
ロルバーン、あれこれ
背景に惹かれ、繰り返し出会う
絵本『おおきなかぶ』の挿絵が描かれた
ロルバーンが、気になった。
『おおきなかぶ』は、子どもの頃に教科書で出会ったお話。
数十年ものあいだ記憶の底に眠っていたけれど、大人になって絵本にまつわる書籍を読むなかで、少しずつ特別な存在になっていった。
福音館書店の松居直さんが、彫刻家の佐藤忠良さんに挿絵を依頼したこと。
翻訳を手がけた内田莉莎子さんが、幼少期に佐藤忠良さんと出会っていたこと。
そうした背景を知るたび、その一冊が、
胸の奥に根を張っていくような感覚があった。


決定打となったのは、以前ドキュメンタリー番組で見た、佐藤忠良さんと彫刻家・舟越保武さんの関係性だった。
人が生きる時間のなかで育まれてきた、ふたりの関係。そのこと自体が、ひとつの作品のように思えた。
全国各地にある、佐藤忠良さんと舟越保武さん、それぞれの作品。
いつか訪れたい場所が、静かに胸に増えた。
前置きが長くなったけれど、その『おおきなかぶ』のロルバーンをオンラインショップで眺めているうちに、別の本に目が留まり、結局そちらを購入してしまった。

ページを開くと星座が浮かび上がる本だという。説明文からは、並々ならぬこだわりが伝わってきた。刊行が1986年ということにも驚いた。
機械仕掛けではない。付属しているのは、
赤と青のセロハンがついた紙のメガネだけ。
絵本としては少し値が張ったけれど、
その日はどうしてもそれが欲しかった。
売り切れてしまうかもしれないけれど、
ロルバーンはまた次の機会に。
*
届いた本をパラパラとめくる。
大半は美しく配置された星座のページで、
終盤には解説文がぎっしりと並んでいた。
どこか、本編でMCを挟まず、ひたすら曲が続くサカナクションのライブが頭をよぎる。
解説文は天文や物理の話で、大人が読んでも一見難解だ。けれど、まずは子どもみたいにメガネを覗き込みたくて仕方がなかった。
組み立てたメガネをかけ、
半信半疑で星座のページに戻る。
「うわ」と声が出た。
圧倒的な没入感だった。
一瞬で、自分だけの世界に引き込まれていく。
これは、誰にも邪魔されず、ひとりになりたい夜に開く本だと思った。
自分が座る座卓の下に、ひっそりと隠す。
これは「私の絵本」にしたかった。
しかし、数分後。
用事を終えてリビングに戻ると、すでに娘が
その本をあっさりと見つけ、使っていた。
「メガネ、折らないでよ!」
ついムキになって声をかけると、娘は「この本、学校の図書室にもあるんだよね〜」と笑った。
とっくにこの本の楽しみ方を知っているような、誇らしげな笑顔だった。
ああ、みんなで大切にすればいいんだな。
胸にあった小さな独占欲が、すっと消えていった。
*
息子と娘は、「学校の図書室にあるこの本借りた」「それ、もう読んだ」と、自慢とも言い争いともつかない会話をよくしている。
何百冊と並ぶ図書室で、なぜか同じ本を選んでいることに驚かされる。
最近は、ふたり揃ってジブリの映画本、いわゆるアニメ絵本を読んでいるらしい。
本を読んだあとで、「もう一度ナウシカが観たい」「ハウルが観たい」と言ってくる。
家には録画した金曜ロードショーやDVDがあり、ひと通りの作品は見られる環境にある。
それでも、改めて一緒に鑑賞すると、子どもたちのリアクションから新たな発見が伝わってくる。

前に観たときは、この場面の意味がわかっていなかったんだな。
本で読んだことで、同じ物語も少し違って見えるらしい。
子どもから「ここ、今なんて言ったの?」と
聞かれれば、得意げに解説する。
けれど本当は、私自身もまだ気づいていないことや、観るたびに新しく感じる何かがある気がしている。
なんだかおかしいのは、娘がやたらと
作中の「おばあちゃん」にハマっていることだ。
ジブリ作品には、魅力的なおばあちゃんが登場することが多い。
物語の肝になったり、場面に豊かさを添えたり。高橋留美子さんの漫画を思い出したりもする。
その構造や役割について説明したくもなったけれど、娘が純粋に面白がっている姿を見て、野暮な解説はやめた。
*
私自身、ジブリ作品を味わうようになったのは
大人になってからだった。
子どもの頃、家ではジブリがあまり身近なものではなかった。
周囲が「常識」のようにジブリの話をしていると、どこか知ったかぶりをしてやり過ごしていた。
大人になってから、自分の意思でジブリ作品に触れるようになり、宮崎駿さんが岩波少年文庫の児童文学を紹介する本『本へのとびら』(岩波新書)にも出会った。
石井桃子さんへの深い敬意が綴られるなかで、
石井桃子さんと中川李枝子さんの存在にも触れられていた。
「僕なんか会えばすぐ見抜かれて、へなちょこがって言われそうで」という言葉があった。
宮崎駿さんが、そんな謙遜と敬意を抱いていることに、たまらない魅力を感じたのだった。
ロルバーンを眺めていたところから、随分と話が広がった。
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