
EA列伝⑩(FAP Turbo)
MT4(メタトレーダー4)の歴史において、伝説的な自動売買プログラム(EA)として今なお語り継がれるのが「FAP Turbo(ファップ・ターボ)」です。
2008年の発売直後から世界中で爆発的なヒットを記録し、累計5万5,000人以上のメンバーを獲得して「世界で最も売れたEA」の一つとなりました。その誕生秘話と歴史の裏側を詳しく解説します。
1.誕生の背景:前身「Forex Auto Pilot」の失敗
FAP Turboの「FAP」は、Forex Auto Pilot(フォレックス・オート・パイロット)という前身のシステムの頭文字から取られています。
当時、海外で「Marcus B. Leary」という人物らが販売していたForex Auto Pilotは非常に人気のEAでしたが、相場の変化に対応できず、多くのトレーダーに壊滅的な損失(ドローダウン)を与えて市場から引退していきました。このシステムのロジックの脆さに危機感を覚え、「本当の意味で長期的に勝てるロボットを作ろう」と立ち上がったのが、FAP Turboの開発チームです。
2.誕生秘話:3人の天才による共同開発
FAP Turboは、Steve Carletti(スティーブ・カーレッティ)、Mike(マイク)、Ulrich(ウルリッヒ)という3人のITエンジニア兼プロのFXトレーダーたちによって開発されました。
ITのプロと金融のプロの融合:彼らは数年間にわたり、前身システムの弱点を徹底的に分析しました。当時のEA業界は「バックテスト(過去データでの検証)は見栄えが良いが、リアル運用(フォワードテスト)では全く勝てない」という、いわゆる過剰最適化(カーブフィッティング)の詐欺的ソフトが横行していました。
「リアルデータ」へのこだわり:スティーブたちは「嘘偽りのない本物の実績(Live Proof)」を証明することに命をかけ、開発段階からリアル口座での運用データを公開する仕組みを構築しました。これが、当時の不信感に満ちていたFXコミュニティに大きな衝撃を与えたのです。
3.FAP Turboの歴史と進化
(1)2008年:初代「FAP Turbo」の衝撃デビュー
2008年後半にリリースされると、瞬く間に世界トップシェアのEAへと登りつめました。
人気の秘密は、当時としては画期的だった「2つのハイブリッド戦略」を搭載していた点です。
ユーロドル(EURUSD)の「アジアセッション・スキャルピング」:ボラティリティの低い日本時間の早朝(深夜)を狙い、高勝率でコツコツ利益を積み上げる主軸ロジック。
ポンドドル(GBPUSD)の「トレンドフォロー」:日中の大きなトレンドを追いかけるバックアップロジック。
特にアジアアワーのスキャルピングの精度は凄まじく、当時の海外フォーラム(Forex Peace Armyなど)やMyfxbookといった検証サイトはFAP Turboの話題で持ちきりになりました。

その人気から、デコンパイルやクラックが世界中で行われ、派生EAも同時に世界中に広まることになりました。
(2)2013年:「FAP Turbo 2.0」への進化とビットコイン導入
初代の発売から約5年が経過した2013年12月、大型アップデート版である「FAP Turbo 2.0」が発表されました。
相場環境の変化に合わせて対応通貨ペアを8種類に広げただけでなく、驚くべきことに世界で初めて「ビットコイン(Bitcoin)」の自動売買ロジックを組み込んだEAとして業界の先陣を切りました。まだ暗号資産(仮想通貨)が世間一般に認知される前から、そのボラティリティに目をつけ自動化していた先見の明は、開発チームの技術力の高さを物語っています。
初代FAP Turboはナンピンマーチンではありませんでしたが、相場環境の変化に対応するため、ナンピンやマーチンゲールに類似したロジックがオプション(設定)として追加されました。
「マルチポジション(ナンピン)」の追加:
相場が一時的に逆行した際、1つ目のポジションよりも有利なレートで2つ目、3つ目のポジションを追加する(最大3〜5ポジション程度)機能が選べるようになりました。これは「朝スキャ」の勝率をさらに引き上げ、微小な戻りでプラス決済にするための工夫でした。ロット倍率(マーチンゲール要素)の導入:
一部のアップデートや、開発チームが推奨した「プレミアム設定」の中には、「負けた次の取引、あるいは逆行して追加するポジションのロット数を1.5倍〜2倍にする」という、マイルドなマーチンゲール(変則マーチン)のアルゴリズムが組み込まれました。
(3)2016年〜現在:「FAP Turbo 3.0」とEA界への遺産
その後も3年以上の歳月をかけて改良が施され、「FAP Turbo 3.0」へと進化を遂げました。高頻度取引(HFT)に対応するためのブローカー間のスプレッド・遅延(レイテンシー)自動検知機能などが追加され、より現代的なシステムへと変貌しました。
現在は・・・
伝説的なEAである「FAP Turbo」の現状は、事実上の「引退」となっています。
①公式サイトの閉鎖と開発チームの解散
現在、FAP Turboの公式販売サイトやサポートページは完全に閉鎖されており、新規に購入することはできません。
開発者であるSteve Carletti(スティーブ・カーレッティ)をはじめとするチームもすでに解散しており、現代のMT4のアップデートに対応したプログラムの更新やサポートは一切行われていません。
②「朝スキャ」ロジックの機能停止(相場環境の変化)
仮に過去のプログラムを強引に動かしたとしても、現在の相場(フォワード環境)では全く勝てない、あるいはエントリーすらまともにできない状態です。理由は主に2つあります。
ブローカーの対策とスプレッドの拡大:FAP Turboの主軸だった「日本時間早朝(深夜)のレンジ相場を狙うスキャルピング(朝スキャ)」は、現在では多くのFXブローカー(FX会社)に対策されています。早朝の時間帯は意図的にスプレッド(手数料)が大きく広げられるため、小さな値幅を狙うFAP Turboのロジックでは、手数料負けしてしまいます。
流動性の変化:インターバンク市場(銀行間市場)のシステムが高度化したため、昔のような「規則正しく綺麗に反発する早朝のレンジ相場」自体が激減しました。
4.FAP Turboが遺した功績
FAP Turboというシステム自体は終焉を迎えましたが、彼らが遺した思想や仕組みは、現在のEA業界の基盤として生き続けています。
リアル口座公開(Myfxbookなど)の定着:FAP Turboが業界で初めて本格化させた「ごまかしの利かないリアル口座の実績開示」は、現在のEA販売サイト(MQL5コミュニティやGogoJungleなど)において、販売時の必須条件となっています。
朝スキャ派生EAの存在:FAP Turboのロジックを現代版にアップデートし、AI(機械学習)や高度なスプレッドフィルターを搭載した「現代版の朝スキャEA」が、今でも多くの開発者によって作られています。
FAP Turboは、現在の洗練されたFX自動売買環境を作るための「大いなる実験体であり、パイオニア」として、その役割を終えたと言えます。
FAP Turboは、FX自動売買の黎明期における混沌とした市場に「透明性」と「技術力」で一石を投じた、まさにMT4の歴史に燦然と輝く金字塔的なEAです。