
複数行取引のバランスとメインバンクの選び方|銀行取引の教科書 #12
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第12回をお届けします。
前回までの第2部では、銀行から見た自社の姿を見てきました。
格付けの仕組み、決算書が読まれる順番、債務償還年数という物差し、赤字や債務超過でも道はあること、試算表と資金繰り表の力、そして事業計画書。
自社がどう見られているかが、ひととおり見えてきたはずです。
今回から第3部「実践・銀行との付き合い方」に入ります。
ここからは「知る」から「動く」へ。
実際に銀行とどう向き合っていくかを、具体的にお伝えしていきます。
第3部の初回となる今回のテーマは、「メインバンクの選び方と、複数行取引のバランス」です。
第2回で、メガバンク・地銀・信金・政府系それぞれの性格をご紹介しました。
今回はその先、自社の取引銀行の顔ぶれをどう設計するかという話です。
▼オンライン勉強会▼
-銀行はここを見ている-
中堅中小企業のための銀行融資勉強会
(1社限定)
メインバンクは、宣言するものではない
まず、意外に知られていない事実からお伝えします。
「当社のメインバンクはA銀行です」。
経営者の方がそうおっしゃるとき、A銀行自身が、自行をメインバンクだと認識しているとは限りません。
メインバンクという言葉に、法的な定義や公式な認定はありません。
では何で決まるのかというと、取引の実態です。
銀行が「この会社のメインは当行だ」と認識する判断材料は、おおむね次のようなものです。
融資残高のシェアが最も大きい(これが最重要)
決済口座として日常的に使われている(売上の入金、仕入や給与の支払い)
決算報告や試算表の提出を、真っ先に受けている
プロパー融資を出している
経営者が、重要な相談を最初に持ってくる
逆に言えば、付き合いが長いというだけではメインバンクになりません。
創業時から取引があっても、融資残高が3番手で、情報もたまにしか入らないのであれば、銀行側は「サブの一行」としか認識していない可能性があります。
ここにズレがあると、いざというときに問題が起きます。
経営者は「メインだから助けてくれるはず」と思い、銀行は「当行はメインではない」と考えている。
この認識の食い違いは、危機の局面で最も痛い形で表れます。

なぜ、メインバンクが必要なのか
「別に、メインを決めなくてもいいのでは」と思われるかもしれません。
しかし、明確なメインバンクを持つことには、実務的な意味があります。
困ったときに、最初に動いてくれる存在
業績が悪化したとき、資金繰りが厳しくなったとき、災害や取引先の倒産に見舞われたとき。
最初に相談でき、最初に動いてくれる銀行が必要です。
メインバンクと認識している銀行は、相応の責任感を持って対応します。
その会社に最も深く関わっているのは自行であり、支えるべき立場にあると考えるからです。
他行との調整役を担ってくれることもあります。
横並びは、実は最も危うい
ここが重要な点です。
A銀行、B銀行、C銀行から、それぞれ3分の1ずつ借りている。
一見、バランスが取れているように見えます。
しかし有事の局面では、どの銀行も「うちはメインではない」と考えます。
そして、他行の出方を待つ。誰も前に出ないまま、時間だけが過ぎていきます。
よく「メイン寄せ」と呼ばれる現象です…
「各行から少しずつ、横並びで」という状態は、平時には問題なくても、有事に機能しません。
どこか1行には、明確に主たる取引先になってもらう必要があります。
それでも、1行だけでは危ない
一方で、メインバンク1行に絞ってしまうのも危険です。
第2回でも触れましたが、改めて理由を整理します。
自社ではどうにもできない事情で、方針が変わる
銀行にも事情があります。
業種ごとの融資方針、支店の統廃合、経営統合、特定分野への融資抑制。
これらは貴社の業績とは無関係に起こります。
担当者や支店長の交代も同じです。
前任者とは良い関係が築けていたのに、後任になって急に話が進まなくなる——残念ながら、起こりうることです。
1行しかなければ、その1行の判断が、そのまま自社の資金調達の可否になります。
条件を比較できない
もう一つ、実務的な問題があります。
1行としか取引がなければ、提示された金利や条件が妥当なのかを判断できません。
比較対象がないからです。
