
白ワイン一択だった私が、日本酒にハマった話。
かつて、私は白ワイン一本刀だった。
私はお酒が好き。
なかでも日本酒が大好きで、旅行先では地酒を楽しむことも多い。
でも、昔から日本酒を飲んでいたわけではない。
少し前までの私は、日本酒なんて全く飲んだことがなかった。
理由は単純。
なんとなく、つ よ そ う。
アルコール度数が高くて、お酒に強い人が飲むもの。
そんな漠然としたイメージがあったのだ。
思い返せば、私が幼い頃に亡くなった祖父は、いつもワンカップの日本酒を飲んでいた。
日本酒は年配の男性が飲むもの。そんなイメージが、幼い頃の記憶から生まれたのかもしれない。
だからといって、毛嫌いしていたわけじゃない。
自分から「飲んでみよう!」と思う機会がなかっただけ。
ちなみに、私がこれまで好んで飲んでいたのは白ワイン。
実は日本酒とアルコール度数が極端に違うわけでもないのだが、そんなことは考えもしなかった。
そもそも私は、炭酸とフルーツが苦手。
ビールやチューハイ、フルーツ系のお酒はあまり得意ではない。
そんなわけで、お酒を飲むときは、ほぼ白ワイン一択だった。
……いや、白ワインもブドウからできているので、立派な果実酒なんだけども。
そのあたりは、どうか深く追及しないでいただきたい。
とにかく、私は長らく白ワイン一本刀で戦っていたのである。
……何と戦っていたのかは、自分でもよくわからない。
ただ、この一本刀には弱点があった。
料理との相性である。
もちろん、ムニエルなどの洋風の魚料理にはよく合うと思う。
しかし、刺身や和風の味付けの魚料理となると、どうもしっくりこない。
特に刺身と合わせると、魚の生臭さが強調されるように感じてしまうのだ。
もちろん、あくまで私個人の好みの話である。
和食を食べながら白ワインを飲むたびに、何となく物足りなさを感じていた。
ーーーーーそんな私に、転機が訪れる。
城崎温泉で出会った救世主。
以前、家族で城崎温泉を訪れたときのこと。
そのとき宿泊した旅館の夕食は、のんべえに嬉しい飲み放題付きだった。
料理は日本海側らしく魚介類が中心で、お刺身をはじめ、おいしそうな料理が並んでいた。
ところが、ここで思わぬ問題が発生する。
白ワインが、どうにも進まない。
せっかくの飲み放題なのに、お酒が進まないなんて!
これは由々しき事態だ!
何か料理に合うお酒はないものか。
そんなとき、ふと目に入ったものがあった。
日本酒のサーバーである。
銘柄は菊正宗だったか、白鶴だったか。
今となっては記憶が曖昧だが、どちらも兵庫県にゆかりのある日本酒だ。
それまで日本酒のサーバーなんて見たことがなかった私は、ちょっと興味をそそられた。
しかも、自分で好きな量を注げる。
「ちょっとだけ飲んでみようかな」
日本酒なんて、ほとんど飲んだことがない。
でも、少しだけ試して、口に合わなければやめればいい。
そんな軽い気持ちで、日本酒を注いでみた。
そして、ひと口。
……あれ? 意外と飲めるやん!
日本酒とは、もっとこう、喉がカッと焼けるような強烈なお酒だと思っていた。
ところが、そんな想像はどこへやら。
思いのほか、すんなり飲めてしまったのである。
これならば!と、お刺身と合わせてみた。
そして、衝撃を受ける。
めっちゃ合うやん!!
お刺身を食べて、日本酒をひと口。
……何これ、めちゃくちゃおいしい!
白ワインと合わせたときに感じていた、あのちぐはぐさがまるでない。
それどころか、お刺身も日本酒も、それぞれ単独で味わうよりおいしく感じる。
料理とお酒が合うって、こういうことなのか!
このとき初めて、ペアリングの楽しさを実感したのだった。
考えてみれば、日本酒はお米から造られるお酒だ。
日本人が昔から親しんできたお米と和食。
そら、相性がいいのも納得である。
……いや、飲む前に気づけよ、という話なんやけど。
ほかのお料理とも相性がよく、すっかり気に入ってしまった。
白ワイン一本刀で戦っていた私の前に、ようやく救世主が現れたのである。
これが、私と日本酒の出会いだった。
もっといろんな日本酒が飲みたい!
城崎温泉で日本酒のおいしさを知った私は、もっといろんな銘柄を試してみたくなった。
日本酒の世界は、まだまだ知らないことだらけ。
そこで目をつけたのが、京都の伏見と神戸の灘。
どちらも古くから酒造りが盛んな、日本を代表する酒どころだ。
せっかくなら、酒蔵が集まる場所でいろんな日本酒を楽しんでみよう!
そう思い、足を運ぶことにした。
まず訪れたのは、伏見。
なかでも印象に残っているのが、「伏水酒蔵小路」での日本酒の飲み比べだ。
ここには、伏見の18蔵元の日本酒を一度に楽しめる「十八蔵のきき酒セット」がある。
18種類の日本酒を一度に飲み比べられるなんて、日本酒好きには夢のようなセットではないか!

