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夜逃げした夫から離婚届が送られてきた話

    プロローグ

    皆様は離婚についてどのようなイメージをお持ちでしょうか?

    「大変そう」「手続が面倒」「自分は絶対にしない」「離婚するなんて性格に問題があるんじゃない?」
    そんなマイナスの印象をお持ちの方が大半ではないでしょうか。かくいう私もその一人で、よもや自分が離婚するなど夢にも考えていませんでした。

    とはいえ、人生は何が起こるかわからないもの。タイトルの通り、こちらに離婚する意思が一切なくても、夜逃げした夫から離婚届が送られてくるなんて出来事がないとも言い切れません。とりあえず私はありました。いや普通ないだろ。何がどうなってこうなった?

    というわけでこのエッセイは、私自身の体験談を紹介しつつ、離婚手続の基本を皆様へご紹介するために書きました。永遠の愛を誓って結婚したにも関わらず、別れが訪れてしまうのは確かに悲しい。ですがそもそも、人間とは日々変わってゆく存在。ひとつの扉を閉めたら、思いがけず風向きが変わって、新たな扉が自然と開くことだってあるのです。

    過去を悔やまず、ただ前へ進むために、少しでもポジティブな離婚を。
    これから離婚する方々へ向けて、あるいはそうでない方々に対しても、そんな勇気をお届けできれば幸いです。

    離婚届を入手する

    申し遅れましたが、私は常木らくだです。大阪在住ですが、面白いギャグは言えません。面白くないギャグなら無限に言えますが、それは正直ただの迷惑行為なので、ここで披露するのは控えておきましょう。これから書くのは、私が2018年12月に離婚した時の話です。

    当時の私は38歳の専業主婦でした。いやまあ、積極的に年齢をカミングアウトするのもどうかと思いますが、離婚の話をするにあたって年齢は割と重要な要素なので。氷河期どん底世代、かつ人生もどん底で、谷しか存在しない安定した人生です。山をください。

    さっそくですが、離婚届が送られてきた経緯をごく簡単に説明します。

    ・夫が仕事を辞めていた(←後で知った)
    ・にも関わらず友人に大金を貸し、また巨額を投資に使い込んで、生活費がすっからかんの状態に(←後で知った)
    ・東京の知人に会うと言って家を出たきり音信不通に
    ・事故に巻き込まれたのではと思い、夫の両親に相談して捜索するものの、行方不明のまま1か月が経過
    ・夫からレターパックライトが届く
    ・内容「お金もないし精神的にも疲れたのであなたとは離婚します。同封の離婚届に署名して市役所へ提出してください。なお、ローンで買ったマンションは売却するので、離婚届を提出したら速やかに退去するようお願い致します」

    これ実話なんだぜ? やばくね?

    ツッコミどころは無数にありますが、私が是非とも知りたいのは、何故レターパックライトを使ったのか。ライトって青い方、つまり安い方ですよ? 我々ワナビが小説投稿でよく使うやつ。離婚届なんていう大切な書類はせめて赤い方、レターパックプラスで送るべきではないでしょうか。と知人にボヤいたら「そこじゃない」って言われました。デスヨネー。

    他にも言いたいことは色々ありますが、このエッセイは捨てられ妻の復讐譚ではないので、恨み辛みは割愛して事務的に話を進めたいと思います。結論を先に述べると、私は離婚に同意でした。こんな仕打ちを受けたら相手を嫌いになるのが当然です。ぶっちゃけドン引き。しかし離婚そのものには賛成でも、怒り心頭の状態で市役所へ駆け込むのではなく、手続は慎重に進めるべきだと考えました。

    以上が、私が離婚届を入手した経緯ですが、入手ではなく一方的に送りつけられたというのが正しいですね。これから離婚する方がもしいれば、こんな超特殊ルートではなく、普通に市役所の戸籍課で入手なさってください。

    離婚届を記入する

    夫から送られてきた離婚届は、必要な箇所はすべて記入済みで、ほとんど完成品の状態でした。そして私が記入するべき欄には、ご丁寧に付箋が貼られていました。細やかな気配りが嬉しいですが、優しさ発揮する場所そこじゃない。

