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稟議書を「代わりに書いてあげる」資料づくり|銀行取引の教科書 #17

    こんにちは!
    株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。

    連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第17回をお届けします。

    前回は、銀行面談と決算報告を取り上げました。
    決算報告は「報告」ではなく、担当者が稟議書を書くための「取材」の場であること。
    限られた時間で簡潔に話すこと。
    定性的な話には必ず定量的な裏付けを添えること。そして、メインの話は経営者自身が自分の口で話すこと。
    そんな内容でした。

    今回から、最終章となる第4部「守りと仕組み化」に入ります。

    第3部は「対話」の話でした。
    誰と、いつ、何を話すか。それに対して第4部は「仕組み」の話です。

    なぜこの違いが重要なのか。
    対話は、人が替われば途切れます。
    担当者が異動すれば、積み上げた関係はリセットされかねません。
    しかし、資料は残ります。
    形になったものは、人を越えて引き継がれていきます。

    第4部の初回となる今回のテーマは、「稟議書を『代わりに書いてあげる』資料づくり」です。

    この連載が第1回から一貫してお伝えしてきた考え方を、ここで具体的な資料の形にまとめます。

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    なぜ「代わりに書く」という発想なのか

    まず、この少し挑発的な表現の意図をご説明します。

    第5回でお伝えしたとおり、融資を実現させるのは、担当者が書く稟議書です。
    担当者は貴社の味方であり、代弁者です。
    しかし行内では、たった一人で貴社を説明しなければなりません。

    上司から質問される。
    審査部から照会が来る。
    それらすべてに、担当者は答えなければならない。
    しかし、答えるための材料を持っているのは、貴社だけです。

    筆が止まる場所が、融資が止まる場所

    稟議書を書いていて、埋められない欄があったとします。

    「返済原資をどう書けばいいのか、根拠がない」
    「この売上増の理由を聞いていない」
    「資金使途の金額の積算がわからない」

    そのとき担当者は、どうするか。会社に確認します。
    すぐ答えが返ってくればよいのですが、時間がかかれば稟議は止まります。
    あるいは、曖昧なまま書いて、上司に突き返される。

    担当者の筆が止まる場所は、そのまま融資が止まる場所です。

    「お願いする」から「書ける状態を渡す」へ

    ですから発想を変えてください。

    融資は、頭を下げてお願いするものではありません。
    担当者が稟議書を書けるだけの材料を、こちらから整えて渡す。
    それが最も確実な方法です。

    これは担当者への手助けであると同時に、自社のための行為でもあります。
    材料が揃っていれば稟議は早く進み、内容も厚くなり、結果として条件も良くなります。

    では、何を揃えればよいのか。
    答えは明確です。稟議書の項目に、一つずつ対応させればよいのです。

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    稟議書の7項目を、資料で埋める

    第5回でご紹介した稟議書の7項目を、もう一度並べます。
    そして、それぞれに対応する資料を見ていきます。

    1.会社の概要と取引の経緯

    用意するもの:会社案内、事業概要資料

    意外に見落とされがちですが、重要な資料です。
    これについては、後ほど独立した章で詳しくお話しします。

    2.申込の内容

    用意するもの:資金調達計画

    金額、時期、期間、希望する条件。
    第13回でお伝えした年度調達の考え方で、年間を通じた調達の設計を示します。

    「今期は運転資金5,000万円と設備資金3,000万円、合計8,000万円の調達を計画しており、各行のシェアに応じてお願いしたい」。
    この形で伝えれば、担当者は申込内容をそのまま書けます。

    3.資金使途とその妥当性

    用意するもの:見積書・契約書、資金使途の説明メモ

    第4回でお伝えしたとおり、資金使途は融資の出発点です。

    設備資金なら、見積書に加えて金額の積算を示してください。
    「設備本体2,400万円、付帯工事400万円、予備費200万円で合計3,000万円」。
    この積み上げが、妥当性の根拠になります。

