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恋文を読む人|掌編小説

    「あの人、ラブレター読んでる」

     オープンテラスのカフェで、向かいに座っている妻が突然言い出した。僕の肩越しに誰かを見ているようだ。

    「あー振り向いちゃダメ! 気付かれるから!」

     90度動かした首を再び正面――妻の方へと向ける。

    「なんでラブレターって分かるの?」
    「人差し指でこう……文字をなぞるように読んでるの。横にね。私も昔、ああいう風に読んでたから」
    「ラブレターを?」
    「そう」

     一瞬、「いつ、誰からもらったんだ?」と嫉妬の念に駆られたが、とりあえず耐える。メールやメッセージアプリ全盛の時代、手紙を、しかも文字を指でなぞりながら読むなんて、ずいぶんとロマンがある。

    「ちょっと微笑みながら読んでるの。しかも、ラブレターを文庫本で隠してる。道ならぬ恋かしら」
    「道ならぬ恋って、ドラマじゃあるまいし」

     妻の観察眼と想像力には感心する。でも、そうやって細かく説明されると余計に見たくなってしまう。それを察知したのか、妻は「ダメだからね」と釘を刺す。
     確かに、僕が振り返って、もしその人と目が合ったりしたら、それはそれで気まずい。ここは妻のたくましい想像力だけで我慢しよう。

    「どんな人?」
    「女性で歳は……私達よりちょっと上かな。40の手前くらい。黒髪でウェーブ巻きのセミロング。綺麗な人よ」
    「へぇ……」
    「あなたの好みのタイプかもね」
    「いやいやそんな……」

     興味のないフリをして、空からになったコーヒーカップに口を付ける。
     歳は40前で黒髪でウェーブ巻きのセミロングで、指で文字をなぞりながらラブレターを読んでて……。

     ――しかも、僕の好みのタイプだと?

     脳が物凄い勢いで女性のイラストを描かく。僕の想像力も、決して妻に負けてない。
     あの映画に出てた女優さんか……いや、あのCMに出てたタレントさんか……いやいや、あのドラマのヒロイン役のあの人か……。妄想は止まらない。

    「ダメだ! やっぱり気になるよ。そっと見ていい?」

     妻が「そっとね」と言うのと同時に、ゆっくり……ゆっくりと首を回転させ、チラッと後ろを見た。しかし、そこには白いベンチがあるだけで、誰もいない。僕は思わず椅子から立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回す。

    「バーカ」

     驚いて妻を見ると、「あっかんべー」と舌を出している。

    「そういうことして、楽しい?」
    「うん、すっごく」

     あまりにも眩しい笑顔でそう言うので、何だか許す気になった。

     僕は店員さんを呼び、無駄に働かせてしまった脳に糖分を送るため、コーヒーのおかわりを頼んだ。

    「ふぅ」と一息ついてコーヒーを飲むと、僕の脳は、文字を指でなぞりながらラブレターを読む、妻の姿を描いた。

     ――可愛いとこ、あるじゃないか。

    (了)


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    テーマ「創作」で「CONGRATULATIONS」を頂きました!

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    現代ドラマの掌編、短編小説をメインに投稿中。 たまにピアノで西村由紀江さんとジョージ・ウィンストンと日吉真澄さんの曲を弾きます。 ソリスピア第6回超短編小説祭入選。 第1回文苑堂54字の物語コンテスト最優秀賞&特別賞。 第12回自作小説の一節コンテスト最優秀賞。

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