    離婚届に記載すべき事項は以下の通りです。
    ・両人の氏名
    ・生年月日
    ・住所
    ・本籍
    ・父母の氏名
    ・離婚の種別(協議・調停・審判・和解・請求の認諾・判決)
    ・婚姻前の氏にもどる者の本籍
    ・未成年の子の氏名
    ・同居の期間
    ・別居する前の住所
    ・別居する前の世帯のおもな仕事と夫妻の職業
    ・自筆の署名
    ・連絡先電話番号
    ・証人2名の署名(協議離婚のみ)

    余談ですが、近年のハンコ文化廃止の流れを受け、2021年9月から離婚届は押印不要になりました。外出先で急に離婚したくなった! でも印鑑がないから今日は無理! なんて時もスムーズに離婚できるようになったわけです。いやはや、便利な世の中になりましたね。

    さらに余談ですが、婚姻届も現在は押印不要です。ただし任意で押しても構わないので、これから結婚する予定の皆様は、押印後に記念写真を撮って「旧姓のハンコを使うのは今日で最後!」などと浮かれた発言をするのも一興ではないでしょうか。なお私は、結婚と同時に旧姓の印鑑を捨てましたが、そのせいで離婚後に同じものを買い直す羽目になりました。だって旧姓に戻るって思わなかったもん。とほほ。

    本題へ戻りますが、記載事項の大部分は、生年月日や住所など悩む余地のない事実です。別れたい理由を頑張って作文する必要はありません。むしろ書けと言われたら喜んで書くのですが。協議離婚に限っては、証人2名の署名が必要ですが、この証人は親・兄弟・友人など本人以外なら誰でも大丈夫。私のケースも協議離婚なので、義父と義母に証人を頼みましたが、一度も協議せず一方的に捨てられたのに「協議離婚」なんて皮肉ですよね。

    ちなみに、氏名欄には結婚していた時の名字を書きます。これから戻る旧姓ではありません。なので夫と妻は同じ名字になっているはずですが、異なる印鑑を押す必要があるので注意しましょう。実印である必要はありませんが、インク不要のシャチハタタイプはNGです。おめでたい婚姻届ならともかく、離婚届にわざわざ任意で押印する人も現在は少数派だと思いますが、念のため書き添えておきます。

    子供がいたら?

    話の順番が前後しますが、私が離婚を即決できたのは、子供がいなかったからという理由が大きいです。

    いえ、本当はいました。長い不妊治療の果てに息子を授かりました。しかし彼は、ある朝私が起きたら、SIDS(乳幼児突然死症候群)で死んでいました。生後わずか2か月半。皮膚は紫色に変色し、プラスチックのように硬くなり、ピクリとも動かない変わり果てた私の赤ちゃん。あの光景は、それはええ、一生忘れることができません。
    その件については、一昨年のカクヨムコンに応募した不妊治療のエッセイに書いたので、機会があればそちらもチェックしていただけると嬉しいです。

    <2026年4月25追記:該当のエッセイをnoteにも掲載しました>

    それから、子供の話題でもう1つ。新しい人と知り合った時に、結婚の有無を問われて「バツイチです」と答えると、必ずその後に「お子様はいらっしゃるの?」と質問されます。私は静かに「いいえ」と答えます。事実ですから。そうすると相手は「それはいいですね」と口にします。私は笑顔で「はい」と答えます。

    私は子供がいないから自分の気持ちだけで離婚できた。
    子供がいる女性にそんな自由はない。しがらみがない私は贅沢な立場なんだ。

    わかりますよ、そういう理屈も。でも私は、息子に縛られたかったし、息子のためにもっと悩んで苦しみたかった。こんな残酷な自由あるかよと思いつつ、しかし事情を話すと長くなるので、いつも「はい」で無難に会話を終わらせてしまいます。相手に悪気がないのもわかりますからね。なのに、わざわざ自分から争いたくないですし。

    あとは、婦人科の問診票に「未婚・既婚」という欄があり、バツイチはどっちだろうと悩みつつ未婚にマルをつけたら、未婚=出産経験がないという前提で検診が進んでしまい、診察室で慌てて事情を説明するなんていう出来事もありました。それ以降は自分から進んで「離婚、流産1回、出産1回(死別)」と書き込むようにしています。結婚や出産は女性にとって非常にデリケートな問題。とはいえ婦人科の診療において出産経験の有無は重要なので、そこはそれと割り切って正確な情報提供に努めたいところです。

