
小さなパン屋「ルーツ」の大地の恵みを感じ、力強く噛むのが楽しいパン
私は決して世話好きな方ではないが、話の流れでついひと言、助言めいたことを言ってしまい、手伝う羽目になってしまうことがある。
思春期を過ごした花巻で、まち歩きマガジン「マチココ」と言う小冊子があった。何とか続けていたのだが、伸び悩み行き詰まりかけていた。花巻という小都市ではとても貴重な冊子で続けるべきだと思い、応援していた。
ある日、制作関係者との飲み会の時、判型をB5サイズに大きくとか、スタッフが皆で街を歩き、取材するのがいいなどと、威勢のいいことを言ってしまった。
デザイナーも大胆に変えたいと考えていたそうだ。彼女は、頑張り屋で行動派。直ぐに火が点き、デザイン案を考え始め、取材スケジュールなどもどんどん固めていった。熱意に引き込まれて結局、ボランティアとして手伝うことになった。
花巻は、平成期に石鳥谷町、大迫町、東和町と大合併し、当時の人口は10万人を超えていた。中心部だけではなく周辺も回ることになった。
その時、石鳥谷町八幡にある小さなパン屋「ルーツ」を取材先として強く推し、先頭を切って店に入った。
田園の中の十数軒の住宅地があり、初めて訪ねた時は探すのに苦労したが、初めてルーツのパンを食べた時の感動は、今も鮮明に覚えている。取材して店主の話を聞きたかったし、ついでにパンも買おうと目論んでいた。

正確には「パン屋√ s (ルーツ)」。
「焼けました」の木の札がいい。

小さな店のに棚に存在感のあるパンが並ぶ。
ホームページにも詳しく記されているが、それぞれのパンの特徴や使う原材料などが詳しく書かれてある。

パン屋を始めたきっかけがふるっていた。
都会で働いていた時、パンを作っていたが、ある時、酵母に関する本に目がとまり、すぐさま買って書いてあるとおりに作ったが、失敗。
「説明のとおりにしたはずなのに!なんでだ!」
と店主の竹田さんは、パンや酵母作りに火が点いた。とうとう2年後には会社を辞めてしまい、いよいよパンの世界にのめり込んでしまう。
その後、この場所で小さな店を開き、添加物を使わず、安心して食べられるパンを作り続けている。
話をしていると、
「小さなパン屋ですから必死にやっています」とよく言う。
今では、とても人気があり、午後2時を回れば買えるかどうか怪しい。
取材の日は早めに行ったので、話を聴いた後に予定より多くパンを買い込み、ご機嫌だった。
ルーツの棚には、ほかの人の手による加工品なども置かれ、詳しく紹介している。それは、パン作りを通じて広がった色々な人との繋がりの多さを物語っているのだろう。
弟さんが「農園たそがれ」を営み、固定種などを中心に無農薬で野菜などを育んでいて店頭にも並ぶ。彼の野菜は、花巻の人気店、イタリアンの「レガーメ」などでも使われている。


ルーツのパンはハーフでも買えるので色々な味を楽しめる。
色々とある中から、砂糖、乳製品を一切使わない定番のパンを少し紹介しよう。パンには個性的な名前がついている。

「カンパーニュ」
ライ麦全粒粉と小麦全粒粉が入った食事パン。香ばしさと独特の重さがあるが、生地はしっとりしている。説明書きにはチーズなども合いますなどと書いてある。ホームページにも原材料が詳しく書かれている。カンパーニュは、「岩手県産南部小麦・岩手県産南部小麦全粒粉・北海道産ライ麦全粒粉・自家培養レーズン酵母・ゲランドの塩」
と言う風だ。
次は「胡桃の底力」
全粒粉の力強い生地に、たっぷり詰め込まれたオーガニックの胡桃。小麦や木の実などは有機栽培の物。レーズンから培養した自家製酵母で作る。心地よい小麦の風味とこれでもかと詰まった胡桃。噛むほどに味わいが増し、とても美味しい。

「食パン」
小麦は地元の南部小麦。フランスパンと同じ材料で小麦粉、自家製の酵母、塩だけで作る。酵母の香りがして小麦香る食パンは、柔らか過ぎず硬すぎず丁度いい。

「ライ麦畑の胡桃カレンズ」
ふんだんに練り込まれた果実、ライ麦の味わいと大粒の胡桃の食感。カレンズ(干した山ぶどう)の甘味がいい。ルーツのパンは、噛むのが楽しい。「赤ワインがピッタリです」と書かれていた。


次は、季節のパン。
大好きな「伊予柑のパン」。
無農薬栽培の伊予柑を自家製伊予柑ピールにし、酵母も伊予柑酵母を育ててパンを発酵させるというこだわり。伊予柑の香りが春を運ぶ、贅沢な季節パンで、噛むほどに広がる爽やかな香りがたまらない。

続いては、まだ食べたことがなく、気になっている物。
「りんごの酵母の寄り道アップルパイ」
石鳥谷で収穫される減農薬栽培のりんごから、酵母を育て、パイ生地にしたアップルパイ。生地にはバターなどの乳製品は一切不使用。甘さ控えめのりんごがみっちりと詰まっているらしい。
もう一つが、
「焼き芋になったつもり」と言う名のパン。
これも農薬を使わずに育まれたサツマイモから、サツマイモ酵母を育ててパンを発酵させる。ペースト状になったサツマイモがびっしり入るらしい。仕上げにはシナモンをまぶしている。サツマイモとシナモンのコラボのパンを食べたみたい。
「ルーツ」の竹田さんが大切にしているのは、地元の小麦を使い、ここで酵母を育てることが「ルーツ(基本)」だ。しかし、これが毎日の天候、気温などで毎日パンの御機嫌が違うらしい。それだからこそ、難しく可愛らしいと言う。
ホームページには、
「自然界に対する感謝と畏怖が絶えません。小さくも偉大な微生物の世界をパンを通じて感じて頂けたら幸いです。」と書いている。
私は、仕事をしていて行き詰まった時、「妥協」と言う言葉を魔女が囁くと、つい惑わされてしまうが、竹田さんは、常に全力で「安心」と「自然の美味しさ」を追いかけている。
そんな一途な想いが詰まっているルーツのパンは、大地の恵みを感じ、力強いパンだ。
私は、もう十数回は訪れているが、まだまだ味わったことのない未知のパンがあり、パン屋「ルーツ」の奥深い世界を楽しみながら追いかけている。