メインコンテンツへスキップ
見出し画像

David Sylvianはどこにいたのか──『The Distance Between the Killer and the Killing』へ至る15年

    2026年9月30日、David Sylvian (デヴィッド・シルヴィアン) の新作『The Distance Between the Killer and the Killing』が発表された。発売日は2027年2月26日。2012年から2025年にかけて、異なる場所と時間で録音された即興演奏をSylvianが再構成した、46分間一曲のインストゥルメンタル作品だという。公式では、2009年の『Manafon』に続く作品と位置づけられている。

    参加者には坂本龍一、大友良英、そしてベルリン、カナダのビクトリア、ブエノスアイレスを拠点とする音楽家たちが名を連ねる。Sylvian自身の担当には、ギター、エレクトロニクス、トリートメントに加えて「radical editing」と記されている。

    この13年間をたどると、今回の参加者の多くが、新作以前からSylvianとさまざまな形で関わってきたことが分かる。録音だけでなく、写真やアートワーク、レーベルへの働きかけ、視覚作品の共同制作、マスタリング、プロデュース。自身の新作を待つ側からは見えにくかった時間にも、その交流は続いていた。

    David Sylvianは、この間どこで、何をしていたのか。

    新作のクレジットを手がかりに、その活動をたどってみたい。さらに道を遡ると、坂本龍一とHolger Czukay (ホルガー・シューカイ) という、彼の創作に深く関わった二人の存在が見えてくる。

    「Forbidden Colours」が開いた扉

    私は以前、「Forbidden Colours」についての記事を書いた。坂本龍一による映画『戦場のメリークリスマス』のテーマにDavid Sylvianが言葉と新たな旋律を加え、1983年に発表された曲だ。二人を代表する共同作であると同時に、SylvianがJapan解散後の時間から次へ進む契機にもなった。

    1988年のインタビューでSylvianは、一年半ほど作曲から離れ、絵や写真へ戻っていた時期について語っている。そこへ坂本から、『Merry Christmas Mr. Lawrence』のテーマに歌詞を書いてほしいという依頼が届いた。2012年にもこの出来事を振り返り、先へ進む方向を見つけられずにいた時期に「Forbidden Colours」が渡され、再び言葉が流れ始めたと話している。

    1986年には、この曲を自分にとってのターニングポイントと表現した。イメージの後ろへ身を置いていた書き方から、自分自身についてより率直に言葉を置く方向へ。その感覚が『Brilliant Trees』へ続いていった。

    坂本との交流は、その少し前から始まっている。1982年には「Bamboo Houses / Bamboo Music」を共同制作。1984年の『Brilliant Trees』にも坂本が参加し、「Red Guitar」「Weathered Wall」「Brilliant Trees」でピアノやシンセサイザーを演奏した。その後も1992年の『Heartbeat』、2001年の「Zero Landmine」、2003年の「World Citizen」、2017年の『async』と接点が続く。

    そのたびに、二人の関わり方は少しずつ変わった。「Forbidden Colours」では坂本の音楽がSylvianの言葉を引き出し、「World Citizen」では送られてきた素材への応答から複数の形が生まれた。『async』の「Life, Life」でSylvianが読むのは、Arseny Tarkovsky (アルセニー・タルコフスキー) の詩だった。自分の言葉を歌うことから、他人の言葉を声にすることまで、坂本との作品にはさまざまな役割がある。

    2023年、坂本の死後に行われたインタビューで、Sylvianは自分の芸術人生の重要な局面にはRyuichiがいたという趣旨のことを語った。初めてソロアルバムを作る際の不安を和らげ、その一歩を後押しした人物としても、坂本龍一を挙げている。

    2012年、ニューヨーク

    今回の作品に記された最初の録音年は、2012年。

    この年の3月、SylvianはThe Quietusのインタビューで、5月まで素材を集め、その後、新しいソロアルバムへ比較的早く取りかかる予定だと話していた。5月には、坂本龍一側のマネジメントが運営していた公式Twitterに、ニューヨークでDavid Sylvianのために録音していることを示す投稿がある。当時のSylvianファン・フォーラムには、その日のうちに次の文面が転載されている。

