
ラウンドごとの資金調達|各ステージで投資家は何を求めるのか #02
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
前回の振り返り
前回の第1回では、連載「CFOがいない会社のためのベンチャーファイナンスの歩き方」を始めた理由と、連載のゴールをお伝えしました。
そのうえで、「ステージ」「調達手段」「調達と管理のサイクル」、そしてそれらをつなぐ「3点セット」の4つで、シードからIPOまでのベンチャーファイナンスの地図を描きました。
今回のテーマ
第2回となる今回は、前回の地図のうち「ステージ」を掘り下げます。プレシードからシリーズB以降まで、それぞれのラウンドで投資家が何を見て、何を判断しているのかを、出資する側の視点から解説します。
投資家が見ているものがわかれば、自社が次のラウンドまでに何を証明すればよいのかが見えてきます。資金調達を「お願いする場」から「証明してきたことを示す場」に変えるための土台として、読んでいただければと思います。
【はじめての資金調達さくせん会議】
【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】
まず知っておきたい「投資家の論理」
ステージごとの話に入る前に、そもそも投資家がどのような前提で出資を判断しているのかを押さえておきましょう。
ここを知っているかどうかで、投資家との対話の質が大きく変わります。
VCのお金は「預かったお金」
ベンチャーキャピタル(VC)が出資するお金の多くは、VC自身のお金ではありません。
機関投資家や事業会社、金融機関などがVCの運営する「ファンド」に出資し、VCはそのお金を預かって運用しています。
そしてファンドには、おおむね10年前後の運用期間があります。
VCはその期間内に、出資した会社の上場やM&Aを通じて株式を売却し、ファンドの出資者にリターンを返さなければなりません。
さらに、ベンチャー投資は、出資した会社のすべてが成功するわけではありません。
一部の大きく成功した会社が、ほかの投資の損失を補い、ファンド全体のリターンを生み出すという構造になっています。
だからVCは、「限られた期間のうちに、大きく成長し、上場やM&Aでリターンを生む可能性がある会社か」という目線で出資を判断します。
堅実に黒字を続ける会社が、必ずしもVCにとって魅力的な投資先にならないのはこのためです。
CVCや事業会社は「事業とのつながり」も見る
事業会社や、事業会社が設立したCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)からの出資では、財務的なリターンに加えて、自社の事業とどのような相乗効果が生まれるかも重視されます。
私自身、上場企業でCVCの責任者として出資を判断していた際には、「この会社と組むことで、自社の事業にどのような広がりが生まれるか」を必ず検討していました。
同じ「出資」でも、出し手によって見ているものが違うことは覚えておいてください。
ラウンドとは「次のマイルストーンまでの資金」
もう1つ押さえておきたいのが、ラウンドごとの資金調達の考え方です。
資金調達の金額は、「欲しい金額」や「集められそうな金額」から決めるものではありません。
次のラウンドで評価してもらうために必要な実績、つまり「次のマイルストーン」に到達するまでに必要な金額から逆算して決めるものです。
たとえばシード期の調達であれば、「シリーズAで評価してもらうために、どの数字をどこまで伸ばすか」を先に決め、そこに到達するまでの期間と費用を見積もります。
そのうえで、調達活動そのものにも数か月かかることを見込み、余裕をもった金額を設定します。
つまり、各ラウンドの資金調達は「次のラウンドで示す証明」を積み上げるための資金です。
投資家もまた、「この資金で、次に何を証明するのか」を見ています。
ステージ別に見る、投資家が求めるもの
ここからは、各ステージについて「会社の状態」「主なお金の出し手」「投資家が見ているポイント」「経営者が準備しておくこと」の4つの観点で整理していきます。
なお、ラウンドの呼び方や区切り方は会社や投資家によって異なるため、あくまで目安としてご覧ください。

プレシード|「なぜこのチームが、この課題を解くのか」
会社の状態:アイデアの検証や、プロダクト開発の初期段階です。売上はまだないか、ごくわずかです。
