
【結婚できるかもしれない物語】7話
木曜日の昼休み、綾香はいつものように同僚たちと社内カフェテリアのテーブルに着いた。
今日のメニューは和食定食。
メインとなる魚は焼鮭。
5センチ角ぐらいの小さな塊だけど、厚みが3センチほどある。
10センチぐらいの長さで、厚さ1センチ未満の平べったい焼鮭より美味しそうに見える。
…焼く時間が多少かかるだろうけど、水分が抜けきらずふわっとした身で美味しい。
他の副菜はほぼ決まっている。
きゅうりと大根の漬物、きんぴらごぼう、冷ややっこ…
今回はもう一品ついていた。
出汁のきいた黄金色のだし巻き卵。
美味しいおかずに思わず頬を緩ませながら、綾香は箸を動かす。
なるべく会話を聞く側に回ろうと、ランチから視線を上げたとき、美香と視線があった。
「ねえ、悠斗くんさ、昨日綾香ちゃんにバラ置いてたでしょ?」
美香がニヤニヤしながら切り出してきた。
隣では真由美さんが低カロリーサラダをフォークで突いている。
無機質な事務所なのに、生花はとても目につく。
…匂いを放たないバラであってもだ。
ゴミ箱に捨てるのも申し訳なく、仕方なく自宅に持ち帰り…
花瓶などないから使っていないグラスに水を入れて挿してきた。
たったそれだけ…
それだけでも、そのバラがおいてある空間だけは命を感じる空間となった。
存在感とは怖いものだな…と、思って今日は玄関のカギを閉めた。
「ええ、そうみたい……」
バラ…会社で捨てたら、それも社内中の話題になるところだった…。
色々…副産物が発生して、自分の立場が危うくなるところだった…。
なんとか免れたか…良かった。
そんな気持ちで美香に応えたのだが。
「危ないよ、綾香ちゃん。
あの人、本気で『真面目に付き合おう』って言うと、
最初の三ヶ月はめちゃくちゃ優しいんだって。
でも四ヶ月目に入ると、急に連絡が遅くなったり、他の女の影が見え始めるの」
美香はスマホを操作しながら、ひそひそと続けた。
「今わかってるだけで、悠斗くんは
彩音、遥、あかり、莉子……そして綾香ちゃんを狙ってる。
完全に六股コースだね」
…えっと…美香さん?
美香さんのスマホにはどんな情報が集まっていらっしゃるのでしょうか?
先ほどまで美味しいと感じていた厚焼き玉子が、無味に感じる。
入社二年目の秋、見かけた金森と一緒にいたのは社内の女性ではなかった気がする。
そう考えると、本当に六股コースなのだろうか?
綾香の箸が止まった。
美香の瞳が丸くなった。
真由美さんがため息混じりに言った。
「男なんて結局、若い子が好きなんだよね。
私はもう35だから、金森くんみたいなイケメンには相手にされないわ。
……それより、私の話聞いて。