    「2nd day w Otomo & Taylor Deupree for David Sylvian in NY」

    坂本龍一、大友良英、Taylor Deupree (テイラー・デュプリー) が、ニューヨークでSylvianのための録音に参加していたことを示す同時代の記録である。

    今回公開された新作のクレジットには、坂本龍一のピアノと大友良英のギター、録音場所としてニューヨークのDowntown Music Studio、エンジニアとしてVaughan Merrick (ヴォーン・メリック) の名前がある。一方、Taylor Deupreeの名前は見当たらない。

    公式エッセイを執筆したPauline Nadrigny (ポリーヌ・ナドリニ) は、Sylvianから説明を受けたうえで、2012年に別のプロジェクトのために録音されたテイクが新作に使われていること、坂本のピアノが13年前の録音であることを記している。

    当時の投稿と新作の説明は、時期や参加者の面で重なる。ただし、どのテイクが今回使われ、当初どの作品へ向けられていたのか、その対応関係の全貌は明らかになっていない。ここで確認できるのは、2012年に集められていた録音の一部が、長い時間を経て新作の素材になったということだ。

    Deupreeとの関係も、その後へ続いた。2013年、Sylvianが東京と瀬戸内で行った写真展『Abandon/Hope』のために、Deupreeは長尺の音楽を制作している。新しいソロアルバムへ向けた動きと並行して、写真や展示を通じた共同制作も進んでいた。

    Holger Czukayと即興、編集

    新作クレジットの最後には、「In memory of Ryuichi and Holger.」とある。

    新作の献辞に名を残すHolger Czukayは、Sylvianが即興と録音を作品へ変えていく過程で大きな役割を持った人物。

    『Brilliant Trees』での共演後、SylvianはケルンのCan Studioを訪れた。本来の目的はヴォーカル録音だったが、広いスタジオに置かれた楽器をSylvianが次々に触り、Holgerが録音する時間が生まれた。一つの楽器に慣れ、演奏として形を持ち始める頃には、次の楽器へ移る。まだ扱い方をつかみきっていない瞬間までが、録音に残された。

    数晩の即興から生まれたのが、『Plight & Premonition』だった。Holgerはその素材を大きく編集し、短波ラジオなども加えながら、実際に演奏された時間とは異なる構成へ組み替えていった。

    Sylvianは後年、Holgerとの仕事を通じて即興を使う制作方法を本格的に経験し、その考え方が以後の多くのプロジェクトに関わるようになったと話している。さらに大人数で試してみたいという発想は、Rain Tree Crowへつながる。

    演奏する段階では予想していなかった音を得て、録音後の編集によって作品の形を見つける。今回の「radical editing」というクレジットにも、私はHolgerとの仕事で開かれた可能性の続きを感じる。

    『Manafon』と「composition via cut and paste」

    『Blemish』を経て、2009年の『Manafon』へ。Evan Parker (エヴァン・パーカー) 、Keith Rowe (キース・ロウ) 、John Tilbury (ジョン・ティルベリー) 、大友良英、Christian Fennesz (クリスチャン・フェネス) らを含む即興演奏家とのセッションが、複数の場所と組み合わせで録音された。

    Sylvianは、自分自身をフリー・インプロヴィゼーションの演奏家とは捉えていなかった。何十年も即興に取り組んできた演奏家たちの音を受け取り、自分はコンポーザー、ソングライターとして作品を作る。『Manafon』では、セッションの素材を選び、配置し、処理したうえで、言葉とメロディーを置いていった。

