
【シェアハウス入居者インタビュー#10・後編】元入居者のLさんから聞いた、障害者就労支援のリアル

はじめに
「就職できた」という結果と、「その人が長く働き続けられる」という結果は、必ずしも同じではありません。
今回お話を伺ったのは、弊社LLC-HOUSEの白金エリアのシェアハウスで約3〜4年間暮らしていた元入居者のLさん(34歳)。現在は、障害のある方の一般企業への就職をサポートする「就労移行支援事業所」で働いています。
インタビュー前編では、関西から上京した際の住まい探し、シェアハウスでの人間関係、退去までのエピソードを伺いました。
▶ 前編はこちら:「社会人向け、現実向け」元入居者Lさんが語る、シェアハウス生活のリアル
後編では話題を変えて、Lさんの現在のお仕事に迫ります。就労移行支援では具体的にどんなことをするのか。なぜ本人の希望と適性をすり合わせることに時間が必要なのか。また、福祉事業者の質の問題や、障害者雇用率の数字を優先する企業の実情と葛藤など、普段なかなか聞く機会のない話にも踏み込みました。
私自身あまり理解していない分野だったこともあり、非常に勉強になった回です。障害者就労支援のリアルな現場について、元入居者さんの視点からお届けします。
元入居者Lさんのプロフィール
年齢:34歳
現在の職業:就労移行支援事業所の職員
過去の職歴:学校教員、IT人材派遣営業、放課後等デイサービス、フリーランスなど
シェアハウス経験:LLC-HOUSEが初めて
入居期間:約3〜4年間
入居のきっかけ:関西からの上京と住居費の節約
現在の目標:マネージャーへのキャリアアップと福祉分野での支援の拡大
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■ IT営業から福祉の仕事へ。「誰かをサポートする仕事」が自分に合っていた

ここからは、現在の仕事について詳しくお話を伺いました。
Lさんは現在、就労移行支援事業所で働いています。
あまり聞き慣れない職業かもしれませんが、簡単に言うと、障害のある方が自分に合った仕事を見つけ、働き続けられるよう支援する仕事です。
これまで学校教員やIT人材派遣営業、放課後等デイサービス、フリーランスなど、さまざまな仕事を経験してきました。
IT営業時代はエンジニアをサポートし、学校や福祉分野でも人を支える仕事に関わってきた。
そう考えると、就労移行支援という仕事が自分に合っているのではないかと思うようになったそうです。
実際に応募し、説明を聞き、1日体験をしたところ、非常に良い感触があったといいます。
「基本的には誰かをサポートするのがずっと仕事で一番やりがいを持っていたところだったので、そこが一番しっくりきました」
さらに、こう続けてくれました。
「普通に事務をやるよりやりがいがある方が自分に向いていたということですね」
これまでのLさんの職歴を振り返ると、職種は違っていても、誰かの困りごとを解決したり、成長をサポートしたりするという共通点があります。
いろいろな仕事を経験したからこそ、自分が何にやりがいを感じるのかがよりはっきりと見えてきたのかもしれません。
■ 就労移行支援とは? 就職までに1〜2年かける理由

では、就労移行支援事業所では具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?
Lさんによると、利用するのは障害があり、一般企業への就職を希望しているものの、すぐに働き始めることには不安や課題がある方々です。
例えば、体力的に毎日通勤できるか分からない方。
自分の障害や特性をうまく説明できない方。
過去に就職したものの、職場の人間関係や仕事内容が合わず、仕事が長続きしなかった方。
そうした方々が、原則として最長2年間の支援を受けながら、就職に向けた準備を進めていきます。
支援の内容も、単純な職業訓練だけではありません。
パソコンを使った作業や手作業、仕分けなどの課題を通して、その人が何を得意としていて、何を苦手としているのかを一つずつ確認していきます。
さらに、作業の途中で困ったときに報告できるか、指示を理解できるか、集中できる時間はどのくらいか、といった点も見ていくそうです。
Lさんは、「本人の特性を明確に言語化すること」がこの過程で重要だと話してくれました。
例えば、ある作業ができなかったとしても、単純に「この人はこの仕事が苦手」と判断するわけではありません。
・説明の仕方を変えれば理解できるのか。
・作業を細かく分ければ対応できるのか。
・目印を付ければ正確に作業できるのか。
さまざまな方法を試しながら、その人が能力を発揮できる条件を探していきます。
「例えば知的障害の方の対応だと裁断で切るとなってもどこで切ったらいいか分からない。でも付箋で印をつければ分かるなど、段階を踏んで実際の作業ができるようになるかを確認しながら探すのが仕事なんです」
この説明は、とても分かりやすいと感じました。
単に「できる・できない」を評価するのではなく、どうすればできるようになるのかを探す。
そして、それを企業側にも説明できる形に整理していくわけです。
企業の人事担当者による適性評価にも似ていますが、それをもっと細かく、時間をかけて行う仕事なのだと理解しました。
■ 「支援する側にはゴールが見えていても、本人が納得するまで1年かかることもある」

