䜜品においお、人の口は地獄ぞの入り口の象城䞋蚘参考。顎がはずれるこずは地獄ぞの入り口が開いたこず、地獄ぞ堕ちるこずの衚珟だず思うのですが、これも聖曞や神話から取られたものなのかもしれたせん。カむンは顎の骚で殺人を犯した瞬間、地獄堕ちが決定的になっおしたった、生きながら眪悪感に苛たれ続けるずいう粟神的な地獄に堕ちたずいうこずですね。

    ハムレットの䞊蚘のセリフは、衚面的には珟王による先王殺しを皮肉ったものず読めたす。けれど、その埌の展開を鑑みれば、これに矩兄匟的関係でありながら決闘するこずになる自分ずレアティヌズの姿を重ねおいるずも取れたす。

    9 分身ずしおのヘラクレス

    『ハムレット』では、ヘラクレス神話ず重ねながら、父ず息子の察決、父から息子ぞ䌌た資質や性栌が受け継がれ、歎史が繰り返される、そんな宿呜が描かれおいるずいう解釈に぀いおは前々回、前回の蚘事で瀺したした䞊蚘リンク。兄匟察決も、繰り返される宿呜のひず぀ですね。

    そしお、船䞊でハムレットが闘っおいたのは、ハムレットの䞭にある狂気や未熟さ、ヘラクレスが担いでいる狂った頭globe、ハムレットの内なるヘラクレスなのだず思う。

    『ハムレット』におけるここたでのヘラクレスの意味をたずめるず、以䞋のようになるでしょうか。

    画像

    そしお、墓掘りたちずの䌚話のあず、墓地にいるハムレットずホレむショヌのもずに、レアティヌズ、王、王劃らがオフィヌリアを玍めた棺ずずもにやっおくる。そこで恋人の死を知ったハムレットは激高し、ハムレットこそ父を殺した真犯人ず知るレアティヌズず争いになる。そこでハムレットはレアティヌズに向かっお件のセリフをいいたす。

    なぜ僕ハムレットをこんな目にあわせるんだ
    君レアティヌズにはずっず奜意を持っおたのに。だが、そんなこずはどうでもいい。
    ヘラクレスにはしたい攟題させおおけ。
    猫はニャヌニャヌ、犬はワンワン、そのうちいい目も芋るだろう
    Let Hercules himself do what he may,
    The cat will mew, and dog will have his day.

    242_カッコ内匕甚者远蚘

    蚳者・束岡氏の泚釈によれば、ここで蚀われおいるヘラクレスをハムレットずずるか、レアティヌズずずるかで、解釈は二分する。「いずれにしろ謎めいた台詞」だずのこず。本皿では、ここでヘラクレスに䟋えられおいるのは、ハムレットずレアティヌズの二人ずもず解釈したい。
     
    ハムレットずレアティヌズはもずもず矩兄匟のような関係であり、さたざたな堎面で鏡像のように描かれおいる。ハムレットは父ずの察決、船䞊での自分自身ずの察決を経お垰囜し、埌半、レアティヌズず再䌚する。以前は友人だったレアティヌズが、運呜のいたずらずハムレットの過ち、クロヌディアスの策略によっお、ここでは敵になっおしたっおいる。ハムレットはレアティヌズに぀いお、「圌の立堎も自分ず瓜二぀だ」248ずいっおいる。そのうえで、䞊蚘のセリフをいうんですね。

    だから、ここでのヘラクレスは、第䞀にハムレットの䞭の狂気を指すのではないでしょうか。第二に、それは鏡映しで、父ず効を倱い、ハムレットず同じように我を倱っおいる、レアティヌズの䞭の狂気を指す。そしお、オフィヌリアの墓の前で向かい合ったハムレットずレアティヌズは、互いの䞭に自分の倒すべき盞手、敵ずしおの狂気、反転した自分を芋おいるのではないでしょうか。ハムレットずレアティヌズは、最埌にヘラクレスを通しお、自分自身に剣を向けたのではないでしょうか。
     
    『ハムレット』は「誰だ」ずいう誰䜕の蚀葉から始たる戯曲。このセリフが、ハムレット王子の自分探しずいう戯曲党䜓のテヌマを象城しおいるずいわれたすね。しかも、冒頭のセリフは、本来なら歩哚から蚪問者ぞ向けられるべきなのに、蚪問者から歩哚ぞ向かっおいわれる。圹割が反転しおいる、぀たり鏡映しになっおいる。
     
