
融資審査で銀行が見る決算書のポイント|読まれる順番と勘所|銀行取引の教科書 #07
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第7回をお届けします。
前回は「格付け(債務者区分)」を取り上げました。
銀行はすべての取引先を5つの区分に分類していること、要注意先に落ちる引き金は赤字の連続・債務超過・延滞・条件変更であること。
そして評価は決算書の表面ではなく実態で行われ、その実態には役員借入金を資本とみなすといった中小企業特性による加点も含まれる、という内容でした。
では、その格付けの材料となる決算書を、銀行員は具体的にどう読んでいるのでしょうか。
今回のテーマは「融資審査で見られる決算書のポイント」です。
できれば、お手元に自社の決算書をご用意のうえ、読み進めていただければと思います。
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-銀行はここを見ている-
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銀行員は、決算書を上から順に読まない
まず、意外に思われるかもしれない事実からお伝えします。
銀行員は、決算書を最初のページから順番に読んでいくわけではありません。
確認する箇所と順番が決まっています。
経営者の方の多くは、決算書といえば損益計算書(PL)を思い浮かべるのではないでしょうか。
売上はいくらだったか、利益は出たか。関心の中心はそこにあります。
ところが銀行員は違います。
多くの場合、貸借対照表(BS)から見ます。
そして、決算書の本体3枚(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書)よりも、後ろに綴じられた「勘定科目内訳明細書」を丹念に読んでいることも珍しくありません。
この違いを知っておくだけで、決算書との向き合い方は変わります。
順に見ていきましょう。
なぜ、BSから見るのか
理由はシンプルです。
銀行が知りたいのは「返せるかどうか」だからです。
損益計算書は、1年間の成績表です。
今期どれだけ稼いだかを示します。
しかし、1年間の成績は良いときも悪いときもあります。
大口の受注が1件あっただけで、数字は大きく動きます。
一方、貸借対照表は創業以来の蓄積です。
これまで積み上げてきた利益、抱えている借入、保有している資産。会社の歴史がそのまま表れます。
つまり、こういうことです。
損益計算書は「今年どうだったか」、貸借対照表は「これまでどうしてきたか」。
融資を判断する立場からすれば、1年の結果より、積み重ねてきた体力のほうが重要です。
多少業績が落ち込んでも、自己資本が厚ければ耐えられます。
逆に、今期たまたま利益が出ていても、債務超過であれば安心はできません。
もう一つ理由があります。
損益計算書の利益は、ある程度まで作れるという点です。
売上の計上時期、経費の処理、減価償却の有無。工夫の余地があります。
しかし、貸借対照表は違います。利益を操作した結果は、必ずどこかに歪みとして残ります。
売掛金が不自然に膨らむ、在庫が増える、実体のない資産が計上される。
銀行員は、BSを見ればPLの不自然さがわかるのです。

貸借対照表で見られる、5つの箇所
では、具体的にどこを見ているのか。5つ挙げます。
いずれも、ご自身で確認できるものです。
1.純資産
最初に見るのは、右下の純資産の部です。
プラスかマイナスか。
マイナスであれば債務超過であり、前回お伝えしたとおり、要注意先以下と判断される大きな要因になります。
あわせて、自己資本比率(純資産÷総資産)を確認します。
一般的には、20%を超えていれば安心感があり、10%を下回ると心もとないと見られます。
業種によって水準は異なりますが、目安として覚えておいてください。
2.現預金
次に手元の現金です。
ここで使われるのが「月商の何か月分あるか」という見方です。
年商1億2,000万円の会社であれば月商は1,000万円。
現預金が2,000万円あれば、月商2か月分となります。
一般的には2〜3か月分が一つの目安です。
