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〖週末特別コラム〗AIは半年で変わる。でも、人事制度はなぜ変わらないのか

    皆さん、こんにちは。

    AIを使って仕事をしていると、最近、変化の速さを強く感じます。

    半年前には、人が時間をかけて調べ、整理し、資料にまとめていた仕事を、今ではAIがかなりのところまで支援できるようになりました。

    もちろん、「半年」という数字そのものに厳密な意味があるわけではありません。

    言いたいのは、それくらいAIの能力変化が速く感じられる、ということです。

    では、そのAIを使う会社の側は、同じ速さで変わっているでしょうか。

    仕事のやり方は変わった。
    AIに任せられる範囲も広がった。
    人に求められる役割も少しずつ変わっている。

    ところが、組織図を見ると、去年とほとんど変わっていない。

    職務記述書も同じ。
    評価項目も同じ。
    決裁権限も同じ。
    役職に求められる仕事も、以前の前提を引きずっている。

    ここに私は、

    AIには「技術の時計」があり、会社には「制度の時計」がある。この二つは、どうも同じ速さでは進んでいない。

    という違和感があります。

    今回は、この二つの時計の速度差について考えてみます。

    「技術の時計」と「制度の時計」は、同じ速さでは進まない

    AIが変えるのは、単なる作業時間だけではありません。

    例えば、ある管理職の仕事を考えてみます。

    部下から情報を集める。

    数字を集計する。

    報告資料を作る。

    内容を確認する。

    承認する。

    必要な指示を出す。

    これまで、この一連の流れを「管理職の仕事」として捉えてきた会社は少なくないと思います。

    ところがAIが入ると、この前半部分が大きく変わります。

    情報を集める。

    数字を整理する。

    過去との違いを見つける。

    異常値を抽出する。

    報告書のたたき台を作る。

    選択肢まで整理する。

    こうした仕事をAIが支援するようになれば、人に求められる役割も変わります。

    単純に資料を作ることより、

    「何を問うのか」

    「どの例外を重視するのか」

    「複数の利害をどう調整するのか」

    「最終的な判断と責任を誰が引き受けるのか」

    といった仕事の比重が大きくなるはずです。

    つまり、変化は、

    作業 → 役割 → 判断 → 責任 → 評価

    へと連鎖していきます。

    AIが作業を変えれば、本来は職務も変わる。

    職務が変われば、評価も変わる。

    判断の場所が変われば、権限も変わる。

    ところが現実には、ここが同じ速度では動きません。

    昨日まで必要だった仕事が減っても、職務定義は残る。

    判断材料をAIが作るようになっても、承認フローは残る。

    求められる能力が変わっても、評価シートは残る。

    結果として、

    新しい仕事をしてほしいのに、古い仕事を評価している。

    という状態が生まれます。

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    変えた方がよいと分かっていても、なぜ変えないのか

    では、仕事と制度がずれていることに気づけば、会社は制度を変えるのでしょうか。

    必ずしも、そうはなりません。

    新しい制度を提案すると、

    「なぜ変える必要があるのか」
    「本当に効果があるのか」
    「現場が混乱しないか」
    「問題が起きたら誰が責任を取るのか」

    と、多くの説明を求められます。

    これは当然です。制度変更には影響があるからです。

    ただ、不思議なのは逆の場合です。

    「なぜ、この制度を今も使い続けるのか」
    「なぜ、この承認段階が今も必要なのか」
    「なぜ、この評価項目を残しているのか」

    という問いは、変更案ほど厳しく問われないことがあります。

    現在の制度は、そこにあるというだけで基準になりやすい。

    変える側には理由が必要なのに、変えない側には同じ強さで理由を求めない。

    こうした傾向は、行動経済学でいう現状維持バイアスとも重なります。

    William SamuelsonとRichard Zeckhauserは1988年の研究で、人は意思決定において、現在の状態を維持する選択肢を選びやすいことを示しました。

    https://rzeckhauser.scholars.harvard.edu/publications/status-quo-bias-decision-making

