
クレアチンを飲んでも脳に届かない人がいる。腸の話をさせてほしい。
以前「クレアチンは脳のサプリだ」という記事を書いた。あれは間違っていなかった。ただ、大事なことを1つ見落としていた。
クレアチンを飲んでも、腸で吸収されなければ脳には届かない。
2026年3月31日にCell Metabolism(代謝研究のトップジャーナル)に出た論文が、まさにここを調べていた¹⁾。うつ病の患者さんでは、便のクレアチンが多く、血液と髄液(脳を浸している液体)では少なかった。口から入ったクレアチンが、腸で吸収されずに出ていっている可能性がある。
クレアチン、腸で止まってるってよ
研究チームは、うつ病の患者さんと健常者の便・血液・髄液を調べた。検体ごとに別の数十名から集めていて、数百種類の代謝物を一気に測る手法を使っている。
うつ病の患者さんでは便中のクレアチンが高い。ところが血液と髄液のクレアチンは低い。 便では余っているのに、血液と髄液では足りない 。
クレアチンが、腸で吸収されずに素通りしている可能性がある。ただし、ヒトのデータは患者さんと健常者を比べた観察で、この段階ではまだ可能性だ。
以前の記事で「脳もATP(脳や筋肉を動かすエネルギー通貨)で動いている」と書いた。クレアチンはそのATPを再生する燃料だ。

脳のエネルギー代謝がうつ病で落ちていることは以前から知られていた。ただ「そもそもエネルギーの原料が腸から届いていなかった」という切り口は新しい。
マウスのうつ病モデルでも同じパターンが再現された。ヒトとマウスで同じ形が出たので、研究チームはクレアチンを本命として追いかけている。
腸内細菌がいないとクレアチンは効かない
研究チームはまず「クレアチンを外から入れたらうつに効くのか?」をマウスで確かめた。クレアチンを1回飲ませるだけで、行動試験で抗うつ効果が出た。
ところが、抗生物質で腸内細菌を一掃したマウスでは、この効果が消えた 。

もっと決定的なのが糞便移植の実験だ。うつ病の患者さんの便を移植されたマウスでは、クレアチンを飲んでも血中クレアチン濃度が上がりにくく、行動試験でも抗うつ効果が出なかった。健常者の便を移植されたマウスではちゃんと効いたのに。
少なくともマウスでは、クレアチンの効果は腸内細菌がいてはじめて成立していた 。自分も以前のクレアチン記事でこの視点が抜けていた。
犯人はビフィズス菌が減ったこと
48名の腸内細菌を網羅的に調べると、うつ病で最も減っていたのが ビフィズス菌の一種(B. pseudolongum) だった。
このビフィズス菌をマウスの腸に定着させてからクレアチンを飲ませると、血中のクレアチン濃度が上がった。ビフィズス菌がいないマウスでは上がらなかった。
つまり、ビフィズス菌がクレアチンの吸収を助けている。

クレアチンを飲んでいるのに「効いてる気がしない」と思ったことはないだろうか。自分はこの論文を読んでから、飲む量の前に、腸で吸収されているかを考えるようになった。
しかも、マウスの実験では、 すでにうつ状態になってからクレアチンだけを足しても効かなかった 。ビフィズス菌と一緒に使ってはじめて効いた。クレアチンを飲んでいる人には、知っておいてほしいデータだ。
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