就労移行支援の話の中で、特に印象に残ったのが、『本人の希望と適性が一致しない場合』の対応でした。
例えば、本人はどうしてもパソコンを使う仕事に就きたいと思っている。
しかし、実際に訓練を続けてみると、作業の理解や継続が難しく、現実的には別の仕事の方が向いている場合もあるそうです。
では、支援する側が「あなたには向いていません」と説明すれば、それで済むのでしょうか。
もちろん、そんなに単純な話ではありません。
「本人がどうしてもPCをやりたいという希望があって、それでもやっぱり難しいよねと言い続け、本人が『やっぱり難しかったんだ』と自分自身で納得するプロセスも必要です」
さらにLさんは、こう話していました。
「支援側としてはゴールが見えているけど、本人にゴールが明確に見えるまでに1年を要することもあります」
ここが、単なる人材紹介との大きな違いなのだと思います。
支援する側から見れば、早い段階でその人の適性が分かることもある。
しかし、本人がその現実を受け入れ、納得して次の選択をするまでには時間が必要です。
無理に就職先を決めてしまえば、就職そのものは実現するかもしれません。
でも、本人が自分の特性を理解していなければ、また同じ問題が起きてしまう可能性があります。
本人の希望を尊重しながら、現実的に働ける環境を一緒に探す。簡単なようで、非常に難しい仕事です。
就職という結果だけでなく、その後も働き続けられることを考えるからこそ、時間をかけた支援が必要なのだと感じました。
■ 福祉業界にもある事業者の質の問題。A型・B型作業所の実情

インタビューでは、就労支援業界そのものが抱える問題についてもお話を伺いました。
障害のある方が働くための支援には、就労移行支援のほかに、就労継続支援A型・B型などがあります。
大まかな違いは次のとおりです。
①《就労移行支援》
一般企業への就職を目指し、原則2年間を上限として、職業訓練や就職活動のサポートなどを受ける仕組みです。
②《就労継続支援A型》
事業所と雇用契約を結び、支援を受けながら働く仕組みです。
③《就労継続支援B型》
雇用契約を結ばず、体調や能力に応じて作業に取り組み、工賃を受け取る仕組みです。
これらは利用者の状況や希望に応じて選択されるもので、必ずしも一つの順序で進むわけではありません。
では、こうした福祉サービスを提供する事業者の質に違いはあるのでしょうか?
Lさんによると、特にB型事業所では、事業所ごとの支援内容に『大きな差』があると感じているそうです。中には、利用者にゲームなどをさせるばかりで、十分な作業機会や能力向上の支援を提供していないように見える事業所もあるとのこと。
B型には原則として利用期間の上限がないため、適切な支援がないまま、長期間利用が続いてしまう懸念があると指摘していました。
「働くという認識ではない場所が多く増えてしまったので。居場所のようになっていて、自立支援事業所のようになってしまっている」
もちろん、B型事業所は一般就労への移行だけを目的とするものではなく、働く機会の提供や社会参加にも重要な役割があります。
また、長期間利用すること自体が問題というわけでもありません。
ただ、本人の希望や能力に応じた支援が十分に行われているかどうかは、別の問題です。
制度の本来の趣旨に沿った運営がされているのか。
この点は、福祉業界に限らず、公的な制度を活用する事業全般に共通する課題かもしれません。
■ 新たに始まった「就労選択支援」という仕組み

こうした就労支援の課題に関連して、2025年10月から「就労選択支援」という制度が始まりました。
本人の希望や就労能力、適性などを整理し、より適切な働き方や支援サービスを選べるようにするための制度です。
Lさんも、この仕組みについて触れてくれました。
ただし、この制度ができたことと、すべてのB型事業所の新規参入が禁止されたということは別の話です。
制度の対象や利用条件は段階的に整備されており、就労支援の質を高める取り組みの一つと位置付けられています。
制度が用意されても、実際に運用するのは現場の人たちです。
最終的には、一人ひとりに適切な支援が届いているかどうかが重要なのだと思います。
■ 「早く就職したい」と「長く働き続けられる」は同じではない

