
銀行取引を「経営の武器」にするために|最終回|銀行取引の教科書 #20
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第20回をお届けします。
前回は、自社の銀行取引を点検する20のチェックリストをご用意しました。
いくつ「はい」がついたでしょうか。
そして、「いいえ」がついた項目こそが、次に手を打つべきところでした。
そして今回が、最終回です。
第1回で「中小企業の銀行取引に『戦略』が必要な理由」をお話ししてから、金融機関の種類、保証付き融資とプロパー融資、資金使途、稟議の仕組み、格付け、決算書の読まれ方、債務償還年数、試算表と資金繰り表、事業計画書、メインバンク、調達のタイミング、金利交渉、経営者保証、面談、資料づくり、そして困ったときの対処法まで、全20回をお届けしてきました。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
最終回となる今回は、20回を貫いていた一つの考え方を振り返り、そして「銀行取引を経営の武器にする」とはどういうことなのかを、あらためてお話ししたいと思います。
▼オンライン勉強会▼
-銀行はここを見ている-
中堅中小企業のための銀行融資勉強会
(1社限定)
連載を貫いていた、一つの考え方

20回分の内容は多岐にわたりましたが、実はすべてがたった一つの考え方に収束します。
融資は、担当の銀行員が「稟議書を書けるか」で決まる。
第1回でこの言葉をお伝えし、それ以降、ほぼ毎回のように立ち返ってきました。
目の前の担当者は、融資を決める権限を持っていません。
彼の仕事は、貴社の話を聞き、資料を集め、稟議書という社内文書にまとめ、上司や本部を説得することです。
担当者は、銀行の中における貴社の代弁者なのです。
そして、その稟議書を書くための材料を持っているのは、貴社だけです。
だから、銀行取引は「お願い」ではない
この構図が見えてくると、経営者がやるべきことは明確になります。
頭を下げてお願いすることではありません。
銀行員が社内で説明できるだけの材料を、こちらから整えて渡すことです。
銀行取引とは、交渉でも懇願でもなく、「情報提供」である。
これが、この連載でお伝えしたかった、たった一つのことです。
相手の仕事の中身を理解すれば、こちらのやるべきことは自ずと決まります。
20回分の内容は、すべてこの一点から導かれたものでした。
4つの部を、一本の線でつなぐ
連載は4つの部で構成されていました。
この順序にも、意味がありました。
第1部:銀行を知る(第1回〜第5回)
相手を知らなければ、何を渡せばよいかわかりません。
金融機関にはそれぞれ役割があり、自社の規模に合った相手を選ぶ必要があること。
保証付き融資とプロパー融資は、優劣ではなく成長の階段であること。
融資は資金使途から始まり、担保があれば資金使途を問われない「枠」の時代は終わったこと。
そして、稟議書が銀行の中をどう通っていくのか。
まず、相手の仕組みを知る。
ここから始まりました。
第2部:銀行から見た自社を知る(第6回〜第11回)
自分がどう見えているかを知らなければ、何を説明すべきかわかりません。
格付けと債務者区分の仕組み。
決算書が貸借対照表から読まれること。
債務償還年数という最重要の物差し。
赤字や債務超過でも道はあること。
試算表と資金繰り表が「現在」と「未来」を示すこと。
そして事業計画書。
相手の目を通して、自社を見つめ直す。
これが第2部でした。
第3部:実践・銀行との付き合い方(第12回〜第16回)
知ったうえで、誰と、いつ、何を話すか。
メインバンクは宣言ではなく実態で決まること。
調達は年度単位で設計すること。
金利交渉は値切りではなく評価の是正であること。
経営者保証は言わなければ外れないこと。そして面談は「報告」ではなく「取材」の場であること。
対話の設計。それが第3部でした。
第4部:守りと仕組み化(第17回〜第20回)
対話は人が替われば途切れますが、仕組みは残ります。
稟議書の7項目を資料で埋めること。
資料は担当者の交代を乗り越えること。
そして、困ったときには正しい順序で手を打つこと。
知る → 知られる → 話す → 残す。
この流れが、20回の全体像でした。
「経営の武器」とは何か
さて、最終回のタイトルにある「武器」という言葉について、あらためてお話しします。
銀行取引が武器になるとは、どういう状態でしょうか。
金利が他社より低いこと?