1か月分を切っていると、資金繰りに余裕がないと見られます。
逆に、厚めに持っていることがマイナス評価になることはまずありません。「無借金が理想」と考えて借入を減らし、手元資金まで薄くしてしまうのは、銀行から見ると危うい状態です。
3.売掛金と在庫
ここは、不良資産が潜んでいないかを確認する箇所です。
やはり月商比で見ます。
売掛金が月商の何か月分あるか。
取引条件から想定される水準を大きく超えていれば、「回収できていない売掛金があるのではないか」と疑われます。
在庫も同じです。
月商に対して明らかに多い、あるいは前期から大きく増えているのに売上が伸びていない。
こうした場合、売れ残りが資産として計上されているのではないかと見られます。
前回お伝えしたとおり、銀行はこれらを実態バランスシートで差し引いて評価します。
心当たりがあるなら、決算を迎える前に処分や償却を検討したほうが、結果的に評価は良くなります。
4.役員貸付金・仮払金
前回も触れましたが、銀行が最も嫌う項目です。
会社から経営者個人へのお金の流れは、事業に使われていない資産です。
実態バランスシートでは資産価値を認められず、それどころか「融資した資金も社外に流れるのではないか」という懸念に直結します。
仮払金や未収入金も同様で、中身が説明できないものは資産として評価されません。
決算を迎える前に精算できるものは精算しておく。
これは見せ方の工夫ではなく、実態の整理です。
5.借入金
借入の総額と、その構成を見ます。
短期と長期のバランス、そしてここでも月商比が使われます。
借入金が月商の何か月分あるか。
一般に3〜6か月分程度であれば標準的とされ、これを大きく超えると借入過多と見られやすくなります。
ただし業種による差が大きく、設備投資の重い業種では長期借入が膨らむのが自然です。

損益計算書で見られる、3つの箇所
BSを確認したあと、損益計算書に移ります。
ここでも、売上高の大きさそのものより、利益の中身が見られます。
1.営業利益と経常利益
銀行が重視するのは、本業で稼げているかどうかです。
営業利益は本業の利益、経常利益は営業利益に利息などの財務的な収支を加えたものです。
ここが黒字であることが基本線となります。
一方、特別利益で最終黒字になっているケースは、評価されません。
資産の売却で利益を出しても、それは来期には続かないからです。
「毎年繰り返せる利益かどうか」が問われます。
2.減価償却費が適正に計上されているか
前回も触れましたが、改めて強調します。
赤字を避けるために減価償却を見送る。
これは必ず見抜かれます。
決算書には償却の明細が添付されており、法定の償却額と実際の計上額を比べれば一目瞭然です。
そして銀行は、未計上分を差し引いて実態の利益を計算し直します。
つまり、表面上の黒字は評価されないうえに、「操作をする会社だ」という印象だけが残ります。
第6回でお伝えしたとおり、債務償還年数の観点からも逆効果です。
3.役員報酬
これは、プラスに働くことがある項目です。
多額の役員報酬を計上した結果として赤字になっている場合、銀行は「役員報酬を下げれば黒字になる会社」と見ることがあります。
前回お伝えした中小企業特性の一つで、会社と経営者を一体として捉える発想です。
ただし、これも自動的に加味されるわけではありません。
決算書の数字を並べただけでは伝わらないため、説明して初めて材料になります。

勘定科目内訳明細書こそ、丁寧に読まれている
ここからが、今回いちばんお伝えしたい部分です。
決算申告書の後ろに綴じられている「勘定科目内訳明細書」。
税理士が作成し、経営者はほとんど目を通さない書類かもしれません。
しかし銀行員は、これを非常に丁寧に読んでいます。
なぜなら、決算書の本体は集計された数字にすぎませんが、内訳明細書には中身が書かれているからです。
売掛金の内訳
相手先ごとの残高が並びます。
ここで見られるのは、特定の取引先への依存度、そして滞留していないかです。
前期と比べて同じ金額が動いていない売掛金があれば、回収できていない可能性が高いと判断されます。
相手先の名前まで見られていると考えてください。
借入金の内訳
これが最も重要です。
すべての金融機関からの借入が、行名入りで一覧になっています。
