
経営者保証を外すための条件と進め方|なぜ既存の保証は残るのか|銀行取引の教科書 #15
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第15回をお届けします。
前回は、金利・条件交渉を取り上げました。
金利は「調達コスト+経費率+信用リスクコスト+利益」で構成されており、交渉とは値切りではなく信用リスクの評価を正しくしてもらう対話であること。
そして交渉できるのは金利だけでなく、返済期間、据置期間、手数料にも及ぶこと。
変動金利であれば利払い周期の確認にも価値があること。そんな内容でした。
今回は、交渉できる条件のなかでも、経営者の人生に最も深く関わるものを扱います。
テーマは「経営者保証」です。
この問題をめぐっては、国が明確な方針を打ち出し、数字の上でも前進しています。
しかし、多くの経営者が、いまも保証を抱えたままです。
なぜそうなるのか。
そして、どうすれば外せるのか。
今回は、銀行が保証をどう位置づけているかという本音の部分まで含めて、お話しします。
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経営者保証とは、何を意味するのか
まず、確認から始めます。
経営者保証とは、会社が銀行から借入をする際に、経営者個人が連帯保証人となる契約です。
会社が返済できなくなった場合、経営者は個人の資産で返済する義務を負います。
自宅も、預金も、対象になり得ます。
これがもたらす影響は、融資の場面にとどまりません。
事業承継の障害になります。
後継者候補に「会社を継いでくれ。ただし借入は君が個人保証することになる」と伝えて、快諾を得られるでしょうか。
実際に、保証の存在が承継を断念させるケースは数多くあります。
廃業の決断を遅らせます。
事業をたたむべき局面でも、保証があるために踏み切れない。
結果として傷口が広がることがあります。
そして何より、会社と個人の財布が一体になります。
本来、株式会社は有限責任であるはずなのに、経営者保証によってその前提が実質的に崩れる。
これが、長年にわたって日本の中小企業経営者が背負ってきた構造です。

国は、明確に方針を打ち出している
この構造を変えようという動きは、確実に進んでいます。
経営者保証に関するガイドライン
2013年12月に日本商工会議所と全国銀行協会が策定し、2014年2月から運用が始まりました。
法律ではなく自主的なルールですが、金融機関の取り組み状況が公表されるため、実質的な拘束力を持っています。
後ほど詳しくお話ししますが、ここで保証を不要とするための3つの要件が示されました。
経営者保証改革プログラム
2022年12月、政府は「経営者保証改革プログラム」を策定しました。
そして2023年4月には監督指針が改正され、金融機関が経営者保証を求める場合には、その必要性を具体的に説明し、記録することが求められるようになりました。
これは大きな転換です。
それまでは「とりあえず保証を取る」ことが慣行として通用していましたが、なぜ必要なのかを説明できなければ保証を求められないことになったからです。
数字にも表れている
金融庁が2026年7月に公表したプログレスレポートによると、2025年度の新規融資件数に占める経営者保証に依存しない融資の割合は、民間金融機関全体で55.7%となり、過半に達した2024年度の52.9%からさらに伸びました。
また、新規融資件数に占める「経営者保証に依存しない融資」と「有保証融資のうち適切な説明を行い記録した融資」の合計は99.9%に達しています。 fsa
数字だけを見れば、新規融資の半分以上が、すでに無保証で実行されているということになります。
それでも、既存の保証は外れていない
ここが、今回いちばんお伝えしたい点です。
先ほどの数字をもう一度ご覧ください。
これは「新規融資」の割合です。
つまり、これから実行される融資について無保証が増えている、という話であって、すでに差し入れている保証が自動的に外れたわけではありません。
過去の保証は、手つかずで残っている
金融庁のレポートでは、この点についても言及があります。
改革プログラムおよび監督指針において保証契約の必要性等に関する説明・記録が明示的に求められていない有保証債権は、既存の有保証債権の約5割と想定されるとされ、金融庁は2023年3月以前に締結された個別の保証契約についても、新規の保証契約と同様に説明・記録を求めることを、金融機関に対する監督上の着眼点として明確化しました。
裏を返せば、それまでは既存の保証契約について、銀行が見直しを迫られる仕組みがなかったということです。
「新規は進んだ、既存は残っている」
これが実態です。
長く経営をされてきた会社ほど、過去に積み上げた保証付きの借入を抱えたままになっています。