主なお金の出し手:創業者自身の資金、エンジェル投資家、プレシード期に特化したVC、日本政策金融公庫の創業融資などです。
投資家が見ているポイント:判断材料となる数字がほとんどないため、主に見られるのは「人」と「課題」です。解こうとしている課題は本当に存在し、十分に大きいのか。そして、なぜこの創業者・このチームがその課題を解けるのか、という点です。
経営者が準備しておくこと:課題と解決策を自分の言葉で語れるようにしておくことです。顧客へのヒアリング結果など、課題の存在を裏づける材料があると説得力が増します。
シード|「検証の進め方は筋がよいか」
会社の状態:プロダクトが形になり、初期の顧客に使ってもらいながら、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を目指す段階です。
主なお金の出し手:エンジェル投資家、シード期に特化したVCが中心です。J-KISSなどの手段がよく使われるのもこの段階です。
投資家が見ているポイント:初期顧客の反応や利用状況といった、最初の手応えです。あわせて、PMFに向けてどのような仮説を立て、どのように検証を進めようとしているのか、その筋のよさも見られます。
経営者が準備しておくこと:調達した資金で、次に何を検証し、どの数字を示すのかを明確にしておくことです。この段階から、事業計画と資本政策の骨格を作り始めておくと、後のラウンドで大きな差になります。
プレシリーズA|「PMFの兆しを数字で示せるか」
会社の状態:PMFの兆しが見え始めているものの、シリーズAで求められる水準にはまだ届いていない段階です。
主なお金の出し手:既存の株主であるVCやエンジェル投資家による追加出資、新たなVCなどです。
投資家が見ているポイント:PMFに近づいていることを示す数字です。継続率や顧客の増え方など、「この方向で伸びていく」と判断できる材料があるかが問われます。
経営者が準備しておくこと:プレシリーズAは、シリーズAに到達するための「つなぎ」の位置づけになることが多いラウンドです。だからこそ、シリーズAまでに何を達成するのかを、より具体的な数字で示す必要があります。
シリーズA|「成長の仕組みに再現性はあるか」
会社の状態:PMFを達成し、事業を本格的に伸ばすための仕組みをつくる段階です。
主なお金の出し手:VCが本格的に参加し、複数のVCが共同で出資することも増えます。
投資家が見ているポイント:成長に再現性があるかどうかです。顧客1人あたりの収益と獲得コストの関係(ユニットエコノミクス)が成り立っているか、資金を投じれば成長が加速する仕組みになっているかが問われます。事業計画の数字の根拠も、ここから一段と厳しく見られます。
経営者が準備しておくこと:実績にもとづいた事業計画と、上場までを見据えた資本政策です。この段階では、3点セットの完成度がそのまま調達の成否を左右します。
シリーズB以降|「拡大の確度と、組織・管理体制は十分か」
会社の状態:事業と組織を拡大していく段階です。新しい市場や事業への展開も視野に入ります。
主なお金の出し手:VCに加えて、CVCや事業会社、レイター期を専門とする投資家なども加わります。
投資家が見ているポイント:事業拡大の確度に加えて、組織や管理体制が成長に追いついているかが見られます。上場を見据えたガバナンスや、予実管理の精度も重要な判断材料になります。
経営者が準備しておくこと:経営管理の仕組みを整えることです。計画どおりに実行できる会社であることを、予実管理の実績で示せるようにしておきます。
ステージが進むほど、見られるものが変わる
こうして並べてみると、ステージが進むにつれて、投資家が見るものが変わっていくことがわかります。
「人」と「課題」から、「数字」と「仕組み」へ
「何をしたいか」から、「何を証明してきたか」へ
事業そのものから、事業を支える「組織と管理体制」へ
そして、どのステージでも求められる3点セットの完成度は、段階を追って高くなっていきます。
プレシードでは骨格だけで十分だった事業計画も、シリーズAでは実績にもとづく根拠が求められます。
3点セットの作り方は、次回から集中的に解説します。
ステージの間にある「壁」
ステージごとに求められるものが変わるということは、裏を返せば、ステージとステージの間には「壁」があるということです。
なかでも多くのベンチャー企業がつまずくのが、シードからシリーズAへ進む段階です。