    同じ時期に作られ、後に『Died in the Wool』へ収録された「Anomaly at Taw Head」では、さらに別の方法が取られている。Sylvianによれば、演奏家たちはほとんどの場合一緒に演奏しておらず、互いの音を聴いて反応したわけでもない。別々に録音されたパーツが、後から一つの作品へ組み上げられた。

    本人が使った表現は、「composition via cut and paste」。演奏家同士の応答が録音の場で生まれる場合もあれば、編集を通して初めて音と音の関係が生まれる場合もある。Sylvianは、その選択と構成を作曲として扱っていた。

    2009年にはDai Fujikura (藤倉大)と、サウンド・インスタレーション『When We Return You Won’t Recognise Us』も制作している。グラン・カナリアを訪れ、土地やそこに暮らす人々を調査し、背景となる文章や参照資料を演奏家へ渡す。一定の条件のもとで複数の即興を録音し、Sylvianが素材を選び、編集して空間作品として構成した。

    2011年、本人はこの作品を、『Manafon』のセッションで学んだ方法をさらに進めたものとして説明している。録音後の編集に加えて、演奏家へ何を伝え、どのような条件で音を生んでもらうかという段階にも、制作への関与が広がっている。

    声と、他者の言葉

    『Manafon』以降の活動では、他者の言葉や声を受け取る仕事も目を引く。

    2013年の「Do You Know Me Now?」は、Phil Collins (フィル・コリンズ) によるプロジェクトから生まれた。ケルンのホームレス支援施設に設置された電話で、利用者本人の同意を得て匿名で録音された会話が複数の音楽家へ渡され、Sylvianもその一つを受け取った。他人の声を聴くことが、曲を作る出発点になっている。

    2014年の『There’s a Light That Enters Houses With No Other House in Sight』では、詩人Franz Wright (フランツ・ライト) の朗読が作品の中心に置かれた。Sylvianはその周囲にChristian Fennesz、John Tilbury、大友良英、中村としまるらの音を配置し、約一時間の作品へまとめている。

    Sylvian自身の声にも、さまざまな役割があった。2012年の『Uncommon Deities』では詩を読み、2017年の坂本龍一『async』ではArseny Tarkovsky、同年の『There Is No Love』ではBernard-Marie Koltès (ベルナール=マリー・コルテス) の言葉を扱った。その後には、日本の辞世の句の英訳を読む『Upon This Fleeting Dream』、2024年にはHildur Guðnadóttir (ヒドゥル・グドナドッティル) と取り組んだEmily Dickinson (エミリー・ディキンソン) の詩もある。

    自作の詞を歌うことに加え、他人の言葉を自分の声で伝えること、他人の声を中心に作品を構成すること。声との関わり方は、一つの形にとどまっていない。

    『There Is No Love』には、今回の新作にも通じる時間の重なりがある。2006年にサリーで録音されたベルとバスドラム、2012年のモントリオールでの中村としまる、2014年のロサンゼルスでのSylvianの声、2017年のロンドンでの演奏。Mark Wastell (マーク・ヴァステル) の構成によって、異なる年と場所の録音が一つの作品に集められていた。

    ベルリン

    今回の参加者を追うと、2010年代半ばからのベルリンの即興音楽シーンが浮かび上がってくる。

    2015年1月25日、Biliana Voutchkova (ビリアナ・ヴチコヴァ) 、Michael Thieke (ミヒャエル・ティーケ) 、Roy Carroll (ロイ・キャロル) は、ベルリンのStudio 8で『As Found』を録音した。Voutchkovaはヴァイオリン、Thiekeはクラリネット、Carrollはエレクトロアコースティック・メディア。そして、このアルバムの写真とアートワークを担当したのがDavid Sylvianだった。

    作品紹介では、音色、調律、心理音響現象が主題として挙げられ、アコースティックとエレクトリカル、連続と非連続、統一と分離の間を移動する音楽として説明されている。その三人が、今回の新作にも揃って参加している。

