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私を呼ぶ音|掌編小説

     窓を開けると、湿った熱風のような空気が流れ込んできた。ジージーと鳴く蝉の声が、まるで部屋中に充満しているようでうるさい。遠くから聞こえる祭りの太鼓の音は、賑やかというより、どこか物悲しい響きを帯びていた。

     風鈴がチリンとひとつ鳴る。いつもの平和な夏の音。でも、最近その音が少しずつおかしくなっていった。

     チリン、と鳴るたびに、それは人の話し声のように聞こえる。最初は気のせいか、疲れているせいだと思った。しばらくすると、それは私の名前を呼んでいるようにも、何かを囁いているようにも聞こえる。それでも私は「幻聴だ」と自分に言い聞かせた。

     ある夜、風もないのに風鈴が激しく鳴り始めた。

     ――チリン、チリン、チリン……。

     まるで誰かが、窓の外で必死に揺らしているみたいに。恐る恐る窓に近づくと、音はぴたりと止まった。代わりに、すぐそこから、「ひゅう」と得体のしれない何かが息を吸うような、息を吐くような、妙な音が聞こえた。

     もう私には、窓を開ける勇気はなかった。

     昨夜は、太鼓の音がやけに近く感じた。家の裏庭で叩いているみたいにけたたましい音を立てている。布団の中で耳を塞いでも、ドン、ドン、と心臓に直接響くような振動が伝わってきた。そして、その太鼓の音の合間に誰かの笑い声が混じっていた。それはとても楽しそうで、同時に、とても冷たい笑い声だった。

     今夜も蝉の声が耳障りだ。もう、それは完全に私の名前を呼んでいる。窓の外は真っ暗で何も見えないはずなのに、誰かの視線を感じる。

     風鈴はもう鳴らない。代わりに、玄関のドアが、「カチャリ」と音を立てた。

     夏の音は、もう私を逃がしてはくれない。

    (了)


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    現代ドラマの掌編、短編小説をメインに投稿中。 たまにピアノで西村由紀江さんとジョージ・ウィンストンと日吉真澄さんの曲を弾きます。 ソリスピア第6回超短編小説祭入選。 第1回文苑堂54字の物語コンテスト最優秀賞&特別賞。 第12回自作小説の一節コンテスト最優秀賞。

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