
月次試算表と資金繰り表が信頼を生む|銀行が見ているポイント|銀行取引の教科書 #10
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
連載「中小企業のための銀行取引の教科書」の第10回をお届けします。
前回は、赤字や債務超過でも融資を受けられるケースについてお話ししました。
分かれ目は赤字の金額ではなく中身であること、営業利益が黒字かどうかが大きな境目であること、そして役員借入金を資本とみなせば実態では債務超過でない会社も多いこと。
何より、早く相談することが結果を変えるという内容でした。
その中で、赤字局面における最も強力な材料として挙げたのが「月次試算表」と「資金繰り表」でした。
実はこの2つ、第5回でも第7回でも、繰り返し登場しています。
この連載で最も多く名前が出てきた書類と言ってもいいかもしれません。
今回は、この2つを正面から取り上げます。
なぜ銀行はこれほど重視するのか。そして、銀行員はこの2枚から何を読み取っているのか。
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決算書は「過去」、この2つは「現在と未来」
まず、根本的な構図をお伝えします。
決算書は、年に1回しか出てきません。
しかも、決算日から2か月ほど経って申告が終わり、銀行に届くのはさらにその後。
つまり銀行が決算書を手にする時点で、そこに書かれている情報はすでに数か月前のものです。
そして次の決算書が届くのは、1年後。
この約1年間、銀行は貴社の状況がわかりません。
これは、銀行にとって不安な状態です。
知らない間に業績が悪化しているかもしれない。
大口の取引先を失っているかもしれない。資金繰りが厳しくなっているかもしれない。
その空白を埋めるのが、月次試算表と資金繰り表です。
決算書=1年前から数か月前までの「過去」
月次試算表=今どうなっているかという「現在」
資金繰り表=これから何が起きるかという「未来」
この3つがそろって初めて、銀行は貴社を連続的に把握できます。
逆に言えば、決算書しか出していない会社は、銀行から見て「1年のうち11か月は見えない会社」なのです。

月次試算表:銀行員は何を読んでいるか
試算表の作り方は、経理の実務書に譲ります。
ここでお伝えしたいのは、銀行員がこれを受け取って何を見ているかです。
1.決算の着地が見える
これが最大の価値です。
第3四半期の試算表があれば、今期がどう着地しそうかが、おおよそ見通せます。
すると銀行は、決算書を待たずに判断を始められます。
たとえば11月に融資の相談を受けたとき、決算が3月の会社であれば、手元にあるのは1年近く前の決算書だけ。
しかし10月までの試算表があれば、「今期は増収増益で推移している」と稟議書に書けます。この差は決定的です。
2.前年同月比と、計画との乖離
銀行員が最初に見るのは、前年同月との比較です。
売上が伸びているのか落ちているのか。利益率は変わっていないか。
さらに、期初に事業計画を出していれば、計画との乖離も見られます。
計画どおりに進んでいる会社は、それだけで評価されます。
第9回でお伝えしたとおり、計画を外し続けることが信頼を損なうのと、ちょうど裏返しの関係です。
3.季節性の把握
毎月の数字を継続して見ていると、その会社の「波」がわかります。
繁忙期と閑散期、仕入が膨らむ時期、入金が集中する月。
これが把握できていると、一時的に数字が悪い月があっても、銀行は慌てません。
「この会社は毎年この時期は落ち込む」と理解してもらえるからです。
逆に、年1回の決算書しかなければ、悪い数字を見たときに急変と受け取られます。
4.異常値の早期発見
売掛金が急に増えている。
在庫が積み上がっている。借入が増えているのに売上が伸びていない。
こうした兆候は、銀行にとっては警戒信号です。
しかし見方を変えれば、経営者自身がこれに先に気づくための道具でもあります。
試算表を毎月見ていれば、決算を待たずに手を打てます。
5.「管理できている会社」という評価
最後に、これが意外に大きい。
毎月きちんと試算表が出てくる会社は、それだけで経理体制が整っている会社と見られます。
第6回でお伝えした格付けの定性評価にも効いてくる部分です。
精度より、継続
ここで、実務的なご提案を一つ。
完璧な試算表を目指して提出が3か月遅れるより、多少粗くても翌月中旬に出すほうが、はるかに価値があります。
銀行が知りたいのは、小数点以下まで正確な数字ではなく、今どういう方向に向かっているかです。
棚卸を毎月やるのが難しければ、概算で構いません。
まずは続けることを優先してください。
資金繰り表:実績ではなく「予定」を出す
次に資金繰り表です。
こちらは、試算表以上に「出していない会社」が多い書類です。
なぜ必要なのか
損益と資金の動きは、一致しません。
売上が立っても、入金は2か月後。仕入の支払いは先に来る。
借入の元本返済は、損益計算書には一切出てきません。
だから、利益が出ていても資金が足りなくなることがあるのです。
いわゆる黒字倒産は、この構造から起こります。
損益計算書だけを見ていても、資金がいつ足りなくなるかはわかりません。
それを可視化するのが資金繰り表です。
銀行が本当に見たいのは「予定表」
ここが、今回いちばんお伝えしたい点です。
資金繰り表には、過去の動きを記録した「実績」と、これからの動きを予測した「予定」があります。
そして銀行が見たいのは、圧倒的に後者です。
過去の資金の動きは、決算書と試算表からある程度わかります。
銀行が知りたいのは、これから先、いつ、いくら足りなくなるのか。
向こう6か月から1年の見通しがあるか
資金が最も細る月はいつで、残高はいくらになるか
そのとき、返済を続けられるか
新たな資金が必要になるとすれば、いつ、いくらか
これが示されていれば、銀行は準備ができます。
