
銀行面談・決算報告の準備と話し方|稟議を書いてもらう場にする|銀行取引の教科書 #16
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第16回をお届けします。
前回は、経営者保証を取り上げました。
新規融資では無保証が過半を超えた一方で、既存の保証は放っておいても外れないこと。
銀行にとって保証は「経営の規律付け」であり、だからこそ規律を別の形で示せれば保証は不要になること。
そして、言わなければ外れないこと。そんな内容でした。
保証の相談も、金利の交渉も、資金の依頼も、すべては面談の場で行われます。
そこで今回のテーマは、「銀行面談・決算報告の準備と当日の話し方」です。
第3部「実践・銀行との付き合い方」の締めくくりとなります。
年に数回、長くても1時間。
この限られた時間をどう使うかで、結果は大きく変わります。
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決算報告は「報告」ではなく「取材」の場
まず、面談の捉え方を根本から変えていただきたいと思います。
多くの経営者は、決算報告を「数字を報告する場」と考えています。
決算書を渡し、売上と利益を伝え、質問に答える。
それで役目を果たしたと感じる。
しかし、銀行員の側から見ると、この場はまったく違う意味を持っています。
銀行員にとって、決算報告は「取材」の場です。
第5回でお伝えしたとおり、担当者の仕事は稟議書を書くことです。
そして稟議書には、次の7項目を書かなければなりません。
会社の概要と取引の経緯
申込の内容
資金使途とその妥当性
返済原資と返済の見通し
財務内容の分析
担保・保証の状況
担当者の意見
このうち、決算書を見ればわかるのは5番だけです。
残りは、経営者から直接聞かなければ書けません。
だから担当者は、面談の場で材料を集めています。
数字の背景、今期の見通し、経営者の考え方。
それらを聞き取り、持ち帰って稟議書に落とし込む。
つまり面談とは、担当者が記事を書くための取材なのです。

だとすれば、やるべきことは一つ
取材だと理解すれば、経営者がすべきことは明確になります。
質問されるのを待つのではなく、書くために必要な材料をこちらから渡す。
良い取材対象とは、記者が書きやすいように話してくれる人です。
聞かれたことにだけ短く答える人からは、良い記事は生まれません。
面談は、担当者に稟議書を書いてもらうための場です。
この一点を意識するだけで、準備も話し方も変わります。
限られた時間を、どう使うか
ここで、現実的な制約を確認します。
銀行の担当者は、多数の取引先を抱えています。
面談に割ける時間は、通常30分から1時間程度です。
決算報告であっても、それ以上の時間をもらえることは多くありません。
この時間で、稟議書に必要な材料をすべて渡しきる。
そのために必要なのは、必要十分に、簡潔に話すことです。
ここを誤解されている方がいます。
熱心に、長く、たくさん話せば伝わるだろう、と。
実際には逆です。
話が長くなるほど、要点は埋もれます。
担当者は1時間の会話のなかから必要な情報を拾い出し、A4数枚の稟議書にまとめなければなりません。
情報が散らかっていれば、拾いきれずに落ちます。
落ちた情報は、本部には伝わりません。
第5回でお伝えしたとおり、本部の審査部門は経営者に会ったことがなく、紙に書かれたことだけで判断します。
ですから、目指すべきは「たくさん話す」ことではなく、「必要なことを、整理して、過不足なく渡す」ことです。
定性的な話にこそ、定量的な裏付けを
もう一つ、極めて重要な原則があります。
経営者の方が熱心に語られるのは、往々にして定性的な話です。
技術力、取引先との信頼関係、従業員の努力、新しい挑戦。
どれも会社にとって本質的な価値であり、ぜひ伝えていただきたい内容です。
ただし、そのままでは稟議書に書けません。
「当社は技術力が高い」と担当者が稟議書に書いたとします。
上司や審査部から、必ずこう聞かれます。
「その根拠は?」
答えられなければ、その一文は削られます。
数字とセットにする
ですから、定性的な話をするときは、必ず定量的な裏付けを添えてください。
「技術力が高い」→「同業の平均的な粗利率が20%程度のところ、当社は32%を維持している」
「取引先との関係が強い」→「上位5社のうち4社は取引開始から10年以上。前期の継続率は98%」
「新商品が好調」→「昨年10月の発売以来、累計で8,000万円を売り上げ、今期の売上計画の15%を占める」
「人材が定着している」→「直近3年の離職率は5%以下。同業平均を大きく下回る」
数字が付いた瞬間に、その話は稟議書に書ける情報に変わります。
逆に言えば、どれだけ素晴らしい強みがあっても、裏付けがなければ銀行の中では存在しないのと同じです。