    しかし、「変えない」というのも一つの意思決定です。

    AIによって仕事の前提が変わっているのであれば、

    「なぜ変えるのか」だけではなく、「なぜ変えないのか」も同じように問う必要がある。

    私は、ここがAI時代の制度設計では重要になると思っています。

    会社にとっての「再設計」は、誰かにとっての「喪失」になる

    ただ、現状維持バイアスだけでは、制度が変わりにくい理由を十分には説明できません。

    もう一つ考えたいのが、損失回避です。

    例えば先ほどの管理職の仕事で考えてみます。

    AIが起案内容を整理する。

    過去事例と比較する。

    リスク項目をチェックする。

    判断材料を提示する。

    ここまでできるようになったとします。

    すると当然、

    「従来と同じ承認プロセスが本当に必要なのか」

    という問いが出てきます。

    もちろん、人間の承認をなくせばよい、という話ではありません。

    AIには引き受けられない責任があります。

    例外を判断する。

    複数部門の利害を調整する。

    経営上の優先順位を決める。

    最終的な責任を引き受ける。

    そうした意味を持つ承認であれば、人間が担う価値は残ります。

    問題は、判断や責任がほとんど伴わないのに、

    「以前から課長が承認しているから」

    という理由だけで工程が残っている場合です。

    ここを変えようとすると、制度上は「承認段階を一つ減らす」というだけでも、本人にとってはそれ以上の意味を持つことがあります。

    これまで持っていた権限が減る。

    担当していた仕事がなくなる。

    部下の人数が減る。

    長年培ってきた専門知識の希少性が下がる。

    自分が高く評価されてきた評価基準が変わる。

    つまり、

    会社にとっての「再設計」は、誰かにとっての「喪失」かもしれない。

    会社全体から見れば効率化でも、個人から見れば、現在持っている何かを失う変更になることがあります。

    ここに損失回避が重なります。

    さらに、新しい制度には不確実性があります。

    今の制度には問題がある。

    でも、自分がどう動けば評価されるかは分かっている。

    新しい制度は合理的かもしれない。

    でも、自分がそこでどう評価されるかは分からない。

    人にとっては、

    「問題はあるが分かっている状態」

    と、

    「良くなるかもしれないが、結果が分からない状態」

    では、前者の方が心理的に選びやすいことがあります。

    言い換えれば、「既知の不都合」と「未知の改善」を比べたとき、人は前者を選びやすいことがある。

    だから制度変更は難しい。

    ただし、ここで注意したいことがあります。

    会社の制度が変わらない理由を、すべて認知バイアスで説明するのは適切ではありません。

    人事制度を変えれば、給与体系との整合が必要になります。

    労務や法務の確認も必要です。

    HRシステムを修正する必要があるかもしれません。

    教育も必要です。

    労使関係への配慮も必要です。

    制度変更には、本当にコストがかかります。

    したがって、合理的な変更コストが存在し、その上に現状維持バイアスや損失回避といった心理的摩擦が重なる。と考える方が現実に近いでしょう。

    そして厄介なのは、制度変更を先送りすると、その間にも仕事は変わり続けることです。

    最初は小さなズレだったものが、数年後には大きなズレになる。

    すると、次に変更するときに失うものも、変更範囲も大きくなります。

    つまり、

    変えないほど、次はもっと変えにくくなる。

    という循環が生まれる可能性があります。

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    「正しい制度を一度作る」という発想の限界

    これまで企業の制度改革は、どこかで「完成」を前提にしていたように思います。

    現状を分析する。
    新しい制度を設計する。
    導入する。
    定着させる。

    そして、しばらくその制度を使う。

    しかし、AIそのものが継続的に変化するのであれば、このやり方では追いつかなくなる可能性があります。

    制度を設計したときには正しかった人とAIの役割分担が、半年後、1年後にも同じとは限らないからです。

    だとすれば、必要なのは「新しい制度を一度作ること」だけではありません。

    仕事の流れ。
    誰が判断するのか。
    それぞれの役割。
    人をどこへ配置するのか。

    こうしたものを、AIや事業環境の変化に合わせて繰り返し見直す必要があります。

    2026年9月、Gartnerも同じ問題意識から、こうした継続的な仕事の再設計を「Dynamic Redesign」と表現しています。

    一度の大規模な組織改革ではなく、仕事を見直し続けること自体を、日常的な組織能力にするという考え方です。

    またGartnerは、AIによって仕事が変化する速度と、組織が変化する速度の間にずれが生じていることも指摘しています。

    https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-15-09-gartner-predicts-by-2028-organizations-that-establish-continous-work-redesign-as-a-core-capability-will-be-twice-as-likely-to-sustain-ai-driven-work-transformation

