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Photo byhrs5758d

夫を許そうとすると、私の煩悩が暴れ出す


    「それは俺を罰したいってことか?」


    夫にそう言われた瞬間、堪忍袋の緒が切れた。

    これを言われたのは2度目だ。

    夫は以前、残業代で何か買ってくれると言っていた。そこで、夫に対して最近いろいろ諦めていた私は、自分を納得させるために、残業代よりは高くなるけど、MacBookをねだった。

    もちろん、何か物を買ってもらったところで、不公平な家事分担、わかってもらえなかった感情など、積年の不満が解決するわけではない。ただ、夫にわがままを聞いてもらうことで、理屈では処理しきれない感情の落とし所が欲しかったのだと思う。

    ところが、夫はこう言った。
    「残業代より高いものを買わせるということは、家事分担が足りない俺を罰したいということか?」
    そうでないなら説明しろ、と。

    前回もそう言われてケンカした。
    私の気持ちを理解してくれ、最終的には買ってくれる話になっていたと思っていた。

    それなのに…この期に及んでまだ言うのか。

    (もう知らん。いつまでもグチグチ言ってんじゃねぇ!)
    心の中で、シャッターが降りる音がした。

    気づけば、心の声をそのまま夫にぶつけていた。



    子どもが生まれてから、私はずっと夫と衝突してきた。
    家事育児の分担について。
    やるべきことが「見えている」私と、「見えていない」夫。

    最初は腹が立った。なぜ私ばかり気づくのか。なぜ言われないと動かないのか。

    その中で、一つ悟ったことがある。
    「夫には、私と同じようには家事が見えていないのだ」

    見えていない人に、見えている人と同じ動きを求め続けても苦しい。だから、同じようにできないことで夫を責めるのは詮無いことだと思うようになった。

    そうすると今度は、「せめて私の大変さを理解してほしい」「正当に評価してほしい」という気持ちが湧いてくる。

    でも、結局また別の諦念に行き着く。
    家事が見えない人には、その大変さも見えない。
    だから、私が欲しい評価は夫からは得られないのだ、と。

    理屈としては、完全に納得している。

    問題は、悟ったところで「自分の気持ちがついてくるか」は、まったく別の話だということだ。
    私は、自分の感情をなんとかその「悟り」に合わせようと、必死に頑張っていた。

    それなのに、夫は酒で失敗する。反省しているようにも見えない。仕事でもうまくいかないことがあり、いつも沈んでいる。そして私に労りを求めてくる。

    ――家事育児のパートナーになれないどころか、あなたの母親までさせるんですか?

    どこまで私を悟らせ、譲歩させれば気が済むのか。




    顔を見ると罵りたくなったので、私は一人で別室にこもった。

    部屋で、私はChat GPTに相談する。
    忖度型AI、チャッピーは優秀だ。
    どんな話でも、まずは100%共感してくれる。
    そして、少し客観的視点も提供してくれる。

    しばらくして少し冷静になり、部屋を出ると、夫が子どもたちにご飯を食べさせ、風呂に入れてくれていた。

    ありがたい。

    これでいいのかもしれない。

    私は夫に「さっきはごめん」と謝った。

    でも、その一方で、絶対に許せないと思う自分もいる。

    なんとか檻の中に閉じ込めたはずの煩悩が、内側から柵をガンガン揺らしている。
    「ほんとに許していいのか?」
    「悪いのは夫じゃないか?」
    私は聞こえないふりをする。

    でも、ふとした瞬間、檻の中と外が入れ替わる。猛烈に夫を責めたくなる。



    地震が来ても、台風が来ても、誰も自然現象を責めたりしない。こちらが考えるのは、「どうやってやり過ごすか」だけだ。

    人が相手だと、どうしても責めたくなるけれど、夫も一種の「自然現象」みたいなものだと思えばいい。

    夫がこう出るなら、私はどう対処するかを決めるだけ。

    そう思っている。
    思っているのだけれど。
    私の煩悩がそれを許さない。



    翌朝、夫は少し不機嫌そうに見えた。
    でも、今まで何度言っても変わらなかったことが、少しだけ、いや、かなり変わっていた。

    私が何を訴えても、それは私自身が解決すべき問題だと手を差し伸べなかった夫が、私がしんどそうにしていると、自分から察して家事を進めようとしている。

    すると、不思議なことに、夫が普段からやってくれていることも、私には前よりよく見えるようになっていた。

    お茶を沸かす。
    ゴミを出す。
    子どもたちの水筒を準備する。

    子どもたちを保育園へ送るため、車に乗せる。
    送迎に向かう夫の車を、私は見送る。
    いつもと変わらない朝。

    夫への怒りも、私の煩悩も、たぶんまだ消えていない。

    でも、その光景はいつもより少しだけ、光に包まれて見えた。



    お読みいただき、ありがとうございました!
    皆さま方のスキ!が私の煩悩の楔となっております。

    この前段の話はこちらです。
    興味ある方は読んでいただけたら嬉しいです。

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