    離婚届不受理申出書

    離婚が決まった。
    離婚届も漏れなく記入した。

    しかしながら、まだ実際に提出する段階ではありません。何しろ、この離婚届はレターパックライト(強調)で一方的に送られてきたもの。これから慰謝料の金額や財産分与など、詳細を話し合わなければなりません。そこで登場するのが「離婚届不受理申出書」という重要な書類です。

    この耳慣れない書類には「私以外の人が離婚届を持ってきても受付しないでくださいね?」という効果があります。言わずもがな、離婚にはトラブルがつきもの。相手が勢い余って、勝手に書いた離婚届を提出するなんていう事態も起こり得ます。もちろん署名を偽造するのは犯罪ですが、本人の筆跡なんて市役所の職員は知るわけもないので、無断で作成された離婚届も不備がない限り受理されてしまうのです。怖い。

    そんな離婚届は無効でしょ? なら怯えなくていいんじゃない? そう思った方もいるでしょうが、ひとたび受理された離婚届を無効にするには、家庭裁判所に離婚無効の調停を申し立てる必要があり、さらに相手が認めない場合には訴訟を起こさなければなりません。裁判にかかる長い時間、弁護士への高額な謝礼、刻々と過ぎてゆく年月、やり場のない怒りと憎しみ……。そう考えれば、事前に対策するに越したことはないでしょう。

    記載事項は以下の通りです。
    ・両人の氏名
    ・生年月日
    ・住所
    ・本籍
    ・申出人の署名

    用紙は市役所の戸籍課で受け取りましょう。頻繁に使う書類ではないので、記入台には用意がないかもしれませんが、窓口で請求すればもらえるはず。私は離婚には同意でしたが、離婚協議がまとまらない事態を想定し、念のために提出しました。手続はごく簡単で、10分程度で終了。離婚は人生に関わる一大事なのに、予想以上にあっさりで思わず拍子抜けしたほどです。

    この手続に有効期限はなく、申請した本人が取り下げるまでずっと効果が続くので、いざ離婚届を提出するとなったタイミングで「離婚届不受理申出取下書」を提出する必要があります。これも非常に簡単な書類ですし、万一忘れたまま離婚届を提出しても「不受理申出書が有効です」と教えてもらえるはずなので、身構える必要はありません。色々な制度があるのですね。

    提出する時は何とも心苦しい気分でしたし、相手が悪事を働くと決めつけたくはないですが、これから離婚して一人で生きると決めた以上、自分の身を守る行動はやはり積極的にするべきではないでしょうか。

    財産分与

    離婚届不受理申出書は無事に提出できました。

    さあ、次はいよいよ財産分与。まさしく離婚の正念場。なのですが、夫はいまだ音信不通のため、直接会って話し合うことができません。義父いわく「息子は入院中で精神的に衰弱している。あなたとの面会には応じられない。よって私が息子を代理して話し合おうじゃないか。いいね?」。……いや、よくないよ。ちょっと意味がわかりません。なんで離婚協議が伝言ゲーム?

    その話を友人にすると、「入院って絶対に嘘だよ」と怒ってくれましたが、義父はお寺から僧侶を招いて病気平癒の祈祷をしていたので入院は事実だと思われます。さすがに、ただの演出で本物のお坊さんは呼ばないでしょうし。それに加え、夫への信頼はすでに最低ラインまで下がっていたので、今さら嘘をつかれたところで「ふーん、やっぱり卑怯だなぁ」くらいの感想しかありません。冷め切った夫婦関係とは虚しいものです。

    そんなわけで、離婚協議は夫の実家で開催され、参加メンバーは私・義父・義母の3人となりました。夫のいない夫の実家。まるで甲子園球場へやって来た巨人ファンのようなアウェー感。ですが、尻込みしている場合ではありません。先方に提示された離婚の条件は次の通りでした。