    これは、ここまで考えてきた「二つの時計」と重なります。

    技術の時計が止まらないのであれば、

    「次にどんな制度を完成させればよいか」

    だけを考えるのでは足りません。

    むしろ、

    「正しい制度を作る」ことより、「制度を正し続けられる仕組み」を作る。

    こちらの方が重要になってくるのではないでしょうか。

    AIを「使える会社」から、変化に合わせて組み直せる会社へ

    AIを組織として使うには、準備が必要です。

    人がいる。
    データがある。
    業務プロセスが整理されている。
    AIをどこで使うのかが決まっている。
    権限や責任も整理されている。

    私はこれまで、こうした状態を「AI-Ready」と表現してきました。

    今あるAIを、組織として使える状態です。

    ただ、そこまで準備すれば終わりなのかというと、そうではないと思っています。

    なぜなら、AIそのものが変わるからです。

    今日のAIを前提として決めた仕事の分担が、半年後にも同じとは限りません。

    今は人が確認している仕事を、次のAIなら任せられるかもしれない。

    反対に、AIに任せてみた結果、やはり人が判断した方がよい仕事も見えてくるかもしれません。

    そのたびに、

    人とAIの役割。
    業務の流れ。
    判断する人。
    権限。
    評価。

    を見直せる必要があります。

    以前、私はこの状態を「AI-Evolving」と表現しました。

    ただ、大切なのは名前ではありません。

    AIが変わったとき、仕事のやり方や人の役割まで、もう一度組み直せるか。

    ということです。

    AIを使える状態を一度つくって終わるのではなく、変化するたびに、その状態を作り直していく。

    そこまでできて初めて、AIの変化へ組織がついていけるのだと思います。

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    そして、このAI-Evolvingを実務として回す仕組みの一つが、先ほどのDynamic Redesignだと考えると分かりやすくなります。

    一度AI-Readyになる。

    AIが進化する。

    仕事とのズレが生まれる。

    仕事を再設計する。

    権限や評価を見直す。

    そして、新しいAI-Readyになる。

    そこから、またAIが進化する。

    この循環自体を回せることが重要になります。

    人に「変わってもらう」のではなく、問い直す仕組みを作る

    では、実際の会社ではどうすればよいのでしょうか。

    「変化を恐れない組織文化をつくろう」

    「AI時代には柔軟に変わろう」

    もちろん、そうしたメッセージにも意味はあります。

    ただ、行動経済学の視点から考えると、それだけでは少し心もとないように思います。

    人には現状維持バイアスがある。

    現在持っているものを失うことには抵抗を感じやすい。

    新しい制度には不確実性もある。

    そうであれば、人が自発的に既存制度を手放してくれることだけに期待しない。

    むしろ、

    一定の変化が起きたら、制度を問い直すこと自体を標準にする。

    という設計が必要ではないでしょうか。

    例えば、AIによってある職種の主要業務が大きく変わったとします。

    そのとき、

    「必要なら職務記述書を変更する」

    のではなく、

    職務記述書を見直すことを標準プロセスにする。

    AIを決裁プロセスへ導入したのであれば、

    「今まで通りの承認段階を残す」

    ことを初期設定にするのではなく、

    同じ承認段階が本当に必要なのかを再検討することを標準にする。

    人とAIの役割分担が変わったのであれば、

    業務だけ変更して終わるのではなく、

    評価指標も同時に見直す。

    新しいAIを本番導入したら、

    導入日だけを決めるのではなく、

    次に役割・権限・評価を見直す日も同時に設定する。

    ここでは、「必ず制度を変える」ことをデフォルトにする必要はありません。

    見直した結果、

    「今の承認段階には意味がある」

    「今の評価基準を維持した方がよい」

    という結論になることもあるでしょう。

    大切なのは、

    「変える必要があるか」を定期的に問い直すことを、例外ではなく通常運転にする。

    ことです。

    GartnerがDynamic Redesignで示している4つの対象を、実際の制度へ翻訳すると、次のように整理できます。

    https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2026-15-09-gartner-predicts-by-2028-organizations-that-establish-continous-work-redesign-as-a-core-capability-will-be-twice-as-likely-to-sustain-ai-driven-work-transformation

