
誰もいない足湯で、70%回復した。
最近、「もう無理」ってなる前に、山に逃げるようになった。
自宅から車で1時間かかるところにある足湯。
時間もガソリン代もかかるから、いつも諦めていた。
でも今日は行ってみたい。もし行かなかったら、「ほらまた」って、自分に言われそう。
勢いがあるうちに、顔だけ洗って家を出た。
太い道路を北に走っていくと、どんどん山が大きくなる。山にはまだ雪が残っていて、空が青いせいか、白さがやたらくっきり見えた。
山を見て泣きそうになる人の気持ちなんて、全然わからなかったけど、最近は、こういう景色に普通にやられる。
対向車もまばらになってくる細い道。不安を感じながら登って行くと、検索画面で見た石の看板が見えてきた。
車から降りると、微妙に寒い。
小さなタオルだけを持って、足湯に向かう。

Googleで見た写真より、だいぶ小ぶりだった。
ポツポツ雨まで降ってきて、これ、失敗したかなと思う。
でも、湖みたいに広がっている足湯を見たら、
「来てよかった」ってなった。


誰もいない。
「ごゆっくりどうぞ」なんて、誰にも言われていないのに、そんな感じがした。
山の中で、お湯だけがずっと流れている。
こんな時、私もまだ見捨てられてないなと思う。

源泉の近くはけっこう熱い。
「あっつ」って笑いながら足を引っ込めて、少しぬるい所に移動して、また戻る。
足湯の端から端まで何往復もして、たまにつるっと滑って、また笑う。
50を過ぎた女が、山奥の足湯で何をやってんだろと呆れながら、それでも、お湯を蹴るのをやめられない。
その間、仕事や家族、これからの人生のこと、何も考えていなかった。

さっきから何台も通っていたはずなのに、車がサーっと走る音が、急に耳に入ってくる。
まだいたいけど、そろそろ帰らなきゃならない。
今日も問題は解決しなかった。
でも、山の中で足を温めていたら、
「もう無理」のところからは戻ってこれた。
アイスでも食べながら帰ろうかな。
濡れた足を拭いて、立ち上がる。

