メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【後編】ラスボスは、内部に潜んでいた!?

    賄いで”パンドラの鍋”はついに開かれたのだ!

    凄まじいオーラを放つ”それ”は、ラスボス級の何かであった。

    我々は恐る恐るナイフを入れ、極少量を口に含む。

    「あぁ〜ゔうぅ……ぐふぉ、グフォぉ……。」

    ♦︎

    私は、昨日の鍋をもう一度温め直していた。
    ついにこの時が来てしまった。
    賄いの時間である。

    少しずつ鍋の温度が上がっていく。
    すると、それと同時に…
    昨日とは似ても似つかない、別の何かが湧き出てきたのだ。

    いや。

    正確に言えば、昨日もそこには存在していた。
    ただ、昨日はその場に長く居すぎた為か、表面的なものしか感じ取れなかっただけだった。
    何度も何度も、その空気を吸い込み―
    鼻が、すっかり慣れてしまっていたのである。

    人間の感覚とは、なんとも都合のいい生き物だ!
    同じ匂いが続けば、それを「いつもの環境」として処理してしまう。
    昨日の私は、まさにそれだったに違いない!

    「……いけるんじゃないか?」

    そう思ったのも、無理はない。
    つまり、私の鼻が慣れを理由に職務を一時放棄していただけである。

    ストライキである。

    そして今日という日。
    いったん厨房を離れていた私の鼻は、見事に初期化されていた。

    そこへ――
    例の”それ”が立ち込める。
    昨日とは、明らかに違う。

    いや。

    違うというより昨日は感じ取れなかった何かが、姿を現したのだ。

    「我の眠りを妨げる者は何者ぞ??慢心せし輩め、己の矮小さを知れ!」

    とでも言わんばかりに、再び別の姿で現れたのだ!
    まさにラスボス級である。

    ♦︎

    ようやく、色々な事が繋がってきた。

    そもそも、あの匂い。
    ずっと、どこに付きまとっていたのか?
    鼻の奥なのか?
    自分の衣服なのか?
    どこなのか?

    きっと髪の毛だ!

    焼肉からのご帰宅「……なんか、まだ焼肉の匂いがするな」と思った事はないだろうか!?

    それと同じだ。

    私は確かに仔牛をしっかりと焼き付け、間違いなく煙をしっかりと纏わせた。

    服や髪の毛にまとわりついた匂いは、そう簡単には離れてくれない。どうりで、シャワーを浴びるまで気になっていたわけだ。

    帰りの電車の中では??
    それは…忘れてしまいたい記憶と共に、ご迷惑をお掛けしたのなら各方面にお詫びしたい程だ🙇‍♂️

    ♦︎

    記憶といえば、もう一つ。

    昨日の私は
    香味野菜も入れた!
    ハーブもたっぷりと入れた!
    スパイスもふんだんに重ねた!
    鍋の蓋は開放して時間をかけて煮込んだ。

    確かに、昨日は”そのラスボス”の姿を確認することはできなかった。

    ……なら、どこにいたのだ?

    今、目の前にいるのは、紛れもなく我々の想像を遥かに超えているシロモノだ。スタッフの顔も歪んでいる(笑)

    そうか……肉の内部の王宮の間に潜んでいたのか!

    覆い隠すことはできても。
    重ねることはできても。
    完全に消し去ることはできなかったのだ!

    完成を目の前にして、スタッフの顔色を伺う。

    「……いらないです!私、明日も出勤なので大丈夫です」

    え?そんな断り方あるのか?(笑)出勤なのでいらない?…それはお腹の心配事で100%間違いない!

    「オッケー!ここは責任を取り、私とオーナーに任せろ!」

    ナイフとフォークを持つ手がプルプルと震えているのが自分でも分かる🍴

    ♦︎

    保存技術が、まだ今ほど発達していなかった時代の人達は、一体どうやって肉を保存して食べていたのだろう。

    そして、我々が口にしたこのお肉。

    「お肉自体が貴重で食べれなかった時代、きっとこの程度のものなら、ご馳走だったんじゃないか!?内臓などのホルモン系はこんなもんじゃないよね。」

    そんなオーナーとの結論に話は収束していった。

    現代の私達は、食材を冷やし、ラップで包み、温度を管理し、鮮度を守る。それが当たり前だ。

    けれど、そんな技術がなかった時代には―

    美味しくすること以前に、食べる為の知恵と工夫そのものが、大切な料理だったのかもしれない。


    前編はこちらから💁

    この記事が参加している募集

     
     
    はじめまして、某イタリアンのシェフ&ソムリエをしています。 『いつか、イタリア郷土料理がまとまったレシピ本を作りたい📚』 そんな思いから始めたnoto。 イタリアの郷土料理が『知れる、分かる、作れる』そして経験談とかも含めながら『楽しい❣️』って思って貰えたら私は幸せです。

    あなたへのおすすめ