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短編小説『アイツの再放送』――わい自身がいちばん驚いた、『リクエストは再放送』まさかの続編!

    ※『リクエストは再放送』はこちらから

    翌朝。

    目覚ましが鳴る少し前に、目が覚めた。
    昨日の夜、なかなか眠れなかったせいで、少し頭が重い。
    でも、眠くはなかった。
    布団の中で天井を見ながら、昨日のラジオを思い出す。

    雨の日。
    傘を忘れた女の子。
    校門近くのコンビニ。
    途中にあるパン屋。

    そして――

    雷。

    「もうっ!」

    思わず布団を叩いた。
    なんで、あそこで鳴るかな。
    大事なところだったのに。

    あのあと、いくら考えても答えは同じだった。
    偶然にしては、できすぎている。

    同じ高校生で。
    同じ雨の日で。
    同じように傘を忘れて。
    同じように男の子の傘に入れてもらって。

    そんな子が、世の中に何人いるんだろう。

    ……いるかもしれないけど。

    いや。
    いないでしょ。
    たぶん。
    きっと。

    「……わたしのことだよね? だよね。だよね!」

    声に出したら、急に恥ずかしくなった。
    布団を頭までかぶる。
    数秒して、そっと顔を出した。
    時計を見る。

    「やばっ」

    布団を跳ねのける。
    昨日までなら、こんなこと絶対に考えられなかった。

    だって、あいつだ。

    制服に着替える。
    鏡の前で髪を整えながら、また考える。
    普段は普通に話すくせに、二人きりになると急に会話が減る。
    雨の日だってそうだった。
    鞄を持って、家を出る。

    「コンビニまでなら」

    そう言ったくせに。
    いつもの道を歩く。
    見慣れたパン屋が近づいてきた。
    昨日は、この前を二人で歩いた。

    あれだって。
    もしかして。
    もしかして、そういうことだったのかな。

    パン屋を通り過ぎる。
    少し先に、コンビニが見える。

    「家、こっちだろ?」

    あいつは、ここでそう言った。
    コンビニまでのはずだったのに、そのまま送ってくれた。
    足が少しだけ軽くなる。

    ……いや。

    待って。
    まだ決まったわけじゃない。
    コンビニを通り過ぎる。

    名前は聞こえなかった。
    肝心なところは、全部あの雷のせいだ。
    違っていたらどうする?

    勝手に期待して。
    勝手に勘違いして。

    学校が見えてくる。

    本人に、

    「は?」

    なんて言われたら。

    無理。

    校門をくぐる。
    学校行けない。

    ……もう来ちゃったけど。

    転校する。
    昇降口で靴を履き替える。

    そこまで考えて――
    でも、やっぱり口元が緩んだ。

    階段を上がる。

    違うかもしれないという不安より。

    廊下を歩く。

    きっとそうだという期待のほうが、ずっと大きかった。

    教室の前で、一度立ち止まった。
    いつもなら、そのまま入る。
    今日は無理だった。

    いる。
    絶対いる。
    どういう顔をすればいいんだろう。

    知らないふり?

    でも、向こうは私がラジオを聞いていたか知らない。
    じゃあ、普通にすればいい。
    普通って、どうするんだっけ。

    「おはよー」

    後ろから友達に声をかけられた。

    「お、おはよう」
    「なに?」
    「なにが?」
    「いや、なんか変だから」
    「変じゃない」
    「そう?」
    「うん」

    一緒に教室へ入る。

    いた。

    窓際で、男子と話している。
    目が合った。
    一瞬だけ。
    すぐに逸らした。

    ……無理。

    顔、熱い。
    絶対赤い。
    席に鞄を置く。

    「ちょっと行ってくる」
    「どこ?」
    「昨日、家まで送ってもらったから。お礼」
    「へー」
    「なによ!」
    「べつにぃ」

    にやにや笑っている友達を無視して、あいつのところに向かった。

    そう。
    お礼。
    普通のお礼。

    昨日はありがとう。

    それだけ言えばいい。
    なんにもおかしくない。
    なのに、なんでこんなに緊張するの。

    あいつのところへ歩いていく。
    近づくと、向こうも気づいた。

    「おはよ」

    「あ……おはよう」

    普通だ。
    いつもと同じ。

    「昨日、ありがとう。家まで送ってくれて」
    「ん? ああ。別にいいよ」
    「うん」

    終わった。
    会話、終わった。
    いや、待って。

    昨日のラジオ。
    聞いたよ。

    たったそれだけ言えばいい。

    「あのさ――」

    彼がこっちを見る。

    「なに?」
    「…………」

    無理。

    「なんでもない」
    「……」
    「じゃあね」

    逃げた。
    席に戻る。

    「早っ」

    友達が笑う。

    「うるさい」

    鞄から教科書を出すふりをして、もう一度ちらっと見る。
    いつもと同じ。
    男子と話して、笑っている。
    昨日、あんなハガキをラジオに送った人には見えない。

