
借換え・リスケ・貸し渋りの対処法|困ったときの正しい順番|銀行取引の教科書 #18
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第18回をお届けします。
前回は、稟議書の7項目を資料で埋めていくという考え方をお伝えしました。
会社案内や定性情報メモといった見落とされがちな資料のこと、そして資料は人の交代を乗り越えて残るということ。
仕組み化の話でした。
ここまでの17回は、基本的に平時を前提とした内容でした。
しかし、経営には厳しい局面が訪れることがあります。
資金繰りが苦しくなる。追加融資を断られる。返済が重くのしかかる。
今回のテーマは、「借換え・リスケ・貸し渋り:困ったときの対処法」です。
この回は、できれば必要にならないほうがよい内容です。
しかし、知っているかどうかで結果が大きく変わる領域でもあります。
平時のうちに、一度目を通しておいてください。
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順番を、間違えないでください
最初に、この回で最もお伝えしたいことを書きます。
資金繰りが厳しくなったとき、取るべき手段には順序があります。
そして、その順序を誤ると、取り返しがつかなくなることがあります。
正しい順序は、おおむね次のとおりです。
既存の取引銀行に、追加融資を相談する
借換えによって、返済負担を軽くする
条件変更(リスケジュール)を申し入れる
資本性劣後ローンなど、抜本的な手段を検討する
それでも立ち行かない場合、再生の枠組みを使う
上から順に、会社へのダメージが小さい順になっています。
そして、早く動くほど上の選択肢が使えます。

順序の外側にあるもの
ここで、強くお伝えしておきたいことがあります。
資金繰りが苦しくなると、手軽に借りられる手段が目に入るようになります。
高金利のビジネスローン。ファクタリングの繰り返し利用。
保険の解約。経営者個人のカードローン。
これらに手を出す前に、必ず銀行に相談してください。
一時的に資金は回るかもしれません。
しかし高いコストは資金繰りをさらに圧迫し、傷口を広げます。
そして、こうした取引の履歴は銀行の目にも触れます。
「追い込まれている」というシグナルとして。
順序の外側に出た瞬間、選択肢は一気に狭まります。
まず、借換えを検討する
リスケを考える前に、検討すべき手段があります。借換えです。
返済負担を、正面から軽くする
借換えとは、既存の借入を新しい借入で返済し、組み直すことです。
最も典型的なのは、複数の借入を一本化して、返済期間を延ばす方法です。
具体的に見てみましょう。
残高3,000万円の借入が3本あり、それぞれ残り3年で返済する予定だったとします。
年間の元本返済額は、合計で3,000万円です。
これを一本化し、返済期間を7年に延ばせば、年間の返済額は約430万円。
年間2,500万円以上の資金余裕が生まれます。
第14回で「返済期間の延長は、金利より資金繰りへの効果が大きいことがある」とお伝えしましたが、借換えはまさにその実践です。
決定的な違い:正常な取引のまま
借換えとリスケの最大の違いは、ここです。
借換えは、あくまで通常の新規融資です。
約束どおりに返済を続けながら、その条件を組み直すだけ。
後述するリスケのように、債務者区分が下がることはありません。
正常な取引先のままでいられます。
これは非常に大きな違いです。
だからこそ、苦しくなったらまず借換えを検討するのが鉄則になります。
借換えにも、説明は必要
ただし、「返済が苦しいので借換えたい」とだけ伝えても、話は進みません。
第4回でお伝えしたとおり、借換えも融資である以上、資金使途と返済の見通しが問われます。
なぜ返済負担の軽減が必要なのか
組み直した後の返済は、確実に続けられるのか
その根拠となる計画はあるのか
月次試算表と資金繰り予定表(第10回)が、ここで効いてきます。
「このままでは半年後に資金が細りますが、借換えによって返済額を圧縮すれば、十分に回ります」。
こう示せれば、銀行も前向きに検討できます。
他行から借換えを持ちかけられたとき
逆のケースもあります。
取引のない銀行から、「御社の借入を当行でまとめませんか。金利も下げられます」と提案されることがあります。
魅力的に見えますが、慎重に判断してください。