複数行と取引していること自体が、条件交渉の前提になります。
この点は、第14回「金利・条件交渉」で詳しくお話しします。
成長に、1行では追いつかなくなる
会社が成長すれば、必要な資金も大きくなります。
しかし銀行には、1社に対して貸せる金額の目安があります。
信用金庫であればなおさらです。
「この銀行だけでは賄いきれない」という局面は、成長とともに必ず訪れます。
そのときに慌てて新規開拓を始めても、間に合いません。
何行と付き合うべきか
では、実際に何行と取引すればよいのか。
規模別の目安をお示しします。
年商1億円未満
2行程度で十分です。
日本政策金融公庫と、地元の信用金庫。この組み合わせが基本形になります。
この段階で手を広げても、各行の残高が小さすぎて、どこも本腰を入れてくれません。
まずは1〜2行と、しっかり実績を積むことです。
年商1〜10億円
2〜4行が目安です。
メインを信用金庫または地方銀行に置き、サブとしてもう1行、そして公庫。
第3回でお伝えした「マル保からプロパーへ」の階段を上り始めるのも、この段階です。
ここで複数行の体制を作っておくことが、後々の安心につながります。
年商10〜50億円
3〜5行程度。
地方銀行をメインに、別の地銀や信金をサブに置き、事業内容によってはメガバンクとの取引も視野に入ってきます。
年商50億円超
5行以上になることが多く、ここからはシェアの配分を意識的に設計する必要が出てきます。

多すぎることの弊害
一方で、「多ければ多いほど安心」ではありません。
取引行が増えると、各行のシェアは薄まります。
年商5億円の会社が8行と取引していれば、1行あたりの残高はごくわずか。
どの銀行にとっても「重要な取引先」ではなくなります。
そうなると、どこも積極的には動きません。
情報提供の手間も、行数分だけ増えます。決算説明を8回行うのは、現実的ではないでしょう。
大切なのは行数ではなく、各行との関係の深さです。
自社の規模に見合った行数で、それぞれときちんと向き合う。これが基本です。
シェア配分は、全行に見えている
ここで、重要な前提をお伝えします。
各銀行は、貴社が他行からいくら借りているかを、正確に把握しています。
第7回でお伝えしたとおり、決算申告書に添付される勘定科目内訳明細書には、借入金が金融機関名入りで一覧になっています。
A銀行の担当者は、B銀行の残高もC信用金庫の残高も、すべて見ています。
さらに、決算のタイミングだけではありません。
実務では、銀行から「借入金残高推移表」の提出を求められることがよくあります。
各金融機関からの借入残高が、月ごとにどう推移しているかをまとめた表です。
これを出せば、期中であっても各行のシェアの動きは完全に共有されます。
「最近、B銀行の残高が増えているようですが」——こうした質問を受けた経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
銀行は、他行の動きを常に見ているのです。
これは、隠せないという意味であると同時に、だからこそシェアを意図的に設計する意味があるということでもあります。
配分が見えているからこそ、「当行はこの会社のメイン行だ」「当行への配分が減っている」といった認識が、銀行側に生まれます。
何も考えずに、申し込みやすい銀行から借りていると、意図しないシェア構成ができあがります。
そしてそれは、全行に見えています。
シェアを、どう配分するか
では、どう配分すればよいのか。目安をお示しします。
メイン5割前後、サブ2〜3割
メインバンクには、全体の5割前後のシェアを持ってもらう。
これが一つの基準です。
明確に最大シェアであれば、銀行側も「当行がメイン」と認識します。
サブ行には2〜3割程度、残りをその他に配分する。
こうした構成であれば、メインの責任感を保ちつつ、1行依存のリスクも避けられます。
メインのシェアを下げすぎない
新規の銀行から借りやすい条件を提示されて、そちらの残高ばかり増やしていくと、メインのシェアが下がります。
すると、メインバンクが「当行はもうメインではないのかもしれない」と受け取ることがあります。
有事に最初に動いてもらいたい相手との関係を、自ら薄めてしまうのは得策ではありません。
新しい取引を増やす際には、メインのシェアとのバランスを意識してください。
新規行には、小さい金額から