    でも。

    そういう人だから、ラジオに送ったんじゃないの?
    直接言えないから。

    だから――。

    そう思ったら、また胸がうるさくなった。

    昼休み。

    今度こそ。
    朝、言えなかったことを言おうと思った。

    廊下にあいつを見つけた。

    「あのさ」
    「ん?」

    朝と同じ。
    いつもの顔。
    だったら。

    もう一歩だけ。

    「あのラジオ……」

    言った瞬間。
    あいつの表情が少し止まった。
    ほんの一瞬。
    そう思った。

    でも次に出てきた言葉は、
    私が朝から何度も想像していたものとは、まったく違った。

    「オレ、ラジオ聴かないんだ」
    「……え?」

    あいつは、遠くを見て言った。

    「昨日も聴いてない」
    「…………そっか」

    それしか言えなかった。

    「うん」
    「ごめん。なんでもない」

    その横を通り過ぎる。

    歩く。
    普通に。
    普通に歩け。

    走るな。
    振り返るな。
    廊下の角を曲がった。

    「…………」

    終わった。
    全部終わった。

    違った。
    違ったんだ。

    私じゃなかった。
    いや、私は私だけど。
    あの女の子が私じゃなかった。

    何それ?

    同じ日に傘を忘れて、男の子に入れてもらって、コンビニを通り過ぎて、パン屋の前まで歩いた高校生が、本当に他にいたってこと?

    いるんだ。
    いたんだ。

    日本、広い。
    広すぎる。

    そのあとの授業は、ほとんど覚えていない。
    先生が何を話していたのか。

    ノートに何を書いたのか。
    ちゃんと返事をしたのか。

    放課後、何をしていたのかも、よく覚えていない。
    友達に話そうかとも思った。

    昨日のラジオのこと。
    今朝、どれだけ期待して学校に来たか。
    昼休みに、どれだけ勇気を出したか。

    でも、まだ無理だった。
    笑い話にされたくなかった。

    「勘違いじゃん」

    なんて言われたら、たぶん今は笑えない。
    だから何も言わずに家に帰った。

    部屋に入る。

    鞄を置く。
    制服のまま、いつものようにラジオの電源を入れた。
    スイッチを押してから、

    あ。

    と思った。
    でも、そのままベッドに倒れ込んだ。

    「サイアクだ……」

    枕に顔を埋める。
    私、なんであんなに盛り上がってたんだろう。
    名前だって聞いてない。
    あいつが書いたなんて、一言も言ってない。

    なのに。

    朝から勝手にドキドキして。
    鏡の前で髪まで気にして。
    教室の前で立ち止まって。
    昨日のお礼を言うだけで緊張して。
    昼休みには、勇気まで出して……。

