
駅のホームで、昔の自分とすれ違った
夜8時のホームは、少し空いていた。
反対側のホームに、
その人は立っていた。
黒いリュック。
少し大きすぎる上着。
片方だけ、
ほどけかけた靴ひも。
スマホを見る。
閉じる。
また開く。
その手つきを、
私は知っていた。
ああ。
昔の私だ。
顔はよく見えない。
それでも、そう思った。
電車を待っている。
昔の私は、
よくそうしていた。
反対側のホームに、
電車が入ってきた。
風が先に来る。
上着が揺れる。
その人が顔を上げる。
私は、
声をかけようとした。
やめた。
電車のドアが開く。
人が降りる。
人が乗る。
その人の姿が、
人の肩に隠れる。
また見える。
電車が動く。
もう、見えない。
最後の車両が過ぎる。
反対側のホームには、
もう誰もいない。
私は足元を見る。
黄色い線。
靴の先。
ほどけていない靴ひも。
電車が来るまで、
あと3分。
昔の自分に会ったら、
何か言えると思っていた。
何も言えなかった。
ただ、
見ていた。
こちら側にも、
電車が入ってくる。
ドアが開く。
私は乗り込む。
足元を見る。
靴ひもは、
ほどけていなかった。
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