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    この表で重要なのは、「AIをどこに入れるか」だけを考えていないことです。

    AIを入れた結果、

    何をやめるのか。

    誰の役割を変えるのか。

    誰が判断するのか。

    何を評価するのか。

    まで問い直しています。

    AI導入プロジェクトでは、新しく追加するものには目が向きやすい。

    新しいシステム。

    新しい機能。

    新しいデータ。

    新しいAIの機能。

    新しい自動化の仕組み。

    しかし、本当に難しいのは、

    何をやめるのかを決めること

    なのかもしれません。

    まとめ――AIが変わったら、制度も問い直す

    AIは変わります。

    それによって、仕事のやり方も変わります。

    人が何時間もかけて集めていた情報を、AIが短時間で整理できるようになる。

    これまで人が作っていた報告書のたたき台を、AIが作れるようになる。

    異常値を見つけ、過去と比較し、判断材料まで整理できる範囲も広がっていく。

    そうなれば、人に求められる仕事も変わります。

    資料を作ることより、何を問うのか。
    どの例外を見るのか。
    複数の利害をどう調整するのか。
    最後に誰が判断し、責任を持つのか。

    そうした仕事の比重が大きくなります。

    ところが、仕事が変わっても、制度はそのまま残ることがあります。

    職務記述書は以前のまま。
    承認段階も以前のまま。
    評価項目も以前のまま。
    役職に与えられた権限も以前のまま。

    すると、

    新しい仕事をしてほしいのに、古い仕事を評価している。

    という状態が生まれます。

    制度を変えるのが難しいことには、理由があります。

    新しい制度にはコストもあります。
    給与や人事制度との整合も必要です。
    労務や法務の確認も必要になります。

    そしてもう一つ、制度を変えることは、誰かにとって今まで持っていたものを失うことにもなります。

    承認権限が減る。
    担当していた仕事がなくなる。
    部下の人数が変わる。
    これまで評価されてきた能力の価値が変わる。

    会社にとっては合理的な再設計でも、個人から見れば「喪失」になることがあります。

    だから、「AI時代なのだから柔軟に変わろう」と呼びかけるだけでは足りないのだと思います。

    必要なのは、変化が起きたときに制度を問い直す仕組みです。

    AIによって仕事が大きく変わったら、職務記述書を見直す。

    判断材料をAIが作るようになったら、同じ承認段階が本当に必要なのかを確認する。

    人とAIの役割分担が変わったら、評価項目も見直す。

    新しいAIを導入したら、導入日だけではなく、次に役割・権限・評価を見直す日も決めておく。

    必ず制度を変える必要はありません。

    見直した結果、

    「この承認は必要だ」
    「この評価項目は残した方がよい」

    となることもあるでしょう。

    大切なのは、変えることではなく、今の制度が今の仕事に合っているかを問い直し続けることです。

    AIには「技術の時計」があります。

    会社には「制度の時計」があります。

    二つの時計を完全に同じ速さで動かすことは難しいでしょう。

    それでも、技術の時計だけが先へ進み、制度の時計が何年も止まったままになれば、仕事と制度の間のずれは大きくなります。

    だから、ときどき確認した方がよいのだと思います。

    半年前には必要だった仕事が、今も必要なのか。

    その仕事を前提につくられた承認は、今も必要なのか。

    その仕事を評価する基準も、今のままでよいのか。

    そして、

    昨日まで正しかった仕事、権限、評価、役割を、必要になったときに見直せるか。

    AIそのものの性能を見るのと同じくらい、会社の「制度側の時計」も見ておく。

    AIが変わり続ける時代には、その習慣がこれまで以上に重要になるのではないでしょうか。

    今回はここまでとします。
    最後までお読みいただき、ありがとうございました。

     
     
    製造業の生産管理・SCM、中国事業の実務を起点に、AI・DX、組織、行動科学、歴史などを横断して考察。ニュースや研究の背後にある構造を読み解き、経営と現場の意思決定につながる視点を発信しています。

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