第12回でお伝えしたとおり、メインバンクのシェアを大きく削ると、メイン行は「当行はもうメインではない」と受け取ります。
有事に最初に動いてくれる存在を、自ら手放すことになりかねません。
条件が良いと感じたなら、まずはメインバンクに同じ条件での対応を相談する。これが順序です。
条件変更(リスケ)とは何か
借換えでも対応しきれない場合、次の段階が条件変更です。
一般に「リスケ」「リスケジュール」と呼ばれます。
何をするのか
主な内容は、元本返済の猶予や減額です。
典型的なのは、「一定期間、元本の返済を止めて、利息だけを支払う」という形です。
期間は通常1年間で、状況に応じて更新していきます。
かつては、リスケを申し入れること自体が極めて重い決断でした。
しかし、2009年に施行された中小企業金融円滑化法以降、金融機関が条件変更に柔軟に応じる実務が定着し、現在では相談すること自体は珍しくありません。
ただし、代償はあります
ここは正直にお伝えします。
リスケを行うと、債務者区分は原則として「要管理先」になります。
第6回でお伝えしたとおり、貸出条件を緩和している先は要注意先のなかでも下位に区分されます。
その結果、何が起きるか。
新規融資は、原則として止まります。
設備投資もできません。
前向きな資金需要にも応えてもらえません。
会社は「守り」のモードに入ります。
「終わり」ではないが、「解決」でもない
よく「リスケしたら終わりだ」と言われますが、それは正しくありません。
リスケを経て立ち直り、正常先に戻った会社を、私自身いくつも見てきました。
一方で、「リスケすれば解決する」というのも誤りです。
リスケは、止血であって、治療ではありません。
返済を止めている間に、収益構造そのものを立て直さなければ、1年後に同じ問題が再発します。
時間を買っているだけだという認識が必要です。
だからこそ、次にお話しする計画が決定的に重要になります。
リスケを申し入れるときの実務
実際に条件変更を相談する際、押さえておくべき点があります。
原則:全行に、同時に、同条件で
これが最も重要なルールです。
複数行と取引している場合、1行だけに相談して、他行には通常どおり返済を続ける。
これは避けてください。
第12回でお伝えしたとおり、各行の借入残高の動きは、すべての銀行に見えています。
「A銀行には返済を止めてもらいながら、B銀行には返済を続けている」という状態は、すぐに判明します。
銀行から見れば、これは抜け駆けです。
自行だけが負担を負わされていると受け取られ、協力は得られなくなります。
ですから、条件変更は全行に対して同時に、残高に応じた公平な条件で申し入れるのが原則です。
金融機関同士の足並みを揃えることを、バンクミーティングと呼ぶこともあります。
経営改善計画書が必須
リスケを申し入れる際には、経営改善計画書の提出が求められます。
第11回でお伝えした内容が、ここで必要になります。
業績悪化の原因分析(具体的に、数字で)
すでに着手している施策と、その効果
いつ黒字化し、いつ債務超過を解消するのか
その間の資金繰りの見通し
返済を再開できる時期と、その根拠
実務では、「実現可能性の高い抜本的な計画(実抜計画)」や「合理的かつ実現可能性の高い計画(合実計画)」といった言葉が使われます。
細かい要件は専門的になりますが、要するに「絵に描いた餅ではない、実行できる計画か」が問われているとご理解ください。
一定の要件を満たす計画に基づいて支援が行われる場合、債務者区分の判断において配慮されることもあります。
計画策定を支援する制度がある
ここで、知っておいていただきたい制度があります。
国の認定を受けた「認定経営革新等支援機関」という支援機関の制度があり、金融機関、税理士、公認会計士、中小企業診断士などが認定を受けています。
そして、経営改善計画策定支援事業という制度では、認定経営革新等支援機関の支援を受けて経営改善計画を策定する場合、その費用の一部について補助を受けられる仕組みが設けられています。
計画策定だけでなく、その後のモニタリングも対象となります。
計画を自社だけで作るのは、現実的に負担が大きいものです。
こうした公的な制度があることを知っておくだけでも、選択肢は広がります。
早く相談するほど、選択肢は多い
繰り返しになりますが、タイミングがすべてです。
