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第2章 #64 アジアにおいて人間は山に喩えられ、日本とヨーロッパにおいては山岳に喩えられる

    #64  If we make use of an expression dear to Nietzsche,  we might say  that in Asia, to speak of humanity is to speak of its plains;  in Japan as in Europe, one represents it above all by its mountains."


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    私の訳:我々がニーチェが好んだ表現を用いるならば、我々ならアジアにおいて人間について語ることはその平原を語ることである、と。そしてヨーロッパにおいてと同様に日本において人はとりわけ人間を山嶽によって表現する、と言うであろう

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    dear to について

    英文の中の dear to は、「~にとって愛着のある」「~にお気に入りの」「~がよく使う」という意味の表現です。

    この文脈では、"an expression dear to Nietzsche" で「ニーチェがお気に入りの(好んで使った)表現」という意味になります。

    詳しく分解すると以下のようになります。

    • dear:ここでは「親愛な」や「大切な」という意味から派生して、主語にとって「お気に入りである」「深く結びついている」というニュアンスを持っています。

    • to [人]:「~にとって」

    つまり、全体として「ニーチェが好んだ表現を借りるなら、」というニュアンスで使われています。


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    ニーチェが人間を山に例えたり、平原に喩えたりするのはどのような意図があるのか

    英文は、実は哲学者ニーチェ自身の言葉ではなく、新渡戸稲造が1900年に発表した名著『武士道』(原題:Bushido: The Soul of Japan)のなかで、フランスの歴史家ラ・マズリエール(M. de la Mazelière)の言葉を引用(あるいはその解釈をニーチェの表現を借りて換骨奪胎)したものです。

    この一節で言われている「平原」と「山」の対比は、「個人の独自性(個性・独立心)の有無」を象徴しています。

    なぜこのような表現が使われ、どういう意味を持っているのか、その背景をわかりやすく解説します。


    1. 「平原」と「山」が象徴するもの
     
    ニーチェは好んで「高み」や「山(高山)」という言葉を哲学的なメタファーとして使いました。ニーチェにとって「山」とは、大衆の群れから離れ、自らの足で高くそびえ立つ「強靭な個人」「独立した精神(超人)」の象徴です。一方で「平原(平地)」は、起伏がなく均一な「大衆(群れ)」を意味します。 [1, 2]

    新渡戸稲造(およびラ・マズリエール)はこのニーチェ的な比喩を用いて、アジア大陸と日本・ヨーロッパの「人間性の表れ方」を比較しました。

    • アジア(主にインドや中国の大陸部)=「平原」
      広大な平原のように、人間が「均一な集団」として捉えられやすい傾向を指します。個々の人間の違いは、エネルギーや知性の「程度の差」にすぎず、没個性的な均一性が目立つという意味です。 [1]

    • 日本とヨーロッパ=「山」
      山々がそれぞれ異なる形で高くそびえ立つように、「個人のキャラクターの独創性(オリジナルな性格)」や「際立った独立心」によって人間性が代表されるという意味です。 [1]


    2. なぜ「日本」と「ヨーロッパ」が並べられているのか?
     
    新渡戸稲造がこの言葉を引用した最大の目的は、「日本人は決して従順で没個性的な東洋の民ではなく、ヨーロッパ人と同じように、豊かな主体性と強烈な個性を持った民族である」と西欧社会にアピールするためでした。

     新渡戸は『武士道』の中で、日本の封建制度や武士の精神構造が、ヨーロッパの中世騎士道や西欧哲学といかに多くの共通点を持っているかを熱弁しています。武士の一人ひとりが「名誉」や「己の信念(義)」のために命をかける姿は、まさに他者に流されない「独立した山」のような存在です。

    まとめ
     
    つまり、この言葉の意図は以下の通りです。

    「アジア大陸の文明では、人間は平原のように平坦で均一な集団(群れ)として語られがちである。しかし、日本やヨーロッパにおいては、人間はそれぞれが独立してそびえ立つ『山』のような強い個性とオリジナリティによって代表されるのだ」

    新渡戸稲造は、ニーチェの「高い山に登り、大衆から自立せよ」という思想的ニュアンスを巧みに借りて、日本の武士階級に見られる『個の強さ』と『精神の気高さ』をヨーロッパの人々に直感的に理解させようとしたのです。

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