しかも、それぞれの日本酒には味わいの特徴などが書かれた説明が付いている。
日本酒初心者だった私には、これがとてもありがたかった。
同じ日本酒でも、こんなに味が違うのか。
実際に飲み比べることで、その違いを楽しめるのが面白かった。
ただし、1杯は少量でも、18種類合わせると約2合。
なかなかの量である。
個人的には、お酒にある程度強い人にしかおすすめできない(笑)。
続いて訪れたのが、神戸の灘。
こちらでは白鶴酒造資料館などを巡り、昔ながらの酒造りについて学んだ。

そして、「櫻正宗記念館 櫻宴」のレストランでランチ。

もちろん、日本酒も注文した。
酒蔵を訪ねて、酒造りについて知り、その土地の日本酒を飲む。
ただ飲むだけだった日本酒に、少しずつ「知る楽しみ」も加わっていった。
おいしい組み合わせを知りたくて。
伏見や灘を訪れ、さまざまな日本酒に触れるうちに、もっと知りたいことができた。
それは、料理との相性。
いわゆる「ペアリング」である。
そもそも私が日本酒を好きになったのは、城崎温泉でお刺身と合わせたことがきっかけだった。
だったら、ほかの料理には、どんな日本酒が合うのだろう?
日本酒には、吟醸酒や純米酒など、いろいろな種類がある。
それぞれの違いも知りたいし、料理に合わせて自分で選べるようになりたい。
そこで、日本酒の入門書を買って勉強することにした。
私が読んだのは、葉石かおりさんの『はじめての日本酒 まんが&図解でわかる』。
漫画や図解を交えながら、日本酒の基本をわかりやすく解説してくれる本だ。
特に興味深かったのが、料理とのペアリングについての話。
例えば、すっきりした味わいの日本酒をお刺身に合わせたり、旨味のある純米酒を味の濃い煮物に合わせたり。
もちろん、同じ種類の日本酒でも味わいは異なるので、必ずこの組み合わせが正解というわけではない。
それでも、料理に合わせてお酒を選ぶという考え方が、私にはとても面白かった。
以前は、飲めるお酒の選択肢が少なくて困っていたのに。
気づけば、料理に合わせて日本酒を選ぼうとしている。
日本酒の楽しみ方が、少しずつ分かってきたような気がして嬉しかった。
結局、お刺身と日本酒が一番好き。
日本酒を飲むようになってから、私のお酒選びはずいぶん楽になった。
白ワイン一本刀で戦っていた頃は、料理との相性に悩むことも多かった。
でも、日本酒を飲むようになってからは、そういうことがほとんどなくなった。
もちろん、味の好みは人それぞれ。
それでも、私にとって日本酒は、どれを選んでもおいしく飲めるお酒なのだ。
そして何より、日本の居酒屋でおなじみの料理と相性がいい。
お刺身、焼き魚、煮物……。
日本酒を好きになったことで、食事の楽しみがぐんと広がった。
でもやっぱり、私が一番好きなのは、新鮮なお刺身と日本酒の組み合わせ。
お刺身をひと切れ食べて、日本酒をひと口。
ああ、おいしい。
この瞬間が、たまらなく好きなのである。
もはや私にとっては、一種の儀式みたいなものだ。
そして、この組み合わせこそが、私の日本酒好きの原点でもある。
思えば、すべての始まりは、城崎温泉の旅館で見つけた日本酒サーバーだった。
あのとき、ほんの少しの好奇心で日本酒を注いでいなければ、今も白ワイン一本刀で戦っていたかもしれない。
日本酒は、決して「お酒に強い人だけが楽しむもの」ではない。
すっきりしたもの、香りが華やかなもの、お米の旨味をじっくり味わえるもの。
ひと口に日本酒といっても、その味わいは実にさまざまだ。
そして、料理と合わせることで、また違ったおいしさに出会える。
私が日本酒を好きになって一番嬉しかったのは、いつもの食事がもっと楽しくなったことだ。
もし、日本酒をまだ飲んだことがないという方がいたら。
まずは、おいしい和食と一緒に、少しだけ試してみてはいかがだろうか。
お店の人に相談しながら、自分に合いそうな一杯を選んでみるのもいい。
かつての私がそうだったように、思いがけず「めっちゃ合うやん!」と驚く瞬間が訪れるかもしれない。
その一杯が、食事の楽しみをもっと広げてくれるかもしれないのだから。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました!
日本酒を好きになった私は、今では旅先の居酒屋で地酒を楽しむのが大好き。
ひとりで居酒屋のカウンターに座っていたら、思いがけない出会いがあったことも。
そんな旅先での出来事を、こちらの記事に綴っています。