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陰陽師の隣で 第十二話『他に理由がある』

    先生達に促され、私は祭壇の前へ座った。

    とは言っても、祭壇の真正面には陰陽師の先生。

    その少し斜め後ろに聖さん。

    私はさらに後ろの方へ座らされた。

    先生が私へ尋ねる。

    「お母さんの宗派はなんや?」

    私は少し考えた。

    母の実家は浄土真宗。

    父は浄土宗だ。

    母は父の姓に入っているので、念の為聞き返した。

    「えっと……父側の宗派ですよね?」

    すると先生は少し苛ついたように言った。

    「葬式の時、何宗やったんや」

    「あ。浄土宗です」

    それを聞くと、先生は何かを唱え始めた。

    最初は祝詞かと思った。

    けれど、しばらく聞いているうちに違う事へ気づく。

    ——般若心経のようなお経だ。

    陰陽師って、宗派を問わないのか。

    私は勝手に、陰陽師自体が一つの宗派のようなものだと思っていた。

    しばらくすると、先生は突然お経を読むのを止めた。

    そして唐突に言った。

    「タバコ吸いたがっとるわ。ワシのタバコ持って来てくれ」

    聖さんがタバコを渡す。

    先生は火をつけ、一口吸うと、そのまま火のついたタバコを線香立てへ立てた。

    ——やっぱり母はここにいるんだ。

    先生達には、母がヘビースモーカーだった事は話していない。

    二時間近く経った頃だろうか。

    ようやく儀式のようなものが終わった。

    私は恐る恐る尋ねた。

    「母は何でここに来たんですか……? どんな用事があったんですかね」


    すると先生は静かに答えた。

    「娘をどうかよろしくお願いします、って何回も頭下げとった」

    私は黙って聞いていた。

    すると先生が続ける。

    「えっと……お兄さんおるんか?」

    「おります」

    兄の存在も話していない。

    改めて、この人達は本当に視えているのかもしれない。

    そう思った。

    先生は隣の部屋を見ながら話し始めた。


    「お兄さん、腎臓弱いみたいやな。定期的に診てもらえって言うとる」


    先生も聖さんも、同じ方向を見ている。

    つられて私も見た。

    けれど、そこには何もない。

    すると聖さんが指を差した。

    「そこに、お母さん来てるのよ」

    霊感のない私には見えない。

    続けて先生も同じ場所を指差す。

    「そこや。何回も何回も頭下げとる」

    そこ、と言われても何も見えない。

    でも、何度も頭を下げている母の姿だけは簡単に想像出来た。


    生前の母も、人へお願いする時は何度も頭を下げていたからだ。

    『お願いします。お願いします』

    そう繰り返す人だった。

    しばらくすると、再び先生が黙り込んだ。

    眉間に皺を寄せていたが、突然——。

    「ふふっ」

    と笑い出した。

    「面白いお母さんやな。よう喋るわ。笑わせようとして色々言って来る」

    ——あぁ。

    本当にここに母が来てるんだ。

    私はそう確信した。


    全然面白くない冗談を言って、人を笑わせようとする所も、生前の母そのままだった。


    本来なら。

    ここは母を偲び、涙ぐむ場面なのかもしれない。

    けれど私は、母とは昔から気が合わなかった。

    子供の頃は徹底的に支配され、友人関係にまで口を出された。

    心配してくれていたのかもしれない。

    でも、生前の母を知っているからこそ、正直そこまで悲しいとは思えなかった。

    そんな事を考えていると、先生が静かに言った。

    「お母さんもな。好きでアルコール依存症になったわけちゃうぞ」


    私は顔を上げた。

    「そうなってしまった理由が、他にあるんや」

    ——その時の私は、先生の言葉の意味がよく分からなかった。

    けれど数年後。

    私は、先生の言っていた意味を嫌でも理解する事になる。


     
     
    初めまして。noteを初めてまだ日が浅いので読みにくいかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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