新しい借入は無保証で実行されても、古い借入の保証はそのまま。
経営者から見れば、「結局、保証からは解放されていない」という状態です。

そして、言わなければ外れない
さらに重要なのは、銀行のほうから「保証を外しましょうか」と提案してくることは、まずないという点です。
銀行にとって保証は、あるに越したことはないものです。
わざわざ手放す理由がありません。
説明義務が課されたのは新規の保証契約が中心であり、既存の保証については、経営者が働きかけない限り、そのまま放置されます。
保証は、外してほしいと言わない限り、外れません。
銀行にとって、保証は「経営の規律付け」
では、なぜ銀行は保証を求めるのでしょうか。
「貸したお金を回収するため」と考えるのが自然ですが、実はそれだけではありません。
むしろ、回収という意味での実効性は限定的です。
会社が破綻する局面では、経営者個人の資産も目減りしていることが多く、保証を実行して回収できる金額は、融資額に比べればわずかであることがほとんどです。
銀行もそれは承知しています。
では、何のためか。
保証の本当の目的
銀行が経営者保証に求めているのは、「経営の規律付け」です。
経営者が個人として責任を負っているからこそ、会社の資金を私的に使わない。
無謀な投資に走らない。
苦しくなっても簡単には投げ出さず、最後まで会社を立て直そうとする。
保証は、経営者を会社に縛りつける装置であると同時に、経営者が自らの責任で経営に向き合うための規律として位置づけられてきました。
実際、保証がない状態では、会社と個人の線引きが曖昧になりやすいという懸念もあります。
第6回・第7回でお伝えした役員貸付金のような、会社から個人への資金の流れです。
銀行から見れば、「返せなくなっても自分は痛まない」という状態は、モラルの面で不安があるわけです。
これは、銀行の側に立ってみれば、理解できる論理ではないでしょうか。
だからこそ、「規律の代替」が鍵になる
そして、ここに突破口があります。
保証の目的が規律の確保にあるのなら、規律が別の形で担保されていれば、保証は不要になるはずです。
これこそが、ガイドラインが示した3要件の本質です。
3要件は、恣意的に並べられたチェックリストではありません。
保証という手段に頼らずに規律を示すための、具体的な要件なのです。
この理解があるかどうかで、保証解除の交渉はまったく違うものになります。
「外してください」とお願いするのではなく、「当社は、保証がなくても規律が保たれています」と示す。
それが、本来のアプローチです。
保証を外すための、3つの要件
では、その3要件を見ていきましょう。
この連載でお伝えしてきた内容と、驚くほど重なります。
1.法人と経営者の資産・経理が、明確に分離されていること
会社と個人の財布が、きちんと分かれているか。
具体的には、次のような点が見られます。
役員貸付金がないこと(第6回・第7回でお伝えした、銀行が最も嫌う項目です)
役員報酬が、社会通念上適正な水準であること
法人名義の資産を、経営者が私的に利用していないこと
経営者個人の支出が、会社の経費に混ざっていないこと
会社と経営者個人との間の取引が、適正な条件で行われていること
ここが最も実務的なハードルになります。
役員貸付金が残っていれば、まず解消が先です。
2.財務基盤が強化されていること
会社が、保証に頼らなくても返済できる財務内容になっているか。
自己資本比率が十分であること、債務超過でないこと(第6回)
債務償還年数が適正な範囲にあること(第8回)
継続的に利益が出ていること
内部留保が積み上がっていること
第2部でお伝えしてきた指標が、そのまま基準になります。
「どのくらいなら十分か」は銀行の判断によりますが、債務償還年数が10年以内に収まっているかどうかは、一つの目安と考えてよいでしょう。
3.適時適切な情報開示がなされていること
銀行に対して、必要な情報が継続的に提供されているか。
月次試算表の定期的な提出(第10回)
資金繰り表の共有(第10回)
事業計画と、その進捗報告(第11回)
求められた資料への、速やかな対応
第10回・第11回でお伝えした「情報提供のサイクル」が、そのまま要件になっています。

連載でやってきたことが、そのまま条件になる
お気づきでしょうか。
役員貸付金の解消、債務償還年数の改善、試算表と資金繰り表の提出、事業計画の策定と進捗報告。
この連載で一貫してお伝えしてきたことが、そのまま経営者保証を外すための条件になっています。
これは偶然ではありません。
いずれも、銀行員が稟議書に「この会社は保証がなくても大丈夫です」と書けるようにするための材料だからです。
外すための、進め方
では、具体的にどう動けばよいか。
まず、言う
繰り返しになりますが、言わなければ外れません。
ここが出発点です。
遠慮は不要です。
国の方針として保証に依存しない融資慣行が推進されており、銀行も説明を求められる立場にあります。