    ・慰謝料は2年間の毎月分割払いとする
    ・マンションは夫がローンを組んで買ったものなので、あなたは自分の持ち分を主張せず速やかに出て行くように
    ・その代わり家にある家財は自由に持って行ってよい
    ・協議がまとまった後、離婚届は私が一人で市役所へ提出し、義父にコピーを渡す

    よく混同されがちですが、慰謝料と財産分与はまったくの別物です。たとえば財産分与で貯金を半分に分けた上で、それとは別に夫へ慰謝料を請求するのもOK。とはいえ、協議離婚における慰謝料は義務ではないので、離婚すれば当然もらえるわけではありません。あるかどうかも、ある場合の金額も、すべては話し合い次第です。

    そんなわけで、慰謝料は絶対に取ってやるぞと意気込んでいたのですが、相手の提示した条件に最初から含まれていたので正直ちょっと驚きました。まあ話し合いもなく一方的に捨てられたわけですからね。その他にも不倫や暴力など、夫サイドに明らかな非がある場合は是非とも請求するべきですが、価値観の不一致など「別にどっちも悪くないよね」という場合は慰謝料なしに離婚することもあり得ます。

    慰謝料

    先方から提示された離婚の条件は、おおむね同意できる内容でした。マンションは夫がローンで買ったもので、私はお金を払っていないので、出て行けと命令されたら出て行くまで。家財については、実家へ帰る予定なので、せっかく家具や家電をもらっても邪魔になってしまう。早い話がいらない。その代わり、日用品は提案通りごっそり持ち出すことにしました。具体的にはトイレットペーパーの予備とか。せこい。

    同意できなかった点は2つです。1つ目は離婚届を提出する時期。当時は11月で先方の要求は「今すぐ」でしたが、私はお歳暮販売のパートをしていたため急に引越するのは難しく、さらに途中で名字が変わってしまうのも事務手続の上で不都合なので、お歳暮シーズンが終わる12月末まで待って欲しいと申し出ました。この件は、その場ですぐに同意を得られました。

    2つ目は慰謝料。金額については同意できましたが、分割払いは途中で踏み倒される可能性が高いので、一括払いにして欲しいと頼むことに。これについては、義父は散々渋りました。いわく「本人は絶対に払うと言っている」「今は入院費用もあり一括は難しい」「どうか息子を信じてくれないか」等々。対する私の返事はこうです。「直接の説明もなく、電話にも応じず、郵送で離婚届を送ってきた人間を信じるのは不可能です。一括前払いじゃない限り絶対に離婚しません」。

    私は無用な争いが苦手です。それに、昭和人間なので、目上の人に反抗するなんてとんでもない。ましてや相手が義父ともなれば異論を唱えるなんてもってのほか。なのですが、あくまで無用な争いを避けたいだけで、必要な争いならば相手が誰であれ躊躇はしません。これはそう、絶対に勝たねばならない撤退不可能なラスボス戦。にも関わらず、ラスボスの父と戦っている私。おかしくね?

    慰謝料の件は結局持ち帰りとなり、数回に及ぶ伝言ゲームを経た結果、額面を2割減らす代わりに一括前払いするという条件で話がまとまりました。最初より金額が減ったのは残念ですが、分割払いが途中で回収不能になるよりは遥かにいいので、双方にとって悪くない折衷案だと思います。話し合った内容を離婚協議書にまとめ、同じ内容を2部作成して署名押印完了。これでいよいよ離婚できます。

    慰謝料はその後すぐ振り込まれ、ホッとすると同時に「そんなに急いで私と別れたいのか!」という怒りがわきました。

    離婚届を提出する

    2018年12月27日。
    その日は寒く、しかし空は快晴で、冬らしい心地のいい一日でした。お歳暮パートは昨日で終了。身軽になった私は、完成した離婚届を握り締め、一人で市役所へ向かいました。いや、実際は握らないし普通にカバンに入れてますけど。

    ここまで駆け足で書いてきましたが、何故これほど駆け足になったのか蛇足ながら説明すると、原因はカクヨムコンの規定字数です。1万文字以内って短いんだよ! 前回も書きましたけど、もうちょっとこう、1万字は超えるけど10万字には届かない中編の受け皿が欲しいですよね……今は両極端すぎるんだ……。

