
赤字・債務超過でも融資を受けられるケース|銀行取引の教科書 #09
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第9回をお届けします。
前回は「債務償還年数」を取り上げました。
(借入金−現預金)÷(営業利益+減価償却費)で計算し、10年以内が一つの目安。
8〜10年を超えると黄色信号で、20年を超えると追加融資の扉はほぼ閉じてしまう、という内容でした。
計算してみて、思ったより長い数字が出た方もいらっしゃるかもしれません。
あるいは、赤字で分母がマイナスになり、そもそも計算できなかったという方もいるでしょう。
では、そうした会社はもう借りられないのでしょうか。
答えは「そうとは限りません」。
今回は、赤字や債務超過という状況で、それでも融資を受けられるのはどういう場合なのか。
その線引きを、できるだけ具体的にお伝えします。
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赤字でも、融資は実際に出ている
まず、事実からお伝えします。
赤字の会社に対する融資は、実際に数多く実行されています。
「赤字=融資不可」という単純な図式ではありません。
第6回でお伝えしたとおり、債務者区分の判定においても、赤字が即座に要注意先を意味するわけではありませんでした。
創業赤字であれば、黒字化までの期間がおおむね5年以内で、売上高や当期利益が計画のおおむね7割以上確保されていれば、正常先と判断して差し支えないとされています。
つまり銀行が見ているのは、赤字という事実そのものではなく、その中身と先行きです。
なぜ赤字になったのか
それは一時的なものか、構造的なものか
いつ、どうやって黒字に戻るのか
この3点に答えられるかどうかが、すべてを分けます。
逆に言えば、答えられない赤字は、金額が小さくても厳しいということでもあります。
ここから、その線引きを見ていきましょう。

銀行が許容する赤字、許容しない赤字
通りやすい赤字
1.一時的・特殊な要因による赤字
設備の除却損、役員の退職金、災害による損失、大口取引先の倒産による貸倒れ。
こうした要因で単年度の赤字になったケースです。
来期以降は発生しない費用であることが明確なので、銀行も「今期限りのもの」と判断しやすくなります。
損益計算書のどこに、いくら計上されているかを示せれば、説明は難しくありません。
2.先行投資による赤字
新規出店、設備の導入、人材の採用。将来の成長のために、意図して費用を先に出したケースです。
これは前向きな赤字であり、銀行の評価もまったく異なります。
ただし条件があります。
投資の内容と、それがいつ回収されるのかを示せること。
「なんとなく人を増やしたら赤字になった」では、前向きな赤字とは見られません。
3.役員報酬による赤字
第6回でお伝えした中小企業特性の典型例です。
多額の役員報酬を計上した結果として赤字になっている場合、銀行は「役員報酬を下げれば黒字になる会社」と見ることがあります。
会社と経営者を一体で捉える、中小企業ならではの評価です。
ただし、これも説明して初めて材料になります。
「役員報酬を◯◯万円計上しており、これを適正水準に戻せば営業利益は黒字です」と伝えてください。
4.創業期の、計画どおりの赤字
先ほど触れたケースです。
重要なのは「計画どおり」という点で、そもそも事業計画を提出していなければ、比較のしようがありません。
創業期にこそ計画書が必要なのは、このためです。
通りにくい赤字
1.本業の継続的な不振
営業赤字が複数期続いているケースです。
ここが最大の分かれ目になります。
というのも、営業利益は本業の実力を示す数字だからです。
特別損失で最終赤字になっているだけなら本業は健全ですが、営業段階で赤字ということは、売れば売るほど損をする構造になっているということです。
営業利益が黒字か赤字か。
この一点が、赤字の性質を見分ける最も重要な分かれ目だと考えてください。
2.原因を説明できない赤字
「景気が悪くて」「取引先の都合で」といった漠然とした説明では、銀行員は稟議書を書けません。
どの部門で、何が原因で、いくら悪化したのか。
この粒度が必要です。
3.「来期は回復します」を繰り返している
これが、信頼を最も損ないます。
毎期「来期は黒字化します」と言い続け、毎期その見通しを外す。
この履歴は銀行に残ります。
2回外せば、3回目の計画は誰も信じません。
計画は、達成できる水準で出すべきです。
控えめな計画を達成するほうが、強気な計画を外し続けるより、はるかに評価されます。
4.資金繰りが、すでに行き詰まっている
赤字そのものよりも深刻なのが、資金繰りです。
手形の決済が危うい、税金や社会保険料を滞納している、給与の支払いに窮している。
こうした状態になると、通常の融資での対応は難しくなります。
だからこそ、資金繰りに余裕があるうちに相談することが重要なのです。

債務超過でも、道はある
次に、債務超過のケースです。
貸借対照表の純資産がマイナス。
これは確かに重い状態ですが、ここでも実態で見るという原則が働きます。
まず、実態では債務超過ではないかもしれない
第6回でお伝えした中小企業特性を思い出してください。
経営者が会社に貸しているお金(役員借入金)は、実質的な資本とみなされます。
決算書上は負債に計上されていますが、経営者が自分の会社に返済を迫ることは通常ありません。
そのため銀行は、これを純資産に加えて評価するのが一般的です。
たとえば、純資産が△2,000万円の会社に、役員借入金が3,000万円あったとします。
これを資本とみなせば、実質的な純資産は+1,000万円。債務超過ではなくなります。
実際、中小企業の債務超過には、このパターンが少なくありません。