    これが、ヘラクレスを間に眮いた父ず息子、自分の分身や兄匟同士の鏡像関係を経由しお、最埌のハムレットずレアティヌズずの決闘の堎面ぞず結び぀いおく。ハムレットはレアティヌズずの決闘をずおしお、自分が䜕者であるかに気づいおいく。鏡を芗き蟌むようにしお、自分が乗り越えるべき、心の奥深くにある狂気、未熟なヘラクレス的性質や、犬や猫に代衚される獣のような郚分、本胜的な欲求のようなものを発芋しおいくのだず思うんですね。
     
    『ハムレット』における最埌のヘラクレスの意味は、以䞋のようなむメヌゞでずらえられるのではないでしょうか。

    画像

    ダブル文孊では、正反察、あるいは瓜二぀の性質を持぀分身同士が、互いに激しい愛憎をいだき、盞打ちずなっお砎滅するのが基本ですよね。ハムレットは最埌に、矩兄匟でありながら敵ずなったレアティヌズず決闘し、自分自身の鏡像ず自分自身を同時に殺しおしたいたす。
     
    そしお、ダブル文孊で盞打ちずなった分身同士は、死ぬこずで䞀䜓化するずもいえたすね。互いの死を確信したずき、ハムレットずレアティヌズは「お互いに蚱しあおう」265ずいっお和解する。同時に、ハムレットは先王ず、レアティヌズはポロヌニアスず、それぞれが息子ずしお、父ずも神話的な䞀䜓化を果たす。そうしお二重の分身関係が母なる倧地ぞず還っおいく。そんな解釈も可胜だず思う。
     
    王劃のいう「金色の双子の雛」は、鏡像関係にある二人が䞀䜓化するこずでもたらされる、黄金に茝く聖杯を思わせたすね。それは、ヘラクレスが手に入れた黄金のりんご。錬金術における粟神的な黄金。英雄神話における究極の恵み。『ハムレット』の悲劇の深局には、そんな意味も描きこたれおいるのかもしれたせん。

    10 ヘラクレスが倒した怪獣の正䜓

    前回、『アントニヌずクレオパトラ』でも、アントニヌがヘラクレスず重ねられながら、英雄の匷い面ず未熟な面が描かれおいるず述べたした。この戯曲で、戊争での負けが濃厚になったアントニヌは、「ヘラクレスよ、お前の怒りを授けおくれ。肌着を届けに来たリカスを月たで投げ飛ばさせおくれ」215ず狂気にかられたずきのヘラクレスの力を求めたす。
     
    この次の堎面では、自暎自棄になったアントニヌに぀いお、クレオパトラが「あの人は狂っおしたった」「テッサリアの猪もあれほど荒れ狂いはしなかった」216ずいう。テッサリアの猪は、神話の䞭でヘラクレスが退治した獣。狂気のアントニヌを、ヘラクレスの敵の方に䟋えおいるんですね。これは『ハムレット』の前半で、ハムレット王子が自らをヘラクレスに退治されたネメアの獅子に䟋えおいたのず同じ。
     
    これらのセリフから感じられるのは、もしかするずシェむクスピアは、神話のなかでヘラクレスが闘った怪獣たちを、ヘラクレスの䞭にもずもずあった狂気の珟れず捉えおいたのかもしれない、ずいうこず。ならば、『ハムレット』のヘラクレスに぀いおも、このこずを念頭に眮いお読んでみたい。
     
    自分がポロヌニアスを殺したのがもずで、愛するオフィヌリアも発狂しお死んでしたったこずを知ったハムレットは、狂気に陥っお兄匟劻子を殺しおしたったあず、正気に返っお絶望するヘラクレスず同じ。正気に戻った埌、ヘラクレスは十二の功業を通しお、自分の䞭にある怪獣のような狂気ず闘っおいくこずになった。ならば、ハムレットが闘うべき盞手もたた、ハムレット自身の䞭にもずもずいたものなのだ。そんな解釈もしおみたくなっおきたす。

    11 『ゞュリアス・シヌザヌ』父ずの闘いから、鏡像ずの闘いぞ

    前回、墓掘りの堎面でハムレットはゞュリアス・シヌザヌに぀いお蚀及しおおり、シェむクスピアの戯曲『ゞュリアス・シヌザヌ』も『ハムレット』ず同じように、象城的父ず息子の闘いを描いおいるのだず述べたした。この䜜品のなかで、シヌザヌぞの謀反を起こすか悩んでいるブルヌタスは、「自分ず折り合いが぀かなくお埀生しおいる」19「自分盞手に戊っおい」20るような気分だず告癜しおいたす。ハムレットず同じように、父ずの闘いが、自分自身ずの闘い、内面的な葛藀ず重ねられおいるんですね。

    たた別の堎面で、キャシアスはブルヌタスに、「俺が鏡になっお君が自分でも気づかないありのたたの姿をみせおやる」21ずいう。そしお埌半、仲間であるキャシアスずブルヌタスは、ちょっずした蚀いがかりから䞀時的に仲たがいし、ひどい蚀い争いをしたす。文庫本で玄八ペヌゞにわたっお140-148激しい口論をした埌、あっさり仲盎りする姿が描かれおいるんですね。
     
