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債務償還年数とは|銀行が最も見る「返済力」の指標|銀行取引の教科書 #08

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第8回をお届けします。

    前回は、融資審査で見られる決算書のポイントを取り上げました。
    銀行員は損益計算書より先に貸借対照表を読むこと、現預金や売掛金を月商比で見ること、そして勘定科目内訳明細書が丁寧に読まれていること。
    決算書の見せ方を工夫するより、実態を良くすることが先だ、という内容でした。

    今回は、そこで見てきた数字が最終的に集約される一つの指標を取り上げます。
    テーマは「債務償還年数」です。

    聞き慣れない言葉かもしれません。
    しかしこれは、銀行が融資判断で最も重く見ている数字です。そして、電卓があれば5分で計算できます。

    今回は、ぜひ自社の数字で計算しながら読み進めてください。

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    銀行員が、真っ先に計算する数字

    銀行員が決算書を受け取ったとき、何をするか。

    前回お伝えしたとおり、まず貸借対照表を開きます。
    そして純資産、現預金、借入金を確認します。
    ほぼ同時に、損益計算書の営業利益と、減価償却費を確認します。

    この4つの数字を拾ったら、次にやることはほぼ決まっています。
    債務償還年数の計算です。

    私自身も銀行にいた頃、これは反射のような作業でした。
    数字を拾い、頭の中で割り算をする。
    そして、その結果が10年を大きく超えていれば、「この会社に新規融資を出すのは簡単ではないな」と、その時点でおおよその見通しが立ってしまいます。

    なぜそこまで重視されるのか。格付けのスコアリングにおいても、この指標は数ある財務指標のなかで最も高い配点が置かれているのが一般的です。
    そして第5回でお伝えした稟議書の「返済の見通し」という項目を、数字として支えるのがこの指標です。

    つまり、担当者が稟議書で「返せます」と書けるかどうかは、この数字にかかっているのです。

    まず、計算してみましょう

    計算式はシンプルです。

    債務償還年数 =(借入金 − 現預金)÷(営業利益 + 減価償却費)

    分子は「正味の借金」です。
    借入総額から、すぐに返済に充てられる手元の現預金を引いたもの。
    実質的にいくら借りているのかを表します。

    分母は「1年間に返済に回せるキャッシュ」です。
    本業で稼いだ営業利益に、現金の支出を伴わない費用である減価償却費を足し戻したもの。
    この金額が、1年間で返済に充てられる原資となります。

    そして答えが意味するのは、「今の稼ぎのペースで、あと何年で借金を返し終えられるか」です。

    具体例で見てみましょう

    同じ年商5億円の2社を比べます。

    A社

    • 借入金:1億2,000万円

    • 現預金:3,000万円

    • 営業利益:1,000万円

    • 減価償却費:300万円

    (12,000万 − 3,000万)÷(1,000万 + 300万)= 約6.9年

    B社

    • 借入金:1億8,000万円

    • 現預金:1,000万円

    • 営業利益:600万円

    • 減価償却費:300万円

    (18,000万 − 1,000万)÷(600万 + 300万)= 約18.9年

    年商は同じでも、評価はまったく異なります。
    A社は問題のない水準、B社は新規融資が相当に難しい水準です。

    なお、計算方法は銀行によって幅があります。
    分母を「当期利益+減価償却費」とする場合や、「経常利益×(1−税率)+減価償却費」として税負担を織り込む場合もあります。
    ただ、大きな傾向は変わりません。
    まずは上の式で計算してみてください。

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    なぜ、この指標が最重要なのか

    理由は3つあります。

    1.融資は、返済されて初めて完結する

    銀行にとって、融資は「貸したら終わり」ではありません。
    約束どおり返済されて、初めて完結します。

    ですから、融資判断の核心は「この会社は返せるのか」という一点にあります。
    売上が大きいかどうか、利益が出ているかどうかは、その判断のための材料にすぎません。
    債務償還年数は、まさにその核心を直接測る指標なのです。

    2.規模の違う会社を、同じ物差しで比べられる

    年商1億円の会社と年商50億円の会社では、借入金額も利益額もまったく違います。
    金額だけを見比べても意味がありません。

    しかし債務償還年数であれば、規模にかかわらず同じ土俵で比較できます。
    借入と稼ぎを一つの数字に結びつけているからです。
    銀行が多数の取引先を評価するうえで、これほど扱いやすい指標はありません。

    3.運転資金は、別扱いされることがある

    ここは少し実務的な話になりますが、重要なので触れておきます。

    第4回でお伝えした「経常運転資金」を覚えていらっしゃるでしょうか。
    売掛金+在庫−買掛金で計算される、事業を続ける限り常に必要な資金です。

    この経常運転資金に対応する借入は、事業が続く限り返済を前提としない性質を持っています。
    返済してもまた必要になるからです。

    そのため銀行によっては、借入金からこの経常運転資金分を差し引いて債務償還年数を計算します。
    「うちは18年だ」と思っていた会社が、運転資金を除くと9年だったということも起こり得ます。

    自社の数字が思ったより悪く出た場合、この視点で見直してみる価値があります。
    ただし、どこまで運転資金として認めるかは銀行の判断によるため、絶対的なものではありません。