これは第6回でお伝えした「中小企業特性は、伝えなければ評価されない」という話とも重なります。

面談の種類と、それぞれの目的
面談といっても、場面によって目的は異なります。
整理しておきます。
決算報告(年1回)
最も重要な面談です。
1年間の総括と、今期の計画を共有します。
第13回でお伝えした年度調達の相談も、ここで行います。
期中の定期訪問(四半期ごと)
試算表を渡し、進捗を共有する場です。
短時間で構いません。
この積み重ねが、決算報告の説得力を支えます。
融資の申込み・相談
資金使途、金額、時期を具体的に伝える場です。
第4回・第13回でお伝えした準備が前提になります。
新任担当者の挨拶
見落とされがちですが、重要です。
新しい担当者は、貴社について何も知りません。
ここでの第一印象が、その後数年の関係を左右します。
会社の概要、事業の内容、これまでの経緯を、改めて丁寧に伝えてください。
決算報告に持っていくもの
ここまでの連載でお伝えしてきた資料が、ここで一つに集まります。
1.決算申告書一式
申告書別表や勘定科目内訳明細書まで含めて(第7回)。
2.決算説明資料(A4一枚)
第7回でお伝えしたものです。
具体的には、次の内容を箇条書きで。
売上・利益の増減と、その理由
大きく動いた勘定科目と、その事情
一時的な要因があれば、その内容
今期の方針と、見込んでいる数字
この一枚が、担当者にとって最も価値のある資料になります。
なぜなら、ほぼそのまま稟議書に転記できるからです。
3.直近の月次試算表(第10回)
決算は過去の数字です。
今の状況を示すのは試算表です。
4.資金繰り予定表(第10回)
向こう6か月から1年の見通し。
日本政策金融公庫のフォーマットを参考に。
5.事業計画書(第11回)
設備投資や新規事業を予定しているなら必須です。
A4で3〜5枚。
6.借入金残高推移表(第12回)
各行からの借入残高の推移。
求められる前に出せると、印象が違います。
これらをまとめてファイルにし、渡して終わりではなく、一つずつ説明する。
これが基本形です。
誰に会うか
意外に語られない論点ですが、重要です。
担当者だけでは足りない
第5回でお伝えした決裁の流れを思い出してください。
支店内では、融資担当課を統括する課長や次長といった役席者が内容を確認し、その後、副支店長、支店長へと進みます。
つまり、担当者の上司たちも、貴社について判断する立場にいます。
決算報告のような重要な場面では、担当者だけでなく、役席者や支店長にも同席してもらえないかを打診してみてください。
「決算の説明にお伺いしたいのですが、支店長にもご挨拶できればと思います」。
この一言で、場の重みが変わります。
直接顔を合わせ、経営者の人柄や事業への姿勢に触れてもらう。
これは、紙の資料だけでは伝わらない部分です。
そして稟議が上がってきたとき、「あの社長の会社か」と認識している決裁者がいることの意味は、決して小さくありません。
春の人事異動は、節目
銀行の人事異動は、春に集中します。
支店長や担当者が代わったら、できるだけ早く挨拶の機会を持ってください。
前任者との間に築いた関係は、自動的には引き継がれません。
改めて伝え直す必要があります。
経営者自身が出る
そして最も大切なことですが、面談には経営者自身が出てください。
経理担当者に任せきりにしてしまう会社がありますが、これは避けるべきです。
担当者が知りたいのは数字だけではなく、経営者が何を考え、どこへ向かおうとしているのかです。
それを語れるのは経営者だけです。
同席者について
関連して、同席の是非にも触れておきます。
税理士の同席は、慎重に
顧問税理士に同席してもらう会社がありますが、あまりおすすめできません。
理由は二つあります。
一つは、税理士が答えることで、経営者が自社の数字を把握していないという印象を与えてしまうことです。
決算の説明を税理士に任せ、経営者が隣で黙っている。
この構図は、銀行から見て不安材料です。
もう一つは、税務と融資では視点が異なることです。
税理士は税務の専門家であり、銀行が知りたい事業の中身や今後の見通しについては、経営者ほど語れません。
社外CFOなどの同席
財務面を支援する立場の人間が同席すること自体は、問題ありません。
むしろ、資料の整備や計画の策定を支える存在がいることは、体制が整っている証として受け取られることもあります。
ただし、ここでも原則は同じです。
メインの話は、経営者自身が自分の口で話す。
支援者は、数字の細部を補足したり、求められた資料について説明したりする立場にとどまるべきです。
経営の方向性、今期の見通し、資金の必要性。これらを語るのは、常に経営者でなければなりません。
当日、何をどう話すか
では、実際の進め方です。
1時間の決算報告を想定した時間配分をお示しします。
1.業績の総括(5分)
結論から始めてください。
