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世界で一番おいしい三角

    小学生の頃、コンビニのおにぎりに憧れていた。
    都会の洗練さを身にまとった、あの機械的な三角に。

    中でも、旨みを抱え込んだツナマヨは極上の味わいで、巻きたてのバリッとした海苔は幸福の象徴だった。

    とはいえ、食べられる機会は、年に数回もない。
    旅行の朝とか、父と出かける遠出のときだけだ。
    母が作るおにぎりの具は梅干しかおかかばかりで、ぼてっと重たく、田舎くさい。ハリ感というアイデンティティを失った海苔が、いつも恨めしかった。

    いつか大人になったら、自由にお金を使って、ツナマヨを好きなだけ買うんだ──

    それはわたしなりの夢であり、ささやかな野望でもあった。あぁ、早く大人になりたい!


    待ち遠しかった「大人」の扉は、思いのほか早く開いた。

    中学生になり、運動部に入ると、土日の練習や試合で弁当が必要になる。相変わらず母の地味な弁当を嫌々持参していたが、うっかり部活の予定を伝え忘れたある土曜日の朝、嬉しいハプニングが起きた。

    「お弁当が間に合わないから、コンビニで買ってって」と、母がわたしにこづかいを握らせたのだ。


    コンビニで……?
    お昼を……買う……?


    「……あー、コンビニね。オッケー」

    ツナマヨチャンスは突然に、である。
    冷静さを装いながらも、頭の中ではファンファーレが鳴り止まない。

    憧れのツナマヨをレジに持って行くときの、足取りの軽さよ。
    立ち寄ったコンビニの監視カメラには、クルクルと踊りながら退店する13歳のわたしの姿が映っていたかもしれない。

    味をしめたわたしは、その後もあの手この手でコンビニ作戦を決行した。
    「体育館は暑いから買ったものの方が安心」とか、「食べる時間が細切れだから個包装の方が都合がいい」とか。その度に母は「そういうもんなの?」と申し訳なさそうにこづかいを渡してくれた。

    自宅から学校まで、コンビニは3軒。もう、目隠して食べたって、どのコンビニのツナマヨかが分かる。わたしはこうして、「大人」になった。


    「ほんとうの大人」になった今、ツナマヨはめったに選ばない。
    手にとるのは、鮭あるいは昆布。あれほど敬遠していた梅やおかかも、しみじみおいしい。母はしたり顔で笑ってるだろうか。「それが母の味ってもんよ」と。


    それでも。
    コンビニの棚のツナマヨを見るたび、今でもあの日のファンファーレの残響が胸の奥でこだまする。

    わたしがはじめて手にした自由の味。
    世界で一番おいしい三角。くすぐったい夢の味。




    #マスクドnote 、大塚ぐみの正解は10番。
    こちらの『世界で一番おいしい三角』でした!

    解説的なものも書いたんですけど、膨大になった上にだいぶ赤裸々に書いちゃったので、興味のある方のみお読みいただければと思います。


     
     
    食や暮らしを入り口に、エッセイを書いています。 子ども×朝ごはん本を出版中。かきたま汁がすき。 本はこちらより▶︎ https://amzn.asia/d/0hJYEvq スキを押すと、今日のラッキーフードが出るよ。

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