    運転資金なら、経常運転資金の計算(売掛金+在庫−買掛金)を示す。
    「なぜその金額が必要なのか」に、数字で答える資料です。

    4.返済原資と返済の見通し

    用意するもの:事業計画書、資金繰り予定表

    稟議書の中で、担当者が最も苦労する欄です。

    事業計画書(第11回)で、計画上の営業利益と減価償却費から返済原資がどれだけ生まれるかを示す。
    資金繰り予定表(第10回)で、毎月の返済を続けられることを示す。

    この2つがなければ、担当者は「返せます」と書く根拠を持てません。

    5.財務内容の分析

    用意するもの:決算書一式、決算説明資料、月次試算表

    決算書は当然として、重要なのは決算説明資料(A4一枚)です。
    第7回・第16回でお伝えしたとおり、売上・利益の増減理由、大きく動いた科目、一時的要因、今期の方針を箇条書きにしたもの。

    この一枚は、ほぼそのまま稟議書に転記できます。
    担当者にとって、これ以上ありがたい資料はありません。

    そして月次試算表(第10回)。
    決算書は過去、試算表は現在を示します。
    期中の申込であれば、これがあるかないかで稟議書の説得力がまったく変わります。

    6.担保・保証の状況

    用意するもの:借入金残高推移表、担保一覧

    第12回でお伝えしたとおり、各行の借入残高は銀行側も把握していますが、こちらから整理して出すことに意味があります。

    全行の残高、返済予定、担保に供している資産の一覧。
    「この会社は自社の借入状況を正確に管理している」という印象は、それ自体が評価につながります。

    7.担当者の意見

    用意するもの:定性情報メモ

    ここが、最大の盲点です。

    稟議書の最後には、担当者自身の見解が書かれます。
    この会社をどう見ているか、なぜ支援すべきと考えるのか。
    第5回でお伝えしたとおり、ここに熱量があるかどうかで、稟議の通り方は変わります。

    しかし、担当者が熱を込めて書こうにも、書く材料がなければどうにもなりません。
    そして、その材料は決算書には載っていません。

    会社の強み、市場での位置づけ、経営者の考え、後継者の状況。
    これらは、こちらから伝える以外に伝わる道がないのです。

    これについても、後ほど詳しくお話しします。

    会社案内が、意外に効く

    まず、1番目の項目に対応する資料から。

    決算書や試算表の重要性は、これまで繰り返しお伝えしてきました。
    一方で、会社案内のような資料は軽視されがちです。
    「うちは小さい会社だから」「取引先に配るものはあるけれど、銀行に渡すものではない」と。

    しかし、思い出してください。
    本部の審査部門は、貴社を見たことがありません。

    工場も、店舗も、商品も、働いている人の様子も、一度も見たことがない。
    紙に書かれた情報だけで判断します。
    そこに写真一枚、事業の説明一枚があるかないかで、受け取る印象は変わります。

    入れておきたい内容

    • 事業の内容(何を、誰に、どう売っているか)

    • 沿革(いつ創業し、どう成長してきたか)

    • 主要な取引先(守秘に配慮しつつ、業種や規模感だけでも)

    • 工場・店舗・設備の写真

    • 従業員数と組織の体制

    • 強み(後述の定性情報と重なります)

    特別なデザインは不要です。
    A4で2〜3枚、ワードで作ったもので構いません。

    新任担当者への引き継ぎ資料にもなる

    もう一つの効用があります。

    第16回でお伝えしたとおり、担当者は数年で交代します。
    新任の担当者は、貴社について何も知りません。
    そのときに会社案内を渡せば、短時間で理解してもらえます。