「資金繰り表を出せる会社は、資金繰りで困らない」
少し逆説的に聞こえるかもしれませんが、実感としてそう思います。
資金繰り予定表を作っていれば、資金が足りなくなる時期と金額が、事前にわかります。
わかっていれば、3か月前に銀行へ相談できます。
第5回でお伝えしたとおり、稟議には時間がかかります。
支店長決裁でも1週間、本部審査なら2〜3週間、保証協会が絡めばさらに。
余裕を持って相談できるかどうかは、先が見えているかどうかで決まります。
一方、資金繰り表がない会社は、通帳の残高を見て初めて「来月は厳しい」と気づきます。
そこから相談しても、間に合わないことがある。この差が、資金繰りの安定性を分けます。
作り方:まずは公庫のフォーマットを
「作ったことがない」という方も多いと思います。
ゼロから考える必要はありません。
日本政策金融公庫が、資金繰り表のフォーマットと記入例をホームページで公開しています。(資金繰り表の記入例)
実績と予定を並べて記入する形式で、構成は次のようになっています。
前月繰越金(月初の現預金残高)
経常収支:現金売上、売掛金回収、手形入金といった収入と、現金仕入、買掛金支払、人件費、諸経費といった支出
経常外収支:設備投資など、日常の営業以外の資金の動き
財務収支:借入による収入と、借入金の返済
翌月繰越金(月末の現預金残高)
公庫に提出するものですから、銀行が見慣れた形式でもあります。
まずはこれをダウンロードして、自社の数字を入れてみてください。
エクセルで同じ形を作れば、毎月更新していけます。
項目を細かくしすぎる必要はありません。
最初は「入金」「出金」「残高」の3区分だけでも、ないよりはるかに有益です。

この2つを出すと、銀行の対応はどう変わるか
実務上、何が起きるか。4つ挙げます。
1.決算を待たずに、話が進む
前述のとおり、試算表があれば期中でも判断材料になります。
「決算が出てから検討しましょう」と言われて3か月待つ、という事態を避けられます。
2.本部審査での扱いが変わる
第5回でお伝えしたとおり、本部の審査部門は貴社の経営者に会ったことがありません。
紙の情報だけで判断します。
そこに月次の推移と資金繰りの見通しが添えられていれば、「継続的にモニタリングできている先」として扱われます。
情報が乏しい先と比べて、安心感がまったく違います。
3.悪い数字が「予見された変化」になる
これが大きい。
業績が落ち込んだとき、年1回の決算書で初めてそれを知らされた銀行は、「急に悪化した」と受け取ります。
警戒します。
しかし、毎月試算表を見ている銀行であれば、悪化の過程を一緒に見てきています。
原因も背景も共有されています。
同じ赤字でも、受け止め方はまったく異なります。
4.担当者が稟議書を書きやすくなる
結局、ここに行き着きます。
この連載で繰り返しお伝えしてきたとおり、融資は担当者が稟議書を書けるかどうかで決まります。
試算表と資金繰り表は、稟議書に書き込める情報の塊です。
渡しておけば、担当者はそれを材料に、いつでも稟議の準備ができます。
運用の現実解
最後に、実際にどう運用すればよいかをお伝えします。
試算表は、会計ソフトから出力できます。
税理士に月次決算をお願いしているなら、毎月受け取っているはずです。
受け取ったら、自分で中身を確認してから銀行に渡してください。
中身を把握していないまま渡すと、質問に答えられません。
資金繰り表は、エクセル1枚で十分です。
公庫のフォーマットを参考に、向こう6か月から1年分を作り、毎月更新していきます。
渡し方は、決算書のときと同じです。
第7回でお伝えしたとおり、増減の理由を一言添える。「10月は売上が落ちていますが、例年どおりの季節要因です」「11月に設備代金の支払いがあるため、残高が一時的に細ります」。
この一言が、銀行の不安を消します。
頻度は、試算表が毎月、難しければ四半期ごと。
資金繰り表は3〜6か月ごとに更新し、状況が変わったら都度差し替える。これで十分です。
まとめ
決算書は過去、試算表は現在、資金繰り表は未来。
この3つがそろって、銀行は貴社を連続的に理解できます。
試算表は精度より継続を優先してください。
資金繰り表は、実績より予定が重要です。そして渡すときは、数字だけでなく一言の説明を添える。
完璧な資料を作る必要はありません。
まずは手元にある試算表を次の訪問時に渡す。
公庫のフォーマットをダウンロードして、半年先までの資金繰りを埋めてみる。そこから始めてください。
次回は「銀行に響く事業計画書の作り方」をお届けします。
試算表が現在、資金繰り表が近い未来だとすれば、もう少し先の未来を示すのが事業計画書です。
これで第2部「銀行から見た『自社』を知る」は締めくくりとなります。
ぜひ続けてお読みください。
お問い合わせ・ご相談について
「銀行との交渉にいつも不安がある」「自社の財務戦略や資金繰りの体制をプロの視点で見直したい」とお考えの経営者様へ。
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月次の数字を整え、資金繰りの見通しを立て、それを銀行に定期的に報告していく体制づくりは、私たちが最も力を入れている支援の一つです。
「作ったほうがよいのはわかっているが、手が回らない」という状態こそ、お声がけいただきたい場面です。
また、貴社の銀行取引の現状を銀行の目線で点検する「銀行取引ドック」と、銀行取引の基本から実践までを体系的に学べる「オンライン勉強会」も始めました。
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「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
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