たくさん借りられること?
銀行に頭を下げなくて済むこと?
どれも違います。
武器とは、選択肢があるということ
私が考える「武器」とは、選択肢を持っている状態です。
具体的には、こういうことです。
やりたいことが出てきたときに、動ける。
良い物件が出た。設備を入れ替える好機が来た。
人を採用したい。
同業の会社を譲り受けないかという話が舞い込んだ。
こうした機会は、たいてい突然やってきて、長くは待ってくれません。
そのとき、資金調達に3か月かかる会社と、2週間で動ける会社では、つかめる機会の数がまったく違います。
厳しい局面で、時間を稼げる。
売上が急減した。
大口の取引先が倒れた。
想定外の支出が発生した。
このとき、手元資金があり、複数行と関係があり、日頃から情報を開示している会社は、落ち着いて次の手を考える時間を確保できます。
逆に、どれも欠けていれば、考える前に資金が尽きます。
事業を次の世代に渡すときに、重荷を背負わせずに済む。
経営者保証を外せていれば、後継者に「借入を個人保証してくれ」と言わずに済みます。
これは、承継の成否を左右する要素です。
相手の都合ではなく、自社の判断で決められる。
条件を比較できる。
断ることもできる。
言われるままに受け入れなくてよい。
これらはすべて、選択肢があるからこそ可能になることです。
そして、選択肢は平時にしか作れない
ここが、最も大切な点です。
選択肢は、必要になったときには作れません。
新しい銀行との関係は、数か月から年単位の時間がかかります。
手元資金は、業績が良いときにしか厚くできません。
経営者保証は、財務が整っていなければ外せません。
当座貸越の枠は、信用がある会社にしか設定されません。
第13回でお伝えした「晴れているうちに、傘を借りておく」というのは、まさにこのことでした。
いま特に困っていないという方こそ、動くべき時期にいます。

銀行対策は、経営そのものだった
もう一つ、最終回にお伝えしたいことがあります。
この連載では、一貫して「銀行からどう見られるか」という視点で書いてきました。
しかし、お気づきになった方もいらっしゃるかもしれません。
ここでお伝えしてきたことは、結局のところ、良い経営をするということそのものでした。
月次で数字を把握する(第10回)。
これは銀行のためだけではありません。
経営判断が早くなります。
問題の兆候に、決算を待たずに気づけます。
資金繰りを先読みする(第10回)。
半年先の資金が見えていれば、投資の判断にも余裕が生まれます。
経営者の精神的な負担も、まったく違います。
計画を立て、進捗を追い、乖離を説明する(第11回)。
これはPDCAそのものです。
銀行に出すから作るのではなく、会社を運営するために必要なものです。
役員貸付金をなくす(第6回・第7回)。
公私の区別を明確にすることは、組織としての健全性の基本です。
自社の強みを、数字とともに言語化する(第16回・第17回)。
これは銀行だけでなく、取引先にも、採用候補者にも、そして従業員にも効きます。
悪い情報を先に伝える(第5回・第9回)。
これは銀行相手に限った話ではなく、あらゆる信頼関係の基本です。
つまり、銀行に評価される会社になろうとすることは、結果として、経営の質そのものを高めることにつながるのです。
銀行は、何十年にもわたって無数の企業を見てきた組織です。
彼らが見ているポイントは、伊達に選ばれたものではありません。
「銀行が見ている指標」は、「会社の健全性を測る指標」とおおむね一致しています。
ですから、この連載でお伝えしてきたことを実践していただければ、融資が受けやすくなるだけでなく、会社そのものが強くなっていくはずです。
明日から、何を始めるか
とはいえ、20回分を一度に実践することはできません。
順番に、できることから始めてください。
今日、できること
債務償還年数を計算する(第8回)。電卓があれば5分です
借入金の明細を開き、どれがマル保でどれがプロパーかを確認する(第3回)
役員貸付金が残っていないかを確認する(第6回・第7回)
今月、できること
資金繰り予定表を作り始める(第10回)。日本政策金融公庫のフォーマットが参考になります
決算説明資料のひな形を作る(第7回)。A4一枚で十分です