    「……バカみたい」

    なんで、あいつが書いたって思い込んでたんだろう。

    いや。
    違う。
    思い込んでたんじゃない。

    きっと――

    そう思いたかっただけだ。

    「…………」

    それに気づいたら、余計に惨めになった。

    「あ~~~、もうサイアク!!」

    枕に顔を押しつける。
    足をばたばたさせる。

    その向こうで、ラジオだけが楽しそうに喋っている。

    『――そして来月、YMFが開催されます!』

    知らないし。

    『記念すべき第一回となる今回は、近隣の美術館ともコラボレーション――』

    なによ、YMFって。

    『もちろん我々も公開収録に臨んで、現地の熱気を皆さんにお伝えしたいと思います!』

    音楽の野外フェスとか言ってたけど。
    そんなの、どうでもいい。

    「はぁ……」

    仰向けになる。
    天井を見る。

    昨日の夜は、あんなにラジオが好きだったのに……。

    「ほんっと、どうでもいい!」

    ベッドに手を叩きつけた。

    「もう――ラジオなんて……」

    昨日、聞こえなかった名前。
    今朝の期待。
    廊下で目を逸らしたあいつ。

    『オレ、ラジオ聴かないんだ』

    全部まとめて、ラジオにぶつけた。

    「ラジオなんて、だいっ嫌い!!」

     * * *

    それから、何週間か経った。

    ラジオは、まだ聴いていない。
    最初の何日かは、意地だった。
    そのあとは、なんとなく。
    なくても平気なんだと思った。

    学校では、いつも通り。
    友達と話して、笑って。
    あいつとも、普通に話す。

    たぶん。

    前と同じくらいには。

    昼休み。

    サッカー部の男子が二人、私たちのところへやってきた。

    「今度の日曜、YMF行かない?」

    YMF。

    どこかで聞いたような気がする。

    「なにそれ?」
    「音楽フェス。土曜に試合あるから、日曜は部活休みなんだよ。みんなで行かね?」
    「ふーん」

    どうでもいい。

    音楽フェスなんて、今はそんなに興味ない。
    ところが、何人かは違った。

    「誰が来るの?」

    一人がすぐに食いついた。

    男子が出演者の名前を挙げようとする。

    「違う違う」
    「え?」
    「そっちじゃなくて。誰が来るのか聞いてるの!」

    ああ。

    そっちね。

    「サッカー部から何人? 女子は他に誰誘ってんの? ちょっと待って。詳しく聞かせて」

    「なんだよ、詳しくって」
    「いいから。ちょっと来なさいよ」

    男子二人が連行されていった。

    なにやってんだか。

    私はお弁当の続きを食べる。
    少し離れたところで、女子二人と男子二人が何か話している。
    ときどき、こっちを見る。

    男子が何か言う。
    女子が顔を見合わせる。
    また何か聞く。

    長い。

    フェスに行くだけで、なんでそんなに確認することがあるんだろう。
    しばらくして、女子二人が戻ってきた。

    「はい。行く人」

    さっきまでと顔が違う。
    何を聞いてきたの。

    「私、行く」
    「私も」
    「じゃあ私も行こうかな」

    次々に手が挙がる。
    なんなの、この急な人気。

    「あんたも行くでしょ?」

    「なんでよ」
    「暇でしょ?」
    「失礼ね」
    「予定あるの?」
    「…………ないけど」
    「じゃあ行こうよ」
    「えー」

    別に、音楽フェスなんて。
    すると、その子が私の顔を見て、にやっとした。

    嫌な予感がした。

    「あいつも来るって」

    「…………」

    それは、もう言わないで!

    せっかく何週間もかけて、普通に戻ったのに。
    そんな情報、いらない。
    いらないんだけど。

    ……そうなんだ。

    あいつも来るんだ。

    「で?どうするの?」

    できるだけ興味なさそうに言ってみる。

    「まあ……日曜、暇だし」
    「うん」
    「みんな行くなら」
    「うんうん」
    「別に、行ってもいいけど……」
    「はい、決まり!」

    早い。

    もうちょっと悩ませなさいよ。
    こうして私は、
    よく分からない音楽フェス、
    YMFに行くことになった。

     * * *

    そして、日曜日。

    会場へ向かう電車の中は、思っていたより賑やかだった。
    男子と女子、合わせて十数人。
    サッカー部の男子たちは昨日の試合の話をしている。
    女子は女子で、何を食べるとか、誰が出るとか。
    私は窓の外を見ながら、ぼんやり聞いていた。

    「でも意外だよね」

    隣の友達が言った。

    「なにが?」
    「これ」
    「フェス?」
    「うん。これ、あいつが言い出したんだって?」
    「……え?」
    「みんなで行こうって言ったの、あいつらしいよ」
    「……そうなの?」
    「知らなかったの?」

    知らなかった。

    なんとなく、男子の誰かが見つけてきて、みんなで行くことになったんだと思っていた。
    少し離れたところにいる彼を見る。
    友達と笑っている。

    そのとき、車内アナウンスが流れた。
    次の駅。

    もうすぐ会場だ。

    「まあ、いいじゃん。楽しそうだし」

    友達が笑う。

    「……うん」

    そう答えながら、もう一度だけ彼を見た。

    なんで、あいつが?