「前期は増収増益で、売上は前期比112%の5億6,000万円、営業利益は3,200万円でした。増収の主因は、昨年導入した設備による生産能力の向上です」
長い前置きは不要です。
担当者が最初に知りたいのは、良かったのか悪かったのか、それはなぜかです。
2.特殊要因の説明(5分)
一時的な損益、大きく動いた勘定科目について。
「販管費が前期比で1,800万円増えていますが、うち1,200万円は新工場の立ち上げに伴う一時的な費用です」
聞かれる前に説明する。
これが鉄則です。
3.今期の見通しと計画(10分)
数字と、その根拠。第11回でお伝えしたとおり、積み上げで示してください。
「今期は売上6億2,000万円を計画しています。うち4億8,000万円は既存顧客との継続取引で、すでに年間契約を締結済みです。残りは…」
4.資金の予定(5分)
第13回でお伝えした年度調達です。
「今期は運転資金と設備資金で、合計8,000万円の調達を計画しています。御行には、シェアに応じて4,000万円をお願いできればと考えております」
いつ、いくら、何のために。
これを明確に。
5.こちらからの依頼(5分)
金利の相談(第14回)、保証の相談(第15回)、枠の設定(第13回)。
遠慮する必要はありません。
ただし、根拠とセットで。
「債務償還年数が11年から8年に改善しましたので、金利についてもご検討いただけないでしょうか」
6.質疑応答(残りの時間)
ここまでで30分程度。
残りを質疑に充てます。
十分な時間を残しておくことが大切です。
担当者の質問は、上司や審査部からの質問の先取りです。
ここで答えきれれば、稟議は格段に通りやすくなります。
話し方の原則
悪い話は、先に、自分から
第5回・第9回でお伝えしたとおりです。
業績の下振れ、大口取引先の喪失、計画の未達。
これらは必ず自分から先に言ってください。
後から発覚した場合のダメージは、比べものになりません。
そして、必ず対応策とセットで伝える。
「このような状況ですが、こう対応しています」。
この形であれば、担当者は稟議書に前向きに書けます。
数字は暗記しなくてよい。ただし
細かい数字をすべて覚えている必要はありません。
資料を見ながらで構いません。
ただし、どの資料のどこに何が書いてあるかは、把握しておいてください。
質問されてページをめくり続ける姿は、準備不足と受け取られます。
わからないことは、持ち帰って必ず返す
その場で取り繕うのが最も危険です。
「確認して、明後日までにお返しします」と伝え、必ず期日どおりに返す。
この積み重ねが信頼になります。
謙遜しすぎない
日本の経営者には、良い話を控えめに伝える方が多くいらっしゃいます。
しかし、言わなければ伝わりません。
良かったことは、根拠とともにきちんと伝えてください。
それは自慢ではなく、情報提供です。
やってしまいがちな失敗
資料を渡すだけで、説明しない:「後でご覧ください」では、伝わらないまま終わります
聞かれたことにだけ答える:受け身では、材料は渡りません
良い話しかしない:不自然さは伝わります
要望を一切言わない:言わなければ、何も変わりません(第15回)
業績が悪い年に、面談を避ける:これが最も避けるべき行動です。説明がないまま悪い決算書だけが届くと、銀行の不安は最大化します
面談の後にやること
宿題は、できるだけ早く返す。
可能なら当日中、遅くとも数日以内に。
スピードそのものが、評価の対象です。
議事メモを残す。
誰が来て、何を話し、何を依頼し、どんな回答があったか。簡単なもので構いません。
このメモが効くのは、担当者が交代したときです。
前任者とどういう話をしてきたかを自社で把握していれば、引き継ぎの不足を補えます。
「前任の◯◯様とは、この件をこうお話ししていました」と言えることの価値は、思いのほか大きいものです。
第3部のまとめ
今回で、第3部「実践・銀行との付き合い方」は終わりです。
メインバンクの選び方と複数行のバランス(第12回)、借りるべきタイミングと年度調達(第13回)、金利・条件交渉(第14回)、経営者保証(第15回)、そして面談(第16回)。
第3部を通じてお伝えしてきたのは、銀行との「対話」をどう設計するかということでした。
次回から、最終章となる第4部「守りと仕組み化」に入ります。
第3部が対話の話だとすれば、第4部は仕組みの話です。
対話は人が替われば途切れますが、仕組みは残ります。
第17回のテーマは「稟議書を『代わりに書いてあげる』資料づくり」。
この連載が一貫してお伝えしてきた考え方を、具体的な資料の形にまとめます。
ぜひ続けてお読みください。
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どの資料が不足しているか。
面談で何を伝えるべきか。
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