
「老化を治療する」が本当に始まったかもしれない
外来で、たまに聞かれる質問があります。「老化を防ぎたいんです。タマネギやイチゴに入っている成分が、老化細胞を除去してくれるんですよね」。
自分はこれまで、「まだそこまで進んでいないんですよ」と答えてきました。
老化細胞は、傷ついて分裂をやめたのに、死なずに居座る細胞です。ゾンビ細胞、とも言われます。年をとるほど体にたまり、周りに炎症を起こす物質を出し続けます。この細胞を選んで殺すために、これまでにいろいろな薬や、その組み合わせが研究されてきました¹⁾。
老化を治療する、と聞くと夢の話に聞こえるかもしれません。自分も少し前に、AIで寿命が大きく延びるかもしれない、という記事を書きました。治らない病気の代表とされてきた、肺がどんどん硬くなっていく肺線維症でも、AIで作られた別の薬で病気の進行が逆転したかもみたいな話もあったりして、老化の治療も少しずつ現実味を帯びてきている感覚があります。
老化の傷跡は、巻き戻せるのか
線維化は老化の代表のような変化だと考えています。体は傷を治す時に、傷んだ所を線維でふさぎます。その跡が、臓器に少しずつたまっていきます²⁾。肺線維症のように、年をとるほど起こりやすく、線維化そのものが病気の中心にあるものもあります³⁾。

たとえば肝臓では、炎症が続くと線維化が進みます。一度進むと戻りにくく、さらに進むと肝硬変になります。
ここで、今回はこの線維化についての最新の研究を切り口に、老化が治療できるようになるかを考えてみたいと思います。
老化細胞を殺す薬の中で、有望な組み合わせとして知られていたのが、次の2つのコンボです。
ダサチニブ:医師が処方する白血病の薬⁴⁾
ケルセチン:タマネギなどに含まれる成分
人でも試されてきましたが、病気そのものがよくなったかは、確かめられていませんでした³⁾⁵⁻⁷⁾。2026年10月、この組み合わせで、肝臓の線維化が戻るかを確かめた最新の試験の結果が出ました⁸⁾。
一度進んだ肝臓の線維化は、老化細胞を殺すことで戻ったのでしょうか。もし戻ったのなら、「老化を治療する」は本当に始まったのかもしれません。
半分近くの人で、線維化が巻き戻った
対象は、脂肪肝の中でも炎症が続く脂肪肝炎があり、線維化が進んでしまった患者さんたちです。
参加した人は、2つの組に分けられました。2つの薬を組み合わせて約5か月、休みをはさみながら飲む組と、薬の入っていない偽薬を飲む組です。飲む前と飲んだ後に肝臓の組織を針で少し取り、線維化がどう変わったかを比べました。
線維化の進み具合は、なしから肝硬変まで、5つの段階で表します。参加したのは、中くらいから、肝硬変の一歩手前まで進んだ人たちでした。
この段階が1つ以上戻った人は、次のとおりでした⁸⁾。
薬を飲んだ人:半分近く(47%)
偽薬を飲んだ人:7%
段階が1つ戻るのは、肝硬変から一段遠ざかるということです。
一度進んだ線維化は、戻りにくいとされてきました。しかも、薬を飲む日は5か月のうち27日だけです。飲む日がこれだけでも、偽薬と比べて線維化が巻き戻る人が多かったのは、大きな一歩だと思います。