    電車が駅へ滑り込んでいく。
    窓の向こうに、大きな看板が見えた。

    YMF

    結局、なんの略なのか。
    まだ誰も知らなかった。

     * * *

    駅を出た瞬間から、もう音が聞こえていた。

    ドラム。
    ギター。
    歓声。

    人の流れについて歩いていくと、だんだん音が大きくなる。

    「おおー」

    誰かが声を上げた。
    広い会場に、いくつものステージ。
    その向こうには、美術館らしい大きな建物が見える。
    思っていたより、ずっと大きい。

    「結構すごいじゃん」
    「な」

    男子たちが急にテンションを上げる。
    私は、少し離れたところを歩いているあいつを見る。
    友達と何か話して笑っている。
    なんで、あいつがこれを言い出したんだろう。

    まあ、いいけど。

    せっかく来たんだから、今日は楽しもう。

     * * *

    最初に目に入ったのは、スタッフらしき人と揉めている男の人だった。

    「だから、全部やるのは無理ですって!」
    「いや、せっかく持ってきたんで」
    「何曲あるんですか?」
    「それはまあ……」
    「何曲ですか?」
    「……結構」
    「結構じゃ分かりません!」

    何やってるんだろう。

    「出演者じゃね?」
    「曲、持ってきすぎたんじゃない?」
    「そんなことある?」

    あるらしい。

    YMF。

    なんか、すごいところに来てしまった気がする。
    少し歩くと、別のステージから歓声が上がった。
    見る。

    「…………」

    もう一度見る。

    「ねえ」
    「なに?」
    「なんであの人、半裸なの?」
    「知らない」

    上半身はほぼ裸。
    蝶ネクタイにベスト。
    下は短パン。
    そして、やたらムキムキ。

    「庭師らしいよ」
    「どこに庭師の要素があるの?」
    「知らない」
    「なんで庭師が歌ってるの?」
    「もっと知らない」

    半裸の庭師は、ものすごく楽しそうに歌っている。
    周りも盛り上がっている。
    誰も疑問に思っていないらしい。

    「自由だね、YMF」
    「自由すぎない?」

    次のステージでは、雰囲気が一変した。

    黒を基調にしたセクシーな衣装。
    派手な照明。
    マイクを握った女の人が、やたら色っぽい。
    しかも、

    好き。
    好き。
    好き。

    さっきから、ずっと好きって歌ってる。

    「うわー」

    男子たちが分かりやすく食いついた。

    「男子、全員見てる」
    「ほんとだ」
    「バカだねえ」

    そう言いながら、私たちも見る。
    綺麗。
    これは見る。
    仕方ない。

    その次は、女の子四人組のロックバンド。
    こっちも黒。

    ギター。
    ベース。
    ドラム。

    さっきまでとは違って、音が一気に激しくなった。

    「かっこいい!」
    「これ好き!」

    女子も一気に盛り上がる。
    男子たちも盛り上がっている。
    さっきまで色っぽいお姉さんを見ていたくせに。
    忙しい人たちだ。
    さらに歩く。
    また歓声。

    今度は女の子三人組。

    「かわいい!」

    和風の衣装で、ものすごく楽しそうに歌っている。

    うん。
    かわいい。

    かわいいんだけど。

    「……ねえ」
    「うん」
    「なんで芋持ってるの?」
    「芋だね」
    「芋だよね?」
    「焼き芋じゃない?」
    「そこ?」

    三人とも、お芋を持っている。
    ステージの看板にも芋。
    客席も盛り上がっている。
    誰も疑問に思っていない。

    「YMFだからじゃない?」
    「その説明で全部済ませようとしてない?」

    だんだん分かってきた。
    たぶんここでは、
    深く考えたら負けなんだと思う。

     * * *

    お昼を過ぎたころ。
    美術館の近くまで来た。

    「なんかやってるみたいだよ」

    友達についていく。
    ちょうど美術館から、高校生くらいの男女が出てきた。
    男の子は制服姿で、黒縁の眼鏡。
    女の子は明るい茶色の髪をポニーテールにしている。

    かわいい。
    かなりかわいい。

    二人で何か話しながら歩いている。
    その後ろで、男子の一人が言った。

    「なんで、あんなかわいい子に、あんなダサい男なんだよ」

    私たちは顔を見合わせた。

    あ。
    分かってない。

    「軽薄な男子には分からないのよ」
    「なにが?」
    「見た?」
    「見た見た」
    「あのメガネの隙間」
    「絶対イケメンだよね」
    「絶対イケメン」
    「は?」

