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「好きなものだけ読むのは浅い」と言われましたが、本の入口は一つじゃないと思うんです


    王立図書館の正面に、一枚の紙が貼り出された。
    『魔王殿の図書館改革に、異議あり』

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    「……異議?」
    ちびたぬきは首をかしげた。
    隣で、赤い帽子のタツたぬきが紙をのぞき込む。
    「公開討論じゃと。とうとう図書館改革にも反対派が出たのう」

    十月下旬。
    王都の並木は赤や黄色に染まり、足元には乾いた落ち葉が重なっていた。風が吹くたび、からからと小さな音を立てる。

    公開状を書いたのは、王立学院の学者セドリック。古典研究で知られる、生真面目そうな男だった。



    その日の午後。

    図書館前の広場には、学生や司書、町の人々が集まった。
    セドリックは一冊の本を掲げる。

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    「魔王殿。あなたは『好きなものから読めばいい』と言う。しかし、好きなものだけを読んでいては、自分の外にある世界を知ることができない」

    ざわり、と観衆が揺れた。

    「野球が好きだから野球の本だけ。恋が好きだから恋愛小説だけ。それで本当に、読書と言えるのでしょうか」

    ちびたぬきはすぐには答えなかった。
    やがて、
    「……それ、ちょっと分かる」
    「そこ認めるんか!」

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    だって一理あるんだもん

    タツたぬきの声に、広場から笑いが起きた。
    けれど、ちびたぬきは真面目だった。

    「好きなものしか見なかったら、
    知らない世界に出会えないこともあるよね」
    セドリックがうなずく。

    「では、私の主張を認めるのですね」
    「うーん……ちょっと見てきていい?」
    「は?」



    討論の途中なのに、ちびたぬきは図書館へ走った。
    「また始まったわ」
    タツたぬきも追いかける。

    『野球が好きな人へ』の棚では、少年が選手の伝記を読んでいた。

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    どう見ても昭和のプロ野球の本

    その横には歴史書。
    「それも読むの?」
    「この選手が戦争の時代に生きてたって書いてあったから。どんな時代だったのかなって」

    別の棚では、少女が料理本と旅行記を並べていた。
    「外国のお菓子を作ってみたくて。その国のことも知りたくなったの」
    ちびたぬきの耳が、ぴんと立った。
    広場へ戻る。



    「答えは出ましたか?」
    「うん」
    ちびたぬきは一冊の本を胸に抱えた。

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    「私も、好きな本だけ読めばいいとは思わない。でも最初から『これを読みなさい』って、知らない世界へ押し込まれたら、本そのものが怖くなる人もいるでしょう?」

    そして図書館を指した。
    「だから、好きな扉から入ればいいと思うの。野球から歴史へ、お菓子から外国へ行ってもいい。入口と出口が同じじゃなくてもいいでしょう?」

    タツたぬきが腕を組む。
    「好きは終点じゃのうて、入口いうことじゃな」
    「そう、それ!」

    そのとき、冷たい秋風が広場を抜けた。
    枝いっぱいに残っていた赤い葉が、一斉に舞い上がる。

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    一枚はセドリックの足元へ。
    もう一枚は、風に乗って遠くの噴水まで飛んでいった。

    ちびたぬきはそれを見送った。
    「本も、こんな感じかも」
    「葉っぱが?」
    「最初にいた場所と、全然違うところへ行くでしょう?」

    セドリックはしばらく黙り、やがて笑った。
    「では、『好き』の棚の隣に、あえて違う分野の本を置くのはどうです?」

    ちびたぬきの目が輝く。
    「それ面白そう!」

    「……あ」
    タツたぬきが嫌な予感のする顔をした。



    十分後。
    野球の棚の隣には、歴史、統計、身体、外国文化の本が並んでいた。
    「名前も決めたよ。『好きの、その先へ』!」

    「もう決めたんか」
    しかもセドリックまで、本を運んでいる。

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    いつもありがとうタツたぬき



    帰り道。
    十月下旬の夕暮れは早い。
    赤く染まった並木の向こうで、王都の灯りが一つずつ点き始めていた。

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    「結局、討論相手まで仲間にしたんか」
    「だって、面白い案を持ってたから」
    「お前の話には敵がおらんのう」
    ちびたぬきは首をかしげる。
    「本の話ができる人って、もう仲間じゃない?」



    翌朝。
    王立図書館には、新しい札が増えていた。
    『好きの、その先へ。』

    魔王の図書館改革は、まだ終わりそうにない。


    おしまい


    この話はここから始まりました。

    調子に乗って続編も書きました。

    すっかり面白くなり、第3話も書きました。

    一昨日、第二回読書推進委員会に出席したことから思いついた内容が今回の作品になりました。
    この作品も、また、わかモンさんのプロンプトで作りました。

    すっかりハマってしまいました。ものすごくしっかりしている設定のおかげで、キャラクターも新しく生まれました。セドリックです。

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    ちなみにちびたぬきのキャラクターシートはこれ。

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    タツたぬきはこれです。

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    主人公が一番簡素です。(笑)魔王なのに。
    キャラクターシートを作るのは大切だと、第1話の挿絵を作るときに痛感しました。

    新しいキャラクターができたので、LINEスタンプも作りました。よろしければご利用ください。


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    最後までお読みいただきありがとうございました😊

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    本と生徒に囲まれて過ごす高校教師です。国語を教え、図書主任として図書館を運営しています。野球、読んだ本や日々の発見、たぬき教について語っています。 ラインスタンプやってます。https://store.line.me/stickershop/author/5513231/ja

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