保証解除を相談することは、まったく失礼な話ではありません。
タイミングは、年度調達か決算説明のとき
第13回でお伝えしたとおり、決算後の年度調達のタイミングが最適です。
最新の決算書を示し、改善した指標を説明し、そのうえで「保証についても、あらためてご検討いただけませんか」と切り出す。
根拠が最も整った状態で話ができます。
一度に全部ではなく、新規分から
既存の借入すべての保証を一度に外すのは、現実的には簡単ではありません。
まずは、これから実行する新規の融資について、無保証での対応を打診する。
前述のとおり、新規融資については無保証の比率が過半に達しており、銀行も対応しやすい領域です。
新規分が無保証で実行されれば、既存分についても相談しやすくなります。
そして返済が進むにつれ、保証付きの残高は自然に減っていきます。
「どうなれば外せますか」と聞く
断られた場合も、そこで終わりにしないでください。
「どういう状態になれば、保証を外していただけますか」
この質問が、最も価値があります。
銀行が何を懸念しているのかが具体的にわかれば、そこを改善すればよいだけです。
第3回でお伝えした、プロパー融資への階段を上るときの考え方とまったく同じです。
複数行なら、1行の実績が材料になる
第12回でお伝えした複数行取引が、ここでも効いてきます。
1行で無保証が実現すれば、それは他行に対する強力な材料になります。
「A銀行では無保証でご対応いただいています」。
この一言の説得力は大きい。
代替手段という選択肢
全部か無かではなく、中間的な手段もあります。
簡単にご紹介します。
停止条件付・解除条件付保証契約:平時は保証を求めず、一定の財務条件を下回った場合に保証の効力が生じる(または、条件を満たせば保証が解除される)という契約です。銀行にとっては規律が確保され、経営者にとっては平時の負担がなくなります。
金利上乗せによる保証解除:保証を外すかわりに、金利を一定程度上乗せするという方法です。信用リスクコスト(第14回)の考え方からすれば、合理的な取引といえます。
信用保証協会の制度:保証料率の上乗せによって、経営者保証の提供を求めない制度が設けられています。要件はありますが、選択肢として知っておく価値があります。
いずれも、「保証を外すか、現状のままか」の二択ではないことを示しています。
担当者に相談してみてください。
事業承継は、絶好のタイミング
最後に、重要な点を。
代表者が交代するときは、保証を見直す最大の機会です。
従来は、旧経営者と新経営者の双方から保証を取る「二重徴求」が広く行われていましたが、現在ではこれは原則として行わないこととされています。
承継の局面では、金融機関も保証のあり方を検討せざるを得ません。
事業承継を控えている会社は、この機会を逃さず、保証解除を正面から協議してください。
後継者が保証を背負わずに済むかどうかは、承継そのものの成否を左右します。
まとめ
経営者保証をめぐる環境は、確実に変わりました。新規融資では、無保証の割合が過半を超えています。
しかし、既存の保証は、放っておいても外れません。
銀行から提案されることもありません。
経営者自身が動く必要があります。
そして、銀行が保証に求めているのは「経営の規律付け」です。
だからこそ、規律を別の形で示せれば、保証は不要になります。
法人と個人の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示。この3要件は、まさにその証明です。
まずは、自社の決算書を開いて、役員貸付金が残っていないかを確認してみてください。
そして、債務償還年数を計算してみてください。
そのうえで、次の決算説明のときに、保証の話を切り出してみてください。
その一言が、経営者としての人生のリスクを、大きく軽くするかもしれません。
次回は「銀行面談・決算報告の準備と当日の話し方」をお届けします。
保証の相談も、条件交渉も、すべては面談の場で行われます。
限られた時間で何を伝え、どう話すか。実践的にお伝えします。
ぜひ続けてお読みください。
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今の財務内容で保証解除を打診できる水準にあるのか。
足りていない要件は何か。
どの借入から交渉を始めるべきか。
銀行取引ドックでは、ガイドラインの3要件に照らして貴社の現状を診断し、具体的な進め方までお示しします。
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「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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