    何年なら、安全なのか

    目安をお示しします。

    • 10年以内:多くの業種で適正とされる水準です

    • 8〜10年を超える:黄色信号。銀行は慎重になり始めます

    • 15年前後:新規融資はかなり厳しくなります

    • 20年超:追加融資の扉は、ほぼ閉じていると考えたほうがよいでしょう

    なぜ10年なのか。融資の返済期間は、設備資金でも10年前後に設定されることが多く、「その期間内に返せる範囲かどうか」という発想が背景にあります。

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    業種による違いはある

    ただし、これは一律の基準ではありません。

    設備投資が重い製造業や運送業では、借入が大きくなるのは構造的な特性です。
    不動産賃貸業に至っては、物件取得のために多額の借入を抱えるのが当然で、15〜20年が適正値とされることもあります。

    自社の業種において何年が標準なのか。
    これは同業他社の平均などから判断されるため、一概には言えません。
    ただし、同業のなかで極端に長ければ問題視されることは確かです。

    借入が多いこと自体は、悪ではない

    ここは強調しておきたい点です。

    債務償還年数は、借入の絶対額を問題にしているのではありません。
    稼ぎに対して借入が多すぎないかを見ています。

    借入1億円でも、年間2,000万円のキャッシュを生む会社なら5年です。
    借入3,000万円でも、年間200万円しか生まない会社なら15年です。
    後者のほうが、銀行から見れば危うい。

    「無借金経営こそ健全」という考え方もありますが、銀行取引の観点からは、借入があること自体は何ら問題ではありません。
    問題は、返済力とのバランスです。

    年数を短くする、4つの方法

    では、この数字を改善するにはどうすればよいか。
    分子(正味の借金)と分母(返済原資)の両面から、4つお伝えします。

    1.利益を増やす(分母)

    最も効果が大きく、そして最も本質的な方法です。

    分母が増えれば、年数は直接的に短くなります。
    先ほどのB社を思い出してください。
    営業利益が600万円から1,500万円に増えれば、分母は900万円から1,800万円へ。
    債務償還年数は18.9年から9.4年に、一気に半減します。

    節税のために利益を圧縮する経営を続けていると、この分母がいつまでも大きくなりません。
    第6回でお伝えした「税金と格付けはトレードオフ」という話は、ここに直結します。

    2.減価償却費を、適正に計上する(分母)

    第6回・第7回でも触れましたが、改めて。

    赤字を避けるために減価償却を見送っても、この指標は改善しません。
    分母は「営業利益+減価償却費」ですから、償却をやめれば営業利益は増えますが、足し戻す減価償却費が減るため、合計はほぼ変わらないのです。

    得られるものは何もなく、「操作をする会社」という印象だけが残ります。適正に計上してください。

    3.不要な借入を減らし、余剰資産を処分する(分子)

    使っていない資産、遊休の不動産、事業に関係のない投資。
    これらを処分して借入の返済に充てれば、分子が小さくなります。

    前回お伝えした不良在庫や回収不能な売掛金の整理も、実態バランスシートの改善という意味で同じ方向の施策です。

    4.現預金を厚くしておく(分子)

    これは、意外と知られていない視点です。

    分子は「借入金 − 現預金」です。つまり、借りた資金を手元に置いておけば、分子はほとんど増えません。

    たとえば借入を3,000万円増やしても、その資金が現預金として手元に残っていれば、分子は変わりません。
    設備投資などで支出されて初めて、分子が増えます。

    これは、前回お伝えした「現預金は月商1〜2か月分を確保する」という話ともつながります。
    手元資金を削ってまで繰上返済をするのは、この指標の観点からも、資金繰りの観点からも、あまり得策ではありません。

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    よくある3つの誤解

    「借入は少ないほど評価が高い」

    違います。
    稼ぎとの関係で見られます。
    借入が少なくても利益が出ていなければ、年数は長くなります。

    「繰上返済をすれば評価が上がる」

    手元の現預金を使って返済しても、分子は変わりません(借入金も現預金も同額減るため)。
    むしろ手元資金が薄くなり、資金繰りの安全性という別の観点でマイナスになります。

    「来期には改善できる」

    債務償還年数は、数期かけて動かす指標です。
    1年の利益改善で劇的に変わるものではありません。
    だからこそ、早く現状を把握し、計画的に取り組む必要があります。

    まとめ

    債務償還年数は、銀行が最も重く見ている返済力の指標です。

    (借入金 − 現預金)÷(営業利益 + 減価償却費)

    この式に自社の数字を入れて、何年になったでしょうか。
    10年以内であれば、まずは安心してよい水準です。
    10年を超えていたなら、まずはその事実を知ったこと自体が前進です。

    改善の王道は、利益を積み上げること。
    そして、減価償却を適正に計上し、余剰資産を整理し、手元資金は薄くしすぎないこと。
    いずれも一朝一夕にはいきませんが、方向が定まれば着実に動かせる数字です。

    次回は「赤字・債務超過でも融資を受けられるケース」をお届けします。

    では、債務償還年数が15年、20年という会社、あるいは赤字で分母がマイナスになってしまい計算すらできない会社は、もう借りられないのでしょうか。
    答えは「そうとは限らない」です。
    次回は、その理由と、そうした状況で何をすべきかをお伝えします。ぜひ続けてお読みください。

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    私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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