
資金調達の「3点セット」とは|事業計画・資本政策・ピッチブックはなぜセットなのか #03
こんにちは!
株式会社T&Aフィナンシャルマネジメント代表の齋藤高広です。
前回の振り返り
前回の第2回では、VCが「預かったお金」を限られた期間で増やして返すという論理で出資を判断していること、そして各ラウンドの資金調達は「次のマイルストーンまでの資金」であることをお伝えしました。
そのうえで、ステージが進むほど、投資家が見るものが「人と課題」から「数字と仕組み」へ移っていくことを解説しました。
今回のテーマ
今回から、いよいよ連載の軸となる第2部「資金調達の『3点セット』を作り込む」に入ります。
第3回となる今回は、その入口として、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」とは何か、そしてなぜこの3つを「セット」で作り込む必要があるのかを解説します。
それぞれの具体的な作り方は、第4回から第7回で順番に扱います。
資料の作り方に入る前に、3つの資料がどのようにつながっているのかを理解しておくことが、投資家に信頼される3点セットへのいちばんの近道です。
【はじめての資金調達さくせん会議】
【プレシリーズA~シリーズAの資金調さくせん会議】
3点セットとは
まずは、3つの資料の役割をひとことで整理しておきましょう。
事業計画:何をして、どのように稼ぎ、そのためにいくら必要なのかを示す、会社の設計図
資本政策:誰が、どれだけの株式を持つのかを、上場までを見据えて設計した計画
ピッチブック:事業計画と資本政策を、投資家に伝わるストーリーにまとめた資料
こう並べると、3つは別々の資料に見えるかもしれません。
しかし実際には、この3つは1本の線でつながっています。

なぜ「セット」なのか|数字は1本の線でつながっている
3つの資料のつながりは、次のように整理できます。
事業計画が、次のマイルストーンまでに必要な資金の額を決める
必要な資金の額と、企業価値の評価(バリュエーション)が、今回どれだけの株式を渡すのか、つまり資本政策を決める
事業計画と資本政策の中身を、一貫したストーリーとして投資家に伝えるのがピッチブックである
つまり、3点セットの出発点は事業計画です。
事業計画の数字が1つ変われば、資本政策もピッチブックも変わります。
架空の会社で考えてみる
イメージしやすいように、架空の会社で考えてみましょう(数字はすべて説明のための仮のものです)。
シード期のA社は、シリーズAで評価してもらうための実績をつくるまでに、18か月かかると見込んでいます。
事業計画では、人件費や広告費などで毎月1,000万円の資金が出ていく計画です。
18か月分で1.8億円、調達活動の期間なども見込んで、今回は2億円を調達することにしました。
投資家との協議の結果、調達前の企業価値(プレマネー・バリュエーション)は8億円となりました。
2億円を調達すると、調達後の企業価値(ポストマネー・バリュエーション)は10億円となり、投資家に渡す株式は全体の20%になります。
ここで、A社が事業計画を見直し、採用を前倒しして成長を加速させることにしたとします。
毎月の支出は1,500万円に増え、必要な調達額は3億円になりました。
企業価値の評価が同じ8億円だとすると、調達後の企業価値は11億円となり、投資家に渡す株式は約27%に増えます。
このとき、変わるのは事業計画だけではありません。
資本政策:創業者の持株比率が想定より下がるため、次のラウンドや上場までの株式の配分を見直す必要がある
ピッチブック:「なぜ採用を前倒しするのか」「それによってどれだけ成長が加速するのか」というストーリーを描き直す必要がある
事業計画の数字を1つ変えるだけで、3つの資料すべてに影響が及ぶ。
これが、3点セットを「セット」で作り込まなければならない理由です。
なお、プレマネーやポストマネーといったバリュエーションの考え方は、第14回でくわしく解説します。
3点セットがバラバラな会社に起きること
では、3点セットがバラバラに作られていると、どのようなことが起きるのでしょうか。
出資を判断する側から見て、信頼を失ってしまう典型的な例を4つ紹介します。
① ピッチブックと事業計画の数字が合っていない
ピッチブックには「3年後に売上10億円」と書かれているのに、事業計画の数字を積み上げると、そこまで届かない。
ピッチブックを先に作り、見栄えのよい数字を置いてしまった場合によく起きます。
投資家はこうしたずれにすぐ気づき、「どちらの数字を信じればよいのか」と感じてしまいます。
② 調達額の根拠を説明できない
「なぜその金額が必要なのですか」という質問は、ほぼ必ず聞かれます。
ここで「このくらいあれば安心なので」としか答えられないと、事業計画と調達額がつながっていないことが伝わってしまいます。
③ 次のラウンドや上場まで考えられていない
今回の調達で渡す株式の比率だけを見て、その先を考えていないケースです。
最初のラウンドで株式を渡しすぎると、次のラウンド以降で創業者の持株比率が大きく下がり、経営の主導権を保てなくなるおそれがあります。
投資家は、今回の条件だけでなく、上場までの資本政策の全体像を見ています。
④ デューデリジェンスで数字の食い違いが見つかる
出資の検討が進むと、投資家は会社の実態を詳しく調べるデューデリジェンスを行います。
そこで、事業計画、資本政策、ピッチブック、そして実績の数字が互いに食い違っていることが見つかると、それまで積み上げてきた信頼が一気に崩れてしまいます。
投資家が見ているのは「数字を把握している経営者かどうか」
私がCVCの責任者として出資を検討していた際にも、事業の中身と同じくらい注意して見ていたのが、「この経営者は、自社の数字を自分のものとして把握しているか」という点でした。