    そんなわけで、字数の都合で省略したものの、離婚協議中はひどい心労で精神を病みました。具体的には体重が8キロ減るという事態に。もちろん理由が理由なので、ナイスバディな痩せ方ではなく、筋肉が衰えて身体に力が入らないという不健康な痩せ方でした。二次元キャラの場合、闇堕ちすると衣装や言動がセクシーになって人気が出ますが、私は現実世界に住むアラフォーなのでそんな嬉しい変化はもちろん起こりません。生きづらい世の中です。

    離婚届の提出は30分ほどで終了しました。やや時間を要したのは、先に離婚届不受理申出取下書を提出する必要があったからです。待合の椅子で待っていると、スタッフに声をかけられ、まさか不備でもあったのかと思わず身構えたのですが……。

    「大阪市オリジナル婚姻届の投票企画にご協力ください! A~Dの中で一番好きなデザインはどれですか?」

    知らんがな。
    ワイ離婚手続中やねん。

    と内心思いつつ「あ、えっと、Aがいいです」と答えました。清くない一票。そんなハプニングはさておき、離婚届が無事に受付されたら、次は離婚届受理証明書を取得しましょう。これはその名の通り、離婚した事実を公に証明する書類です。1枚ごとに手数料が徴収されますが、私は以下の用途で4枚取得しました。

    ・自分用
    ・義父へ渡す用
    ・健康保険の手続用
    ・年金の手続用

    すべての手続を終えて外へ出ると、空は青く街は相変わらず賑やかで、今まで味わったことがないような解放感を覚えました。私はもう自由なんだ。これからどこへだって行けるんだ。さあ、今から何をしよう? 結婚前の交際期間も含めれば足掛けで20年。そんな、20年振りの「一人」は意外と悪くない感覚でした。

    離婚後の手続

    年末に離婚した私は、マンションを引き払い、電車で約1時間の距離にある実家へ帰りました。私はまず、こんな結果になってしまって申し訳ないと両親に謝りました。昭和チックな義務感からではありません。心からの本心です。私はてっきり怒られるか、あるいは皮肉の1つでも言われると予想しましたが、両親の答えは「あんたが幸せならそれでいい」でした。肉親の情けが身に沁みます。

    さて、年が明けたら離婚後の様々な手続をしなければなりません。まずは名字の変更ですが、これはただ面倒なだけで難しくないので、ここでの紹介は省略します。意外と難航したのは携帯電話の解約。サポートセンターに連絡したところ、解約するにはまず家族割引を解除する必要があり、そして家族割引の解除は主回線の持ち主(つまり夫)しかできませんの一点張り。

    私は事情を説明しました。夫は夜逃げして音信不通なんです。電話は着信拒否、メールは無視、SNSは未読スルーされています。一度も会えないまま義父と離婚協議を重ね、先日やっと離婚したばかりで、本人へ連絡する手段がまったくありません。音信不通なら直接会え? いや、居場所を教えてもらえなくてですね……。電話サポートのお姉さんは「こんなケースは初めてです」とひたすら困惑していました。うん、私も初めてだよ。結果的には個別対応で解約できました。

    それから苦労したのは健康保険。夫は知らないうちに仕事を辞めていましたが、退職後も2年間は協会けんぽを任意継続できるので、会社の健康保険に加入したままの状態でした。私は扶養親族だったので、本来ならば夫経由で夫の以前の職場へ健康保険証を返却するべきですが、ここでもまた本人不在。仕方なく健康保険組合の所在地をネットで検索し、現地へ赴き、夫は夜逃げして居場所が……の説明をまた披露しました。ここでも、こんなケースは初めてだと驚かれましたが私も本当に以下略。

    それから、暗い話ですが、私は不妊治療の際に受精卵を凍結保管していました。1年ごとに更新が必要で保管費用は年間8万円。離婚後は破棄しなければならないのですが、その同意書に夫の署名が必要……いやもう何回この説明すればいいんだよ疲れたよ……。結局、同意書の提出は不可能ということで、保管料を支払わない→自動破棄という悲しい流れになりました。息子の兄弟になり得たはずの小さな命。こんな別れになってしまい本当に申し訳ないです。