    一度作れば、数年は使えます。
    費用対効果の高い資料です。

    定性情報メモという発想

    次に、7番目の項目に対応する資料です。
    この回で最もお伝えしたい部分です。

    第16回で、「定性的な話には、定量的な裏付けを添えてください」とお伝えしました。
    それを紙にまとめたものが、定性情報メモです。

    なぜ必要なのか

    第6回でお伝えした中小企業特性を思い出してください。
    技術力、取引先との関係、経営者の資質、後継者の有無。
    これらは格付けの定性評価に織り込まれますが、自動的に加味されるわけではありません。

    面談で口頭で伝えても、担当者がメモし忘れれば、そこで消えます。
    紙で渡しておけば、消えません。

    書いておきたい項目

    技術力・品質の裏付け
    「同業の平均的な粗利率が20%程度のところ、当社は32%」
    「不良品率0.1%以下」「特許◯件保有」

    取引先との関係
    「上位5社のうち4社は取引開始から10年以上」
    「前期の継続率98%」
    「大手◯◯社の一次サプライヤー」

    市場でのポジション
    「県内でのシェア約30%」
    「この地域で同種の設備を持つのは当社を含め2社のみ」

    人材
    「直近3年の離職率5%以下」
    「有資格者◯名在籍」

    後継者と承継の準備
    「長男が専務として在籍、5年後をめどに承継予定」。
    第6回でお伝えしたとおり、後継者の存在は格付けの定性評価で重視されます。

    経営者個人の資産
    中小企業特性として考慮され得る部分です(第6回)。
    提示しなければ評価されません。

    役員借入金の性格
    「役員借入金3,000万円は返済を求めるものではなく、実質的に資本である」。
    これを明記しておけば、実態バランスシートの評価につながります。

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    一文ずつ、数字とセットで

    形式は箇条書きで構いません。
    一行ごとに、必ず数字か固有名詞を入れてください。

    「技術力が高い」だけでは、担当者は稟議書に書けません。
    「粗利率32%」があって初めて、書ける情報になります。

    この一枚が、担当者の「意見」欄の熱量を決めます。

    一度作れば、毎年の更新で済む

    ここまで読んで、「準備が大変そうだ」と感じられたかもしれません。

    確かに、初年度は手間がかかります。
    しかし、2年目以降はまったく違います。

    • 会社案内:数年に一度の更新で十分

    • 定性情報メモ:数字を差し替えるだけ

    • 決算説明資料:毎年、同じ形式で中身を更新

    • 借入金残高推移表:数字の更新のみ

    • 資金繰り予定表:月次で更新するルーチンに

    • 事業計画書:年次で見直し

    つまり、作るのは最初の一度。あとは更新です。

    第13回でお伝えした年間スケジュールに組み込んでください。
    3月決算の会社であれば、5〜6月に決算説明資料と定性情報メモを更新し、年度調達の設計と合わせて全行に提出する。
    この流れを毎年繰り返すだけです。

    そして重要なのは、これらの資料が会社に蓄積されていくということです。
    過去の計画と実績、過去の説明資料。これらは社内の財産になります。

    資料が、「人の交代」を乗り越える

    第4部の主題である「仕組み化」の核心をお伝えします。

    銀行の担当者は、おおむね3〜5年で交代します。
    支店長はもっと短いこともあります。

    前任の担当者とどれだけ良い関係を築いていても、交代すればゼロからの再出発です。
    引き継ぎは行われますが、引き継ぎ書に書かれる情報は限られています。

    このとき、関係が「人」に依存していると、何が起きるか。

    新任担当者は貴社を知らない。
    過去の経緯もわからない。
    結果として、融資の判断は慎重になり、話が進まなくなる。
    「担当者が代わってから、なんとなくやりにくくなった」という経験をお持ちの方は、少なくないのではないでしょうか。

    資料は、引き継がれる

    一方、資料が整っていればどうでしょう。

    会社案内があり、決算説明資料が毎年のファイルに綴られ、定性情報メモがあり、事業計画と実績の記録が残っている。
    新任担当者は、それらに目を通すだけで、短時間で貴社を理解できます。

