
自社の銀行取引を診断する20のチェックリスト|銀行取引の教科書 #19
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第19回をお届けします。
前回は、困ったときの対処法をお伝えしました。
手段には順序があり、借換え、リスケ、資本性劣後ローン、そして再生の枠組みと、上から順に会社へのダメージが小さいこと。
そして何より、早く動くほど選択肢が多いということ。
守りの局面の話でした。
さて、この連載も残すところ2回となりました。
今回は、ここまでお伝えしてきた内容を、自社に当てはめて点検する回です。
全部で20の項目をご用意しました。
難しい計算は必要ありません。
「はい」か「いいえ」で答えられるものばかりです。
できればいま、お手元に直近の決算書と、借入金の一覧をご用意ください。
そして、一つずつ確認してみてください。
「いいえ」が多くても、落ち込む必要はありません。
どこに手を打てばよいかが見えること自体が、この回の目的です。
では、始めましょう。

▼オンライン勉強会▼
-銀行はここを見ている-
中堅中小企業のための銀行融資勉強会
(1社限定)
第1部:銀行を知る(4項目)
1.取引している各銀行の性格と役割を、理解している
メガバンク、地方銀行、信用金庫、政府系。それぞれ対象とする企業の規模も、得意分野も異なります。
自社の段階に合った相手と組めているかが出発点です。(第2回)
2.自社の借入のうち、どれが保証付き(マル保)でどれがプロパーか、把握している
借入金の明細に「信用保証協会」の文字があるかどうかです。
プロパーの有無は、銀行からの評価を映す鏡です。
把握していない経営者は、意外に多くいらっしゃいます。(第3回)
3.直近の借入について、資金使途を具体的に説明できる
「運転資金」ではなく、なぜその金額が必要だったのかを積算で説明できるか。
担保や保証があれば資金使途を問われない「枠」の時代は、すでに終わっています。(第4回)
4.担当者が稟議書を書く立場にあると理解し、材料を渡している
融資を決めているのは目の前の担当者ではありません。
担当者が行内で貴社を説明できるようにするのが、経営者の仕事です。(第5回)
第2部:銀行から見た自社を知る(6項目)
ここからは、数字の話です。決算書をお手元に。
5.自社の債務償還年数を計算したことがある
(借入金 − 現預金)÷(営業利益 + 減価償却費)
銀行が最も重視する指標です。
10年以内が目安、8〜10年を超えると黄色信号。
まだ計算していない方は、今すぐ電卓を。(第8回)
6.実態バランスシートを把握している
不良在庫、回収不能な売掛金、役員貸付金を資産から除いたとき、自社の純資産はいくらになるか。
銀行は決算書の表面ではなく、この実態で評価します。(第6回)
7.役員貸付金が残っていない
会社から経営者個人への貸付金です。
銀行が最も嫌う項目であり、資産価値を認められないだけでなく、「融資した資金も社外に流れるのでは」という懸念に直結します。(第6回・第7回)
8.現預金が、月商1〜2か月分以上ある
年商1億2,000万円なら月商1,000万円。
現預金が1,000万〜2,000万円あるか。
1か月分を切っていると、資金繰りに余裕がないと見られます。(第7回)
9.減価償却費を、毎期適正に計上している
赤字回避のために償却を見送っても、債務償還年数は改善しません。
得られるものはなく、「操作をする会社」という印象だけが残ります。(第6回・第7回)
10.役員借入金を資本とみなした場合の純資産を、把握している
経営者が会社に貸しているお金は、銀行の評価上は実質的な資本とみなされます。
表面上は債務超過でも、実態ではそうでない会社は少なくありません。(第6回)
第3部:銀行との付き合い方(6項目)
11.メインバンクが、銀行側からもメインと認識されている
メインバンクは宣言して決まるものではなく、融資シェアと情報提供の実態で決まります。
自社の認識と銀行の認識がずれていないか。(第12回)
12.2行以上の金融機関と取引がある
1行だけだと、その銀行の方針転換や担当者交代が、そのまま自社の資金調達の可否になります。
