
融資はこうして決まる|稟議の流れと銀行員の視点|銀行取引の教科書 #05
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第5回をお届けします。
前回は「資金使途」を取り上げました。
融資は「何に使うか」から始まること、そして担保や保証があれば資金使途を問われない「枠」の時代はすでに終わっていること。
今の銀行員は、資金使途と返済の道筋を書けなければ融資を通せない、という内容でした。
では、その「書く」とは、具体的に何を書いているのでしょうか。
今回は第1部の締めくくりとして、銀行の内側をご案内します。
テーマは「稟議(りんぎ)」です。
この連載では毎回、「銀行員が稟議書を書きやすい状態をつくることが大切です」とお伝えしてきました。
今回はその稟議書そのものを取り上げ、何が書かれ、どこを通り、誰が判断しているのかを明らかにします。
相手の仕事の中身がわかれば、こちらの準備は自然と変わります。
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融資は、目の前の担当者が決めているのではない
まず、多くの経営者が抱いている誤解を解くところから始めます。
支店で融資の相談をすると、担当者が親身に話を聞いてくれます。
感触も悪くない。
ところが後日、「今回は難しいとの結論になりました」と連絡が来る。
「あれだけ好意的だったのに」と感じた経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、担当者が心変わりしたわけではありません。
そもそも、担当者に融資を決める権限はないのです。
担当者の役割は、貴社の話を聞き、資料を集め、それを「稟議書」という社内文書にまとめ、決裁権を持つ上司に説明して承認を得ることです。
つまり担当者は、銀行の中における貴社の代弁者です。
この構図が見えてくると、経営者が取るべき行動も変わってきます。
担当者を説得することがゴールではありません。
担当者が、銀行の中で貴社を説明しきれる状態をつくることがゴールなのです。

稟議書には、何が書かれているのか
では、その稟議書には何が書かれているのか。銀行によって様式は異なりますが、盛り込まれる項目はおおむね共通しています。
1.会社の概要と取引の経緯
どんな事業を行っている会社か。いつから取引があり、これまでどのような融資をしてきたか。返済は順調か。
2.申込の内容
金額、返済期間、金利、保全(担保や保証の有無)。
プロパーか保証付きか。
3.資金使途とその妥当性
何に使う資金なのか。
そして、その金額が妥当であると言える根拠は何か。
前回お伝えしたとおり、ここが出発点です。
4.返済原資と返済の見通し
何によって返済していくのか。
多くの場合、利益と減価償却費から返済原資を見積もります。
「返せる」と言える根拠を、数字で示す必要があります。
5.財務内容の分析
決算書に基づく分析です。
売上や利益の推移、自己資本の状況、そして「格付け(債務者区分)」や「債務償還年数」といった指標。
これらは次回以降の第2部で詳しく扱いますが、稟議書の中で最も重い部分だとお考えください。
6.担保・保証の状況
万が一の場合に回収できる見込みがどれだけあるか。
前回お伝えしたとおり、これは判断の出発点ではなく、補強材料としての位置づけです。
7.担当者の意見
最後に、担当者自身の見解が書かれます。
この会社をどう見ているか、なぜ支援すべきと考えるのか。
ここに熱量があるかどうかで、稟議の通り方は変わります。
お気づきでしょうか。
この7項目は、そのまま経営者が準備すべき材料のリストです。
担当者がこれらを埋められる状態にしておけば、稟議書は書けます。
埋まらない項目があれば、そこで筆が止まります。