自社の強みを、数字とともに書き出してみる(第17回)
次の決算報告で
経営者自身が、銀行に説明する(第16回)
年度調達として、1年分の資金計画を提案する(第13回)
金利や経営者保証について、相談を切り出す(第14回・第15回)
1年をかけて
複数行の体制を整える(第12回)
情報提供のサイクルを定着させる(第10回・第11回)
資料一式を揃え、毎年更新する仕組みにする(第17回)
一度にすべてをやる必要はありません。
一つずつで構いません。
ただ、今日何か一つ始めてください。
半年後、1年後の選択肢が確実に増えます。
最後に
私は、みずほ銀行でキャリアをスタートしました。
当時、支店で多くの中小企業を担当するなかで、何度も感じたことがあります。
「この会社の良さを、もっと早く知っていれば」ということです。
素晴らしい技術を持っている。
取引先から深く信頼されている。
経営者が誰よりも真剣に会社の将来を考えている。
しかし、それらが銀行に伝わっていない。
決算書の数字だけを見て判断されてしまう。
逆に、丁寧に情報を出してくださる会社のことは、担当者として自信を持って社内で説明できました。
応援したいと思い、実際に稟議書にもそう書きました。
この差は、会社の実力の差ではなく、伝わっているかどうかの差でした。
その後、さまざまな立場を経験し、いまは社外CFOとして中堅・中小企業の経営者の方々とご一緒しています。
経営者の皆さまとお話ししていると、本当に多くのことを教えられます。
それぞれの会社に、それぞれの歴史があり、こだわりがあり、守るべきものがある。
資金繰りに頭を悩ませながら、それでも前に進もうとされている姿に、いつも心を動かされます。
そういう方々が、銀行との関係で余計な気苦労をせずに済むように。
資金のことで夜も眠れないという状態から解放されて、本来やるべき事業に、思い切り打ち込んでいただけるように。
この連載が、そのための一助になれば、これ以上に嬉しいことはありません。
銀行員は、敵ではありません。
彼らは貴社を応援したいと思っています。
ただ、材料がなければ応援できないだけです。
ならば、材料を渡しましょう。
それだけで、関係は変わります。
20回にわたり、お読みいただきありがとうございました。
皆さまの会社が、銀行取引を「経営の武器」として、さらに大きく成長されることを、心より願っております。
お問い合わせ・ご相談について
「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、貴社の財務部門を強化し、銀行取引の最適化からキャッシュフロー管理、資本政策までを総合的に手厚くサポートする「社外CFO」サービスを提供しております。
単なる顧問にとどまらず、銀行員が「稟議書を書きやすい」状態を貴社の中に構築し、円滑な資金調達と持続的な成長を伴走支援いたします。
この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。
また、貴社の銀行取引の現状を銀行の目線で点検する「銀行取引ドック」もご用意しています。
会社の「人間ドック」のように、決算書と金融機関とのお取引を総合的に診断し、自社の格付けはどの水準にあるのか、金利は妥当か、保証は外せる段階にあるのか、改善すればいくらの効果があるのかを、具体的な数字でお示しします。
連載を読んで「自社はどうなのだろう」と思われた方は、ぜひご活用ください。
さらに、銀行取引の基本から実践までを体系的に学べる「オンライン勉強会」も始めました。
経営者様お一人でも、経理・財務のご担当者様とご一緒でも構いません。
社内に知識を根付かせたいという方に適しています。
連載は今回で完結しますが、ご相談の窓口はいつでも開いています。
私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
資金繰りや銀行取引、財務戦略に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
ご連絡を心よりお待ちしております。
20回にわたるご愛読、誠にありがとうございました。
【中堅中小企業のための銀行融資勉強会】
【銀行取引ドック】