シードで調達した資金を使いながらPMFを目指したものの、シリーズAで求められる水準の数字に届かないまま、手元の資金が残りわずかになってしまう。
こうなると、不利な条件での調達を受け入れるか、事業を大きく縮小するかという、厳しい選択を迫られることになります。
この壁を越えるために大切なのは、次の2つです。
シードの段階で、シリーズAに向けて「何を、いつまでに証明するか」を具体的に決めておくこと
ランウェイ(資金が尽きるまでの残り期間)に余裕があるうちに、次の調達に動き出すこと
資金が尽きかけてから調達に動くと、投資家との交渉で足もとを見られやすくなります。
ランウェイの管理については、第12回でくわしく解説します。
どのステージでも「デット」を組み合わせる視点
ここまで出資を中心にお話ししてきましたが、ベンチャーの資金調達は出資だけではありません。
日本政策金融公庫の創業融資や、自治体・信用保証協会が関わる制度融資、ベンチャーデットなどの借入(デット)を組み合わせることで、次のような効果が期待できます。
ランウェイを延ばし、次のマイルストーンに到達するまでの時間を確保できる
出資で集める金額を抑え、手放す株式を必要以上に増やさずに済む
金融機関との取引実績が積み上がり、将来の借入がしやすくなる
もちろん、借入には返済が伴います。
赤字が続くベンチャー企業にとって、どの段階で、どの程度借り入れるかは慎重に判断する必要があります。
銀行からの調達については、第18回と第19回でくわしく扱います。
まとめ
今回のポイントは、次の3つです。
VCは、預かったお金を限られた期間で増やして返す必要があるため、「大きく成長し、上場やM&Aでリターンを生む可能性」を見て出資を判断している
各ラウンドの資金調達は、次のマイルストーンに到達するための資金であり、投資家は「この資金で次に何を証明するのか」を見ている
ステージが進むほど、投資家が見るものは「人と課題」から「数字と仕組み」へ移り、3点セットに求められる完成度も高くなる
資金調達は、投資家に「お願いする場」ではありません。
前のラウンドから積み上げてきた証明を示し、次の成長への道筋を説明する場です。
そのために、自社がいまどのステージにいて、次に何を証明すべきかを、ぜひ一度整理してみてください。
次回予告
次回からは、いよいよ連載の軸となる第2部「資金調達の『3点セット』を作り込む」に入ります。
第3回は「資金調達の『3点セット』とは|事業計画・資本政策・ピッチブックはなぜセットなのか」です。
3つの資料がそれぞれどのような役割を持ち、なぜセットで作り込む必要があるのかを解説します。
お問い合わせ・ご相談について
「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。
また、資金調達を控えたベンチャー企業様向けに、1社限定・参加費無料の「資金調達さくせん会議」をご用意しています。
セミナー60分と個別相談30分の計90分で、エクイティ×デットを組み合わせた調達の設計図と、調達後18か月の勝ち筋を一緒に描きます。
▶ はじめての資金調達をお考えの方へ
「はじめての資金調達さくせん会議」
はじめての資金調達は、やり直しがききません。
デットとエクイティの違いやバリュエーションといった基本用語からやさしく解説し、PMFに向けた最初の一手を一緒に設計します。
3点セットを作り始める前の段階でのご相談がおすすめです。
▶ 2回目以降の資金調達をお考えの方へ
「プレシリーズA~シリーズAの資金調達さくせん会議」
前回の調達は乗り切ったものの、次のラウンドの準備に不安がある方に向けた内容です。
お手元の3点セットを事前にご共有いただければ、資料同士の整合性や数字の根拠まで踏み込んでご相談に乗ります。
いずれもオンラインで、ご都合のよい日時をお選びいただけます。
「まだ資料が何もない」という段階でも構いません。
私たちは、ベンチャー企業の経営者様のいちばん近くで、同じ目線に立って考える「社外のCFO」でありたいと考えています。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という小さな疑問で構いません。
資金調達や資金繰り、資本政策に関するご相談がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。
ご連絡を心よりお待ちしております。