    2016年には、VoutchkovaとThiekeが米国ツアーで『Blurred Music』を録音した。事前に録音された二人自身の演奏を再生し、その過去の演奏へ現在の二人が重なっていく。録音と生演奏の時間差を、演奏の中へ取り込む試みだった。

    2018年、この録音を世に出すために動いた人物の一人がSylvianである。Yuko Zama (座間夕子) 本人の証言によれば、Sylvianから三公演分の録音をリリースできないかと提案されたことが、Zama自身のレーベルelsewhere設立へ向かうきっかけの一つになった。Sylvianは同作をZamaと共同プロデュースし、アートワークも担当している。

    今回の共演に先立って、彼はすでにその演奏に耳を傾け、作品を世に届ける側にも回っていた。参加者の名前の背後には、そうした関係がある。

    音の出所が分からなくなる

    2021年、Miako Klein (ミアコ・クライン) 、Magda Mayas (マグダ・マヤス) 、Biliana VoutchkovaによるJane in Etherが、『Spoken / Unspoken』を発表した。

    Sylvianはこの作品に文章を寄せ、三人全員とさまざまな形で仕事をし、その演奏を見てきたことを記している。そこで言葉にしているのが、音の出所が曖昧になる感覚だった。空気、木、弦、声が混ざり、慣れていない聴き手には、何がどの音を鳴らしているのか分からなくなる。

    今回の新作には、この三人のうちMiako KleinとBiliana Voutchkovaが参加する。

    新作を聴いたPauline Nadrignyも、声、ヴァイオリン、クラリネット、リコーダーの息、音の加工の境界が判別しにくくなる瞬間を記述している。別々の作品について書かれた文章だが、音源を簡単には特定できない響きへの関心が重なる。

    Jane in Etherへの文章は、今回の参加者との接点であると同時に、当時のSylvianがどのような音に耳を向けていたのかを知る手がかりにもなる。

    ビクトリア

    Jamie Drouin (ジェイミー・ドルーイン) とLance Austin Olsen (ランス・オースティン・オルセン) も、新作以前からSylvianとの交流が続いている。

    2022年、三人は『Shadow Worlds』という六枚組の版画作品を共同制作した。それぞれが二作品ずつを制作する一方、個々の版画には誰の作品かを示す作者名を置かなかった。署名やエディション情報は別にまとめられ、見る側はまず、作者との対応を示されないまま六作品に向き合うことになる。

    2023年にSamadhisound期をまとめた10CDボックス『Do You Know Me Now?』では、複数のCDスリーブにOlsenの作品が使われている。

    今回の新作でDrouinが担当するのは、アンプリファイド・オブジェクト、声、ポケットラジオ、ノートパソコン。Olsenはアンプリファイド・オブジェクト、トレーナー・アコースティック・ギター、フィールド・レコーディングを担当する。録音場所にはカナダのビクトリア、エンジニアにはDrouin自身の名前がある。

    視覚作品をともに作り、アルバムの装丁にも関わってきた二人が、今度は音を提供する。新作のクレジットには、媒体をまたいで続いてきた交流も刻まれている。

    ブエノスアイレス

    Sergio Merce (セルジオ・メルセ) との関係にも、長い時間が見えてくる。

    ブエノスアイレスを拠点に活動し、自ら改造したマイクロトナル・サクソフォンを使う音楽家。新作ではマイクロトナル・サクソフォンとアナログシンセを担当し、録音場所にはブエノスアイレス近郊メルロのCayendoencruz Studio、エンジニアにはMerce自身の名前が記されている。

    Sylvianとの関係は、少なくとも2017年まで遡れる。同年12月、メキシコの実験音楽イベントUMBRALをめぐる現地インタビューで、Merceは「David Sylvianと録音している」人物として紹介されていた。

    その後、Merceは2024年8月から2025年2月にかけて、Cayendo en Cruz Studioで自身の『Archipiélago』を録音する。マスタリングを担当したのはSylvianだった。

