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Photo bynkn93

右手だけは正直だった

    別れた元旦那は、週に2回、いや3回は嘘をつく人だった。

    「買い物行ってくる」と言い、スーパーではなくパチンコ屋へ。
    「仕込みしてくる」と言い、店ではなくパチンコ屋へ(夫婦で飲食店をしていた)。

    しかも、家から徒歩5分のパチンコ屋である。
    バレないとでも思っていたのだろうか。

    開店前、いつもの時間に姿を見せない時、私はそのままパチンコ屋へ直行した。

    駐輪場に停められた見慣れた原付を一瞥し、すたすたと店の入口へ。

    ジャラジャラとなるパチンコ玉の音と、耳をつんざめくBGM。
    おじいちゃん、おばあちゃん、ヤンキーカップル、作業着姿の男性。

    昼過ぎのパチンコ屋は人種のるつぼならぬ、暇人のるつぼだ。

    しかし元旦那は暇人ではない。開店準備という、やるべきことがある。

    ピッカピカに磨かれた床をかつかつと歩き、赤いハンドルを握る老若男女をひとりひとり目で追う。

    視力2.0という才能が、いかんなく発揮される瞬間だった。


    すぐに店の名前がプリントされたTシャツを着たまま、列の中央に座っている元旦那を発見。

    その視線は流れゆく銀色の玉に釘付け。
    ハンドルを一瞬たりとも離さない右手は、自動運転のように玉を打ち出し続けている。

    背後からそっと近づき、その肩をポンっと一度だけ叩く。

    「なにしてんの」

    一瞬の沈黙の後、2人の間に流れる気まずい空気。
    隣に座る若者が、静かに視線を斜め下に向ける。

    「いや…。今帰ろうと思ってたところ」

    嘘つけや!
    投入口に1000円札挟まっとるやんけ!!

    爆音が響く中、無言のまま交差する、冷ややかな視線と泳ぐ目線。
    静かに背を向ける私の後ろで、小さなため息とともに席を立つ音が聞こえる。

    そんなことを、私たち元夫婦は毎回のように繰り返していた。


    別れて3年経った今でもパチンコ屋の前を通るたび、彼の小さな嘘を思い出す。

    もしかしたらあの頃の私たちのように、パチンコ台の前で静かなバトルを繰り広げている夫婦がいるのかもしれない。

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