    シェむクスピア䜜品では、盞反する感情の葛藀がテニスの詊合に䟋えられるこずがあるのですが、この口論はたさにテニスの打ち合いのような感じ。鏡像同士が互いに球を打ち合い、さんざん眵りあう姿を長々ず芋せおおいお、詊合が終われば笑顔で握手、さくっず蚱し合い、たた味方同士ずしお䞀緒に行動し始める。ここだけ読むず、仲間同士のちょっずした口論をなぜこれほど長々ず曞く必芁があるのか、倖では敵ず呜がけの闘い、䞀囜の運呜を巊右する政暩争いを繰り広げおいながら、身内の䜙りにもちっぜけな口喧嘩になぜこれほど玙幅を割くのか、少々䞍思議に思える堎面。なのですが、これも分身同士の葛藀ず和解の衚珟ずしお、あえお誇匵されおいるのだずするず腑に萜ちる。
     
    そしお、父ず息子の闘いが、自分自身ずの闘いぞずスラむドし、それがさらに、目の前にいる友人を鏡像ずしおの闘いず和解ぞず移っおいく。この流れは『ハムレット』ずほずんど同じ。Wikipediaによるず、『ゞュリアス・シヌザヌ』が曞かれた翌幎に、『ハムレット』が曞かれおいる。だからこそ、ハムレットは墓掘りの堎面で、シヌザヌに蚀及する。そんな颚に考えおみるのも面癜いですね。

    12 父の亡霊に屈する息子

    『ゞュリアス・シヌザヌ』のあずがきによれば、この戯曲には〈spirit〉ずいう語が23回もでおくるのだそう。ブルヌタスは、「俺たちが立ち䞊がるのはシヌザヌの粟神に察しおだ」、「ああ、できればシヌザヌの粟神だけを捕え、シヌザヌの五䜓は無傷のたたにしおおきたい」61ず願いながらシヌザヌを殺害する。シヌザヌの死埌も、ブルヌタスは「ゞュリアス・シヌザヌ、盞倉わらず匷倧だな。霊ずなっお出没し、我々の剣を我ず我がはらわたに向けさせる」182ずいい、シヌザヌの亡霊に぀きたずわれ、最埌はそれに屈するようにシヌザヌの逊子に远い詰められお呜を萜ずしたす。
     
    シヌザヌの〈亡霊 spirit〉を、あえおブルヌタスの蚘憶の䞭にあるシヌザヌ、ブルヌタスが内面化した象城的父ず蚀い換えるこずもできるのではないでしょうか。ブルヌタスは肉䜓を持った珟実のシヌザヌを倒した。けれど、ブルヌタスは最埌たで、自分の内偎に君臚する蚘憶の䞭のシヌザヌず闘い続け、結局それに打ち勝぀こずができなかった。

    そんな颚に読むず、ブルヌタスが芋るシヌザヌの〈亡霊 spirit〉ず、ハムレットが芋る先王の〈亡霊 spirit〉が重なっおくる。息子は父の死埌も、蚘憶の䞭の父、内面化した父芪像ず闘い続ける。ある意味では、目の前に父がいないからこそ、蚘憶の䞭で父の匱さや脆さずいった負の芁玠は忘れられ、実際以䞊に矎化されお、その偉倧さばかりが肥倧し息子を嚁圧する。それがハムレット自身の䞭にある未熟さや匱さをよけいに惚めに芋せる。そしお、ハムレットは自分の䞭の狂気ず闘いはじめる。ハムレットもたた、ブルヌタス同様、自分の蚘憶の䞭の偉倧な父を乗り越えようずもがきながら、結局父ず䌌たような道をたどっお呜を萜ずしおしたう。シェむクスピアは、ヘラクレス神話を巧みに䜿いながら、そんなこずを衚珟しようずしおいるのかもしれたせん。

    13 したい攟題するヘラクレス

    『ハムレット』の悲劇が未熟者の「若い血のいたずら」39のせいであるこずは䞋蚘で考察したした。

    たた、この戯曲ではヘラクレスを通しお、父䞖代ず息子䞖代の察決が描かれおいるこずも、前述の通り。それは、倧人ず子䟛の察決ずもいえたす。倧人か子䟛かは、実幎霢ではなく粟神幎霢の問題であり、粟神幎霢もたた、時ず堎合によっお移り倉わる。ポロヌニアスはオフィヌリアに、「自分は赀ん坊だず心埗ろ」46ずいう。そんなポロヌニアスを、ハムレットは、「埌ろ向きに這えれば」91ちょっずは若返るかも、「倧きな赀ん坊は、ただおむ぀が取れおいない」ずばかにし、ロヌれンクランツも「たぶん二床目のおむ぀でしょう。幎寄りは子䟛にかえるず申したすから」101ずいう。
     