    2017年に言及された録音と今回の新作との対応は、この記録だけでは確定できない。ただ、Sylvianのために録音する関係と、Merce自身の作品をSylvianが仕上げる関係の両方が確認できる。一度の共演に収まらない往来が、ここにもある。

    他のミュージシャンのアルバムを制作

    新作発表の前年、2025年にも、Sylvianは他の音楽家の作品へ深く関わっていた。

    Melaine Dalibert (メレーヌ・ダリベール) との『Vermilion Hours』では、エレクトロニクスを担当。さらにLucrecia Dalt (ルクレシア・ダルト) の『A Danger to Ourselves』では、Daltと共同でアルバムをプロデュースし、全編をミックスした。アートディレクションを担い、ギターを演奏し、「cosa rara」では歌詞も共作している。

    演奏や作詞から、音の仕上げ、視覚面まで。その担当範囲からは、一枚のアルバム全体に関わる仕事だったことが分かる。

    『A Danger to Ourselves』のマスタリングを担当したHeba Kadryは、『The Distance Between the Killer and the Killing』にも同じ役割で参加している。新作へ至る直前にも、こうした制作上の接点があった。

    録音はいつの音なのか

    今回の公式エッセイとバイオグラフィを書いたPauline Nadrignyは、哲学、美学、現代音楽、サウンドアート、聴取などを研究し、自身も音楽を作る人物だ。2024年にはCNRSブロンズメダルを受賞している。

    2025年にはJocelyn Benoist (ジョスラン・ブノア) とともに、「Réalités de l’enregistrement――録音の諸現実」という学術誌特集を企画した。録音を現実の痕跡として捉えるのか、録音そのものを新たな存在として考えるのか。そこで扱われている問いは、今回の作品を考えるうえでも興味深い。

    録音には、音が鳴った時の場所と時間が残る。しかし、その音を別の録音と組み合わせれば、演奏された時点にはなかった関係が生まれる。新作についてのNadrignyの説明では、2012年のテイクから2025年に加わった演奏家の音までが、一つの作品を構成している。

    彼女はその状態を、「The montage itself stands in for a subject.」と表現した。モンタージュそのものが主体の位置へ立つ、という読みだ。

    Nadrignyによるこの読みは、Holger Czukayとの仕事や「Anomaly at Taw Head」まで遡ると、Sylvianの具体的な制作方法とも接してくる。

    誰がどの音を演奏したかに加えて、その音を誰が聴き、何と組み合わせ、どこに置いたか。私には、新作の「Composed by David Sylvian」というクレジットを考えるための、一つの手がかりに思える。

    RyuichiとHolger、残された音

    「In memory of Ryuichi and Holger.」

    ここまでの制作史をたどってから、この献辞を読み直す。坂本龍一との仕事には、Sylvianが再び言葉を書き始め、ソロ作品へ進んでいった時間がある。Holger Czukayとの仕事には、即興から得た録音を編集し、作品へ変えていく経験がある。

    今回のクレジットには、Ryuichi Sakamoto―piano、そしてDavid Sylvian―radical editingと記されている。二人との関係をこの担当表記だけに集約することはできない。それでも、坂本の演奏と、Holgerとの仕事から広がった制作方法が、一枚の中で交差しているように私には見える。

    「Forbidden Colours」について書いた時、強く印象に残ったのは、坂本から渡された音楽をきっかけに、Sylvianの言葉が再び動き始めたことだった。

    今回使われる坂本のピアノについて、Nadrignyは「13年前」の録音と記している。かつて演奏された音をSylvianが受け取り、別の年、別の場所で録られた音とともに、新しい作品へ組み込んでいる。

    1983年には、坂本の音楽にSylvianが言葉を返した。今回は、残されていた坂本の音に、編集と構成を通じて応答する。そのように考えると、このピアノもまた、二人の間で長く続いてきた音楽の交換の一部として聴こえてくる。

    David Sylvianはどこにいたのか

    公式バイオグラフィは、『The Distance Between the Killer and the Killing』について「sounds nothing like a return」と記している。

