
400字ショートショート|9月は接吻してってば|アマノ文筆クラブ
男は奇妙な病に冒されていた。細胞が徐々に崩壊し、やがて砂のように消滅してしまうという恐ろしい奇病だ。あらゆる手を尽くした男のもとに、怪しげな老医者が現れ、こう告げた。
「治す方法は一つだけ。九月の間に、最高の『キス』を味わうことです。それ以外に道はありません」
男は孤独な富豪だった。彼はそれを「真実の愛による接吻」だと解釈した。冷たい機械に囲まれたこの近未来社会で、失われた人間の温もりこそが特効薬なのだ、と。
彼は莫大な財産を投じ、美しく心優しい女性を雇った。九月の間、彼女は毎日男に寄り添い、「ねえ、キスしてってば」と甘く囁いては、何度も熱烈な接吻を交わした。男は愛の力を信じ、満ち足りた気分で眠りについた。
しかし九月の終わり、男の体はあっけなく崩壊し、一握りの砂となってしまった。
後日、空っぽのベッドを見下ろし、老医者はため息をついてつぶやいた。
「いくら金持ちでも、人の話は最後まで聞くべきだな。九月が旬のあの魚を、塩焼きか天ぷらにして食べるだけで完治したというのに」
(終)
こちらの企画に参加させていただきました。
#アマノ文筆クラブ
30分で書いて100スキ超えのショートショート作成術をまとめました。
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