返済が困難になりそうだとわかった段階で相談すれば、借換えで済むかもしれません。
猶予期間を短く設定できるかもしれません。
しかし、延滞が発生してから、あるいは資金が尽きてから相談しても、打てる手はほとんど残っていません。
「来月の返済が厳しいかもしれない」と感じた時点で、相談してください。
資本性劣後ローンという選択肢
第15回で触れると予告していた手段について、ここでお話しします。
借入なのに、自己資本とみなされる
資本性劣後ローンは、形式としては借入ですが、金融機関の評価上は自己資本とみなされる性質を持つ資金です。
「劣後」とは、万が一の場合に他の債権より返済順位が後になる、という意味です。
他の債権者から見れば、資本に近い扱いができる。だから自己資本とみなされるのです。
なぜ有効なのか
第6回でお伝えしたとおり、債務超過は債務者区分を大きく引き下げる要因です。
そして債務超過のままでは、民間金融機関からの新規融資はまず期待できません。
ここで資本性劣後ローンを導入すると、評価上の自己資本が増え、債務超過が解消されることがあります。
すると、民間行から見た貴社の姿が変わり、新たな融資の道が開けるのです。
これが、この手段の最大の意義です。
主な特徴
期限一括返済:返済期間中は元本の返済が不要で、期日に一括返済する形が一般的です
業績連動型の金利:業績が good であれば金利が高く、厳しければ低く設定される仕組みを採るものがあります
日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特別貸付」などの制度があります
誰でも使えるわけではない
ただし、要件があります。事業の見通しや経営改善計画の内容が審査され、所定の手続きも必要です。
そして、余裕のある段階で相談するほど、話は通りやすくなります。
行き詰まってから「債務超過を解消したい」と言っても、間に合わないことがあります。
貸し渋り・貸しはがしに直面したら
次に、銀行側から厳しい対応を受けた場合です。
まず、理由を聞く
追加融資を断られた。
既存借入の返済を求められた。
担保の追加を要求された。
こうしたとき、感情的に反応する前に、必ず理由を確認してください。
そして、第3回・第15回でお伝えしたのと同じ問いを投げてください。
「どういう状態になれば、ご検討いただけますか」
この問いに対する答えが、次にやるべきことを教えてくれます。
債務償還年数なのか、債務超過なのか、情報開示の不足なのか。
課題が特定できれば、対処できます。
担当者個人の判断ではない
第5回でお伝えしたとおり、融資の可否は稟議と決裁の結果です。
担当者を責めても、何も変わりません。
むしろ、担当者を味方につけ、行内で動いてもらうほうが建設的です。
「どういう材料があれば、稟議を上げられますか」と聞いてみてください。
複数行取引が、ここで効く
第12回でお伝えした複数行体制の意義が、この局面で表れます。
1行から断られても、他行に相談できる。
これが、自社の選択肢を守るということです。
ただし、第9回でお伝えしたとおり、複数行に同時に駆け込むのは避けてください。
順序を踏んで、冷静に。
公的な相談先もある
銀行との対話が行き詰まった場合、相談できる場もあります。
金融庁には金融機関の対応に関する相談窓口があり、各都道府県には中小企業活性化協議会が設置されています。
ここでは、資金繰りや再生に関する相談を無料で受け付けており、金融機関との調整を支援する役割も担っています。
一人で抱え込む必要はありません。
さらに踏み込んだ枠組み
リスケや資本性劣後ローンでも立ち行かない場合、事業再生の枠組みに進むことになります。
私的整理
裁判所を介さず、金融機関との話し合いによって債務を整理する方法です。
中小企業の事業再生等に関するガイドラインという枠組みが整備されており、これに沿って手続きを進めることで、債務の減免を含めた抜本的な整理が可能になる場合があります。
前述の中小企業活性化協議会が関与する枠組みもあります。
私的整理の最大の利点は、取引先に知られずに進められる可能性があることです。
事業への影響を最小限に抑えながら、財務を立て直せます。
法的整理
話し合いでまとまらない場合、裁判所の手続きに移ります。
事業の継続を前提とする民事再生などの再建型と、事業を清算する破産などの清算型があります。
