
【掌編小説】クリスマスカード
「クリスマスカード、もっとちゃんと書いてよ……」
彼女はそう言って、僕のカードをテーブルに置いた。
置き方が“返却”だった。赤ペンで丸がついたプリントを返されるみたいな、あの角度。
「え、ちゃんと書いたけど」
僕はマグカップを二つ、机に置く。ココアの湯気が、言い訳みたいにふわっと上がる。
彼女は無言でカードを開いた。
——メリークリスマス。
——いつもありがとう。
——以上。
「……以上ってなに」
「締め。締めは大事でしょ」
「小学生の読書感想文でも、もうちょっと粘るよ」
彼女は笑いそうになって、でも耐えた。
「ねえ。これ、業務連絡?」
「業務連絡じゃないよ。愛だよ」
「愛が、三行で、以上?」
僕は肩をすくめた。
本当は、カードって苦手だ。文章なら書けるのに、カードになると急に“人間”が出る。
照れる。恥ずかしい。手が震える。ペンが裏切る。
彼女は、白いカードを僕の前に滑らせた。
空白のページみたいに、眩しい。
「ちゃんと、って何を書けばいいの」
「最低ラインはね、読む私が“この人かわいいな”って思えるくらい」
「ハードル高くない?」
「かわいいは、努力で作れる」
すごい。断言。
僕は妙に納得しそうになる自分を止めた。
「じゃあさ、見本見せてよ」
「いいよ」
彼女はペンを取って、すらすら書いた。
——今年も一緒にいてくれてありがとう。
——あなたのココアは、たぶん世界でいちばん甘い。
——来年も、同じ席で笑いたい。
「ほら」
「……プロじゃん」
「プロではない。あなたの隣にいるだけの一般人」
一般人にしては文章が強い。
僕はカードを受け取って、しばらく空白を見つめた。
ツリーの灯りが、文字のない場所でちかちかしている。
「分かった。ちゃんと書く」
「ほんと?」
「ほんと。作戦がある」
「なに作戦?」
「“照れ”を先に書く作戦」
彼女が首をかしげる。
僕はカードを開いて、まず書いた。
——クリスマスカード、もっとちゃんと書いてよと言われました。
——正直に言うと、照れています。
「それはちゃんとじゃなくて、供述」
「供述が大事なんだよ」
彼女が笑ってしまった。
そのおかげで、僕の肩の力が少し抜ける。
僕は続けた。
——いつもありがとうは、本当です。
——でも僕の“いつも”は、きみが思うより多い。
——靴下が片方行方不明でも、きみが探す姿が好き。
——冷蔵庫のプリンが消えても、犯人がきみなら許す。
——「もっとちゃんと」って言われるのも、ちょっと嬉しい。
「え、最後……なんで嬉しいの」
彼女が、ツリーの灯りみたいな目で見る。
僕はペンを止めて、少しだけ声を小さくした。
「だってさ。“もっと”って言うのって、諦めてないってことでしょ」
「……そういうこと言うなら、最初から書いてよ」
「それが書けたら、僕はもう“以上”って書かない」
「うん、書かなくていい」
彼女はカードを取り上げて、読んで、笑って、最後で少し目を細めた。
「ねえ」
「なに」
「来年も、ちゃんと書いてよ」
「来年は……“以上”を“追伸”に変える」
「進歩が地味」
彼女がクスッと笑って、カードを胸の前に抱えた。
「でも、これ好き」
「……じゃあ、成功?」
「うん。あなたは“かわいい”を努力で作れた」
僕は、勝ったのか負けたのか分からないまま、
ツリーの灯りを見上げた。
その灯りが、なんだか“合格”って言っている気がして、
僕は小さく、でもちゃんと笑った。
本田すのう さんの「下書き再生工場」に参加させていただきます。
アージ | arjiさんの「クリスマスカード、もっとちゃんと書いてよ......
」が元ネタです。ありがとうございます💖
