
駅弁文化 旅のお供が名物に
列車に乗ると、なぜか駅弁が食べたくなる。


これとバラ売りの土産お菓子をいくつか見繕って車内で食べる、というのも良い
新幹線や特急で。車内で弁当を開き、窓の外を流れていく景色を眺めながら食べる。
駅弁には、普段の弁当とは違う楽しさがあります。

駅弁の始まり
元々、駅弁は長距離移を移動する利用者のための食事でした。
日本で鉄道が開業したのは1872年。新橋と横浜を結ぶ区間から始まった鉄道は、その後急速に路線を延ばしていきます。
列車で長距離を移動する人が増えれば当然、途中で食事を取る必要も生まれます。
そこで駅や駅周辺では、乗客に弁当を販売する商売が始まりました。
駅弁の発祥については諸説ありますが、現在もっとも広く知られているのは1885年に宇都宮駅で販売された弁当です。
※ただし、他の駅でも同時期に弁当が販売されていたという説もあります。
宇都宮駅で販売されたのは、ごま塩をまぶしたおにぎり二個とたくあん二切れ。

竹の皮に包まれ、価格は5銭だったとされています。
現在の駅弁を知っていると簡素に感じますが、考えてみればそれは当然。
鉄道がまだ新しい時代。駅弁に求められていたのは、列車の中で食べやすく持ち運びやすく、短い停車時間でも買えることでした。
昔の駅では、「立売」と呼ばれる販売方法が盛んでした。
列車がホームに到着すると駅弁業者が弁当を抱えて立ち、乗客に声をかけて販売する。
停車時間の短い列車では、乗客が窓から駅弁を買うこともありました。

発展する駅弁 そして停滞
駅弁は鉄道網の拡大とともに、各地へ広がっていきました。そして明治時代の終わり頃になると、駅弁には大きな変化が現れます。
鯛、鮎、あなご、牛肉など各地の名物を弁当に詰めた、その土地の食材を使った弁当が登場するようになりました。
これによって駅弁は、空腹を満たすための食事から「その土地を味わうもの」へ変わっていきました。
駅弁なら、列車の中でその土地の味を食べられる。駅弁は、地域名物のアピールをする場ともなりました。
この時代には、駅弁の「掛け紙」も発達しました。
掛け紙には弁当の名前や価格だけでなく、地域の名所や観光地などが描かれることもありました。
駅弁を買えば、その土地の風景まで持ち帰ることができる。食事と観光が結びついていきました。
ちょっとした小話ですが、先日の記事内で昔は並弁当とコーヒー牛乳が同じ20銭だったというのに触れましたので、もう少し詳しく。
大正~昭和初期。駅弁は並と上で格が分かれていました。
時期にもよりますが並弁当は20銭、上弁当や幕の内弁当は30~40銭ほど。上弁当のおかずは10品前後、並弁当は5〜8品と品数にも差がありました。
上弁当は鳥か獣肉、魚肉、野菜、漬物などを一通り揃え、並弁当はそこから品目を絞った簡略版。
揚げ物が入らない以外は、今の幕の内弁当と比べても遜色のない内容だったといいます。
どの駅でも、弁当の値は大体この幅に収まっていたようです。

上弁当の方が売れていたとか
色々と理由があったのですが、当時の人にも”せっかくだから”という感覚があったのも一因と考察されています
しかし、戦争が始まると食料事情は悪化します。この間、駅弁文化は後退しました。
米や肉、魚などの食材が不足し、駅弁は質素なものになっていきました。
戦時中には米の不足を補うため、ジャガイモなどを使った弁当も登場しています。
戦後しばらくの期間もまた食糧事情が厳しく、駅弁は豪華な料理とはほど遠いものでした。
しかしそれでも、ダウングレードさせてでも鉄道移動に駅弁は必要なものでした。
再出発
やがて経済が復興し旅行をする人が増えると、駅弁も再び変化していきます。
1950年代から1960年代にかけては、地域の食材や料理を取り入れた駅弁が再び増えていきます。

1964年には東海道新幹線が開業します。新幹線網が全国へ広がるにつれて、駅弁はさらに多くの人に知られるようになりました。
この頃からある弁当としては、だるま弁当やチキン弁当が有名です。
ここで駅弁にはもう一つの転機が訪れます。それが百貨店の駅弁大会でした。
全国の駅弁を一つの会場に集め、遠くの土地まで行かなくても各地の駅弁を買える。
現在では当たり前の光景ですが、これは駅弁を「旅先の名物」から「生活圏で味わえる体験」に変えました。
代表的なのが、1966年に始まった京王百貨店新宿店の「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」です。

いかめしはあまりの人気から2021年に殿堂入りとなり、ランキングから外されました。

もち米とザラメが美味さの秘訣
駅弁としての発祥は函館ではなく森町

鰊みがき弁当
50年間にわたって1位を守り続けた駅弁がランキングから外れると、顔ぶれも変わります。


峠の釜めし
昔から親しまれてきた押し寿司や釜めしに加え、牛肉、蟹、うに、ステーキなど現在の駅弁では「豪華な食事」が目立ちます。

また現在では、駅弁そのものを目的に旅をする人もいます。
ただし、駅弁の本質は変わっていません。
旅の途中で食べること。土地の味を知ること。そして弁当もまた、旅の思い出の一つだということ。

140年ほどの間に駅弁は胡麻おにぎりという質素なものから、牛肉どまん中のような豪華なものへと姿を変えました。
しかし形が変わっても、列車に乗って弁当を開くという行為はずっと旅の楽しみの一つであり続けてきました。
