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自立って、ひとりでできることだと思っていた。

    新学期のころ。

    朝の支度では、
    一つ終わるたびに声をかけていました。

    「次はこれ」
    「終わったら、こっち」

    まだ教室の流れに慣れていない時期です。

    何を、どの順番でするのか。
    どこに、何を置くのか。

    一緒に確かめながら、
    朝の流れをつくっていきました。

    日を重ねるうちに、
    声をかける前に、いつもの場所を見て動く場面が増えていきました。

    決まった順番があると、
    次にすることが分かる。

    置く場所が決まっていると、
    迷わずに進める。

    その子の場合、
    誰かに言われることよりも、

    毎日変わらない手順や置き場所のほうが、
    頼りになる場面がありました。

    声かけが減っても、支えはなくなっていなかった

    もう一つ、
    印象に残っている変化があります。

    困ったときに、

    「手伝って」

    と自分から伝えられたことです。

    私は長いあいだ、
    自立という言葉を聞くと、

    「人に頼らずにできること」

    を強く思い浮かべていました。

    子どもに対してというより、
    まず自分自身に、

    できることは自分でやらなければ。

    人に頼らないほうがいい。

    そんな思いがかなりありました。

    その見方が広がったのは、
    熊谷晋一郎さんの講演で、
    自立についての話を聞いたときです。

    自立を、
    何にも頼らないことではなく、

    頼れる人や物、仕組みが
    いくつもあることとして考える。

    その話を聞いて、
    自分の中にあった「自立」の幅が広がりました。

    そう考えるようになってから、
    学校で見えるものも少し変わりました。

    手順を頼りにする。

    置き場所を頼りにする。

    困ったら、人を呼ぶ。

    一人で全部をこなしているわけではない。

    いくつもの支えを使いながら、
    自分の毎日を進めている。

    「手伝って」と伝えられた場面も、

    人に頼った場面であると同時に、
    自分で次の手を選んだ場面として
    見えるようになりました。

    声かけが減ったから、
    支えがなくなったわけではありません。

    支えの場所が、

    人の声から、
    手順や置き場所、
    必要なときに頼れる人へと、

    少しずつ広がっていました。

    学校では、
    担任が変わることがあります。

    「あの先生が声をかければできる」

    だけで朝が回っていると、

    人が変わったときに、
    その子の朝も揺らぎやすくなります。

    だから、
    人との関わりを減らすのではなく、

    手順で分かるものは手順へ。

    置き場所で分かるものは置き場所へ。

    そして、
    人が必要なときには人へ。

    支えを一か所に集めすぎないことを
    意識するようになりました。

    もちろん、

    「手伝って」

    と言えなければいけない、
    ということでもありません。

    言葉にできないときに、
    様子を見てくれる人がいることも、

    その人が使える支えの一つです。

    支援には、続けるための手間がある

    ただ、
    支えは置けば終わりではありませんでした。

    手順を分かりやすくするために、
    カードを使ったときのことです。

    最初は、
    朝の支度を一覧にした表を考えました。

    でも一覧だと、

    「今どこを見ればいいか」

    が分かりにくいかもしれない。

    そこで、
    終わったものから一枚ずつ
    裏返していく形にしました。

    使っていくうちに、
    別の様子が見えてきました。

    カードを裏返すことそのものが、
    楽しくなってきたのです。

    楽しめるのは、
    その子なりの使い方でもあります。

    ただ、
    カードの役目は、

    「次を確かめるもの」

    から少しずつずれていきました。

    まだ終わっていないものは裏返さない。

    次を確認するために使う。

    そう伝えることが、
    新しく増えていきました。

    朝の支度とは別に、

    「カードをどう使うか」

    を覚えることが、
    その子に一つ増えていた。

    それを伝え続けることも、
    周りに増えていました。

    そこで、

    そのまま続ける場合と、
    別の支え方に変える場合を見比べました。

    このカードを続けるために、
    その子が覚えること。

    周りが準備し、
    伝え続けること。

    使い方がずれたときに、
    また調整すること。

    そして、
    形を変えれば、

    その子も新しい形に
    慣れ直す必要があります。

    変えることにも、
    負担はあります。

    それでもこのときは、

    カードを裏返すことへの対応を重ねていくより、
    別のシンプルな支え方に変えたほうが、

    本人にも周りにも
    続けやすそうだと考えました。

    手間がかかるから、
    支援を減らしたわけではありません。

    手間がかかっても、
    その人に必要なら続ける支えもあります。

    見ていたのは、

    「どれだけ手間がかかるか」

    だけではなく、

    その手間が、
    本人の生活を進めるために
    使われているかどうかでした。

    続かなかった支援があっても

    支援には、
    続けるための手間があります。

    始めることだけでなく、

    準備すること。

    伝え続けること。

    合っているかを見ること。

    合わなくなったら、
    考え直すこと。

    そこまで含めて、
    毎日の支援なのだと思います。

    これは、
    学校の中だけの話ではない気がしています。

    朝の支度の表。

    持ち物の確認。

    毎朝の声かけ。

    どれも、
    少しでも分かりやすくしようとして
    始めるものです。

    でも、
    一つ始めると、

    それを続ける仕事も
    一緒に始まることがあります。

    表をつくる。

    使えているか見る。

    ずれてきたら、
    また考える。

    そして、その仕事は、
    誰か一人のところに集まりやすい。

    もし、
    以前つくった表が続かなかったとしても。

    決めた方法を
    続けられなかったとしても。

    それだけで、

    「やり方が悪かった」
    「もっと頑張ればよかった」

    とは限らないのだと思います。

    その形を続けるための仕事が、
    今の暮らしには多すぎたのかもしれません。

    形を変えることは、
    支えをやめることとは違います。

    一人でできた数だけでは、測らない

    今の私は、
    自立しているかどうかを、

    一人でできたことの数だけでは
    見なくなりました。

    支えが多いか、
    少ないかでも測っていません。

    どんな支えを使いながら、
    自分の生活を進めているか。

    その支えを、
    本人も周りも、
    毎日の中で続けていけるか。

    その人と暮らしに合う形を、
    必要に応じて探し直せるか。

    自立という言葉を、
    私は以前より
    ずっと広く見るようになりました。


    「支えを変える」ということについて、もう少し具体的に書いた記事です。

     
     
    子どもの見えにくい困りを、理由・見え方・やり方・環境の手がかりに翻訳します。 家庭や学校で抱え込みすぎないように、考えや相談の形を整えるnoteです。 特別支援学校教師/発達障害当事者。AIは、考えを整理する手助けとして使っています。

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