
妻がビールを飲まなかった理由に、私は何年もあとで気づいた
現在の妻に会うため、私はベトナムのホーチミンへ行った。
そのとき、ベトナムで初めて飲んだビールがある。
記憶では、たしか333という名前のビールだったと思う。
私はそのビールを飲んでいたが、妻は飲まなかった。
妻は当時、自分はお酒を飲まないというようなことを言っていた。
私はその言葉を聞き、妻はもともとお酒を飲まない人なのだと思っていた。
ただ、その頃の妻は、自分の体に何かしらの変化を感じていたのかもしれない。
妻がよく言っていた言葉がある。
「寝ても寝ても、なんか眠いんだよね」
念のため妊娠検査薬で確かめてみると、妻は妊娠していた。
その後、私たちは国際結婚し、日本で暮らすようになった。
妊娠中の妻は、お腹の赤ちゃんのために、食べ物にも気を配っていた。
何が赤ちゃんの体に良いのか。
妻なりに考え、良いと思ったものを選んで食べるようにしていた。
そして娘が生まれ、何年か経った頃だったと思う。
妻がお酒を飲むようになった。
飲むといっても、頻繁に飲むわけではない。
本当にたまに飲む程度で、私も似たようなものだ。
妻がお酒を飲んでいる姿を見た私は、少し不思議に思った。
「あれ? お酒を飲まないんじゃなかったの?」
妻は、お酒をまったく飲まない人だったわけではない。
そのとき私は、昔、ホーチミンで妻がビールを飲まなかった理由について、改めて考えるようになった。
妻に当時の理由を確認したわけではない。
だから、本当のところは分からない。
ただ、妊娠中に食べ物へ気を配っていた妻の姿や、今でも妻がよく口にする言葉を思い出す。
「子どもには、良いものを与えたい」
そう考える妻だから、妊娠が分かる前から、もしかすると赤ちゃんのことが頭にあったのではないか。
自分の体に起きていた変化を感じ、念のため、お酒を飲まないようにしていたのではないか。
私は今になって、そう思うようになった。
当時の私は、妻がお酒を飲まない姿を見ても、深く考えていなかった。
妻が「飲まない」と言うので、ただそういう人なのだと思っていた。
何年も一緒に暮らし、妻が母親として娘に接する姿を見てきたからこそ、昔の行動の意味が少し分かったような気がする。
私は、このことについて妻に直接「ありがとう」と言ったことはない。
もしかすると、妻自身はもう覚えていないかもしれない。
それでも今、あの頃のことを思い出すと、心の中で、ありがとうと思う。
本当の理由は分からない。それでも、まだ妊娠が確定していなかったあの頃、お酒を飲まずにいてくれて、ありがとう。
私が覚えているのは、自分が飲んだ333というビールだけではない。
その隣で、妻が飲まなかったことも覚えている。
何年も経った今、その記憶が、ありがとうに変わった。
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