比較対象がなく、条件交渉もできません。(第12回)
13.各行のシェア配分を、意図して設計している
メイン5割前後、サブ2〜3割といった配分を意識しているか。
各行のシェアは、内訳明細書や借入金残高推移表を通じて、すべての銀行に見えています。(第12回)
14.決算後に、年度調達として計画的に調達している
必要になるたびに散発的に申し込んでいないか。
場当たりな申込は、「資金繰りを考えていない会社」という印象を与えます。(第13回)
15.直近1年以内に、金利や条件について相談したことがある
金利交渉は値切りではなく、信用リスクの評価を正しくしてもらうための対話です。
指標が改善したなら、言わなければ損をしています。(第14回)
16.経営者保証の解除について、銀行に打診したことがある
新規融資では無保証が過半を超えた一方、既存の保証は放っておいても外れません。
銀行から提案してくることも、まずありません。(第15回)
第4部:情報開示と仕組み(4項目)
17.月次試算表を、定期的に銀行へ提出している
決算書は過去の情報です。
年1回の決算書しか出していない会社は、銀行から見て「1年のうち11か月は見えない会社」です。(第10回)
18.向こう6か月以上の資金繰り予定表を作成している
実績ではなく予定です。
これがあれば、資金が必要になる時期が事前にわかり、余裕を持って相談できます。(第10回)
19.決算説明資料を添えて、経営者自身が決算報告をしている
決算書を渡すだけになっていないか。
A4一枚の説明資料が、担当者にとって最も価値のある資料になります。
そして、説明するのは経営者自身です。(第7回・第16回)
20.事業計画を提出し、その進捗を報告している
計画は出すことがゴールではありません。
出す、追いかける、乖離を説明する。
この一巡を回せている会社は、中小企業ではまだ少数派です。(第11回)
点数の読み方
「はい」がいくつあったでしょうか。
16〜20個:かなり整っています
銀行取引の体制としては、上位に入ります。
ここまでできているなら、次は条件面の改善に進む段階です。
まだ経営者保証が残っているなら解除を打診する。
金利水準をあらためて検証する。当座貸越の枠を相談する。
攻めの交渉に時間を使ってください。
11〜15個:平均以上です
基本はできています。
あとは、どの領域が弱いかを特定することです。
第2部(数字の把握)が弱いのか、第3部(付き合い方)が弱いのか、第4部(情報開示)が弱いのか。分野ごとに見直すと、優先順位がはっきりします。
6〜10個:改善の余地が大きい状態です
ただし、伸びしろが大きいということでもあります。
まず着手すべきは、第4部の17番と18番です。
月次試算表の提出と、資金繰り予定表の作成。
この2つは今日から始められて、かつ効果が最も早く表れます。
銀行の見方が、半年で変わってきます。
0〜5個:まずは、知ることから
落ち込む必要はありません。
多くの中小企業が、同じ状態からスタートしています。
最初の一歩は、5番の債務償還年数を計算することです。
そして、7番の役員貸付金を確認すること。
自社の現在地を知ることが、すべての出発点になります。
特に重要な3つの項目
20項目のなかでも、「いいえ」だった場合の影響が特に大きいものを挙げておきます。
7番:役員貸付金
残っているなら、最優先で解消してください。
実態バランスシートで資産価値を認められないだけでなく、経営者保証を外す際の3要件(法人と個人の資産分離)にも直接引っかかります。
銀行が最も嫌う項目であり、放置するほど評価に響きます。
17番・18番:試算表と資金繰り予定表
この2つがない状態は、銀行から見て「見えない会社」です。
逆に言えば、ここを埋めるだけで評価は目に見えて変わります。
完璧でなくて構いません。
第10回でお伝えしたとおり、精度より継続です。
12番:複数行取引
1行しか取引がないなら、平時のうちに2行目を作ってください。
資金が必要になってからでは間に合いません。
新規の銀行との関係づくりには、数か月から年単位の時間がかかります。

このチェックリストで、わかること・わからないこと
最後に、正直なことをお伝えします。
わかること