    年金分割

    健康保険証はないと困るので、うっかり手続を忘れるケースは少ないですが、知らないとそのままになってしまって損をするのが年金の問題。加入期間にもよりますが、会社員の夫に扶養されていた妻は年金の分割を請求できる場合があります。もらえる年金の額を直接分けるのではなく、厚生年金の標準報酬部分を妻の年金計算に含めるという制度ですが、何であれ受け取れるものは全部受け取りたい。というわけで私も請求しました。

    年金分割には2種類あります。まず1つ目は「合意分割」。これは話し合いによって年金を分割する方法で、妻の取り分は2分の1を上限に任意で設定できます。とはいえ、協議が円満にまとまらないことも多いでしょう。そこで登場するのが「3号分割」。こちらを使えるのは専業主婦のみですが、請求すれば話し合いに関係なく、2分の1が妻名義になるという制度です。

    頑張って働いて年金を納めてくれた夫に対して、専業主婦の妻が取り分を横取りするのは図々しい気もしますが、そもそも綺麗事では済まないのが離婚の世界。そのあたりは、法律で守られた権利だと割り切って、堂々と請求すればよいのではないでしょうか。自分を守るのは自分ですからね。必要書類は年金事務所で入手でき、請求期間は離婚日から2年間です。

    ちなみにこの書類、勤務期間や職場の情報など、相手に書いてもらう箇所がなかなかたくさんあります。もちろん本人の署名も必要。こればっかりは、職員を説得して私一人で押し通すのは無理なので、離婚後に義父へ用紙を郵送して夫に書いてもらうよう依頼しました。ぶっちゃけ離婚届の提出より、年金分割の方が遥かに複雑かつ面倒だったので、該当するかもしれない方は年金事務所で相談なさるのがよいでしょう。

    必要書類を年金事務所へ提出後、約2か月で「標準報酬改定通知書(第3号被保険者期間に係る年金分割のお知らせ)」という書類が届きました。そこには夫の標準報酬月額、つまり給料の概算ランクが書いてあり、改めて「こんなに一生懸命働いていたんだ。ありがとう」という気持ちと、「でも知らないうちに会社辞めて使い果たしてたんだよな……」という気持ちがわきました。退職年月もはっきり記載されてますからね。

    離婚後の専業主婦に対する世間の目は厳しく、特に就職活動の場面ではそれを痛感しましたが、どうにか仕事を見つけて社会復帰することができ現在に至っています。

    エピローグ

    以上が私の体験談ですが、夫が音信不通だった部分を除けば、かなりスムーズに離婚できた方ではないでしょうか。子供がいる、共有名義の不動産がある、不倫や暴力が絡んでいる、離婚協議がまとまらない、訴訟になってしまい高額な弁護士費用が発生した……。そんな方々も世の中には多数いらっしゃり、そこには想像もできない苦労が潜んでいるはずで、それらを経験していない私に「離婚ってこうだよ」という代表者のような発言はできません。

    なのでここでは、恨み言は極力抜きにして、離婚する際に必要な最低限の手続を紹介しました。ここに書いた大半の内容は、実際に離婚するまで私も知らなかったので、皆様に新しい情報を提供できたのではないでしょうか。年金分割などは誰も教えてくれず、知らないと本当にそのままになってしまうので、地味ですが大変重要だと思います。

    思うに、結婚とは連結電車ではないでしょうか。

    行き先が一致している限り2両編成は心強いですが、目的地が違うと相手の存在が逆に足枷になってしまう。あるいは、二人三脚の紐と表現してもいいですが、思い切って接続を切り離すことによって、お互いが一番行きたかった場所へ辿り着けるなら、そういう離婚もアリじゃないかと私は思うのです。

    ここに書いた内容が、これから離婚を考える皆様にとって、どうか少しでも役に立ちますように。

    そしてまた、夫婦円満な皆様におかれましては、結婚時に誓った愛情と信頼が末永く続きますように。このエッセイが役に立つ瞬間が永遠に訪れないことを願います。

    2023年12月2日 常木らくだ

     
     
    2009年から活動している小説投稿者。 13年間シーサーブログで活動してきましたが、2025年1月からnoteに活動の場を移しました。 『らくだ図書館(移転前の個人ブログ)』 http://rakuda-library.seesaa.net

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