就労移行支援事業所には、早く仕事を見つけたいという方も多く訪れます。しかし、過去に就職してもうまくいかなかった経験を持つ方も少なくないそうです。
「『早く就職したい』という人は多いですが、『長続きしない』『前職は障害者雇用だったけれど上司から罵倒されて人間関係が合わなかった』など、理由が分からず続かないという悩みは聞きます」
これは障害者雇用に限らず、多くの社会人にも共通する悩みではないでしょうか?
・仕事内容が合わない。
・職場の人間関係が難しい。
・自分の強みや苦手なことをうまく説明できない。
ただ、障害のある方の場合は、本人の特性と職場側の理解が噛み合っていないことが、働き続けるうえでかなり大きな障壁になることがあります。だからこそ、就職までに丁寧な準備を行う必要があるわけです。
一方で、Lさんは就労移行支援を提供する事業所にも、運営方針の違いがあると話してくれました。
Lさんの職場では、1年から1年半ほどかけて就職を目指す利用者が多いそうです。
しかし、他の事業所ではもっと短期間で就職に繋げるケースもあるといいます。もちろん、早く就職できること自体は悪いことではありません。
本人の準備が整っていて、適切な職場が見つかるのであれば、それは喜ばしいことです。
問題は、本人の理解や準備が不十分なまま、就職という結果だけを優先してしまう場合です。
Lさんは、事業所の営業的な事情と、利用者の「早く働きたい」という希望が重なったとき、そうしたリスクが生まれる可能性を指摘していました。
就職者数という数字だけでは分からない、『支援の質』の問題です。
■ 障害者雇用率の「数字」を優先すると、何が起きるのか

ここで話題は、障害者を雇用する企業側の問題へと移ります。
日本では、一定規模以上の企業に対して、法定雇用率に基づく障害者雇用が義務付けられています。
これは障害のある方の就業機会を確保するための重要な制度です。
ただし、Lさんは現場で、数字を優先することによる弊害を感じることもあるそうです。
企業側には、必要な雇用人数を確保したいという事情があります。
一方、就労支援事業所にも、利用者を就職へ繋げたいという目的があります。
双方の事情が一致することで、採用までの流れがスムーズになることもあるでしょう。
しかし、そこに本人の適性や希望への理解が十分に伴っていなければ、就職後に問題が生じる可能性があるとLさんは懸念しています。
「長く働けるかや労働生産性などが度外視されてしまうリスクはあります。もちろん人事担当者が上手く運用している企業もありますが。全体としては数字を合わせる流れになりがちです」
このお話を聞いて、私は一つ疑問に感じました。
現在、企業には従業員の働きやすさやワークライフバランス、職場環境への配慮が強く求められています。
当然、それは障害のある従業員にも当てはまるはずです。
ところが、障害者雇用について十分な知識がないまま、雇用率を満たすことだけを求められた企業では、現場の対応が追いつかないこともあるのではないでしょうか?
Lさんによると、実際にそのような問題は存在するそうです。
「企業は今まで一般就労の対応をしてきています。その中で、一般雇用のノウハウが主な状態のまま、上から障害者雇用を進めてって言われる」
人事担当者が、突然これまで経験のない分野への対応を求められる。
しかも、障害の特性や必要な配慮は一人ひとり異なります。
一般的な採用活動の延長だけでは対応が難しい場面もあるでしょう。
行政やハローワークなどによる研修・支援もありますが、Lさんが接してきた人事担当者の中には、そうした制度の存在自体を知らない方も少なくなかったそうです。
「今まで接した人事部の方はこういったハローワークが研修をやってくれている事さえ結構知らないっていう人も多いんです」
これは、企業側が意図的に配慮を怠っているという問題だけではなさそうですね。必要な情報やノウハウが、現場まで十分に届いていない…。
制度は存在していても、それを活用するための運用体制がなかなか追いついていない現状があるという課題です。
■ 就労支援を受ける人が、後悔しないために気をつけること

