
2時間かかっていた営業の提案準備が、30分に。社内の情報を横断検索する「Sansan GPT」が変えた働き方
Sansan社内で営業の提案準備にかかっていたのは、平均約2時間。
その時間の多くが、「社内のさまざまなシステムやツールに散在するデータ」を探し、読み解き、まとめる作業に費やされていました。
この根深い課題の解決に、Sansan株式会社はAIで挑みました。
「Sansan GPT」──自社開発した、社内の複数システムを横断して情報を検索し、瞬時に提案のヒントを導き出すカスタムGPT。
提案準備の時間を最大4分の1に短縮したこの取り組みは、Sansanが全社で向き合う2025年の年間テーマ「AIファースト」を体現する事例でもあります。
開発を主導したエンジニアの荻野と、Sansan GPTをフル活用して成果を上げる営業の金内に、開発の背景や導入効果、そして実践を通じて見えてきたAI活用の勘所などを聞きました。
AIの力を最大限に生かした、次世代の営業のあり方とは。

写真左:金内 亮太(カネウチ リョウタ)Sansan事業部 エンタープライズ第2営業部 金融グループ
写真右:荻野 悠一(オギノ ユウイチ)技術本部 Digitization部 Platform Engineeringグループ
現場を観察し見えた「手作業による情報収集」の非効率
──「Sansan GPT」のシステム概要を教えてください。
荻野:「ChatGPT」のインターフェースを使いつつ、顧客情報を管理する「Salesforce」やビジネスデータベース「Sansan」、クラウドストレージの「Box」といった複数システムに点在する情報を横断的に参照できる、社内向けの拡張機能です。
例えば、「株式会社〇〇への提案について、過去の接点や類似案件を教えてください」と入力すれば、Sansan GPTが各システムから関連情報を収集・要約し、瞬時に回答を生成します。この体験は、最近話題の「MCPサーバー」で実現できる世界と同様です。

──「Sansan GPT」導入前、営業現場にはどのような課題があったのでしょうか?
金内:私が所属するエンタープライズ向けの営業部では、お客様ごとに提案を個別化していく作業に、多くの時間を費やしていました。社内に標準的な提案資料はあるものの、そのままではお客様に響く内容になりません。お客様の事業戦略や課題に沿って、提案のストーリーを再構築する必要があります。
そのために、まず社内の情報収集から始めるのですが、これが大変でした。一つの案件準備で、情報収集から資料作成までに1〜2時間かかることも珍しくありません。この準備が、提案するメンバーとレビューする私の双方にとって、大きな負担になっていました。
──その課題を解決するため、荻野さんに開発のミッションが下りたわけですね。
荻野:はい。経営陣から「AIで営業の生産性を向上させてほしい」という壮大なテーマが与えられました。私自身、AIに興味があったので「やります」と手を挙げたものの、正直なところ、当初は営業の業務について何も知りませんでした。
そこで、まず現場の解像度を高めることから始めたんです。営業チームの朝会や、提案準備の様子を見せてもらったりしました。
──現場の業務を観察して、何が見えてきたのでしょうか?
荻野:ある営業担当者の画面録画を見せてもらった際、金内さんが話していた通りの情報収集プロセスを目の当たりにしました。
Salesforceで案件情報を確認し、Sansanで過去の接点を持つ社員やキーパーソンを探し、Boxで類似の提案書を検索する。この一連の作業を、複数のウインドウを行き来しながら手作業で行っていました。
それを見て、「情報を探し、まとめる作業をAIで自動化できれば、生産性は大きく上がるのではないか」と直感しました。それが開発の出発点です。

GPT活用により「探す時間」をなくし「考える時間」を生む
──開発する上で、特にこだわったポイントはありますか?
荻野:現場で毎日使ってもらうツールにするため、ユーザー体験を左右する「速度」と「精度」には徹底的にこだわりました。
まず「速度」ですが、参照する情報量が膨大で、結果の生成までに1分以上かかるケースがありました。Sansan GPTを利用するたびにこれほど待たせては実用的ではないため、データを同期して保存し、高速なレスポンスを実現しています。
また、多数の文書ファイルを一度に処理しようとすると、データ量が膨大になりシステムの負荷も大きくなります。そこで、文書を少しずつ取得しながら、その内容をAIで要約・圧縮したうえでメインの処理に渡すような工夫もしました。
──もう一つの「精度」についてはどうでしょうか。
荻野:実は、開発工数のほとんどは、この「精度」を高めるためのデータ整備に費やしました。SalesforceやSansanから取得したデータを何も加工せずそのままAIに渡しても、期待する回答は得られません。誤った回答(ハルシネーション)を誘発したり、精度が著しく低下したりします。
営業のユースケースに合わせて、どのようなデータが必要かを分析し、AIが理解しやすいように整形することが、開発の肝でした。