3点セットの数字がきちんとつながっている会社は、どの質問にも一貫した答えが返ってきます。
逆に、数字がつながっていない会社は、質問を重ねるほど答えがぶれていきます。
3点セットの整合性は、そのまま経営者への信頼につながっているのです。
3点セットは「投資家のため」だけのものではない
ここまで投資家の視点で話してきましたが、3点セットは投資家に見せるためだけの資料ではありません。
経営者自身の意思決定の道具:採用を前倒しするか、広告に投資するかといった判断を、数字の裏づけをもって行えるようになります。
社内の方向をそろえる道具:会社がどこへ向かい、いつまでに何を達成するのかを、経営陣や社員と共有できます。
銀行との対話の土台:融資を受ける際にも、事業計画の内容や資金の使い道は必ず確認されます。銀行からの調達については、第18回でくわしく扱います。
調達後の予実管理の基準:調達後は、事業計画が計画と実績を比べる「ものさし」になります。予実管理については、第13回で解説します。
しっかり作り込んだ3点セットは、資金調達が終わったあとも、経営のあらゆる場面で使い続けることになります。

作る順番と、ステージごとの完成度
基本は「事業計画、資本政策、ピッチブック」の順
3つの資料のつながりを考えると、作る順番は自然と決まります。
まず事業計画で必要な資金の額を固め、次に資本政策で株式の配分を設計し、最後にピッチブックで全体をストーリーにまとめます。
ただし、一度で完成するものではありません。
ピッチブックを作る過程でストーリーの弱い部分に気づき、事業計画に戻って見直す。
資本政策を考えた結果、調達額を調整する。
このように3つの資料を行き来しながら、整合性を高めていくのが実際の進め方です。3つの整合性を確かめる方法は、第8回で解説します。
ステージが進むほど、求められる完成度は高くなる
前回お伝えしたとおり、ステージが進むほど投資家の見るものは「人と課題」から「数字と仕組み」へ移ります。
それに合わせて、3点セットに求められる完成度も高くなっていきます。
プレシード・シード:事業計画は骨格と主要な仮説、資本政策は上場までの大まかな株式の配分のイメージがあれば、まずは十分です。
プレシリーズA:PMFの兆しを示す数字をもとに、シリーズAまでに何を達成するかを具体的に示せる事業計画が求められます。
シリーズA以降:実績にもとづく根拠のある事業計画と、上場までを見据えた詳細な資本政策が必要になります。
大切なのは、早い段階から3点セットの「型」を持っておくことです。
最初から完璧である必要はありません。
骨格をつくり、ステージが進むごとに肉づけしていけばよいのです。
3点セットをめぐる、よくある3つの誤解
最後に、3点セットづくりでよく見かける誤解を3つ紹介します。
① ピッチブックから作り始めてしまう
資金調達というと、まず見栄えのよいピッチブックを作りたくなります。
しかし、事業計画の裏づけがないままピッチブックを作ると、先ほどのように数字のずれが生まれます。
ピッチブックは、あくまで最後に仕上げるものです。
② テンプレートの数字を埋めれば完成だと思ってしまう
事業計画や資本政策のテンプレートは、インターネット上にも数多くあります。
型として参考にするのはよいのですが、数字を埋めただけでは、自社の事業に合った計画にはなりません。
大切なのは、一つひとつの数字の前提条件を、自分の言葉で説明できることです。
③ 外部に作成を丸投げしてしまう
専門家の力を借りること自体は、決して悪いことではありません。
ただし、作成を丸投げしてしまうと、投資家からの質問に経営者自身が答えられなくなります。
3点セットは、最終的には経営者が自分の言葉で語れるものでなければなりません。
外部の力は、経営者の考えを形にし、整合性を高めるために使うものです。
まとめ
今回のポイントは、次の3つです。
事業計画・資本政策・ピッチブックの3点セットは、事業計画を出発点に、数字が1本の線でつながっている。1つの数字が変われば、3つすべてが変わる
3点セットがバラバラだと、投資家は「この経営者は自社の数字を把握しているのか」と不安を感じる。整合性は、そのまま経営者への信頼につながる
3点セットは投資家のためだけでなく、経営の意思決定、銀行との対話、調達後の予実管理まで使い続ける道具である。早い段階から型を持ち、ステージに合わせて肉づけしていく
3点セットを作り込むことは、資金調達のための「書類づくり」ではありません。
自社の未来を数字で設計し、それを自分の言葉で語れるようにするための、経営そのものの作業です。
次回予告
次回の第4回からは、3点セットの具体的な作り方に入ります。
最初は「事業計画の作り方①|ビジョン、市場、ビジネスモデルとKPIの設計」です。
数字を入れる前に固めておくべき、事業計画の土台づくりを解説します。
お問い合わせ・ご相談について
「はじめての資金調達、何から準備すればいいのかわからない」「次のラウンドに向けて、3点セットをきちんと作り込みたい」とお考えの経営者様へ。
弊社、株式会社T&Aフィナンシャルマネジメントでは、CFOがいないベンチャー企業の「財務部門」として、資金調達の設計から、事業計画・資本政策・ピッチブックの「3点セット」の作成、調達後の資金管理・予実管理の体制づくりまでを伴走支援する「社外CFO」サービスを提供しております。
銀行、投資する側、上場企業の管理部門という3つの立場を経験してきた視点から、投資家と金融機関の双方に「この会社なら応援したい」と思っていただける状態を、貴社の中に一緒につくります。
この連載でお伝えしてきた内容を、貴社の実情に合わせて、一つずつ形にしていくのが私たちの仕事です。
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