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第8章_1-4 我が人生に一片の悔いなし

    【BGM】

    【第8章】

    1

     付き合い始めて一年が経つ頃、二人の会話の中に「将来」の話が増えてきた。
     最初は、ごく軽いところからだった。
     「今の部署、あと何年くらいおりたい?」「次どんな仕事してみたい?」
     そんなキャリアの話をしているうちに、自然とその先の話——住む場所や、結婚、家族の話——にも触れるようになっていった。

     いつまで職場に隠れて付き合い続けるのか。
     このまま何も言わずに関係を続けるのか、それともどこかで区切りをつけるのか。
     同じ会社・同じ本社だからこそ、いつまでも曖昧にはできない問題だった。

     誰にも気づかれずに付き合い続けることは、理論上はできるかもしれない。
     けれど、飲み会で隣に座る回数が少し多かったり、残業の時間帯が妙に重なったりすれば、敏い人はすぐ勘づく。
     実際、同じフロアで付き合っていることが噂になったカップルの話も、耳に入ってきていた。

     自分の中では、「職場に言う=結婚」だった。
     上司に報告する、親にも話す、周りにも知られる。
     それは、単なる「彼氏・彼女」ではなく、「夫婦としてこの先も一緒にやっていく」と決めることとほぼ同義だと思っていた。

     逆に言えば、「結婚まで考えられない相手なら、職場には言わないほうがいい」とも思っていた。
    適当な気持ちで始めた関係ではないからこそ、中途半端なところで終わらせたくない。
     社内の人間関係を壊したくない気持ちと、その人との関係を大事にしたい気持ちが、同じくらい強かった。

     その少し前、二人で初詣に行った明治神宮で、それぞれ別々にお賽銭を投げた。
     人混みの中を並んで歩き、大きな鳥居をくぐり、手水舎で手を清める。
     参道の砂利を踏む音と、息の白さと、遠くから聞こえる太鼓の音。
     東京生まれの先輩にとっては馴染みの場所だったのかもしれないが、自分にとっては「テレビで見たことのある神社」に、やっと自分の足で来た感覚だった。

     拝殿の前で一礼し、それぞれお賽銭を投げて、鈴を鳴らす。
     「今年もよろしくお願いします」とか、「仕事がうまくいきますように」とか、形だけのお願いではなく、
     心の中ではお互い、「この人と結婚できますように」と願掛けをしていた。

     そのときは、もちろん口に出してはいない。
     横に並んで頭を下げながら、「今、同じこと考えとるんじゃろうか」と、ふとよぎっただけだった。
     けれど後から話してみると、お互いほとんど同じお願いをしていたことが分かって、妙に照れくさくて嬉しかった。

     それを言葉にしたのは、もう少しあとだ。

     
     
    瀬と書いて「ライ」と読む4児パパです。 教育費・住宅・サイドFIREのリアルな数字と、クルマ好き目線のお金の使い方をゆるく記録中。 「完璧じゃないけど、子育てしながら一緒に模索したい」人向けの家計&投資ログです。

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