では、これから就労移行支援を利用する方は、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?
Lさんに尋ねると、特に重要なのは「自己理解」だと話してくれました。
支援を受ける中で、自分では気づいていなかった得意なことや苦手なことが見つかる場合もあります。
そのため、事業所からのアドバイスや提案を、一度受け止めて考えてみることが大切だそうです。
一方、事業所や担当者の対応については、注意した方が良いケースもあるといいます。
「障害特性を理解する期間が極端に短かったり、本人が納得する前に勝手に書類を作り進めて早く就労させようとするプレッシャーがある事業所や担当者には注意した方が良いです」
ここは非常に重要なポイントだと思いました。
早く就職することを希望する本人がいる一方で、本人の気持ちや理解を置き去りにして手続きだけが進んでしまうのは問題です。
就労先の選択は、その後の生活にも大きな影響を与えます。
だからこそ、分からないことがあれば遠慮せずに質問すること。
もし自分で質問したり、判断したりするのが難しい場合には、家族などに同席してもらうことも有効だそうです。
また、就職先の企業を選ぶ際には、障害者雇用の経験が豊富な企業が必ずしも最適とは限らないといいます。
既に受け入れの仕組みが整っている企業でも、制度やルールが固定化されていて、個別の配慮を柔軟に調整しにくい場合もあるそうです。
逆に、新しく障害者雇用に取り組み始めた企業であっても、支援事業所からのアドバイスを積極的に受け入れてくれるケースがあります。
「慣れている・慣れていないの先入観は外しても良いと思います」
企業の規模や実績だけで判断するのではなく、本人に必要な配慮を理解し、対応してくれるかどうか。難しいところです。
■ 企業側にも知ってほしい。就労支援事業所は採用後も相談できる存在

就労移行支援事業所の役割は、就職が決まった時点で終わるわけではありません。Lさんによると、就職後も一定期間、本人や企業へのフォローを行う仕組みがあります。
さらに、条件に応じて『就労定着支援』というサービスを利用することで、職場への定着を継続的にサポートすることもできます。
しかし、企業側には、そもそも就労支援事業所へ相談できることを知らないケースもあるそうです。
「連携ができること自体を知らない企業もあるので、就労支援側に相談できることを知ってもらいたいです」
働く本人が困ったとき、上司や人事担当者だけで問題を解決しようとするのではなく、障害特性や支援方法を理解している専門家に相談する。
もちろん、企業によっては既に十分な体制を整えているところもあります。しかし、制度が存在していても、その活用方法が知られていなければ意味がありません。
就労支援事業所、企業、行政機関、そして働く本人。
それぞれが情報を共有し、必要なときに連携できることが、長く働ける職場づくりに繋がるのだと思います。
■ 一番嬉しいのは「就職できた」ではなく、「半年後も働けています」という報告

最後に、Lさんに現在の仕事で一番やりがいを感じる瞬間を尋ねました。
「利用者が自分の状態を理解して対策が見つかった時や、就労して半年後も問題なく働けていると報告を受けた時が一番やりがいを感じます」
この言葉を聞いて、今回の話が一つに繋がった気がしました。
就職すること自体が、最終的なゴールではない。
自分の得意なことや苦手なことを理解し、必要な配慮を受けながら、自分に合った場所で働き続けられること。
そのために、何か月も、場合によっては1年以上の時間をかけて準備をしていく。
Lさんの話からは、単に就職者数を増やすのではなく、一人ひとりのその後の生活まで見据えた支援への思いが伝わってきました。
ちなみに、今後のキャリアについても聞いてみました。
Lさんは、将来的にはマネージャーを目指しつつ、養護施設や福祉全般の施設とも連携して、より幅広い支援に関わっていきたいと考えているそうです。
これまで、学校、IT業界、福祉分野とさまざまな仕事を経験してきたLさん。その経験が、現在の仕事の中で少しずつ繋がっているように感じました。
おわりに

前編では、Lさんが上京してシェアハウスで生活した日々を振り返りました。後編で印象的だったのは、就労移行支援という仕事における「本人の理解と納得」を大切にする姿勢です。
就職できるかどうかだけではなく、その後も無理なく働き続けられるかどうか。制度や数字だけでは見えない現場の実態に向き合う仕事なのだと感じました。
考えてみれば、人生の中で自分に合った環境を探していくという点では支援が必要な方々と私たちには何も変わりはありません。
自分自身が納得しながら選択をすること。その選択をするために、必要な情報や環境を整えていくこと。
私たちもシェアハウス運営者として、入居者がそれぞれの歩みを進めていくうえで、安心して利用できる住まいを提供し続けたいと思います。
Lさん、今回は貴重なお話をありがとうございました!これからのご活躍も応援しています。

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