法的整理は公になるため、取引先や従業員への影響は避けられません。
そのため、可能な限り私的整理の段階で解決を図るのが一般的な考え方です。
知っておくことの意味
これらの枠組みについて詳しく論じることは、この連載の範囲を超えます。弁護士など専門家の領域です。
ただ、こうした道筋が制度として用意されていることを知っておくことには意味があります。
選択肢があると知っているだけで、冷静に判断できるからです。
そして、ここでもやはり早期の相談が決定的です。
資産が残っているうちに動けば、選べる道は多くあります。
やってはいけないこと
最後に、絶対に避けるべきことを挙げます。
1.高利の資金で穴埋めする
冒頭でお伝えしたとおりです。
資金繰りは一時的に回っても、コストが重くのしかかり、状況は悪化します。
2.銀行に黙って、返済を遅らせる
延滞は、債務者区分に直結します。
第6回でお伝えしたとおり、3か月以上の延滞は要管理債権とされます。
そして何より、無断の延滞は信頼を根底から損ないます。
払えないとわかった時点で、必ず事前に連絡してください。
3.税金・社会保険料を滞納する
これが、最も重いと考えてください。
滞納が続けば、売掛金や預金の差押えを受ける可能性があります。
差押えを受ければ、事業の継続そのものが危うくなります。
さらに、銀行は融資審査において納税状況を確認します。
滞納がある会社への新規融資は、まず通りません。
資金繰りが苦しくても、税金と社会保険料だけは優先してください。
やむを得ない場合は、税務署や年金事務所に相談し、猶予や分割納付の手続きを取ってください。
4.粉飾で取り繕う
第7回でお伝えしたとおりです。
見抜かれますし、発覚したときに失うものは計り知れません。
5.1行だけに返済を続ける
前述のとおり、他行から抜け駆けと見なされ、協力を得られなくなります。

まとめ
困ったときの手段には、順序があります。
借換え、リスケ、資本性劣後ローン、そして再生の枠組み。
上から順に、会社へのダメージは小さくなります。
そして、早く動くほど、上の選択肢が使えます。
リスケは終わりではありませんが、解決でもありません。
止血をしている間に、収益構造を立て直す。そのための計画が必要であり、それを支援する公的な制度もあります。
何より大切なのは、一人で抱え込まないことです。
銀行に相談する。
支援機関に相談する。専門家に相談する。
「まだ大丈夫」と思っているうちが、最も選択肢の多い時期です。
次回は「自社の銀行取引を診断する20のチェックリスト」をお届けします。
ここまでの18回でお伝えしてきた内容を、自社に当てはめて点検できる形にまとめます。
連載も、いよいよ終盤です。ぜひ続けてお読みください。
お問い合わせ・ご相談について
「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、貴社の財務部門を強化し、銀行取引の最適化からキャッシュフロー管理、資本政策までを総合的に手厚くサポートする「社外CFO」サービスを提供しております。
単なる顧問にとどまらず、銀行員が「稟議書を書きやすい」状態を貴社の中に構築し、円滑な資金調達と持続的な成長を伴走支援いたします。
今回お伝えしたような局面では、銀行との対話の進め方、計画の組み立て、金融機関間の調整など、一つひとつの判断が結果を左右します。
経営者様がお一人で抱え込まずに済むよう、隣で一緒に考えます。
また、貴社の銀行取引の現状を銀行の目線で点検する「銀行取引ドック」と、銀行取引の基本から実践までを体系的に学べる「オンライン勉強会」も始めました。
今の返済負担は、自社の収益力に見合っているか。
借換えで解決できる水準か。
こうした点を数字で明らかにできれば、打つべき手も見えてきます。
そして何より申し上げたいのは、厳しいと感じたら、できるだけ早くご相談くださいということです。
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「まだ相談するほどではないかもしれない」という段階こそ、最も多くの手が打てる時期です。
私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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