このチェックリストでわかるのは、自社の体制が整っているかどうかです。
情報開示が十分にできているか
財務管理の水準はどうか
銀行との関係を意図して設計できているか
これらは外形的に確認できるため、経営者自身で点検できます。
わからないこと
一方で、このリストではわからないこともあります。
自社の格付けが、実際に何段階目なのか。
第6回でお伝えしたとおり、銀行は格付けを開示しません。
推測の手がかりはありますが、正確な位置を知るには、実態バランスシートを作り、各指標を銀行の基準に照らして検証する必要があります。
今の金利水準が、自社の信用力から見て妥当なのか。
第14回でお伝えしたとおり、金利は信用リスクコストを含めて決まります。
自社の格付けから見て適正な水準はいくらなのか。
これは比較の基準がなければ判断できません。
経営者保証を外せる水準にあるのか。
ガイドラインの3要件を、銀行はどの程度の厳しさで見るのか。
自社はどこまで到達していて、あと何が足りないのか。
各行が、自社をどう位置づけているのか。
メイン行は本当にメインと認識しているのか。
サブ行は取引を拡大する意向があるのか、縮小を考えているのか。
改善した場合、金額としていくらの効果があるのか。
金利を適正化すれば年間いくら。
保証料を見直せばいくら。
調達余力はあといくら残っているのか。
これらは、銀行の内部ロジックを前提に、外から検証する作業が必要になります。
自己診断では、どうしても限界があります。
まとめ
20項目のうち、いくつ「はい」がついたでしょうか。
大切なのは点数そのものではなく、「いいえ」がついた項目が、自社の次の課題だと分かることです。
今日からできることもあります。
債務償還年数を計算する。
役員貸付金の残高を確認する。
資金繰り予定表を作り始める。
次の決算報告に、A4一枚の説明資料を添える。
どれも、特別な専門知識は要りません。
知っているかどうか、やるかどうかの差です。
そして、このリストで「いいえ」が多かった方ほど、改善の効果は大きく表れます。
半年後、1年後に、もう一度このリストに戻ってきていただければと思います。
次回は、いよいよ最終回です。
「銀行取引を『経営の武器』にするために」をお届けします。
20回を通じてお伝えしてきたことを総括し、これからどう向き合っていくかをお話しします。
ぜひ最後までお付き合いください。
お問い合わせ・ご相談について
「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、貴社の財務部門を強化し、銀行取引の最適化からキャッシュフロー管理、資本政策までを総合的に手厚くサポートする「社外CFO」サービスを提供しております。
単なる顧問にとどまらず、銀行員が「稟議書を書きやすい」状態を貴社の中に構築し、円滑な資金調達と持続的な成長を伴走支援いたします。
そして、先ほど「このチェックリストではわからないこと」として挙げた項目——自社の格付けは実際にどの水準か。金利は妥当か。保証は外せる段階にあるのか。各行は自社をどう見ているのか。改善すれば、金額としていくらの効果があるのか。
これらを明らかにするために始めたのが、「銀行取引ドック」です。
会社の「人間ドック」のように、決算書と金融機関とのお取引を銀行の目線で総合的に診断します。
実態バランスシートを作成し、格付けを推定し、各行との取引状況を分析し、改善余地を具体的な金額に換算してお示しします。
「いいえ」が多かった方も、「はい」が多かった方も、自社の現在地を正確に知るところから始めていただければと思います。
あわせて、銀行取引の基本から実践までを体系的に学べる「オンライン勉強会」もご用意しています。
経営者様だけでなく、経理・財務のご担当者様と一緒に受けていただくこともできます。
私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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ご連絡を心よりお待ちしております。
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