──具体的には、どのようにデータを整形したのでしょうか?
荻野:例えばSalesforceには、システムが自動で付与するものの、人間は使わないIDやフラグといったカラムが多数存在します。これらはAIにとってノイズとなり、無関係な情報を解析して回答の質を下げてしまうため、あらかじめ削除しました。
精度向上のために特に効果的だったのが、商談の音声書き起こしデータを要約したことです。この書き起こしは会話がそのままテキスト化されているため、長大でノイズも多く、参照しにくい状態でした。そこで、AIが要点を自動で要約する機能を実装し、参照しやすい形に整えました。
この施策には副次的な効果もありました。商談中の何気ない会話に埋もれていた、お客様がポロッと漏らした本音や、議事録には残らない重要な示唆を、AIが的確に拾い上げてくれるようになったのです。
金内:まさに、会話には宝のような情報が眠っています。営業としては非常に助かりました。
──実際に「Sansan GPT」を導入した後、営業活動はどのように変わりましたか?
金内:情報を探す時間が半分以下になったという実感があります。以前は1〜2時間かかっていた提案準備が、今では30分から1時間程度で完了するようになりました。
他にも、過去の交渉経緯を把握するための時間が大幅に効率化されました。お客様から信頼し続けていただくためには、「過去にどんな提案をしたか」「その結果どうなったか」を把握しておくことが不可欠です。これまで、この把握にも多大な時間を要していました。ですがSansan GPT導入後は、数年前の交渉内容をAIに質問すると即座に回答を得られるため、情報収集の時間を大幅に削減できています。
こうした業務効率化は、メンバーの提案書レビューの質の向上にもつながっています。単にレビュー時間が削減されただけでなく、「社内にはこのような関連情報がある」「他のメンバーはこういう提案をしている」といった客観的なデータを基にした、的確なフィードバックが可能になりました。その結果、チーム全体のパフォーマンスが底上げされ、若手メンバーの成長も加速したと感じています。
情報を探す時間を削減できたことで、「考えるための時間」が増えました。
提案の方向性を練ったり、お客様との対話に集中したり、人にしかできない仕事に時間を使えるようになったのが、大きな変化です。

「小さく始めて、便利さを実感してもらう」のがAI導入の秘訣
──今後、「Sansan GPT」に期待する機能はありますか?
金内:今でも非常に助かっているのですが、欲を言えば、情報収集だけでなく、その先の提案資料のたたき台までAIが作ってくれると、さらに生産性が向上しそうです。そうなれば、資料作成に費やす時間を、提案内容のブラッシュアップといった、より本質的な作業に充てられるはずです。
荻野:実現するには、Sansanのドキュメント統制に沿った資料をAIで生成する必要があり、そのあたりの難易度は高そうです。ただ、デザイン系のAIも進化しているので、将来的には実現できる可能性もあります。ぜひ検討していきたいですね。
──「Sansan GPT」のような「社内に点在する情報を効率的に調査する」仕組みは、どのような企業で特に効果を発揮すると思いますか?
金内:私たちのように、マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスと役割を分担する「The Model型」の営業プロセスを導入しているSaaS企業には、間違いなくフィットするはずです。提案の機会が多い上に、お客様ごとに提案の個別化が求められ、そのための情報収集に時間がかかるので、導入効果を最大化しやすいためです。
一方で、ビジネスモデルや組織構造が異なれば、同じ仕組みが有効とは限りません。「営業活動のどの作業に時間を取られているか」という現場の課題を起点に、AIを導入する箇所を見極めるべきだと思います。例えば、ルートセールスが中心の企業であれば、訪問先に合わせて周辺の顧客情報を通知してくれるような機能が求められるかもしれません。
──最後に、AI活用を検討している読者へメッセージをお願いします。
金内:「社内の情報が散在していて探すのが大変」「情報を一元化したい」という課題は、どの企業にも共通する悩みだと思います。「Sansan GPT」は、その課題に対する一つの強力な解決策です。
まずは一部の情報源をAIに連携させるなど、小さく始めてみるのが良いかもしれません。現場のメンバーが「便利だ」と感じる体験を作れれば、そこから全社的な活用へと広がっていくはずです。
荻野:理想を言えば、情報の置き場所自体を整理し、「特定の場所に全情報が集約されている」状態がベストかもしれません。しかし、ほとんどの企業にとって、それを実現するには膨大な労力がかかります。
AIをうまく使えば、社内のツールに情報が点在したままでも、賢く情報を探し出し、集約してくれます。人間が「データを探して読み解く」作業をAIに任せるというアプローチは、AI活用における現実的かつ有効な一歩になるはずです。
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