まずは自社の決算書で確認してみてください。
あわせて、経営者個人が保有する不動産や預金も、返済力を補う要素として考慮されることがあります。
ただし、これらは提示しなければ評価されません。
解消の見通しが立つかどうか
実態でも債務超過である場合、銀行が見るのはいつ解消されるのかです。
実務上は、おおむね5年以内に解消できる見通しがあるかどうかが、一つの目安になります。
毎期の利益で、マイナス分を埋めていける計算が成り立つか。
ここを数字で示せるかどうかが分かれ目です。
一時的な要因、たとえば不動産の売却損や高額な退職金による債務超過で、翌期以降に解消が見込まれるなら、それだけで区分が下がるとは限りません。
第6回でお伝えしたとおりです。
資本性ローンという選択肢
もう一つ、債務超過の局面では「資本性劣後ローン」という手段があります。
これは、借入でありながら、金融機関の評価上は自己資本とみなされる性質を持つ資金です。
日本政策金融公庫などに制度があり、これを導入することで債務超過が解消され、民間金融機関からの新規融資につながるケースがあります。
ただし、誰でも使えるものではなく、相応の要件と手続きが必要です。
この手段については、経営の立て直しが必要な局面を扱う回で、改めて詳しくご紹介します。
今回は「こうした選択肢も存在する」ということだけ、頭の片隅に置いてください。
赤字のときに、やってはいけないこと
ここで、避けるべき行動を4つ挙げておきます。
1.決算を良く見せようとする
減価償却を計上しない、売上を前倒しで計上する、在庫を水増しする。
第7回でお伝えしたとおり、これらは見抜かれます。
そして、赤字という事実より、操作したという事実のほうが、はるかに重く評価されます。
2.報告を遅らせる、悪い情報を隠す
第5回でお伝えしたことの繰り返しになりますが、赤字のときこそ重要です。
決算が出てから半年後に初めて報告するのでは、「隠していた」と受け取られます。
業績が悪化しそうだとわかった時点で、早めに伝えてください。
早く相談されるほど、銀行には打てる手が多く残っています。
3.複数行に同時に駆け込む
資金繰りに窮して、取引のある銀行すべてに同時に融資を申し込む。
これは危険です。
第7回でお伝えしたとおり、勘定科目内訳明細書を見れば、各行の動きは把握されています。
複数行への同時申込は、「相当切迫している」というシグナルとして伝わってしまいます。
まずはメインバンクに、正直に状況を話すことから始めてください。
4.いきなり高金利の資金に手を出す
資金繰りが厳しくなると、手軽に借りられる手段に目が向きがちです。
しかし、高金利の借入やファクタリングの多用は、資金繰りをさらに圧迫します。
そして、こうした取引の履歴は銀行の目にも触れます。
その前に、取引銀行に相談してください。
赤字のときこそ、何を持っていくか
では、実際に銀行に行くとき、何を用意すればよいのか。
1.赤字の原因分析
どの部門で、何が原因で、いくら悪化したのか。
できるだけ具体的に。
「売上が前期比8,000万円減少した。うち6,000万円はA社の取引終了によるもの、2,000万円は既存顧客の単価下落」。
このレベルまで分解できていれば、銀行員はそのまま稟議書に書けます。
2.改善策と、その進捗
原因に対して、何をするのか。
そしてすでに着手しているものがあれば、その進捗を示してください。
「原価率改善のため仕入先を見直し、4月から2ポイント改善している」。
計画だけでなく、動き始めている事実があると、説得力がまったく違います。
3.月次試算表
これが最も強力な材料になります。
決算は過去の数字ですが、試算表は今の数字です。
「決算は赤字だったが、直近3か月は黒字で推移している」と示せれば、それは何よりの改善の証拠になります。
4.資金繰り表
いつまで資金が持つのか。
これを示せる会社と示せない会社では、銀行の安心感がまったく異なります。
赤字局面では、銀行が最も恐れるのは「突然の資金ショート」です。
先の見通しを共有できていれば、銀行も準備ができます。
5.経営改善計画書
本格的なものでなくて構いません。
向こう3年程度の売上・利益の見通しと、そこに至る施策が整理されていれば十分です。
大切なのは、達成できる計画であること。
前述のとおり、外し続ける計画は信頼を失います。
これらは、すべて稟議書の材料である
ここまで挙げたものは、すべて同じ目的のために用意します。
担当者が稟議書に、「この赤字は一時的なものであり、原因は特定されており、改善策はすでに動き出しており、資金繰りの見通しも立っている」と書けるようにすることです。
材料がなければ、担当者は「赤字です」としか書けません。
それでは稟議は通りません。材料を渡せるのは、経営者である貴社だけです。
まとめ
赤字でも、債務超過でも、融資を受けられるケースはあります。
分かれ目は、金額の大小ではありません。
営業段階で黒字を保てているか。
赤字の原因を具体的に説明できるか。
改善の道筋を数字で示せるか。
そして、資金繰りに余裕があるうちに相談できているか。
債務超過についても、まずは役員借入金を資本とみなしたときに実態がどうなるかを確認してみてください。
思っているより、状況は悪くないかもしれません。
そして何より大切なのは、早く動くことです。
厳しくなってから相談するのではなく、厳しくなりそうだと感じた時点で相談する。
その差が、結果を大きく変えます。
次回は「月次試算表と資金繰り表が信頼を生む」をお届けします。
今回、繰り返し登場したこの2つの資料を、次回は正面から取り上げます。
なぜこれほど重視されるのか、どう作り、どう使えばよいのか。
ぜひ続けてお読みください。
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