新しく取引を始める銀行には、いきなり大きな金額を求めないほうが現実的です。
少額の融資から始め、きちんと返済し、情報を提供する。そうして実績を積んでから、金額を増やしていく。
第3回でお伝えしたプロパー融資への階段と、同じ考え方です。
公庫は、別枠で考える
日本政策金融公庫は、民間金融機関を補完する立場にあります。
長期・固定金利の資金を調達できる貴重な存在であり、民間行とのシェア争いとは別の軸で考えて構いません。
設備投資の長期資金や、創業期の資金調達の柱として、継続的に関係を持っておく価値があります。
銀行を変えたくなったとき
最後に、乗り換えについて触れておきます。
安易な乗り換えは勧められない
銀行との関係は、時間をかけて積み上がるものです。
決算書を何期も見てもらい、返済実績を重ね、事業への理解を深めてもらう。
この蓄積は、新しい銀行では一からやり直しになります。
金利がわずかに低いという理由だけで主力を移すのは、慎重に考えたほうがよいでしょう。
それでも検討に値する場合
ただし、次のような状況が続くなら、見直しを考える価値はあります。
支店の統廃合で、担当者との距離が遠くなった
融資に対する姿勢が明確に後退した
担当者が、何年も訪問に来ない
相談しても、回答が極端に遅い
自社の成長に、金額面でついてこられなくなった
「乗り換え」ではなく「追加」から
現実的な進め方は、既存行との関係を維持したまま、新しい銀行を1行追加することです。
いきなり主力を移すのではなく、小さな取引から始めて様子を見る。
関係が育ってきたら、徐々にシェアを移していく。
この進め方であれば、リスクはほとんどありません。
そして最も大切なのは、余裕のあるときに動くことです。
資金が必要になってから新規開拓を始めても、間に合いません。
この連載で繰り返しお伝えしてきたメッセージが、ここでも当てはまります。

まとめ
メインバンクは、宣言して決まるものではなく、融資シェアと情報提供の実態によって決まります。
まずは、自社がどの銀行からメインと認識されているかを考えてみてください。
そして、1行依存も、横並びの分散も避ける。
メインを明確に持ちつつ、複数行と関係を持つ。自社の規模に見合った行数で、それぞれときちんと向き合う。
各行のシェアは、決算書の内訳明細や借入金残高推移表を通じて、すべての銀行に見えています。
見えているからこそ、意図を持って配分する価値があります。
次回は「借りるべきタイミング:『困ってから』では遅い理由」をお届けします。
複数行の体制を整えるにも、新しい銀行との関係を育てるにも、時間が必要です。
では、いつ動けばよいのか。資金調達のタイミングについて、正面からお話しします。ぜひ続けてお読みください。
お問い合わせ・ご相談について
「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、貴社の財務部門を強化し、銀行取引の最適化からキャッシュフロー管理、資本政策までを総合的に手厚くサポートする「社外CFO」サービスを提供しております。
単なる顧問にとどまらず、銀行員が「稟議書を書きやすい」状態を貴社の中に構築し、円滑な資金調達と持続的な成長を伴走支援いたします。
また、貴社の銀行取引の現状を銀行の目線で点検する「銀行取引ドック」と、銀行取引の基本から実践までを体系的に学べる「オンライン勉強会」も始めました。
今の取引銀行の顔ぶれは、自社の規模と成長段階に合っているか。シェアの配分は意図したものになっているか。
メインバンクは、銀行側からもメインと認識されているか。
こうした点を一行ずつ診断し、あるべき姿との差を明らかにするのが、銀行取引ドックの中心的な役割の一つです。
「なんとなく今の形になっている」という方こそ、ぜひご活用ください。
私たちは、中堅・中小企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考えるパートナーでありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。資金繰りや銀行取引、財務戦略に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
ご連絡を心よりお待ちしております。
【中堅中小企業のための銀行融資勉強会】
【銀行取引ドック】