    ここまで活動をたどると、その表現が腑に落ちる。

    Sylvianはベルリンの音楽家たちの演奏を聴き、録音を世に出すために働きかけていた。ビクトリアのアーティストたちと版画を作り、ブエノスアイレスの音楽家の作品をマスタリングしていた。詩を読み、他者の声を作品の中心へ置き、別のアーティストのアルバムをプロデュースし、ミックスしていた。

    Sylvian名義の大きな作品が途切れていた時期にも、演奏、編集、写真、装丁、出版への働きかけを通じて、制作との接点は続いていた。その時々で役割を変えながら、彼はさまざまな作品に関わっていた。

    新作のクレジットによって、そうした仕事のいくつかがつながって見える。そこに並ぶのは、長い時間をかけて交流してきた人々の名前であり、各地で残された録音である。

    46分の中で、過去の演奏がどのように扱われ、どんな関係を結び、一つの構成になっているのか。「Composed by David Sylvian」という一行を考える時、その背後にはこうした時間がある。

    新作へ至る道は、各地の録音や、他者の作品に記された小さなクレジットの中にも続いていた。

    David Sylvianは、そこにいた。

    関連リンク

    参考資料

    David Sylvian Official Website『The Distance Between the Killer and the Killing』Product / Credits / Essay / Biography
    David Sylvian「Blonde on Blonde」NME, 1986
    David Sylvian「The Loner Emerges」Musician, 1988
    David Sylvian Fourth Door Review Q&A, 2004
    David Sylvian「The Invention of Solitude」The Wire, 2009
    David Sylvian「To Blow the Heart Wide Open」2010
    David Sylvian「Quotes on Died in the Wool」2011
    David Sylvian「David Sylvian’s Guide to the Work of David Sylvian」2012
    David Sylvian interview, The Quietus, 2012
    David Sylvian interview, Rumore, 2023
    Ryuichi Sakamoto & David Sylvian「Bamboo Houses / Bamboo Music」1982
    Ryuichi Sakamoto & David Sylvian「Forbidden Colours」1983
    David Sylvian『Brilliant Trees』1984
    David Sylvian & Holger Czukay『Plight & Premonition』1988
    David Sylvian & Holger Czukay『Flux + Mutability』1989
    Rain Tree Crow『Rain Tree Crow』1991
    Ryuichi Sakamoto『Heartbeat』1992
    N.M.L.「Zero Landmine」2001
    Ryuichi Sakamoto + David Sylvian「World Citizen」2003
    David Sylvian『Manafon』2009
    David Sylvian / Dai Fujikura『When We Return You Won’t Recognise Us』2009
    David Sylvian『Died in the Wool』2011
    David Sylvian「Do You Know Me Now?」2013
    David Sylvian『There’s a Light That Enters Houses With No Other House in Sight』2014
    Biliana Voutchkova / Michael Thieke / Roy Carroll『As Found』
    Biliana Voutchkova / Michael Thieke『Blurred Music』
    Rhodri Davies / David Sylvian / Mark Wastell『There Is No Love』2017
    Ryuichi Sakamoto『async』2017
    Jane in Ether『Spoken / Unspoken』
    David Sylvian / Jamie Drouin / Lance Austin Olsen『Shadow Worlds』
    Sergio Merce『Archipiélago』
    Melaine Dalibert & David Sylvian『Vermilion Hours』
    Lucrecia Dalt『A Danger to Ourselves』
    Pauline Nadrigny / Université Paris 1 Panthéon-Sorbonne / CNRS
    Nouvelle Revue d’Esthétique「Réalités de l’enregistrement」

     
     

    Naja

     
     
    Massive Attackを中心に、長く聴いてきた音楽を、人や制作背景、その周囲の文化まで辿って書いています。 Management/Consulting/Design/Photo/Music/Sculpture

    あなたへのおすすめ