稟議は、どこを通っていくのか
稟議書が書き上がると、それは銀行の中を「上がって」いきます。
支店の中で
まず、融資担当課を統括している課長や次長といった役席者が内容を確認します。
ここで質問が飛び、書き直しが入ることも珍しくありません。
その後、副支店長、支店長へと進みます。
支店長には、一定の範囲で決裁権があります。
金額が小さく、内容に懸念がなく、既存の取引先であれば、支店長の判断で融資が決まります。
これが最も早いルートです。
本部の審査部門へ
一方で、次のようなケースでは、支店の判断だけでは完結せず、本部の審査部門に進みます。
融資金額が支店長の決裁権限を超える場合
プロパー融資で、金額が大きい場合
業績が悪化している、あるいは初めての取引である場合
新規事業や特殊な資金使途など、判断が難しい場合
本部に上がった稟議は、まず審査部の担当者に回付されます。
調査役や参事役といった役職の担当者が内容を精査し、必要に応じて支店に照会をかけます。
そして、そこでの検討を踏まえ、審査役と呼ばれる、審査において大きな権限を持つ人物が最終的に決裁する、というのが一般的な流れです。
ここで押さえておきたいのは、審査部の担当者も審査役も、貴社の経営者に会ったことがないという点です。
判断の材料は、紙に書かれた情報だけです。
担当者がどれだけ熱心に応援していても、稟議書に書かれていない情報は、本部には伝わりません。
信用保証協会が加わる場合
保証付き融資であれば、銀行の承認に加えて、信用保証協会の審査も必要になります。
銀行が了承しても保証が下りないケースがあるのは、このためです。
だから、時間がかかる
「申込から実行まで、思ったより時間がかかった」という経験は、多くの経営者がお持ちだと思います。
それは、こうした手続きを経ているからです。
支店長決裁で済む案件でも数日から1週間程度、本部審査に上がれば2〜3週間、保証協会が絡めばさらに時間を要します。
資金が必要になる日から逆算して、余裕を持って相談することが欠かせません。
銀行員が、本当に気にしていること
ここからは、私自身が銀行にいた頃の実感を交えてお話しします。
否決は、担当者にとっても痛い
稟議書を書いて上司に提出し、否決される。
これは担当者にとって、決して軽い出来事ではありません。
「見立てが甘い」「準備が足りない」と評価されることになります。
その結果、担当者には「通る見込みのない案件は、稟議に上げたくない」という力学が働きます。
これは冷たい話に聞こえるかもしれませんが、裏を返せば大事なヒントでもあります。
担当者が渋っているとき、その多くは「貸したくない」のではなく、「今の材料では、社内で説明しきれない」と感じているのです。
必ず飛んでくる質問がある
稟議書を上げると、上司や審査部から質問が来ます。
そして、その質問はかなりの程度パターン化しています。
「この売上の増加は、何によるものか」
「この資金使途で、本当にこの金額が必要か」
「返済原資は、どの利益から出るのか」
「役員貸付金が増えているのは、なぜか」
「この赤字は一時的なものか、構造的なものか」
担当者は、これらに答えられる材料を持っていなければ稟議書を書けません。
そして、答えられる材料を持っているのは、経営者である貴社だけです。
銀行員は「書ける材料」を求めている
ここが、今回いちばんお伝えしたいことです。
銀行の担当者は、貴社を断りたいわけではありません。
融資を実行することは、銀行にとっても担当者にとっても成果です。
彼らが求めているのは、社内で説明できる材料なのです。
「銀行は厳しい」「銀行はわかってくれない」と感じる場面があるかもしれません。
しかしその多くは、材料が足りていないという一点に集約されます。

経営者ができる、4つのこと
では、具体的に何をすればよいのか。難しいことではありません。
1.聞かれる前に出す
決算書は当然として、月次の試算表、資金繰り表、受注の状況、業界の動向。
これらを、聞かれる前に定期的に渡しておく。
稟議書は、その場で集めた情報だけで書かれるものではありません。
日頃から蓄積された情報があれば、担当者はいざというときに素早く、そして厚みのある稟議書を書けます。
2.質問には即答する。答えられなければ、必ず返す
担当者からの質問は、多くの場合、上司や審査部からの質問の先取りです。
ここで回答が滞ると、稟議も止まります。
その場でわからなければ、「確認して、明日までにお返しします」と伝え、必ず期日どおりに返す。
この積み重ねが、担当者の信頼につながります。
3.悪い情報ほど、先に伝える
業績の下振れ、大口取引先の喪失、税金の納付が遅れている——こうした情報は、言いにくいものです。
しかし、後から発覚するほうが、はるかに大きなダメージになります。
稟議が進行中に判明すれば、その案件は止まります。
それ以上に、「この会社は都合の悪いことを隠す」という評価が残ってしまいます。
先に伝えれば、担当者はその事実を織り込んだうえで、対策とセットで稟議書を書けます。
悪い情報を先に出せる会社は、実は信頼されます。
4.早めに相談する
前述のとおり、稟議には時間がかかります。
そして、急な申込は「計画性がない」という印象にもつながります。
設備投資であれば検討段階から、運転資金であれば必要になる数か月前から。
余裕を持った相談は、それ自体が経営管理能力の証明になります。
まとめ:第1部を終えて
今回で、第1部「銀行を知る」は終わりです。
金融機関にはそれぞれ役割があること(第2回)。
保証付きとプロパーは成長の階段であること(第3回)。
融資は資金使途から始まること(第4回)。
そして今回、それらすべてが「稟議書」という一枚の文書に集約され、銀行の中を通っていくことを見てきました。
第1部を通じてお伝えしたかったのは、銀行取引は「お願い」ではなく「情報提供」であるということです。
銀行員が社内で貴社を説明しきれる状態をつくる。それが、最も確実な融資対策です。
次回から第2部「銀行から見た『自社』を知る」に入ります。
第6回のテーマは「格付け(債務者区分)の仕組みと、自社の立ち位置」です。
稟議書の中身を最も大きく左右するのが、この格付けです。
銀行は貴社を何段階かに分類しており、その区分によって、融資の可否も金利も条件も変わります。
次回は、その仕組みを解き明かします。ぜひ続けてお読みください。
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今回お伝えした稟議書の項目を一つひとつ埋められる体制を、貴社の中に一緒につくっていく——それが私たちの仕事です。
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