    男子たちがもう一度振り返る。

    「どこが?」
    「だから分かってないって」
    「何がだよ」
    「ねー」

    女子だけで笑う。
    眼鏡の男の子が、隣の女の子に何か言った。
    女の子が笑った。
    なんとなく、いい感じ。

    「ほら」
    「何が、ほら、なんだよ」

    分からなくていい。
    たぶん、あの男の子も。
    見た目ほどダサくない。

     * * *

    午後になっても、会場はずっと騒がしかった。
    知らない歌を聴いて。
    食べて。
    笑って。
    また別のステージへ移動して。

    気がつけば、普通に楽しんでいた。
    ラジオのことなんて、ほとんど忘れていた。

    「そろそろ行くぞ」

    あいつが言った。

    「どこ?」

    男子の一人が聞く。

    「公開ラジオ」

    その言葉で、足が止まりそうになった。
    ラジオ。
    そういえば。
    何週間か前、聞いた気がする。

    YMF。
    美術館。
    公開収録。

    全部、あの日のラジオで言っていた。

    「えー、ラジオ?」

    思わず言ってしまった。
    あいつがこっちを見る。

    「嫌なの?」
    「別に」
    「じゃあ行こうぜ」

    なんなの。
    自分はラジオ聴かないくせに。
    なんで公開ラジオは見たいのよ。

    そう思ったけど、言わなかった。
    公開収録のスペースには、もうかなりの人が集まっていた。

    前には簡単なステージとテーブル。
    マイク。
    見慣れない機材。
    いつも部屋で声だけ聞いていた人たちが、今日は目の前にいる。
    変な感じ。

    『さあ、YMF会場からお送りしております!』

    拍手が起こる。

    『いやあ、すごい熱気ですね!』

    本当に。
    暑い。
    人も多い。
    帰りたいほどではないけど。
    ラジオはまだ、ちょっと嫌い。

    何曲か紹介される。
    出演者が呼ばれる。
    会場が笑う。
    私たちも適当に喋りながら聞いていた。

    そのとき。

    『では、ここで一通、お便りをご紹介しましょう』

    何気なく聞いていた。

    『高校生の男の子からいただきました』

    高校生。
    ふーん。

    『同じクラスの女の子が、傘を忘れていました』

    「……え?」

    これって?
    あいつを探した。
    人混みの中。
    さっきまで向こうにいたはずなのに。

    『僕は、その子を傘に入れて帰りました』

    気がつくと、私の隣にいた。
    何も言わない。
    前を向いている。
    私も、何も言えなかった。

    『数日後の夜、偶然ラジオを聴いていました』

    『そこで読まれたハガキに、僕は驚きました』

    『そこには、僕がその日に経験したことと、ほとんど同じことが書かれていたからです』

    心臓が鳴る。
    あいつを見る。
    あいつは、まだ前を向いている。

    『でも――』

    一瞬、間があった。

    『あの日、ラジオで読まれたハガキを書いたのは、僕じゃありません』

    「…………」

    やっぱり。
    そうだったんだ。
    じゃあ――。

    『だから、今日のこのハガキは、僕が書きました』

    え?
    隣を見る。
    今度は、目が合った。
    あいつは何も言わず、じっと私を見ている。

    『あの日と同じように』

    逃げない。
    私も。
    あいつも。

    『最後に言わせてください』

    待って。

    『僕の好きな子の名前は――』

    澄み渡る青空に、心地よい風が吹いた。

    晴天。

    私たちの異変に気づいた何人かが、集まってきた。

    「さっきのラジオ。あんたのことじゃない?」

    あの日。
    呼ばれた名前は、私じゃなかった。

    「えっ?」

    でも。
    今日。
    あいつの再放送で呼ばれた名前は――

    「ええっ?」

    “わたし”
    でした。

    「えぇ~~~~っ!!」

    秋晴れのさわやかな空気に、元気な高校生たちの歓声が響き渡った。

    やっぱりわたし、ラジオが大好き。
    あいつも、大好き。

    <おわり>


    おまけ

    画像
    この画像ができた瞬間に物語が降ってきました(笑)


    ひとり言

    だいぶ書きたいことが分かってきたので、記事の整理をしようかなと思てます。

     
     
    AIと一緒に小説を書いたり、歌を作ったりしています。 ここではそんな作品と、その舞台裏を書いていこうと思っています。 ちょっとした暇つぶしに、楽しんでいただければ幸いです。 カクヨムでは別名義で小説を掲載しています。

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