    さらに、第16回でお伝えした議事メモを自社側で残しておけば、「前任の◯◯様とは、この件をこうお話ししていました」と伝えられます。

    人は替わっても、資料は残る。
    これが仕組み化するということの意味です。

    銀行との関係を、経営者個人の人間関係に依存させない。
    会社として、情報を整え、渡し続ける体制を作る。
    それが、長期にわたって安定した銀行取引を支えます。

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    ただし、やりすぎない

    最後に、バランスについて。

    分厚い資料は、読まれない

    第11回でお伝えしたとおり、担当者は多数の取引先を抱えています。
    何十ページもの資料を渡しても、読む時間はありません。

    目指すべきは、量ではなく密度です。
    稟議書に転記しやすい形で、必要な情報が整理されていること。
    それが最良の資料です。

    完璧を目指して出さないより、粗くても出す

    第10回でお伝えした「精度より継続」と同じ考え方です。

    「もっときちんとしたものを作ってから」と思っているうちに、何も渡さないまま1年が過ぎる。
    これが最も避けたい状態です。

    まずは決算説明資料のA4一枚から。
    それだけでも、何も渡さないのとは大きな差があります。

    自社で説明できない資料は作らない

    第11回・第16回でお伝えしたとおりです。

    外部に作ってもらった立派な資料を、経営者が説明できない。
    これでは逆効果です。
    自分の言葉で語れる範囲の資料を、確実に作る。
    これが原則です。

    資料は目的ではなく、手段

    そして最も大切なことですが、資料を作ること自体が目的ではありません。

    目的は、銀行員が貴社を正しく理解し、社内で説明できるようにすることです。
    その目的に照らして、必要なものを、必要なだけ。

    まとめ

    融資は、担当者が稟議書を書けるかどうかで決まります。
    そして稟議書には、決まった項目があります。

    ならば、その項目を埋められる資料を、こちらから揃えればよい。
    会社案内、資金調達計画、資金使途の積算、事業計画書、資金繰り予定表、決算説明資料、月次試算表、借入金残高推移表、そして定性情報メモ。

    これらは、担当者への手助けであると同時に、自社の資産です。
    一度作れば更新で済み、担当者が代わっても引き継がれます。

    まずは、決算説明資料のA4一枚から始めてみてください。
    そして次に、定性情報メモを。
    自社の強みを、数字とセットで一枚にまとめる。
    その作業自体が、自社を見つめ直す良い機会にもなるはずです。

    次回は「借換え・リスケ・貸し渋り:困ったときの対処法」をお届けします。

    ここまでの17回は、基本的に平時を前提とした話でした。
    しかし経営には、どうしても厳しい局面が訪れます。
    次回は、その守りの場面で何ができるのかを、具体的にお伝えします。
    ぜひ続けてお読みください。

    お問い合わせ・ご相談について

    「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。

    弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、貴社の財務部門を強化し、銀行取引の最適化からキャッシュフロー管理、資本政策までを総合的に手厚くサポートする「社外CFO」サービスを提供しております。

    単なる顧問にとどまらず、銀行員が「稟議書を書きやすい」状態を貴社の中に構築し、円滑な資金調達と持続的な成長を伴走支援いたします。
    今回お伝えした資料一式の整備と、それを毎年更新していく体制づくりは、私たちの支援の中心にあるものです。
    経営者様がご自身の言葉で説明できる資料を、一緒に作り上げていきます。

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    今、銀行に渡している情報で稟議書は書けるのか。
    どの項目の材料が不足しているのか。
    こうした点を、稟議書の項目に照らして診断いたします。

    私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
    「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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    ご連絡を心よりお待ちしております。

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    社長の「右腕」になる社外CFO。メガバンク出身。プライム上場企業執行役員経験。中堅中小企業には銀行との付き合い方を、ベンチャー企業には資金調達と成長の財務戦略を。銀行・コンサル・上場企業の現場で見てきた「お金の勝ち筋」をnoteで発信中。

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