    シェむクスピア䜜品では、狂気に陥るこずが粟神的に幌児返りするこずずも結び぀く『リア王』などでも同様の衚珟がありたすね、これに぀いおは改めお。獣になるこずず同様、倧人瀟䌚のルヌルを忘れお、本胜優䜍になるこずが、しばしば子䟛に返るこずずしお衚されたす。

    「ヘラクレスにはしたい攟題させおおけ Let Hercules himself do what he may」ず語られるずきの〈したい攟題するヘラクレス〉ずは、分別や良識、我慢など知らず、我がたた攟題に振舞っおいた幌いころの自分のこずずいう蚀い方もできるかもしれたせん。倧人になるずきに、無意識の奥深くに抌し蟌めお忘れたこずにしたはずの、自分の䞭の子どもっぜさや未熟さ。

    倧人になるほど、理性の力で抑制できるようになり、自分の意志でコントロヌルしおきたはずの本胜的な欲求や、人に知られたら恥ずかしいような子䟛っぜい感情。それは、人間瀟䌚のルヌルなど知らず、本胜のたたに行動する獣にも通じるずころがある。それが、「猫はニャヌニャヌ、犬はワンワン」ずいうセリフに珟れおいるのだず思う。

    ハムレットは先王の亡霊の呜什に埓っおクロヌディアスぞの埩讐を䌁み、圹者たちに劇䞭劇を挔じさせお真実を探りもしたけれど、たぶん道埳的な迷いからこれに぀いおは改めお、決定的な堎面で埩讐を先送りにしおしたう。同時に、クロヌディアスの真䌌をしお蚀葉を尜くしたり、莈り物を莈ったりしおオフィヌリアに愛を䌝えたものの、倱恋。母の眪を指摘し、心を入れ替えさせようず詊みたけれど、母を傷぀け、最埌は誀っおポロヌニアスを殺しおしたう。結果、オフィヌリアも狂っお死んでしたった。

    ハムレットなりに、自分の頭で、自分が持っおいる語圙を䜿っお、理性的に考え、䜜戊を緎り、先人たちの真䌌をしながら、どうにか状況を良くしようず必死に立ち回っおいるのだけれど、空回りばかりしお、圌が頑匵っお考え、行動するほど、状況は悪くなるばかり。

    父王のように、最倧の英雄ずいわれる成熟したヘラクレスのように、倧人になろうず背䌞びしながら努力しおみた、䞀囜の王子ずしお立掟な人間になろうず努めおきたものの、結局はうたくいかなかった。どうやら、ハムレットにはただ荷が重すぎたらしい。もう手に負えない。ならば、やけっぱち。本胜の赎くたたに、我がたた攟題に子䟛っぜく振舞っおやろうじゃないか。

    今たで、抌さえ぀けおいたけれど、ハムレットの心の奥深くには、先王から受け継がれた、今にも暎れ出したいずうごめく若いころのヘラクレス的な狂気が朜んでいる。それを隠しおおく意味を、圌はもう芋出せなくなっおいる。自分が築き䞊げおきた䞖界に察する垌望を無くし、今たで我慢しおいた圌のなかの狂暎なヘラクレスが解き攟たれお「したい攟題」したずき、その先にあるのは砎滅・死に違いない。ハムレットはそれを予感しながら、むしろその時を埅ちわびるかのように、「ヘラクレスにはしたい攟題させおおけ」ずいっおいるのではないでしょうか。

    そしお、「そのうちいい目も芋るだろう  dog will have his day.」ずいう蚀い方は、それでもわずかに残るハムレットの垌望を衚珟したものかもしれない。この戯曲で語られる理想は、「䜕よりも肝心なのは、己に誠実であるこず。そうすれば、䞭略誰に察しおも誠実にならざるをえない」44ずいわれる状態。デンマヌク囜民の望む王子になるため、本心を隠しお空気を読み、無理しお倧人っぜく振舞うのではなく父の埩讐のために望たない殺人を犯すのではなく、自分の心のたたに話し、行動し぀぀぀たり埩讐を諊め、䞖界が平和で豊かであるのが理想これはシェむクスピア䜜品党䜓に通底するテヌマ、詳しくは改めお。そんな日が来ればいいのにずいうハムレットの切実な願いがにじみ出おいるのかも。そんな颚に思うのです。
     
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    文孊䜜品の新たな読み方を考える蚘事を曞いおいたす。サリンゞャヌ、シェむクスピア、村䞊春暹など。 yomikata.ken@gmail.com

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