つまり、A銀行の担当者は、貴社がB銀行やC信用金庫からいくら借りていて、それが前期から増えたか減ったかを、正確に把握できます。
「他行のことは言わなければわからない」ということはありません。
銀行取引の全体像は、完全に見えています。
だからこそ、他行の動きについて聞かれたときは、正直に答えるのが得策です。
隠しても意味がないばかりか、隠そうとしたこと自体が信頼を損ないます。
貸付金・仮払金の内訳
誰にいくら貸しているのか、何に対する仮払いなのかが記載されます。
ここで、役員個人や関連会社への資金の流れが明らかになります。
つまり、内訳明細書は「説明の材料」でもある
見られているということは、裏を返せば伝えるチャンスでもあるということです。
内訳が整理され、相手先が明確で、不自然な滞留がない。
それだけで、「きちんと管理されている会社だ」という印象になります。
逆に、雑に作られた内訳明細書は、それ自体がマイナスの材料になります。
税理士に任せきりにせず、一度ご自身の目で確認してみてください。
決算書と一緒に渡すべきもの
最後に、実務のご提案です。
決算書を銀行に提出する際、決算申告書一式だけを渡していないでしょうか。
それでは、銀行員は数字から推測するしかありません。
おすすめするのは、A4一枚の説明資料を添えることです。
内容は難しいものである必要はありません。
今期の売上・利益がどう変わったか、その理由
大きく増減した勘定科目があれば、その事情
一時的な要因があれば、その内容と来期の見通し
来期の方針と、見込んでいる数字
これだけで十分です。
なぜこれが効くのか。
第5回でお伝えしたとおり、銀行員は稟議書を書かなければならないからです。
数字の増減について「なぜか」を書けなければ、上司や審査部からの質問に答えられません。
説明資料は、そのまま稟議書の材料になります。
そして、聞かれる前に説明する姿勢そのものが、評価につながります。
あわせて、月次の試算表と資金繰り表も定期的に渡しておく。
これは第5回でお伝えしたとおりです。
見せ方より、実態を良くすることが先
ここで一点、はっきりお伝えしておきます。
決算書の「見せ方」を工夫するという発想は、慎重に扱うべきものです。
数字を実態と違う形に整えることは、粉飾につながりかねません。
そして銀行は、それを見抜く技術を持っています。
一度発覚すれば、失うものは計り知れません。
やるべきなのは、実態を良くすることです。
不良在庫を処分する、回収不能な売掛金を整理する、役員貸付金を解消する、仮払金を精算する。
これらは決算書を良く見せる行為ではなく、会社を実際に健全にする行為です。
その結果として、評価も上がります。
順番を間違えないでください。

まとめ
銀行員は、決算書をBSから読みます。
純資産、現預金、売掛金と在庫、役員貸付金、借入金。
それぞれを月商比などの物差しで確認し、実態を推し量ります。
損益計算書では、本業で稼げているか、減価償却は適正か、役員報酬をどう見るか。
そして、勘定科目内訳明細書には、経営者が思う以上に多くの情報が載っており、丁寧に読まれています。
まずは、自社の決算書を銀行員の順番で見直してみてください。
現預金は月商の何か月分か。
売掛金は適正か。
役員貸付金は残っていないか。
それだけでも、見え方が変わるはずです。
次回は「債務償還年数:銀行が最も見ている「返済力」の指標」をお届けします。
今回見てきた決算書の数字が、最終的に一つの指標に集約されます。
自社の数字で計算していただける内容にしますので、ぜひ続けてお読みください。
お問い合わせ・ご相談について
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「自社の決算書が銀行からどう読まれているのか知りたい」という方は、ぜひドックをご活用ください。
実際の決算書を銀行員と同じ順番で読み解き、どこが評価され、どこが懸念材料になっているかを一つひとつお伝えします。
私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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